ブログ:コンサルタントの視点
ASTD国際カンファレンスに見る米国の人材育成の潮流

2014.11.20

米国において今年5月に開催された人材マネジメント(HRM)に関する世界最大級のカンファレンス、「ASTD2014国際カンファレンス&エキスポ」※に参加した加藤康行が、同カンファレンスのテーマの潮流、米国と日本の違い、そして我々が目指すべきリーダー人材育成とは何か?について考察します。

※ASTD(American Society for Training & Development)は2014年5月より Association for Talent Developmentへ名称を変更しました。本レポート中の会議名は開催当時の名称「ASTD」を使用しています。

「ASTD 国際カンファレンス」のテーマへの着眼

米国で語られるリーダーシップ/HRM。皆さんはどのような内容を想像するだろうか? 筆者は、「トップダウンによる統率」「その為の、強いリーダー輩出の仕組みづくり」等を想像していたが「ASTD国際カンファレンス」で語られていたテーマは、良い意味で想像とは異なり興味深かった。

その内容を紹介する前に、このカンファレンスについて簡単に触れておこう。

ASTD(http://www.astd.org/) とは、米国に本部を置き全世界に約40,000人が登録する訓練・人材開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織である。ASTDの国際カンファレンス&エキスポは毎年1回米国で開催され、HRMに関する300近いセッションが行われる。本年はワシントンDCで開催された。読者の中にも参加された方がいらっしゃるだろう。

本年の参加者は約1万人、うち、8割弱が米国から参加しており、米国以外の参加国TOP5は1位韓国、2位カナダ、3位中国、4位日本、5位ブラジルで、このTOP5の顔触れはここ3年変化していない。つまり、構造的には米国中心の場であるということは念頭においておく必要がある。

参加にあたり、どのようなテーマがあり、その背景となるトレンドは何かを俯瞰するため、2005~2014年の10年間のテーマおよびキーノートスピーチのトピックとその変遷を分析した。筆者が興味深く感じたテーマとトレンドは以下の3点である。

米国の人材育成の3つのトレンド

1)「選ばれた少数のリーダー育成」から 「メンバー個々人とその集合である組織全体を対象とする」という対象の変化と広がり

2)「行動、パフォーマンスとその為のスキル開発」より「価値観や情熱の源泉といった内面の重要性」への注目

3)一見無縁に見える「テクノロジーの進化」による教育の進化

3つの大きな流れについて概観してみよう。

1)リーダー以外への育成対象層の広がり

過去からのテーマを比較すると「タレントマネジメント」「組織変革」のカテゴリが消え、変わって「ヒューマンキャピタル」が浮上している。

当日行われたASTD事務局の説明や、キーノートスピーチによれば、背景にはリーマンショックに代表される米国が追求してきた行き過ぎた資本主義に関する反省があるという。一部の強欲なリーダーが社会に多大な損失と疲弊をもたらした経験からの教訓として、一部のリーダーに集中するのではなく、組織に属する一人ひとりに注目し、彼らの善意を引き出して組織を運営することに関心が高まっているのだ。

2)価値観や情熱の源泉といった、人の内面の重要性への注目

次に「リーダーシップディベロップメント」のカテゴリに注目しよう。ここ10年継続しているカテゴリだが内容は変化している。2005年はコンピテンシーの議論が主だったのに対し、2014年はリーダーの自尊心やメンバー間の共感に注目されている。キーノートスピーチにおいても、ここ数年継続的に、個人の内発的な動機づけのテーマが取り上げられている。当日のキーノートスピーチを務めたハフィントン・ポストの創設者であるアリアナ・ハフィントンの「時間に追われるのはやめよう」「寝室にスマートフォンを持ち込むのはやめよう」「もっと、自分の人生を楽しもう」などといったメッセージが印象的だった。

この流れは、VUCAワールドといわれる予測の立てにくい社会情勢のなかで、リーダーもメンバーも不安を抱え、心の安寧へのニーズが高まっているということだろう。ストレスなどによる自縄自縛から自身を解放する「マインドフルネス」が昨今注目されているのも同じ背景であろう。

グロービス・キャピタル・パートナーズの湯浅エムレのコラム(http://toyokeizai.net/articles/-Ⅲ7496)によれば、ハーバード・ビジネス・スクールのようなトップスクールでも同様の価値観が提唱されているようだ。

そして後述するが、日本のリーダー育成でもやはり個人の内面は重要なテーマとなっている。

3)ラーニング・テクノロジーの進化による影響

ここ数年のラーニング・テクノロジーの発展を受け、このカテゴリは広がり続けている。モバイルやソーシャルネットワークを使ったラーニングの手法の紹介だけでなく、ビッグデータを活用して影響や効果を分析する手法も注目されている。2014年に新設された「脳科学」のカテゴリと合わせて、教育の効果測定への関心はますます高まっている。詳しくは次回のレポートでご紹介する。

日本にとっての意味合い

ここまでASTDカンファレンスのテーマの変遷にみられる米国の人材育成のトレンドを3つあげてきた。そのトレンドを日本に照射するとどうか。ここでは、最初の2点について、考察したい。

まず1)選抜リーダーより現場を強化するという方向性について。筆者は、日本においては闇雲に今回の潮流に追随すると道を誤ると考えている。なぜなら、現場を強化するというのは、トップダウンの傾向の強かった米企業だからこその課題だと思われるからだ。一方で、これまでの日本企業は自動車産業を筆頭に現場力が強いといわれながら、リーダーが不在といわれてきた。八木洋介氏(LIXILグループ執行役副社長)は弊社のセミナーで「日本のリーダーには強さが足りない」と語った。筆者もリーダー育成の現場でそう実感している。日本では選抜リーダー、トップ人材の輩出がいまだに急務なのだ。

次に、2)内面の重視についてはどうだろうか。ここはまさに同感する。日本でも今後のリーダー育成に欠かせないテーマである。ただし米国とは文脈が異なる。

筆者が見る日本のリーダーの内面の課題とは、日本が得意としてきた「すり合わせ」の文化のなか、個人の想いを通すより、自分の責務を全うしようという「やらねば」の精神に依拠している方が多いことにある。「やらねば」だけでは、ともすると重圧感が増すばかりである。従い重要なのは、「やらねば」という社会的責務に加えて、それが本当に自分が成し遂げたいことかどうか、即ち、「やりたい」と心から思えるのかどうかだ。この境地に立って初めて、心の安寧に加えて、より自由にチャレンジすることができる。だから日本においては、内面を解放し「攻めに転ずる」ことが重要なのである。このような日本のリーダーの課題に対し弊社でもご支援している例が数多く存在する。

以上、人材育成・組織開発の先進国である米国のテーマ時流の一部を整理してみた。これらを鏡にして日本そしてアジアで求められているリーダー育成のテーマとアプローチをさらに磨いていきたい。

執筆者プロフィール
加藤 康行 | Katou Yasuyuki
加藤 康行

名古屋大学理学部物理学科卒業後、総合商社にて、中国ビジネスに従事。
その後、戦略コンサルティング会社に身を移し、国内外の成長戦略立案、新規事業の立案/ 推進を担う。
現在、グロービスの中国法人(顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司)に駐在し、Sales Directorをつとめる。
グロービスでは、法人向け組織・人材開発部門のプロジェクトの企画、設計等のコンサルティングを行ってきた。
講師としては、論理思考領域、経営戦略、マーケティング、リーダーシップ、理念浸透、アクションラーニングの経験を有する。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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