ブログ:コンサルタントの視点
求められるセルフマネジメントの力(1)

2013.11.01

本ブログでは、グロービス・コーポレート・エデュケーションのコンサルタントが交代で、人材育成・組織開発の現場で考え、感じた潮流や問題意識をお伝えします。 優秀なリーダーほど陥る「ディレ―ルメント=脱線の危機」とは、そしてそれを乗り越えるセルフマネジメント力とは? グロービス大阪オフィスの福田亮が2回シリーズでお送りします。

執筆者プロフィール
福田 亮 | Fukuda Akira
福田 亮
株式会社グロービス法人研修部門ディレクター。 慶応義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学シニア・エグゼクティブ・プログラム(CSEP)修了。 大手総合化学会社での機能性素材の開発営業、クライアント企業との東南アジアにおける合弁事業の設立、新興企業の経営支援・人材育成に携わる会社設立・立ち上げに従事。 現在は法人研修部門ディレクターとして人材育成に関するコンサルティング、プログラムコーディネーター、講師など、企業内の人材育成全般に携わっている。

昨今のリーダーが直面している状況

「あなたは、限られた時間、限られた情報、100%の確信が持てない不確実な状況で何を拠り所に意思決定を行うのか?」

この言葉は、筆者が今春に参加したコロンビア大学シニア・エグゼクティブ・プログラムで繰り返し問われたことである。

ビジネスを取り巻く内外の環境変化が、世界中のリーダーの意思決定を複雑且つ高度にしていることは説明するまでもないことであろう。 一方で、リーダーの立場からこの状況を捉え直せば、様々なプレッシャーが高まる中で、極端に言えば30~40%の客観的な確信しか持てない様な状態で、意思決定をすることを強いられるのである。

リーダーがこのような状況に適応していく為にはどのような能力を開発していくべきだろうか? 筆者は、リーダーシップ論を中心に企業研修の講師をさせて頂いているが、昨今注目しているのは、自分自身をマネージするセルフマネジメント力である。

昨今の企業リーダーシップのセッションでは、企業理念の浸透や使命感の醸成などのテーマが重要となってきているが、コロンビアで世界各国の経営者・ファカルティ―と議論をする中で改めて、人や組織を導くことに加え、あらゆる状況において自分自身を導く(Lead the self)力を備えることがこれからの時代に肝要であることを再認識するに至ったからである。

本ブログでは2回に分けて、セルフマネジメント力とは何か?について考えてみたい。第1回の今回は、リーダーシップ開発を阻害する要因に関してご紹介をさせて頂く。

優秀なリーダーほど脱線する?:「ディレールメント」という概念

「我々が直面している問題は、どれも、それに対峙する我々の態度ほど重要ではない。態度こそ成否を決めるものだからである」(ノーマン・ヴィンセント・ピール)

ここで、日本ではあまり馴染みがないかも知れないが、「ディレールメント(Derailment)」という概念をご紹介したい。ディレールメントを直訳すれば「脱線」を意味するが、リーダーシップ開発の文脈では、組織の中で成功体験を積んできた優秀なリーダーが、実はリーダーシップを育む道を脱線してしまいやすい、すなわち、これまでの成功を積み上げてきた「強み」が、高いプレッシャーのかかる状況下では逆に弱みとなり、適切なリーダーシップの発揮、自身の成長の機会を獲得することができない状況に陥ることを指している。

具体的な例で、ディレールメントに陥る状況をご説明したい。

例1 メンバー・関係部署の声や意見を上手に吸い上げ、調整を進めながら課題を解決することに強みを持つ調整型リーダー。

彼の強みは、「人に対するセンシティビティーの高さ」と「状況を冷静に分析し判断する能力」の二つがある。だが、本人にとって高いプレッシャーがかかることで、それぞれの強みの裏側にある「人に嫌われたくないが故に決めることに逡巡する」「あらゆることへの注意が過剰になるが故にリスクを回避する」という弱み(ダークサイド)が顕在化する。

その結果、「決めること」への不安・逡巡が生まれ、これまでの問題解決に優れたリーダーが、「決断・実行力」といったリーダーシップの発揮に乏しいリーダーに転じてしまうのである。

例2 与えられた職務・役割を「誠実且つ勤勉」に果たすことで成果を上げ、高い評価を得てきた実直なリーダー。

彼に高いプレッシャーやストレスがかかると、「誠実さ・勤勉さ」という強みが、過剰な完璧主義に転化する。これによって、視野狭窄に陥り細かいことが気になってくる。その結果、ルールや手順に対して過度に厳格になり、マイクロマネジメントの傾向が強くなり、メンバーの士気や抜本的な変革への対処が困難になってしまう。しかしながら本人は引き続き最善を尽くしているという認識が強い。

これらの状況に直面したリーダーにとって、これまでの成功の要因である強みをもとにしたこれまでの行動様式を変えることは当然ながら簡単ではなく、更に言えば、これまで評価をされてきた自身の能力をある意味自己否定することは心情的に極めて困難なことである。

結果として多くのリーダー、特に部課長クラスのリーダーが変化の激しい時代において「先送り」「放置」と見える態度・行動を取ることになるのである。

なお、表1にプレッシャーやストレス下で強みがどのような弱みに変化をするかの例示があるので、一度参考にして頂きたい。

表1:ディレールメントの例

photo

あなた自身のディレールメントの可能性は?

ディレールメントを回避する第一歩は、ディレールメントという概念を理解した上で、自分もディレールメントに陥る可能性があることを理解することである。次の様な問いで、まずは自身の状況を把握してみてはいかがであろうか?

Q:あなた自身がディレールメントに陥ったと思われる状況は存在したか?。その結果(自分自身の気持ち、他者の反応、仕事のパフォーマンス)はどうだったのか?

Q:今後ディレールメントを引き起こしそうな強みは何か?

このような問いかけをすることで、好ましくなかったパフォーマンスには、自身の態度・行動が影響を及ぼしていることを理解することができる。

加えて強みがディレールメントの予備軍であること、プレッシャー下でどのような態度・行動を取ってしまいがちになるかをあらかじめ理解しておけば、その行動を取った時に自分がディレールメントに陥りかけていることに気づくことができるのである。更に言えば、他者からの客観的なフィードバックはより効果的である。

次回は、ディレールメントに陥らない為に必要なセルフマネジメント力を磨くアプローチに関してお伝えさせて頂く。

▼お問い合わせフォーム▼
人材育成資料ダウンロード

人材育成セミナー・資料ダウンロードはこちら

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。