部下指導・育成のために「育成(OJT)力」を高めよう
マネージャーの部下育成力を強化したいというご相談をよくいただき
マネージャーの指導力はなぜ落ちているのか?
「うちの会社のマネージャー(管理職)は人材育成が苦手だ」「指導・育成ができるマネージャーを増やしたい」――これらの言葉は、多くの企業で聞かれる話しではあるが、「指導・育成ができるマネージャーが増えた」という話はあまり聞こえてこないのが実情です。
このような場合、マネージャー自身がプレ-ヤーであるため指導・育成の経験がないことが原因であろうと考え、指導・育成の型の理解と指導・育成行動のシミュレーション(疑似的な経験)を通じて育成力を高めようと試みる方が多いです。しかし、残念ながらそれだけでは育成行動が定着せず、研修などを終えても実業では元の行動に戻ってしまうことが多いようです。
本気で指導力と育成力を高めるには、別のポイントに力点を置いた取り組みが必要というわけです。
マネージャーが部下育成力を持つための、4つのポイント
マネージャーが部下育成力を持つには、以下の4つがポイントです。
1. マネージャー自身の「上司から育てられた経験」
2. 効率化や生産性向上を背景とするトップダウンの文化
3. 育成の時間が取れない悪循環
4. 人材マネジメントシステムの形骸化
1. マネージャー自身の「上司から育てられた経験」
弊社の研究グル―プの調査によれば「なぜ人材育成に目を向けられないのか」という質問に対して驚くほど多くのマネージャーが「自分が育てられた経験がない」と答えます。同時に「上司からされていないので経験(実体験)がなく必要性を感じていない」という回答も多くみられました。
単に「経験がない」ならば経験を付与すれば身に付きます。しかし、必要性の理解・納得にまで切り込んだ対策を描く必要があるのです。
また裏を返すと、育成をしてもらったという経験が、育成をしようという意欲を引き出すともいえます。そしてそれは部下に還元され、良い循環を生み出すのです
2. 効率化や生産性向上を背景とするトップダウンの文化
前述の調査で、育成しなかった上司の多くがトップダウン(指示的)のコミュニケーションスタイルであったことも、共通項としてわかりました。
よく言われることですがトップダウン(指示的)は部下の考える力や主体性を奪ってしまいます。新たな場を与え、問いかけを通じて考えさせ、主体的に行動できる人材をつくることを育成というならば、トップダウン(指示的)であることは育成行動とは逆の行動といえるでしょう。
しかしこれらの企業の戦略を紐解くと、トップダウン(指示的)であることが当時の戦略実現の肝とされてきたことが伺えるのです。具体的には、たとえばこのような状況です。
2002年後半から2007年までは中国を中心とする海外需要に支えられ、日系企業の経済状況が大きく好転した。
一方、組織はどうだったかというとその前年までに金融不安やITバブルの崩壊があり、組織のリソース(モノ・ヒト)は最小化されていた。そこに急転直下の景気回復である。
設備の増強や人の採用を行うものの、そのチャンスを逃さないためには、いかにスピーディーに拡大する需要に対応できるかが命題であった。当然上位層の意思決定もスピーディーかつトップダウンにならざるを得ない。
結果2007年までに多くの国内企業は業績を伸ばし、成功体験を持ったのだが、その代償としてトップダウンのコミュニケーションスタイルが身に付き、①で述べたように「指示ばかりを受け育成をされた経験がない」今のマネージャー層を生んでしまったのである。
この効率化の推進や生産性の向上に力点を置いた戦略が長く続いている場合、上位層の経験が優位に立ち、トップダウンのコミュニケーションスタイルになりがちである。結果、育成をされた経験がない層が増えるのである。
自社の事業を俯瞰して、効率化/生産性向上にばかり偏りすぎていないか? 結果トップダウンのコミュニケーションになりすぎていないか? を問いかけることが求められます。
3. 指導・育成の時間が取れない悪循環
「なぜ人材育成に目を向けられないのか」という質問に対して、もうひとつ多かった答えが「時間が足りない」ということです。どの企業でも近年のマネージャーはプレーヤーとしても働き、チーム・部下のマネジメントも行うことが求められます。それもタイムリーかつスピーディーに実行することが一層求められているのです。
ただでさえ時間が足りないのに、さらに残業時間規制のために、若手が時間内にやり遂げられなかった業務をマネージャーが抱えているという実情があります。
この状況が問題なのは、結果としての業務配分に偏りが生じるからです。若手は今ある仕事に取り組みますが、育成されていないので能力の伸びが緩やかです。能力が高まっていない分、時間内で処理できる仕事の質・量は相対的に低く(少なく)、高度な業務をマネージャーが引き取らざるを得ないのです。
マネージャーはさらに忙しくなり、指導・育成に割く時間がなくなる。当然部下の能力も高まらない。こんな負のスパイラルが回っているのが多くの企業の現状ではないでしょうか。
指導・育成への意欲があり型を理解しても、物理的に時間がないのであれば育成には取り組めません。この負のスパイラルから脱却するには、労働者の健康状況への配慮を行うことは当然として、マネージャーと部下が一体となって指導・育成に取り組める機会・時間を意図的につくることが大切です。
4. 人材マネジメントシステムの形骸化
多くの企業では人材を育成するために、MBOなどの目標管理制度があります。その制度では部下のチャレンジ課題や、部下のキャリアプランを考える項目があるでしょう。
しかし、そこに書かれている内容をみると驚くほど抽象的であることが多く、シートを埋めればよいとばかりに形骸化している様子が見てとれます。これらの項目が具体的になれば指導・育成が一歩でも進むはずです。ではなぜ、具体的にならないのでしょうか?
まず上司に部下への関心を持っていただく必要があるのは大前提。一方で、求められる人材像がわからないので描きようがない、という上司側の声もありそうです。
確かに全社共通の人材要件は抽象的で分かりにくいことが多いものです。しかし指導・育成の方向性を探るヒントはあります。
たとえば、優秀と認められているマネージャー自身の行動要件を紐解くことです。出来るだけ、周囲の優秀な複数のマネージャーを見て共通項をくくりだすとよいでしょう。
他には、将来の自社の経営に求められる戦略を実現できる各機能の人材の要件を探り、対象者のキャリアの要件を明確にし、そこに到達するためにプロセスを描くのです。
こうやってまずは要件を定義することが、指導・育成のシステムに魂を込める一歩となります。
指導・育成する組織へ進化するために
まとめると、指導・育成ができるマネージャーを増やすには、自社のこれまでの戦略やその前提となる外部環境、そして現在のマネージャーが育ってきた環境を紐解くことです。それにより、指導・育成に関する意識や能力が何によって育っていないのかを明らかにすることが重要です。
解決策では、意図的に時間を取り、実務と連動した教育と実践のセットを行うことがカギとなります。