ブログ:コンサルタントの視点
企業イノベーションのためにアクションラーニングで常識を疑え

2015.03.24

リーダー育成、特に自社課題と言われる自社の経営陣に戦略提言を作成するタイプのプログラムでは、多くの場合、新規性の高い提案が求められます。そのため、組織・個人の「常識」をいかに破るかという格闘の連続になり、時には現経営陣の「常識」が壁となって立ちはだかることも。どうすれば新たな発想を得られるのか、アプローチや着眼のヒントについて内田圭亮がご紹介します。

執筆者プロフィール
内田 圭亮 | Keisuke Uchida 
内田 圭亮

グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター
グロービス経営大学院 教授
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事

アクセンチュアにて情報通信・ハイテク業界における、携帯コンテンツのシステム設計・開発・運用、共通インフラ向けアーキテクチャの設計・構築、ビジネスプロセス・リエンジニアリング等のプロジェクトに従事。

その後、出前館にて経営企画、営業、マーケティング、システム、管理(総務、経理)と、広範囲な業務に携わる。各業務の効率化・最適化を行う傍ら、他社との業務提携、新規Webサイトや広告ビジネスの新規事業の立ち上げを通じて、赤字体質の脱却から2年間で上場を実現。

その後、グロービスにて、法人向け人材育成・組織開発のコンサルティング、経営管理本部長を経て、現在はコーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター兼中国法人の董事を務める。

また、経営戦略領域の最新の知見を研究し、経営大学院のコンテンツや教材の開発を行う。オペレーション戦略の科目責任者を務める。講師としては、経営戦略、マーケティング、クリティカル・シンキング、リーダーシップ、オペレーション戦略、自社課題演習(アクション・ラーニング)、経営会議・役員合宿のファシリテーションを担う。著書に「経営を教える会社の経営 理想的な企業システムの実現」(東洋経済新報社)、共著書に「グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ」(ダイヤモンド社)がある。


なぜ新しいアイデアが生まれにくいのか?

次世代リーダー育成のプログラムとして自社の課題解決に挑戦するアクションラーニング(自社課題演習)を採用している企業は多い。筆者も数多くのアクションラーニングプログラムに携わってきた。そこでよく出会うのは、既存の業務でしっかりと成果を出せるエース級人材であっても、“これまでに無い新しいアイデア・解決策の提示”を求められると、なかなか良いアウトプットを出せずに苦労するケースである。本稿では、なぜ新しいアイデアが生まれにくいのか、どうすれば思考の枠を突破できるのかを考えてみたい。

なぜ新しいアイデアが生まれにくいのか。多くの場合、自分の中に培われた常識に囚われ、その範囲内でしかものごとを考えられなくなっていることが原因だ。例えば「我が社は技術力を強みとしたメーカーなのだから、サービス業の話は関係ない」とか「我が社は個人のお客様をターゲットにしているのであって、法人ビジネスは関係ない」といったこれまでの経験によって築き上げられた認識に縛られて、自らアイデアを狭めているのである。

実はこの既存の常識や枠に囚われてしまうことで不都合が生じるのは、アイデアを出す側だけに限った話ではない。提案の聞き手(多くの場合、経営陣)にも同じことが言える。アクションラーニングの受講者から筋の良い新規性の高い提案がなされたとしても、聞き手側の経営陣が自身の過去の経験に囚われて、その新しいビジネスアイデアの有用性を理解することができず、却下することがある。例えば、その企業にとって未開拓のインド市場を攻略するための現地に根ざした画期的なアイデアが出てきても、「インドに行った経験からして、夜は危なくてホテルから一歩も出られなかった。そんな地でビジネスができるとは思えない」といった役員の中にある常識に基づく一声により、せっかくの素晴らしいアイデアが闇に葬り去られてしまうという悲劇が起こることがある。こういった状況に陥ってしまうことは、せっかくのビジネスチャンスの芽を摘むことになり、その企業にとって大変勿体無いことである。

既存の常識・枠に囚われない斬新なアイデアを生み出す手法

このように、既存の常識・枠に囚われない斬新なアイデアを出したり、出てきた斬新なアイデアを潰してしまうことが無いようにしたりするためには、どのような手立てが考えられるであろうか。

著者は、以下3つのステップを踏むことが必要だと考える。

・第1ステップ:自身が囚われている常識・前提に気づく
・第2ステップ:その常識・前提が、今なお自分が置かれた状況でも変わらず有効なのかどうかを冷静に考え直す
・第3ステップ:もし有効でなくなっているとしたら、その常識と捉えていた前提を、敢えてひっくり返すと何がどう変わり得るかを考える

この中でも、特に第1ステップの「自身が囚われている常識・前提に気づけるかどうか」が最も重要なポイントだと考える。なぜならば、第1ステップがあって初めて後続のステップが有効になるためである。

では、自身が囚われている常識・前提に気づけるようにするためには、どのような手法が考えられるだろうか?著者は大きく2つの方法があると考える。

1つは自分とは異質な人に触れることである。異質な人に触れると、自分が常識だと捉えていたことが相手からすると常識でも何でもないことを知り、そこで初めて自分が勝手に思い込んでいた前提に囚われていたことを自己認識することができるのである。実際に異質な人に触れるためには、組織内に多様性(ダイバーシティ)を確保する方法もあれば、異業種の人同士で議論ができる場(ビジネススクール等)を活用する方法もあるだろう。

もう1つは、自分が囚われている常識・前提を洗い出すワークショップを実施するという方法が考えられる。具体的には、現在、自社が行っている施策について、これまで当たり前過ぎて論じることすら無かった前提条件に意識的に目を向け、それを1つ1つあらわにしていく、という営みである。

常識・前提を洗い出すとはどういうことか。例えば、グロービスの法人向け事業である「企業内研修」と言えば、従来は講師と受講者が研修会場に一堂に会して実施することが当たり前であった。その当たり前の常識に対して疑いの目を向けることができると、そこで初めて「今でも研修は一堂に会さないと実現できないのか?」「違う方法で同様の価値を提供できないか?」という問いが生まれてくる。ここまで来ると、例えば、わざわざ一箇所に集まらなくても、最新のテクノロジーを使えば、オンラインでの研修が実現できるかもしれない、という考えも出てくるであろう。(実際にグロービスでは、今年度からオンライン研修を提供し始めている。)

他にも、グロービスのもう1つの事業である社会人向けのビジネススクール事業であれば、今は社会人が働きながら通える時間帯ということで、平日夜間と土日に開講している。ただ、その裏には“平日の日中は仕事で忙しい社会人が通いやすい時間帯は、平日夜間もしくは土日である”という従来の常識的な考えが背景にある。しかしそこに疑いの目を向けると、平日早朝の出勤時間前にコースを新設するという発想が生まれるかもしれない。(グロービスとして、現時点で早朝コースを用意しているわけではないが、昨今話題になっている“朝活”が若手のビジネスマンの間で流行っていることに鑑みると、あながち有り得ない話ではないかもしれない。)

既存の枠組や延長線上から抜け出す思考をするためには、このように具体的な事象に対して、その常識や前提に着目し、敢えて批判的な問いが立てられるかどうかが重要となる。

変革やイノベーションを生み出す第一歩を

最近ヒットしている商品や成長している企業に着目すると、以前からあった何かしらの常識をひっくり返しているものばかりであることに気づく。一方、伝統的大企業であるほど、変革やイノベーションが求められていることが多く本稿で扱った思考法がより必要と思われる。しっかりとした社内ルールや業務プロセス、マネジメント体制が確立されている(多くの常識・前提に囲まれている)ことから、そこからの脱却が難しくなっている。

よって、企業をより良くするための変革やイノベーションを生み出す上での第一歩となる“既存の常識や前提からの脱却”を意図的にしてみる工夫を推奨したい。筆者自身、お客様ごとに異なる組織・個人の「常識」を抜け出すアプローチを模索している途上の身である。このテーマに問題意識をお持ちの方はぜひご一緒に議論させていただければ幸いである。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。