組織を強くする「キャリア自律」とは ~企業が支援する意義と、促進・定着に導く方法~

2023.08.30

最近よく聞くようになった「キャリア自律」という言葉。
キャリア自律とは「自身のキャリアを見据え、主体的に目の前の仕事に意味付けしながら働き、時代環境に合わせて継続的に学んでいる」状態を指します。

この記事を開いていただいた人事部や経営者のみなさんは、以下のような疑問や懸念をお持ちではないでしょうか?

  • ・そもそも「キャリア自律」とは何か? 本質をきちんと知りたい。
  • ・個人の「キャリア自律」を企業が支援する必要はあるのか? どの程度の関与が必要なのか?
  • ・自律した社員は転職してしまうのではないか?

まずは以下のデータをご覧ください。


"従業員のキャリア自律に関する定量調査"、パーソル総合研究所

引用:”従業員のキャリア自律に関する定量調査“、パーソル総合研究所、2023年08月に確認

これはパーソル総合研究所が公開している「従業員のキャリア自律に関する定量調査」の結果数値です。
キャリア自律の高低がパフォーマンスに直結しており、エンゲージメントや学習意欲、ひいては人生満足度にまでプラスの影響を与えていることがおわかりいただけると思います。

このデータ、そしてグロービスで「キャリア自律」に関する育成施策を支援してきた筆者の経験を踏まえ、社員のキャリア自律促進のために企業としてぜひ取り組んでいただきたいのは以下5つです。

  • 1. 企業の価値観を明示する
  • 2. HRMシステムに連動性を持たせる
  • 3. キャリアについて考える機会・仕組みをつくる
  • 4. 上司とメンバーの対話が活性化する仕組みをつくる
  • 5. 組織全体で学びを促進する風土を醸成する

この中のいくつかについては既に取り組んでいる、という方もいるかもしれません。
しかしこれら5つは、そのどれかをやればよいというものではなく、5つすべてに複合的に取り組まないと十分な成果が出ないことがわかっています。

本コラムでは、キャリア自律そのものに対する認識を揃えたうえで、以下を詳しくお伝えしていきます。

  • ・社員の「キャリア自律」に企業が取り組むメリット
  • ・「キャリア自律」を促進する3つの要因と、企業が取り組むべき5つのこと
  • ・「キャリア自律」促進にむけた、育成面からのアプローチ事例

本コラムをお読みいただくことで「キャリア自律」に関する理解を深め、社員ひとりひとりがキャリア自律した状態を実現するために、今なにが足りないのか、そして今後どのような施策を講じる必要があるのかを明らかにしていきましょう。

監修者プロフィール
杉橋 諒輔 | Sugihashi Ryosuke
杉橋 諒輔
早稲田大学社会科学部卒業
グロービス経営大学院経営研究科経営専攻(MBA)修了
立教大学大学院経営学研究科経営学専攻リーダーシップ開発コース修了
 
大手金融サービス会社にて、企業のコスト・業務削減を支援する法人営業を経た後、営業本部・全社の企画業務を担う。その後グロービスに入社し、現在は、企業の人材育成・組織開発支援を行う法人営業部門のマネジャーとして、組織マネジメントに従事すると同時に、リーダーシップ領域のプログラム・教材開発にも携わる。
講師としては、思考領域・リーダーシップ領域を担当する。

過去に執筆した記事/登壇したセミナーは以下の通り

[記事]変化に即応する自律型組織の作り方 〜全員が主役となる「対話」の促進〜

[動画セミナー]「ジョブ型雇用がもらたす教育への影響」


執筆者プロフィール
越野 綾 | Aya Koshino
越野 綾

学習院大学法学部法学科卒業、グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了。

大学卒業後、凸版印刷に入社。法人営業として大手化粧品メーカー・飲料メーカーを担当し、商品プロモーション施策の企画~制作・製造、BPO業務のプロデュースに携わる。

グロービス入社後、様々な業界企業の戦略実現・組織開発に資する研修体系構築支援、研修プログラムの企画~実施を担う法人営業を経て、現在はBtoBマーケティングチームに所属。webコンテンツの企画~実装、WEBサイトのストーリー・導線設計を担う。

過去に執筆した記事は以下の通り

[記事]【保存版】次世代リーダー育成とは? 成功事例から学ぶポイント・進め方まとめ

[記事]ミドルマネジメントにとって、経営視点がますます重要な時代に ~他流試合が必要な理由~

[記事]組織を強くする「キャリア自律」とは 企業が支援する意義と、促進・定着に導く方法~


Chapter1
「キャリア自律」の定義

キャリア自律とは、「自身のキャリアを見据え、主体的に目の前の仕事に意味付けしながら働き、時代環境に合わせて継続的に学んでいる」状態を指します。

※2出典:グロービスが過去に実施したGSS360度調査の全項目平均値  (データ数 男性13,670件、女性565件)

図1.キャリア自律の定義例

従来のキャリア開発論では、おもに企業研修や業務を通じて習得する特定の専門性・スキルをベースにしたキャリアの深化を重視していました。対して「キャリア自律」は、生涯学習に対する個人のコミットメントと職業選択に対する自らの主体的な意思を重視する点で、性質が大きく異なります。
「キャリア自律」の第一歩は、キャリア開発同様の“自己理解”です。自己理解に加えて、変わりゆく環境の中で自分自身の価値観・スキルをアップデートしながら、目の前の仕事に意味付けし続けるという意識・行動まで求められるのが「キャリア自律」とされています。

図2.キャリア開発論とキャリア自律の比較

図2.キャリア開発論とキャリア自律の比較

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Chapter2
「キャリア自律」が注目されるようになった背景

企業の終身雇用制度の崩壊や、人生100年時代による就労の長期化、ジョブ型雇用の推進、個人の労働観・働き方の多様化が主な背景として挙げられます。

図3.キャリア自律重視の背景

図3.キャリア自律重視の背景

  • 参考:(“キャリア自律“、日本の人事部、2023年8月に確認 を基にグロービスにて加筆修正)

2-1. 終身雇用制度の崩壊により、成果主義の導入が進んだこと

かつては勤続年数に応じて上位ポストを獲得できる年功序列が一般的でした。しかし1990年代以降、経済成長が鈍化し「誰もが階段を上がれる社会」の実現が難しくなっています。年功序列ではなく、成果主義を導入する企業の増加にともない、長く務めることが必ずしも安定的なキャリアアップにつながらないケースが増えてきました。

2-2. 2021年の改正高年齢者雇用安定法の施行により、企業の65歳までの雇用義務、70歳までの雇用機会確保の努力義務が課されたこと

長期化する就労期間の中でモチベーションを高く保ちながら活躍してもらうには、変わりゆく環境や任務に効果的な意味付けをするというマインドが、組織と社員の双方に必要となります。スキルについても、現在保有しているものが将来長きにわたって使えるかどうかは、誰にとっても判断しづらい状況です。
そのため、社員自らがキャリアを自分事と捉え、いつ、どのようにリスキリングしていくべきかを主体的に意思決定しなければいけません。企業はその意識を促進し、社員の主体性を重視した学習環境を整えていく必要があります。

2-3. ビジネスの不安定性・不透明性が増す中で、専門性や多様性を高めるジョブ型雇用への注目が高まっていること

生成AIをはじめとするテクノロジーの劇的な進化と、1990年以降の労働人口減少・グローバル化の流れを受け、ビジネスの不安定性・不透明性は増すばかりです。企業の競争力を保つにはイノベーションが不可欠となり、人材の専門性・多様性が問われるようになりました。そこで注目されたのが「ジョブ型雇用」です。
ジョブ型雇用とは、ジョブに人を付けるという考え方に基づく雇用形態です。ジョブごとに必要な人をそろえる職種別の配置となるため、社員自身が「このジョブやります」と選択して自身でジョブを決めることになります。社員側には、希望のジョブに就くための継続的なリスキリングが求められ、企業側には十分な教育機会の提供が求められます。

2-4. 国からの多様な働き方に対する推奨が高まり、業務委託・派遣といった雇用契約の締結や、副業を解禁する企業が増加していること

働く選択肢が増えるというのは一見良いことのように感じますが、自由選択には個人の判断力が問われます。企業側にも、多様な価値観・働き方に対応するための仕組みづくりが求められており、たとえば勤務する時間と場所を自由に選択できる柔軟な勤務形態の導入例も増えています。ここで重要なのは、社員自身が成果を最大化するために最適な働き方を選択するという意思です。こういった主体的な選択の場面は今後ますます増えていくでしょう。

2-5. 変化は年々加速している

これらの変化は年々加速しています。従来型のキャリア開発を、今後も企業側が主体となって継続していくのは、もはや限界といえるでしょう。結果として、社員ひとりひとりが環境変化を柔軟にとらえ、主体的に労働観・スキルを再定義し続けるための「キャリア自律」が、必然的に求められる時代を迎えているのです。

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Chapter3
社員の「キャリア自律」に企業が取組むメリット

パーソル総合研究所の調査によると、キャリア自律度の高い社員は自己評価やエンゲージメント、仕事充実感が高く、人生満足度も高いことが分かっています。学習意欲の高さから、新たな知見・スキルを身に着けるための行動力も旺盛です。こういった市場価値の高い社員が自社に所属していることは、企業側にとっても大きなメリットをうみます。

たとえば、主なものとして以下の3つがあげられます。

3-1. 組織力向上

キャリア自律が進むことによって、組織力に直結する採用力・生産性・定着率の向上が見込めます。

採用力UP
  • ・人材の流動化が進む中、採用/転職市場において“キャリアを応援する企業”として認知を得ることができる
生産性UP
  • ・“やらされ感”でなく、「組織のビジョンをどう実現するか」という視点で仕事に意味を見出し、周囲と協力しながら働く人材が増える
定着率UP
  • ・一人ひとりのスキルアップ・リスキリングを支援するという会社からのシグナルとなり、優秀人材の定着率を上げることができる
  • ・イメージしやすい社内のジョブを基に、個人のキャリアを見据えてもらえる

3-2. イノベーション創出

キャリア自律が進むと、業界・自社を超えた知見を多方面から獲得できるため、イノベーションの創出が期待できます。

  • 社員が理想的なキャリア実現に向けて学ぶことで獲得する知見・情報は、通常の社内業務からは出てこないものであることが多い
  • 自律的な学びからの知見を組み合わせることにより、これまで社内になかった発想が期待できる

3-3. 株主価値向上(人的資本強化&PR)

キャリア自律が進むことは、人的資本の強化に繋がるとともに、対外的なPR効果も見込めます。

  • 2023年1月の内閣府令改正により、2023年3月期決算の有価証券報告書において、人的資本情報の記載が義務化された。
  • 「人材版 伊藤レポート」でも取り上げられるテーマであり、投資家からの関心も高い。企業として取り組むことで社内外のステークホルダーからの評価が上がる。
≪キャリア自律に取り組んで成果を出している企業の事例≫

キャリア自律に積極的に取り組まれた結果、厚生労働省による「グッドキャリア企業アワード2022」に選出された企業の事例を2つご紹介します。これらを参考に、自社が何を目指してキャリア自律に取り組むのかを改めて考えていただけると幸いです。

【事例1.大賞受賞 雪印メグミルク株式会社:全世代を対象に総合的・継続的なキャリア支援の実施】 ①キャリア自律の取り組みによって得られた成果
  • ・2016年度に2%台だった女性管理職比率が、2022年時点で6.1%まで増加するとともに、男性従業員の育児休業取得率も上昇。非正規社員の正社員転換の実績も増え、ダイバーシティ&インクルージョンが進む。
  • ・「会社はキャリアについて考える機会を提供している」について従業員の6割が肯定的に捉え、7割の従業員が自らのキャリアの将来像を描いていると回答。社内外の環境や法令・制度に関する理解の促進や気付きが生まれている。
  • ・2016年度から3年ごとに実施している従業員アンケート調査結果にて「人材育成に関する評価」が大きく上昇。人的資本経営への進化につながっている。
②結果が得られた要因・ポイント
  • ・企業戦略として女性活躍推進を掲げるなど、多様な人材が活躍できる職場づくりに注力。
  • ・年齢別のワークショップや、上司によるキャリア面談、社内キャリアコンサルタントによる相談・カウンセリング機会の提供など、従業員ひとりひとりのキャリア形成支援を継続。
  • ・グループ人材育成の推進。体系化したスキル習得に軸⾜を置き、階層別・専⾨研修など企業グループとしてプログラムを展開。
【事例2.イノベーション賞受賞 明治安田生命保険相互会社:職員がいつでもキャリア形成を考えられる 環境を構築】 ①キャリア自律の取り組みによって得られた成果
  • ・「タレントマネジメントシステム」は展開後半年間で90万回閲覧され、キャリア相談窓口の利用も定着した結果、キャリアチャレンジ制度を使ったキャリア開発に挑戦する職員が年々増加。
  • ・職員へのアンケートでは自己啓発意欲に関する項目において、各組織でキャリア開発の風土が着実に定着している回答が8割という結果に。自己啓発に取り組む職員の増加に繋がっている
②結果が得られた要因・ポイント
  • ・職務経歴、研修履歴、保有資格、評価等の人事情報を一元管理した「タレントマネジメントシステム」を全職員が閲覧可能に。目標とするロールモデルの検索や、めざすキャリアに必要な知識やスキルなど様々な情報と機会を提供。
  • ・社内外のキャリアコンサルタントによる相談窓口を設置し、いつでも相談可能に。窓口と人事運用・人事制度担当者を連携させ、相談者個別の状況を踏まえたきめ細やかなフォローができる環境を構築。

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Chapter4
「キャリア自律」を促進する3つの要因

さまざまな要因が論文等で発表されていますが、グロービスへのご相談でよく上がるキーワードを整理すると、大きく3つの要因(心理要因・経験要因・環境要因)に分類できます。
また各要因は独立しているわけではなく、3つが相互に関連し合うことでキャリア自律が促進されることが分かってきました。それぞれがどのようなものかを理解し、相互に作用させることが重要になります。
ひとつずつ見ていきましょう。

図4.「キャリア自律」を促進する3つの要因

図4.「キャリア自律」を促進する3つの要因

  • ※参考:キャリア自律を促進する要因の実証的研究(2016年、堀内・岡田)」「組織モードの変容と自律型キャリア発達(2004年、平野)」を基にグロービスにて作成

4-1.「環境要因」

主に人間関係と組織制度を指します。

  • ・キャリア自律の第一歩である自己理解は、他者との関わりや対話によって深まります。社内の立場に関わらず、ごく自然にキャリアについて話ができる関係を縦(上司)や横(同僚)と築くこと、さらには自社の枠を超えた社外メンターを持てるのが理想です。
  • ・産労総合研究所の調査によると、キャリア形成に関する悩みや課題の相談先として最も多いのは「上司」73.6%となっています。こうした調査結果と、対話や業務アサインといったキャリア自律促進に必要な働きかけの多くを上司が行うことを鑑みると、「縦(上司)の関わり」が、とりわけ重要だと言えそうです。
  • ・学ぼうと思ったときに、何を・どのように学ぶとよいのか分かりやすくまとまった研修制度の案内や、それらを一緒に閲覧しながら的確な助言ができる上司の存在が、継続的に学ぶ意欲と習慣付けに役立ちます。

4-2.「経験要因」

従来のやり方・勘や経験では対応が難しい場面に直面したり、自分の意思と反するような予期せぬ異動を命じられたりする経験を指します。

  • ・昇進昇格による責任範囲の拡大や部門異動は、「いまのままでは困る」と能力・知識不足を痛感する代表例です。予期せぬ異動の命を受けてみてはじめて「自分が本当にやりたいことは何なのか」と主体的にキャリアを検討するパターンもあるかと思います。
  • ・環境や仕事(内容・裁量)の変化によって視野が広がること、そしてリスキリングの必要性も高まることから、キャリア自律を促進するには極めて重要な要因だといえるでしょう。

4-3.「心理要因」

自分の人生、とりわけキャリアについて自責・自律的に考えて行動する姿勢や、キャリアを考えるベースとなる自己理解や自己認識を指します。
詳しくは5章でお伝えしますが、こういった姿勢・認識を生来もっている人が日本では少ないため、「環境要因」「経験要因」が整った結果として育むことを期待できる要因と言えそうです。

ここまでのところで、キャリア自律に企業が取り組むメリットと、キャリア自律を促進する3つの要因について見てきましたが「そうは言っても実現するのは難しそう」と直感的に思われた方も多いのではないでしょうか。

実はその背景には、世界でも珍しい「日本型雇用システム」を創り上げてきた日本企業特有の難所が存在します。詳しくは次の5章で見ていきましょう。

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Chapter5
日本企業が「キャリア自律」を促進するうえでの
特有の難所

「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」という、いわゆる三種の神器を筆頭に創り上げられた『日本型雇用システム』は、かつては従業員の生活、さらには日本社会の安定をもたらし、日本企業の強さの原動力として世界から賞賛を集めました。
しかしながら、『日本型雇用システム』を支えてきた「良い大学に入った人は良い会社に就職でき、定年までそこでキャリアを全うする」という社会構造と考え方は、2章で解説したとおり崩壊に向かっています。そこで環境変化に適応しきれずに起きた不全が、皮肉にも「キャリア自律」の促進を阻む難所となっているのです。

代表的な難所として、以下の3つが考えられます。

【難所1】自律的にキャリアを形成するという意識を持ちにくい

現在も主流の「新卒一括採用」は、個人の専門性を武器にした即戦力としての採用ではなく、卒業時からのポテンシャルを期待しての採用となります。言い換えれば、配置したポジションで必要とする知識・スキルは、就職後に企業がOJTで習得させることを前提にしているということです。
「仕事が人を育てる」というOJT発想への依存度が高い状態に慣れ親しんでいくと、自らの主体的な意志でキャリアを選択し形成するという自律性からは遠のき、次第にキャリアを企業に委ねるという意識が色濃くなってしまいます。
こうした問題意識から、キャリア教育の必要性は日本でも高まっており、就業前の大学における取り組みが加速してはいるものの、諸外国に比べるとまだまだ発展途上です。

【難所2】意識を持てても、社内のキャリアを明確に描きづらい

一部の企業でジョブ型雇用の進展が見られるものの、現在も日本企業の主流は職能資格制度です。 職能資格制度は、全社共通の能力を用いた基準であるという性質から、実務・実績との直接的な紐づけが難しいという特徴があります。
評価基準も曖昧になりやすいため、昇進・昇格を目指そうにも、必要な要件や能力開発が分からないといった状況に陥りがちです。また、社内での明確なジョブ・ディスクリプションがないことから、他部門にどのような職務があるのか、その職務にはどんな能力や経験が求められるのかイメージが湧かず、結果的に社内でのキャリア形成の可能性を狭めたり、挑戦するのを諦めたりすることになってしまいます。

【難所3】社内のキャリアを描けても、企業主体の人事配置が根強く、部署異動・ポジション変更の希望が通りにくい

「自己申告制度」「ジョブポスティング」といった制度を設けている企業は多いものの、果たしてどのくらい機能しているでしょうか。制度の大部分が形骸化し、企業都合によるジョブローテーションが通例になってしまうと、「結局キャリアは会社が決めるもの」という諦めが生まれ、自分で考えることを止めてしまいます。

  • ※参考:伊藤邦雄、“人的資本経営のパラダイム転換”、一橋ビジネスレビュー2023、P11~23

事実、リクルートマネジメントソリューションズ(2021)「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」によると、実に65%の人がキャリア自律に難しさや息苦しさを感じています。

若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査、リクルートマネジメントソリューションズ

引用:“若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査”、リクルートマネジメントソリューションズ、2023年7月に内容確認

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Chapter6
「キャリア自律」促進のために、
日本企業が持つべきマインドセット

5章でお伝えした日本企業特有の難所を乗り越えるため、企業側に持っていただきたいマインドセットは以下の3つです。

6-1. 自律的なキャリア形成を、社員に一方的に求めてはいけない

従来のキャリア開発論のもと、受動的なキャリア形成を受け入れざるを得なかった人が、急にやりたいことはなんだと問われてもうまく答えられず、ストレスになるというのは想像に易いかと思います。
また国の発展、会社への貢献、出世などの分かりやすい物語を描きづらくなってきた昨今の状況も、難しさをさらに助長しているかもしれません。
社員が今まで置かれてきた環境を配慮しないまま「やりたいことを言語化しろ」と無理強いすることは、モチベーション低下とともに組織に対するエンゲージメントも低下させ、気づけば離職する人があとを絶たないといった最悪の状況を招きかねません。
まずは企業側から、キャリアを考えるための情報・機会をしっかりと提供し、社員の主体的な思考・行動を強力に後押ししていくことが肝要です。

6-2. 個人の性格・価値観・能力を見極め、ひとりひとりに適した期待値を伝えていくことが大切

日頃から目の前の業務に強くコミットする人ほど、視野が狭まり自分の可能性を限定的に捉えがちです。
過去の業務経験からしっかりと内省し、自己理解を深めるためには上司や周囲の人との対話が必要です。周囲の誰かに自分の長所・短所を話したり、あるいは自分のイメージについて相手に話してもらったりすることで自己理解が深まります。
また企業側から個人に対して、組織の状況や社内のジョブに関する説明責任を果たしながら、社員に対する適切な期待値を伝え、組織目標と社員のキャリアプランのマッチングを図ることも大切です。企業からの期待・要望が刺激となり、「それはぜひやってみたい」、あるいは「それだったらこちらを頑張りたい」など隠れていた本人の意志や価値観を引き出すきっかけにもなり得るからです。

6-3. 個人の可能性を拓くジョブアサインや人事評価をするのは企業の責任

新たな気付きや行動変容を促すため、通常とは異なる性質のプロジェクトへの参画機会、越境学習機会など、企業が意図して設計し、与えていく必要があります。過去の経験や勘が通用しないシチュエーションに立ったり、前提や価値観が異なる人と議論をしたりする経験の積み重ねが、個人の自己理解促進とともに現状業務に囚われない将来展望を描くきっかけになっていくのです。

以上のことを念頭に置き、企業側が取り組むべき具体的施策について7章で詳しく説明していきます。

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Chapter7
「キャリア自律」促進のために
企業が取り組むべき5つのこと

それでは企業側(主に人事)が取り組むべき具体的な施策について見ていきましょう。
ここまでのところでお気づきかもしれませんが、「キャリア自律」を組織に根付かせるためには、単独の取り組みとして、制度を作ったり研修機会を提供したりするだけでは不十分です。

これから説明する5つのことは、すべてが連動してこそ効果を発揮するものです。すでに取り組まれていることがあるとしたらどれに該当するのか、そして今後取り組むべきことはなにかを明らかにしていきましょう。

図5.「キャリア自律」促進のために企業が取り組むべき5つのこと

図5.「キャリア自律」促進のために企業が取り組むべき5つのこと

7-1. 企業の価値観を明示する

チェック項目① 個人のありたい姿を問う前に、まずは企業としてのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)がどういったものかを社員に明確に伝えられているでしょうか。

企業が目標を達成するために必要な人材像の定義をどのように描いているか、具体的に示すことが重要です。明文化された人材ポリシーがあることで「今より上のポジションにはこういったスキルが求められるのか」と目標を立てる、あるいは自分自身がどの程度組織に貢献できているかを内省する材料になります。
このことは社内の仕事理解にも繋がるため、先述の【難所2. 意識を持てても社内のキャリアを明確に描きづらい】ことへの解決策のひとつにもなります。
また個人の使命感が企業の使命感とどう繋がっているかを、定期的な対話を通じて確認することが肝要です。企業のMVVに個人が共感出来ているかどうか丁寧に向き合うことで、キャリア自律を促進した結果がきちんと組織の中に向くようになり、力をつけた優秀な社員の離職防止にも役立ちます。

7-2. HRMシステムに連動性を持たせる

チェック項目② 社員が自律的に取り組んだ学びの履歴・情報を、他のHRMシステムと紐付けて活かしているでしょうか。

業務遂行上の課題解決のため、あるいはキャリアアップを目指すため、社員が自発的に取り組んだ学びの履歴はきちんとHRMシステムに紐づけて管理できる環境を整えましょう。一例として、タレントマネジメントシステムの導入を進める企業が増えています。職務経歴やスキルに関する具体的な情報を登録できるだけでなく、一人一人の目標設定や評価基準を可視化できることが特長です。
ここで重要なのは、社員の個性やスキル、実績や目標達成度を企業がしっかり見ている状態をつくり、学びのモチベーション維持に繋げることです。企業側にとっても「この人はこの分野に興味がありスキルアップをしている」という情報が、その後の人材配置や昇進昇格者を決める際の参考になります。社員同士がお互いの仕事内容を検索・閲覧でき、社内にどのような仕事があるかを把握できる環境も是非整えたいところです。
これらを7-1.とセットで取り組むことで、社内の仕事内容・スキル・個人の経歴の公開が進み、【難所2. 意識を持てても社内のキャリアを明確に描きづらい】ことの解消が、さらに進みやすくなります。

7-3. キャリアについて考える機会・仕組みをつくる

チェック項目③ キャリアについて考える研修・異動希望申請の機会や、自分以外の評価者からスキル・マインドへの客観的なフィードバックをもらえる仕組みを用意できているでしょうか。

先述の【難所1. 自律的にキャリアを形成するという意識を持ちにくい】ことへの対応として、是非取り組んでいただきたいポイントです。
キャリア自律の第一歩である自己理解は他者との関わりや対話によって深まります。昇進・昇格を含むポジションの変更時や異動のタイミング、一定年数が経過する毎など、折に触れてキャリアについて語り合い考える場を意図的に設けることが必要です。社内の上司・同僚と語り合うことは、お互いの仕事の実情を深く理解するための最適な場にもなるからです。
また周囲から自分がどのように見えているのか、スキルはどの程度習得できているのかを、客観的指標で向き合える仕組みとして、アセスメントテストや360度フィードバックを導入することも有効策のひとつです。
さらに、キャリアに向き合う結果次第では、新たな可能性を求めて異動を希望する社員も出てくるかと思います。その際、社員の前向きなチャレンジの受け皿として、ジョブポスティング制度や異動希望を受け付ける機会を定期的に設けるとよいでしょう。ここでは希望が叶うための条件も併せて明示し、希望を出した社員と受け入れ側の部署が、双方納得できる状態をつくることが肝要です。せっかく用意した制度が機能せず、逆に社員のモチベーションを下げるような結果にならないよう丁寧に設計し、コミュニケーションにも十分配慮しましょう。
以上のことは【難所3. 社内のキャリアを描けても、企業主体の人事配置が根強く、部署異動・ポジション変更の希望が通りにくい】ことへの対応策になります。

7-4. 上司とメンバーの対話が活性化する仕組みをつくる

チェック項目④ 上司とメンバーが、成長についてじっくり対話する定期的な機会(1on1など)や、能力開発のPDCAを回し続ける仕組みを用意できているでしょうか。

キャリア形成に関する悩みや課題の相談先の多くを占める「上司」には、メンバーが新たなことにも迷わずチャレンジしていけるような働きかけを期待したいものです。たとえば「1on1の制度は導入しているものの、日常的な業務に関係する話しか出来ていない」というのは非常にもったいない話です。
評価のタイミングでは、期待した成果に対してどこまで到達できていて、今後どのような点を伸ばしてほしいのか、メンバーからの納得を得られるように伝える力が必要です。そこでの納得度は、メンバーが社内で能力開発に取り組んでいくためのモチベーションを左右するからです。
7-3.でお伝えしたジョブポスティングや異動希望の制度を用意した場合も、すべての人の希望が必ずしも通るわけではありません。その意味でも、今の仕事が希望のキャリアに長期的に繋がっていく経験であることを示し、メンバーに理解・共感してもらうことは、大事なポイントとなるでしょう。

【Point】役割が広がる上司に対しては、特に丁寧なフォローが必要

キャリア自律促進にあたり、上司の重要性はますます高まるでしょう。従来のマネジメント業務や既存業務の延長線での育成に留まらず、今後はメンバーのキャリアについても真剣に話し合い、積極的に支援することが求められるため、すべてを現場の上司任せにしてしまうのは負荷が大きく危険です。
「メンバーに対するキャリア形成支援」という新たな役割をしっかり自覚してもらうことはもちろんのこと、上司自身のキャリア面談スキル・対話力を向上するための適切な育成施策も講じていくべきでしょう。

7-5. 組織全体で学びを促進する風土を醸成する

チェック項目⑤ 社内の立場に関わらず、ごく自然にキャリア・学びに関する話ができる関係性を組織内に築けているでしょうか。

直接の上司対メンバーの関係性のみにこだわると、近すぎるがゆえに相談しづらいことや、お互いに視野が狭まってしまうようなこともあるでしょう。そうならないためには、部門に拘らず社内の誰ともキャリア・学びに関する話ができ、様々な境遇における物事の考え方や仕事の乗り越え方を互いに参考にできる関係が理想です。
グロービスでは「斜めメンター制度」といって、直接の上長以外の人に相談したいことがある場合に、部門内、部門外を問わず、自分が希望するメンターを探して決められる制度があります。他の部門の仕事内容や世界観を聞いて視野を広げ、今後のグロービス内でのキャリアを考える参考になると好評です。
いきなり自然発生的に全社での関係性を築くことは難しい場合も多いため、はじめは制度化することをお勧めします。その後に重要なのは、形骸化を防ぐことです。制度化したものはしっかりと告知し、社員に早期認知されることを徹底しましょう。社内イントラや口コミなどを有効活用しながら利用者の輪を広げていくことで、学びを促進しあう関係性が風土として根付くことを期待できます。

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Chapter8
キャリア自律した社員が離職しないポイントは
“社内で成長する自分像が描けること”

7章でお伝えした5つの取り組みは、実は離職防止にも効きます。

下図は、リクルート マネジメント ソリューションズによる調査結果です。
「自律的・主体的なキャリア形成」行動(キャリア自律のための取り組み)と、「組織コミットメント目的愛着」(組織の理念や目的への共感や、この会社が気に入っているという情緒的なコミットメント)が、「良い機会があれば転職したい」という意識に及ぼす影響が分析されています。

図2.(花田光世・宮地夕紀子、 "キャリア自律を考える: 日本におけるキャリア自律の展開" 、CRL レポート 、2003年を基にグロービスにて作成)

これを見ると、「自律的・主体的なキャリア形成」行動は、「良い機会があれば転職したい」という意識を高めてしまう影響が読み取れます。しかし同時に、「組織コミットメント目的愛着」を高める影響もあり、「組織コミットメント目的愛着」は「良い機会があれば転職したい」という意識に対してマイナスの影響を及ぼすことが見えてきました。

多くの方が懸念するように、スキルアップや自律ばかりが進んでしまう場合には、社外の魅力的な仕事やポストに目が行くようになり、残念ながら離職されてしまうこともあるでしょう。 しかし上の結果からも、「組織コミットメント目的愛着」と「自律的・主体的なキャリア形成」行動との相関が認められることから、キャリア形成について会社からの期待を明確に伝えることが、企業との関係性に好影響をもたらすと考えられます。

そのため、キャリア自律した社員に「この会社にいるからこそ未来が描ける」「社内にも魅力的な人・組織・仕事がある」と感じてもらい、「まだまだ成長する機会が社内にたくさんある」と自分の未来像に期待を抱いてもらうことが重要となります。優秀な社員のリテンションを高めたいのであれば、キャリア自律と組織コミットメントの両方を高めるとよいのです。

以下は、キャリア形成のために会社に要望したいことへのアンケート結果です。自己啓発への金銭的・時間的援助だけでなく、日常業務とは異なる色々な経験や気軽にキャリア相談できる機会、評価や異動に対する納得のいく説明などが多く挙げられています。

若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査、リクルートマネジメントソリューションズ

引用:“若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査”、リクルートマネジメントソリューションズ、2023年7月に内容確認

これらの結果からも、キャリア形成は個人の自主性だけで進めるのは困難であり、ある程度の道筋やヒントになるような情報や機会を、企業から積極的に提供していくことが必要だと考えられます。

さまざまな場面にチャレンジする機会の提供と、自分一人では気づけないような知識・刺激を周囲から得られる環境をしっかり用意することで、「社員のキャリア自律」と「組織の求心力」の両立を目指していきましょう。

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Chapter9
「キャリア自律」を促進する
育成施策の企画事例

グロービスにご相談いただき、6章でお伝えした「キャリア自律促進のために企業が取り組むべきこと」を加速させるべく、育成施策を講じられた企業の事例を2つご紹介します。

9-1. ≪事例A:マネジメント層スキルの明確化×選択型研修×公募施策≫

本事例は、自律的な学びのサイクルを好循環させるための仕掛けとして設計された研修制度の事例です。
(※「7-1. 企業の価値観を明示する」「7-3. キャリアについて考える機会・仕組みをつくる」 に対応)

図6. 事例A:マネジメント層スキルの明確化×選択型研修×公募施策

図6. 事例A:マネジメント層スキルの明確化×選択型研修×公募施策

各施策のポイントについて見ていきましょう。

①会社がマネジメント層に求めるスキルの明確化と、昇進・昇格要件の変更

マネジメント層への昇進・昇格要件としてアセスメントテストを導入。マネジメント層に求められる論理思考力、経営知識(ヒト・モノ・カネ)の水準を定量スコアで定めることで、評価の透明性・納得度が高まりました。また対象となる階層の人の学ぶ必要性を喚起するとともに、一般層の人たちに対しても将来的に身に着けるべきスキルを明確に提示することで、自律的・計画的に学ぶ意欲の喚起に繋がっています。

②従来の階層別研修を廃止し、必要なスキル・マインドを必要なタイミングで学べる階層別研修を導入

この企業の場合、従来の階層別研修では受講生の参加意欲や状態にばらつきがあることが課題でした。まずは研修参加の意義を伝えるため、各階層に求めるスキル・マインドを明示。受講時期のみ、各自の必要なタイミングで受講出来る形態に変更されました。
ここでのポイントは、階層ごとに習得してほしい内容と到達レベルは企業側からしっかり提示し、各自の成長イメージをサポートしている点です。学びの内容を完全に社員に委ねないことで、会社からの育成に対する本気度を示すとともに、社員が迷わずに学習を続けられる環境が整いました。

③自分の実力を把握するためのアセスメントテストと、測定により明らかになる課題を解消するための教育ツール(企業内研修・スクール型研修・eラーニング)を公募型で提供

単に学びの場を提供するだけでなく、定量スコアで他のビジネスパーソンとの比較が可能なアセスメントテストも併せて導入することで、自身の強み・弱み・成長度合いを可視化し健全な課題意識を持たせているのが効果的です。また各自の置かれた状況に柔軟に対応できる受講形態を多数用意していることも、自律的な学びを止めない工夫になっています。

9-2. ≪事例B:上司向け関わり強化支援×メンバー向けキャリア支援施策≫

本事例は、キャリア自律推進のキーとなる「縦の関係(上司―メンバー)」に直接的にアプローチした研修の事例です。
(※「7-1. 企業の価値観を明示する」「7-3. キャリアについて考える機会・仕組みをつくる」 「7-4. 上司とメンバーの対話が活性化する仕組みをつくる」に対応 )

図7. 事例B:上司向け関わり強化支援×メンバー向けキャリア支援施策

図7. 事例B:上司向け関わり強化支援×メンバー向けキャリア支援施策

こちらもそれぞれの施策について見ていきましょう。

①上司向け施策:マネジメント層に対し、メンバーの意欲・能力を引き出すための観点・スキル習得を目的とした研修の場を提供 <研修概要>
図8. 上司向け関わり強化支援 研修概要

図8. 上司向け関わり強化支援 研修概要

「メンバーの意欲向上」「能力の向上」「目指すべきベクトルの一致」という上司の役割は、責任が重いだけでなく、実行するうえでの難所も多数存在します。

図9. 上司の役割を実行するうえでの難所

図9. 上司の役割を実行するうえでの難所

本研修施策では、上記のような難所が存在することを前提として、上司が難所を超えるための手法(特に意欲・能力を向上させる方法)について、ベースとなるリーダーシップ理論を押さえながら実際の企業ケースを題材に議論を深めていきました。

10. リーダーシップ理論との照合

図10. リーダーシップ理論との照合

さらに本研修だけでなく、内製プログラムとして「会社からの期待役割の変化・強化すべきポイント」を明確に伝えるとともに、具体的なコミュニケーション場面での実践として1on1の取り組み強化も実施されたことがポイントです。研修が研修に閉じないようすぐに職場に持ち帰り実践されたことで、研修参加者同士の意見交換も活発になり、横の繋がりが強化できるという効果もありました。

②メンバー向け施策:自社の理念、社会への提供価値に目を向けながら、自身のありたい姿を具体的に描くためのキャリア支援研修を実施
11. メンバー向けキャリア支援施策 研修概要

図11. メンバー向けキャリア支援施策 研修概要

いまの会社で主体的にキャリアを築く意欲を高めるには、「個人のありたい姿」と「会社のありたい姿」の重なりを見出すことが大切です。
前者の「個人のありたい姿」については、自分自身のモチベーションの源泉を内省したり、人生や仕事で大事にしたいこだわり・価値観・軸はどういったものなのかをグループで話し合ったりしながら、丁寧に棚卸を行いました。後者の「会社のありたい姿」についても、グループでの議論を通じて、自社は何を大事にしてどのような価値を社会に届けているのかをしっかりと言語化していただきました。

図12.「ありたい姿」に関する考察ワークの例

図12.「ありたい姿」に関する考察ワークの例

議論は参加者の自発性に任せながらも、ベースとなるキャリア論・リーダーシップ論・モチベーション理論も押さえながら進行することで、経験や直感だけから考えない理論的背景も重要視したことがポイントです。
最終的にはふたつの重なりに「会社と協働して創りたい未来は何か?自分の活かせる強みと補いたい弱みはなにか?」と、成長・行動のコミットまで具体的に見出していくところに本研修の意義がありました。

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Chapter10
「キャリア自律」促進には、
複数の施策への複合的な取り組みが必要である

ここまで繰り返しお伝えしてきたように、キャリア自律を成し得るには複数の施策への複合的な取組みが必要です。
具体的には7章でお伝えした5つの取り組みすべてということになります。そうは言っても、「上司とメンバーのコミュニケーション」「組織風土」など、下にいくほど個人の内面に関わるところも大きく、定着させるには企業からの根気強い働きかけと一定の時間が必要です。そのため、各種制度をひとまず導入するところで留まっていたという企業も多いのではないでしょうか。
現時点で足りない取り組みが見つかった際には、着手しやすいところから、キャリア自律促進に適した仕組みの構築を一つ一つ進めてみてください。

グロービスではMBAで理論を学んでいる専任担当が、打ち手ではなく「キャリア自律に取り組むことで、お客様が何を実現したいのか」といった本質的な目的のところから議論をさせていただきます。特にキャリア自律促進の要となるマネジメント層の育成は、流行りのテーマや前年踏襲といった決め打ちの手法論では、十分な効果が見込めないからです。

理想の状態をうまく言語化できていない場合には、現状についてお話いただければ十分です。組織体制や人事制度の詳細をヒアリングさせていただいたうえで、業界特性も踏まえた弊社仮説をもとに、イメージをふくらませるところからお手伝いいたします。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

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Chapter11
まとめ

最後に、本コラムでお伝えしたポイントは以下のとおりです。

  • ☑「キャリア自律」の促進は、組織力向上・イノベーションの創出・株主価値の向上といった大きなメリットを生み出す。
  • ☑一方で、日本企業には「キャリア自律」の促進を阻む歴史的背景が存在する。社員の自主性に頼りすぎると、自由が故の難しさに陥り促進されない。
  • ☑日本企業特有の難所を乗り越え、一人ひとりの自律的なキャリアを実現するためには、企業側からの意図的な管理・サポートが必要である。単一的な取り組みではなく複数施策に取り組むことで、仕組みとマインドの双方が整っていく。
  • ☑「社員のキャリア自律」と「組織の求心力」を両立させるには、組織への愛着を高めるコミュニケーションと、日々の企業活動の目的を共有し続けることが重要である。

上記ポイントを押さえ、「キャリア自律」を推進していきましょう。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。