ブログ:コンサルタントの視点
30年前の呪縛に囚われていないか?~マネジャー不要論~

2014.07.11

マネジャーとリーダーはどう違うのか?日本企業が「リーダーの育成」に苦労する理由は?今回の執筆は佐藤司が担当いたします。

「リーダーorマネジャー」という30年前の呪縛に囚われていないか?

「佐藤さん、上司から『もっとリーダーとして成長してほしい』と言われました。私は、マネジャーの役割が好きなんですが、これじゃダメでしょうか……」
「経営幹部を育てる際、マネジャーとして育てるべきか、リーダーとして育てるべきか、迷っています……」

振り返ってみると、こんな相談をされたことは案外多かったのではないか。 そのことに長い間、あまり違和感を持たずにいた。

しかしある時、香港の知人と人材育成に関する討議中に「マネジャーを育成?」と怪訝な顔をされた。その時は、僕の英語がうまく伝わらなかったかな、と思った。しかし、一晩寝て、冷静に考えてみると、確かに「経営幹部候補育成という文脈の中で、マネジャー育成を論じる」というのは時代遅れだな、と感じた。

一言で言うと、経営環境におけるICTの進化を活用せずに、30年前の呪縛に囚われているようなものだ、と感じたのだ。

30年前の「リーダーとマネジャー」論

元々、「リーダーとマネジャー」を明確に分離して、その役割の違いを唱えたのは、ハーバード・ビジネススクールのゼイレツニックであった。1977年のことだ。以降、「リーダーとマネジャーの違い」は、ブリース、ハウス、コッター、ベニス等により1980年代に盛んに議論された。一人一人の主張は、もちろん特徴があり興味深いが、ここでは(大づかみではあるが)シンプルに違いを紹介したい。

リーダーの目的は、創造と変革。そのために、未来志向で、カリスマ性で人を率い、直観を重視し、規則を破ったり攻撃的になったりすることもいとわない。

マネジャーの目的は、現状を安定・効率化させること。そのために、現在・短期志向で、権限・ポジションパワーで人を率い、分析・論理を重視し、規則に従い、調和を重んじる。

2014年の現在、これらを読み返しても、やはり納得感があるのではないか?
では、なぜこれが「呪縛」なのだろうか?

30年前との違い: ICTの進化

この30年で大きく進化したのは、ICTだ。CPUの処理速度も上がり、ストレージも安価になり、アプリケーションも豊富で、ネットワークで個人の複数デバイス間も同期がとれ、他人とも常時つながることができる。こういったICTを使えば、マネジャーの目指す「現状を安定・効率化」させるための多くの事が、人間ではなくICTに任せられるのだ。例えば、チーム全体のスケジュール共有・管理、プロジェクトや業績の進捗把握・共有、遠隔地であったとしてもスムーズなコミュニケーションの実現。標準プロセスやルールを徹底したければワークフローを活用すればよい。一番のメリットは、ICTを活用するだけで、かなりの業務の効率化が実現するのだ。

さて、改めて、上記のICTの進化が成し遂げられた今、「人間の役割」として、マネジャーはどの程度必要だろうか?

マネジャーの役割を繰り返そう: マネジャーの目的は、現状を安定・効率化させる。そのために、現在思考で、権限・ポジションパワーで人を率い、分析・論理を重視し、規則に従い、調和を重んじる。

現代に求められる経営幹部育成とは?

一言でいえば、創造と変革を担えるリーダーを主として育成し、企業の方針がぶれない/効率が悪化しないために、ポートフォリオマネジメントに極めて優れた少数精鋭のマネジャーがいればいいのだ。日常業務のマネジメントの多くは、ICTに任せてしまえばよい。 一方、現在、苦しんでいる日本企業を見渡してみよう。「守りすぎ」、「過度の現状重視」、「(ダイバーシティをうたいながら)異能異才の排除・過度の均質化」、「調和重視でイノベーションを殺す」、そういった光景が見られないだろうか?
その背景には、日本人が超えにくいリーダーシップの壁があるのではないか。例えば、「調和ではなく、時には攻撃的になることもいとわない」、「沈黙は金ではなく、ビジョンの積極的発信によるカリスマ性の発揮」、「ルールに従うではなく、ルールを創る」等。

ではどうすればいいのか? 筆者はマネジメントを入社直後から教え、早期に選抜しリーダー育成につながることが重要と考える。例えば、新卒入社段階から、「マネジメントの役割」と「ICTの使い方」、「ICTでは対応できないため人間が担うべきマネジメント」を教えるのはどうだろうか? 実際、マネジメント業務の多くは、ルーティンワークであり、定型化もされており、一度慣れてしまえば難しいことは少ない。また、新卒であっても、外部との共同プロジェクトの増加や働き方の多様化などによって多様な人々との協業の機会が増加した現在の経営環境では、マネジメントスキルは有効である。

そして、20代中~後半から、将来の経営者候補を選抜し、徹底してリーダー育成を行えばいいのではないか?たとえば「調和を重んじる」という日本文化の特性ゆえに、前述したような、未来志向で、時には規則を破ったり攻撃的になることもいとわず「創造と変革」を推進するリーダーシップを育てる際には長い時間がかかる。だからこそ、欧米先進国よりも早期からの選抜育成が重要ではないか?

もちろん、企業にマネジメントは必要である。しかし、マネジャーは最小限でよい。むしろ、創造と変革を促すことができるリーダーを早期から、大量に育成すべきなのではないか?

本稿がリーダー育成の方向性のご参考になれば幸いである。

執筆者プロフィール
佐藤司 | Sato Tsukasa
佐藤司
ダイアナ、CENTREX Corp.(米国)、Gemini Consulting Japan、GENEX Partners、 Roland Bergerを経て、グロービス入社。
これまで、企業再生、新規事業立ち上げ、新興国への参入等多くのプロジェクトを手 掛けてきた。
また、GENEX Partnersでは創設メンバーとして、50人規模への成長に貢献した。
グロービスでは、グローバル流通小売チームと変革ファカルティグループに所属。
これらの経験の中で、「日本企業を再成長させるためには何が必要か?」、と自問自 答を繰り返し、「人と組織の活性化」と確信。
今後のキャリアの中で、一人でも/一社でも多くの「人と組織の活性化」へ貢献した いと、志を立てている。
慶應義塾大学で認知心理学、UC Berkeley ExtensionでBusiness Administrationを学 んだ。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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