ブログ:コンサルタントの視点
女性リーダー育成の3つの壁①~人選の壁~

2015.06.19

女性の管理職比率の引き上げを目指して「女性リーダー育成の実施への関心が高まっていますが、同時に実施したいがなかなかうまく進まないというお悩みもよく伺います。女性リーダー育成の壁とその乗り越え方について、コンサルタントの吉岡恵が考察します。
3回のシリーズの第1回は「人選の壁」についてです。

執筆者プロフィール
吉岡 恵 | Megumi Yoshioka
吉岡 恵

神戸大学工学部卒業。大学卒業後、IT企業に入社し、システム構築やプロジェクトマネージに携わる。
グロービス入社後は、企業向け人材育成組織開発部門(コーポレート・エデュケーション)において、人材育成・組織開発プロジェクトの企画・設計・運営に従事。IT、サービス系企業、製造業など幅広く業界を担当している。


女性活躍推進取り組みの現状

近年、「女性活躍推進」の取り組みは多くの企業で検討が進められており、女性本人に対する育成施策も徐々に実施がスタートしている。筆者はこと「女性リーダー育成」に関して、多くの企業様からお悩みを伺い、また研修現場を通して実情に触れる機会を得てきた。

・そもそも研修するほど人がいるのか?
・女性本人はリーダーになりたくないのでは?
・いやいや、最近の女性はそうでもないのでは?

など企業によってお悩みは様々だが、大きくまとめると「人選」「モチベーション」「上司を含めた組織の理解」の3つが女性リーダー(女性管理職)育成の壁であると捉えている。

そこで本稿は今回を含め3回にわたり、一つ一つの壁の乗り越え方を考えてみたい。一回目の今回は「人選の壁」である。

女性リーダー(女性管理職)育成の「人選の壁」とは?

何故女性だけに絞ったリーダー育成は人選が難しいのか? また、実際にどの様に人選すると、どのような人材が集まるのか、いくつかの事例をもとに考えてみたい。


◆一定要件で選抜したA社の例:

A社では、グループ会社も含めて対象にし、ある一定条件(役職要件、年齢幅)を提示して選抜を行った。その結果、これまで歩んできたキャリア(経験)に大きなばらつきのある対象層が集まった。具体的には

(1)入社時から将来はリーダーを目指して業務に取り組んできた方(キャリア志向がある)
(2)一般職で入社し、その後総合職になった方
(3)エリア採用や派遣社員として入社し、その後、正社員転換した方

などである。

これだけキャリアの異なる方が集まると必然的にベースの知識や視座・視点に大きなばらつきが生じる。そして当然プログラムへの期待値も異なる。たとえばA社においては(1)の方々から「もっとスキルを強化する内容にしてほしい」という声が上がった。

女性リーダー育成プログラムにおいては、スキルだけでなく「マインド」や「キャリア」をプログラムに取り入れることが多いが(その理由や詳細は次回に整理する)、A社も同様だった。

もともと男性と同等に仕事に取り組んできた(1)の方々にとっては、「女性のみを対象としたことでスキル強化へのフォーカスが甘くなった」と映り、不満につながったのであろう。

逆に、例えば目指すスキルレベルを「(男性も含めた)リーダー育成並み」に設定したとすれば、(2)(3)のグループから「ついていけない」という不満が出たことは想像に難くない。選抜、とりわけ複数の組織それぞれに枠を決めて人を出す場合にこのような反応があることは想定する必要があるだろう。


◆意欲あるリーダー候補を期待して公募したB社の例:

B社は、条件範囲を比較的広く設定し、公募で受講者を募った。それによりある程度、意欲・能力の高い方が集まることを想定したが、そうとも言えない現状があった。具体的には、

(1)本来参加頂きたい方(将来のリーダーを期待する方)が手を挙げない
(2)意欲はあるが経験・スキルの面で若干不足している方が手を挙げる

という状態が発生したのである。

(2)の一例をあげれば「自分がこの会社で貢献しつづけるためにスキルアップしたい」という理由で手を挙げた方がおられた。一般的に「女性は能力が高くても自分で手を挙げない」という傾向があると言われている。

そのため、(1)についてはそれを見越してあらかじめ上司に後押しをお願いしておくなど事務局の対策が取られるようになっているが、(2)についても想定し、対応を決めておく必要があるだろう。

女性リーダーはそもそも特定条件での母数が少ない。そのため、どのような人選方法を取っても、男性を対象とした研修より意欲・スキル共に大きなばらつきが生じる。これが「人選の壁」だ。

人選の壁の乗り越え方

上記の通り、いずれの人選方法を取っても、男性を含めた育成の時以上に大きなばらつきが生じることが分かった。

現時点で女性活躍の機会が十分でない企業にとっては、このばらつきを人選の段階で押さえることが難しいだろう。そのため、ある程度のばらつきがあることを前提に研修を組み立てる必要があると考える。

しかしながら、スキル・マインド共にばらつきが大きい対象層全てに対して満足度の高い内容を企画することは非常に困難である。

そのような集団に対するプログラムとして「モチベーション」への働きかけが核になるが、その点については次回に譲る。ここでは、人選に際して気をつけたい点をいくつか述べる。


(1)ゴール設定の明確化

「次世代リーダーの育成」なのか、「リーダーを目指しても良いという状態を作る」のか、「リテンションを高める」のかなど、研修のゴールをどこに置くのかを明確にし、関係者で十分に認識合わせをしておくことが重要である。

なぜならば、受講者のばらつきが大きいため、ここの設定にあいまいさが残っていると取り組んでいる間にぶれが生じてくるからである。


(2)メインターゲットをどこに置くかを明確にしておく

上記記載の通りばらつきが大きい中、全ての方にマッチする研修内容を提供することは難しい。そのため、「TOP層の引き上げ」なのか、「平均的に全体を底上げする」のか、「BOTTOM層も含め全員が付いてこられる内容にする」のかといった、メインターゲットとなるゾーンの設定の明確化が重要である。

当然、そのゾーンから外れる方にとっては消化不良感が残ったり、逆に初歩的な内容に感じたりすることもあると思うが、ある程度割り切ることが重要である。ここも全ての方が満足するようにと考えてしまうとやはり内容にぶれが生じてしまうからである。


ゴール設定と対象層の特定が重要なことは、研修の企画をされたことのある方なら「当たり前」と思われるだろう。しかしながら「女性活躍推進」との名前がつくことで、急に検討すべき論点が増え、通常の研修企画と勝手が異なる状況となった結果、誰も満足しないであろう玉虫色の企画に陥ることも少なくない。

ビジネスパーソンとして求められる能力は男性・女性問わず同じであることを考えると、あまり「女性向けプログラム」を特別視しすぎることなく、これらの基本をしっかりと押さえることが重要ではないかと考える。

関連ページ:
第2回 女性リーダー育成の3つの壁ー② 「モチベーションの壁」
第3回 女性リーダー育成の3つの壁ー③ 「組織の理解の壁」

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。