人材育成担当者が知っておきたいROIC の基礎

2021.08.26

「ROIC」や「ROIC経営」という言葉を耳にすることが多くなりました。人材育成担当者の皆さまには馴染みのない話に思われがちですが、意外にも、ROIC経営成功のカギは人材育成にあるのです。

 

一方で人材育成担当者の皆さまに限らず、多くの方は、財務や会計に関して苦手意識をお持ちです。「複雑な数式は見たくもない」「ROAやROEなど専門用語がよく分からない」といったお悩みを、著者もよくお聞きします。本コラムでは、人材育成担当者の皆さまが知っておくべき、ROICの基礎についてお伝えします。

ROICとは?なぜROICが注目されているのか?

ROICとはReturn on Invested Capitalの略称で、「ロイック」と読みます。日本語では「投下資本利益率」です。ROICを算出することで、事業活動に必要なお金や資産から、どれだけ効率的に利益をあげているかを知ることができます。

ROICには様々な計算式が存在しますが、本コラムでは図1のように定義します。

 

図1:本コラムにおける、ROICの定義

図1:本コラムにおける、ROICの定義

 

なぜ、ROICが注目されているのでしょうか。背景には、株主が投資先企業に対して「利益額」以上に「利益率」の追求を期待していることが挙げられます。

 

一方で、未だに多くの企業では数値目標として、売上・利益の増加、または原価の削減を掲げています。もし、利益額に重きを置くとどうなるか、具体的に考えてみましょう。少ない元手のお金で100万円の利益をあげる事業よりも、膨大なお金を投じて150万円の利益をあげた事業の方が評価されてしまうのです。そのため、少ない元手のお金でどれだけ多くの利益をあげることが出来たか? という利益率を評価するROICに関心が集まっています。

その他の利益率の指標として、ROAやROEがあります(図2、図3)。ROAやROEと比較しても、ROICは調達したお金を事業で活用して得られるリターンを純粋に測る指標であるとわかります。

 

図2:ROAとは

図2:ROAとは

図3:ROEとは

図3:ROEとは

 

ROA・ROE・ROICの関係性について詳しく理解されたい方は、『ROIC経営 稼ぐ力の創造と戦略的対話』(KPMG FAS、あずさ監査法人、日本経済新聞出版、2017)が参考になります。

なぜ人材育成担当者もROICを理解していないといけないのか?

上述したROICの意味や特徴は、人材育成担当者の皆さまも理解せねばなりません。
なぜなら、ROICの浸透には人・組織の行動変容が必要であり、そのきっかけを作れるのは人材育成担当者である皆さまだからです。

ROICがどのように人・組織に関わるのか、人材育成担当者はROICとどのように関わると良いのか、以下で解説します。

 

1. ROICは「社員一人ひとりの行動」の積み重ねの結果である

ROICという言葉を聞くと、財務の話をしているように感じるかもしれません。しかしROICを分解すると、社員一人ひとりの行動と密接にかかわることから、実は人・組織の話でもあるとわかります(図4)。

 

図4:ROICツリーの例

図4:ROICツリーの例

 

図4は、ROICツリーと呼ばれ、ROICを構成要素に分解し、全体像を示したものです。

良いROICツリーは、一番右側の項目を社員の皆さまが見れば、自分が取るべき具体的な行動を想起できるようになっています。つまりROICは、社員一人ひとりの行動の積み重ねの結果であり、実質的には人・組織の話でもあるのです。

 

2.人材育成担当者の役割は、ROIC経営に必要な「社員の行動変容のきっかけ作り」である

良いROICツリーは具体的な行動を想起できると説明しました。では、上記のような良いROICツリーさえ作成すれば、ROICは社内に浸透するのでしょうか。答えは「NO」です。

多くのビジネスパーソンには、所属する企業ならではの長年の習慣が身にしみついているからです。長年の習慣を変えること、即ち行動変容を促すことは極めて難しいでしょう。しかし、この難しさに向き合うことがROIC浸透の肝です。

この難しさを打破し、社員の行動変容を促す方法はあるのでしょうか。答えは「YES」です。

マインドを変え、知識・スキルを備えることで人の行動は変えられます。人材育成にまつわる氷山モデルというフレームワークを紹介します(図5)。

 

図5:氷山モデル

図5:氷山モデル

 

氷山モデルでは、行動は知識・スキルとマインドに分解できると説いています。

行動を変えるには、マインドを変え、知識・スキルを備えることが重要であり、そのきっかけを作る施策の一つが育成施策です。育成施策を考慮することなくROIC浸透は図れないといっても過言ではありません。

ROIC浸透のキーパーソンは人材育成担当者の皆さまです。人材育成担当者の皆さまこそROICを理解している必要があるのです。

 

育成施策としてROICを扱う際のポイントは?

ここまでで、人材育成担当者の皆さま向けに、ROICの基礎を解説してきました。
本項では、ROICを育成施策として取り扱い、社員の皆さまに浸透するためのポイントを解説します。ROICを社員の皆さまへ浸透させるには、「理解」と「納得」を丁寧に設計する必要があります。

 

1.ROIC理解に必要な知識とマインドを分解する

社員の皆さまがROICを実務で運用するには、前提となる基礎知識の習得が必要です。たとえば、財務諸表の読み方、管理会計・ファイナンスの知識が挙げられます。

一方で、知識の習得以上に重要なことがあります。ROIC経営の実行を求められる社員のマインド醸成です。社員にROICを導入する意義を、徹底的に理解させることが必須です。

なぜROICを導入するのか、腑に落ちていない状態で財務に関する知識を詰め込んでも、行動変容の可能性は低いです。一足飛びにROICを理解させ、実行させようとするのではなく、マインドと知識に分解して丁寧にステップを踏みましょう。

 

2.上位層からROICの理解度を確認する

大前提として、経営陣が「ROICとは何か」「なぜROICを導入するのか」を理解している必要があります。経営陣のROICに対する理解が乏しい状況で、社員に対してROICに関する育成施策を実施したとしても効果が期待できません。

一方で、一括りに経営陣といっても、担当するミッションや経歴の違いにより、ROICの理解にバラつきがあるのが実態です。まずは経営陣の理解度を確認し、その後、配下の管理職向けの浸透にあたり経営陣の協力を約束してもらうことが効果的です。

 

3.浸透の役割分担を丁寧に設計する

ROICを育成施策で扱う場合、CFOからの講話、財務部門による内製研修、外部研修など、さまざまな手段が考えられます。ROICの育成施策に、唯一絶対の手法はありません。ポイントは、各ステークホルダーに何をお願いするか、浸透の役割分担を丁寧に設計することです。以下のように、社内外のステークホルダーに役割分担を設定し、適切に巻き込んでいきましょう。

・CFO:ROIC導入の背景の講話/説明
・研修会社:財務の基礎知識のインプット
・現場マネージャー:KPIの設定・達成のための施策と、フォローアップ
・人材育成担当者:育成施策の企画設計、全体のコーディネート

最後に

本コラムでは、ROIC経営成功のカギが、人材育成にあることをお伝えしてきました。しかし、ROICが未来永劫万能なKPIとは限りません。財務の歴史は古く、15世紀の大航海時代にまでさかのぼると言われています。時代の変遷と共に、財務のルールも大きく変化してきました。今後も変化していくと予想されます。

大切なのは、経営環境の変化に伴いKPIが変更になっても、柔軟に対応できる組織を作ること。そのためにも、社員が能動的に考えて行動できるよう、日頃から財務のリテラシーを高めておくことが重要です。

グロービスでは、ROIC経営を成功に導くベースとなる人・組織づくりを、初期設計からサポートいたします。ぜひ、よりよい仕組みを私たちと一緒に考えていきましょう。

執筆者プロフィール
小田 健太 | Kenta oda
小田 健太

学習院大学法学部卒業、グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了。
大学卒業後、富士通株式会社に入社。光通信用システムのグローバルビジネスに従事し、ヨーロッパ・アジアの市場開拓に携わる。グロービス入社後は、グローバル企業の次世代経営リーダーや海外ローカルスタッフ等の育成プログラムの開発、設計に従事。現在は法人向け研修の企画・開発・オペレーション等のサービス企画全般に携わる傍ら、アカウンティング・ファイナンス領域の研究やコンテンツ開発を担う。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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