ブログ:コンサルタントの視点
あなたの会社のイノベーションを導くには?

2013.10.10

本ブログでは、グロービス・コーポレート・エデュケーションのコンサルタントが交代で、人材育成・組織開発の現場で考え、感じた潮流や問題意識をお伝えします。「イノベーション」を導くための、一見矛盾した方法とは? グロービス名古屋オフィスの板倉義彦が担当します。

アイディアが出ないという課題感

筆者は、グロービス名古屋オフィスを拠点として、自動車部品業界を中心とした製造業のクライアントのリーダー人材育成に関わっている。最近のクライアントとの間での典型的な話題に次のようなものがある。

「これまでの発想をしているだけでは今後の成長はありえない。新しい事を考えていかなければ。」
「既存の事に囚われなくてもよいと言っているが、なかなか出来ない。既存の枠の中でしか考えられない。」
「お客様から具体的な要望が来さえすれば対応していくことはできたのだが。うちは技術もあるし、カネもある。ないのはアイデアだけ。」

この問題意識に対して「イノベーション」というテーマでの研修プログラムを立ち上げているところも多くある。それらプログラムの論点を大分すると
1、如何に発想を広げるか
2、如何に発想をモデルに落とすか
3、如何にノベーションを組織に埋め込むか
の3つに分けられる。

1,2,3どれも重要な論点だが、今回は特に1の発想について考えてみたい。実は、矛盾をするように聞こえるかもしれないが、「考える枠を狭める」ことで発想が広がることが少なからずあるのだ。

 

イノベーションを促しているつもりが逆効果

自社課題を伴う選抜研修のオープニングでトップから「何の制約もない。自由に、思いっきり考えほしい」という旨の激励のメッセージが発せられるのを聞くことがある。これ自体は姿勢としてはとてもよい。受講者に期待を掛けていることも凄く伝わってくる。 しかし、すぐに途方もなく難しい壁にぶつかる事が多い。 自由にと言っても何を取掛かりに考えればよいのかわからないので、とにかく、手当たり次第に、もしくは思いつきで走ってしまい迷走してしまうことになる。 もしくは、自由にとはいうが「それはうちがやるべきことなのか」という議論で堂々巡りをしてしまう。 結果として時間切れで中途半端な提案しかできずに「この年代・階層の人材は発想が狭い」か「この年代・階層は考えが浅い」というネガティブな評価が下されることになってしまう。 これは研修に決して限った話ではない。忙しい実務での中からこそ、こういった状況が生じやすい。

自由に考えることが一番難しい

筆者は人間の思考には枠は必要だと考えている。だからこそ、「枠を取り払って」と言われた瞬間に考えられなくなってしまう。つまり自由に考えることが一番難しいのだ。 もちろん企業トップや起業家には、本当に自由に考えることが必要な場面もあるかもしれない。しかしそのような場面でも、我が社の理念や創業者の哲学、資源やネットワークなど何らかの取掛かりを置いて考えている。 とある大手企業のトップは、非常に大きな意思決定を行わなければならない際に創業者の墓の前で思考したという。 「創業者だったら、どんなことを考えるか。どんな意志決定を下すのか」 言い換えれば、創業者という枠の中に自分を置いて考えているのである。 人間は荒野に放り出させると不安を感じる生き物である。しかし、そこに立ち枯れていても一本の木がありさえすれば、安心して眠りにつける。

敢えて狭めて考えるとは?

どうすべきなのかというと、イノベーションを生み出したいなら、「敢えて狭めて考える」ことも必要と考えている。狭め方は色々あるが、 ・我が社は何屋なのか?領域を規定する ・目標値を置く ・制約要件(Do n’t)を決める といったことが考えられる。 「我が社は何屋なのか」を明らかにしておくことで、自分達の事業ドメインを明らかにすることが出来る。そのドメインの中で、徹底的に深く突き詰めて考え抜き、自社がスタックをしている前提を炙りだすのだ。イノベーションとは、その前提を覆し、もしくは新しいやり方を結合していくことなのだ。 「目標値を置く」ことの賛否はある。数値を追う事が事業の目的ではない、という意見がある一方で、目標値を置くことで、アイデアの良い悪いを判断する軸を持つことができる。また、敢えて高い目標値を置くことで、今の枠の限界を見出せるという効用もある。 筆者がお付き合いをしているある製造業の企業は、無謀に見える数値目標を経営者の明確な意図のもとにおいている。その数値目標はどれだけのイノベーションを積み上げても達成が不可能な様に思える。これまでの自助努力の成長では不可能なのだ。そのことに気づくとき、M&Aによる成長という新たなアイデアが出てくる。目標の置き方一つで、リーダー人材の「成長」への考え方を変えることができるのだ。 「制約要件(Don’t)を決める」はスポーツをイメージするとよい。やってはいけないルールを定めるのだ。そしてそれ以外は、自由にしてしまう。しかし、これは完全な自由とは違う。制約要件という枠の中での自由である。「これはうちらしくないよね」という会話が行われている会社は、明文化したものの有無に関わらず制約要件(Don’t)が思考や行動の判断軸となっていることが多い。

枠を狭めて成功してきた企業

愛知県にブラザー工業という会社がある。ブラザー工業はミシンからFAX、ファクスからプリンターへと事業転換を実現してきた企業として知られている。また、ユニークな組織風土を持つ会社としても有名だ。 何故こんな転換が出来たのかというと、この目の前の顧客に徹底的に向きあうことを是とする組織風土を持っていることが大きく影響している。新しい事業に飛びついている様にも見えるが実は「目の前の顧客」という枠の中で徹底的に考え抜いてきたのがブラザー工業だ。 ある意味では既存の枠は全く飛び越えていない。徹底的に枠に向き合ったと言える。「目の前の顧客」に向き合い徹底的に考え抜いて見出したビジネスのタネから、花を咲かせて結実させるために、社内の知恵を終結し事業として形にしてきた。例えば、ブラザー工業を代表する商品にプリンターとコピーとFAXを合体させた複合機がある。特別なことはしていない。どんな人が買っていくのか、どうやって使っているのか、いくらなら買うのか、要る・要らない機能は何なのかといった、当り前の問いに徹底的に向き合い、製品開発が行われ、流通、マーケティングが計画されてきたのだ。 後日談として聞けば、極めて普通である。しかし、他の会社には容易には真似ができない。イノベーションとはそんなものなのかもしれない。 発想を飛ばすことを考えるばかりではなく、枠の中を徹底的に掘りきる事を通してイノベーションが生まれるということも、皆さんのイノベーションリストに付け加えてほしい。 昨年破産した米フィルム大手のコダックの様に、自社の事業ドメイン自体が消滅してしまう場合には、また別の考え方が必要になる。どう考えるべきなのかは、「既存事業の革新」というテーマで概説しているので、そちらを参照いただきたい。 https://gce.globis.co.jp/column/20130930.html

執筆者プロフィール
板倉 義彦 | Itakura Yoshihiko
板倉 義彦
国立 東京農工大学 農学部卒業後、アグリビジネスの大手企業で商品企画、お よび生産企画に従事。その後、IT業界に転じて製造業向けソフトウェアの営 業・導入コンサルティング、および不採算営業部門の組織改革にリーダーとし て携わる。現在はグロービスの企業向け人材育成・組織開発(コーポレート・エデュケーション)部門にて、 様々な業種・業界の企業に対してコンサルティング活動を行う。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA)。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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