女性リーダー研修に必要な3つのエッセンスやプロセス・比較基準を解説
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人材育成担当者の方におかれましては、
- 自社に本当に合った女性リーダー研修を選ぶことが難しい
- すでに取り組んでいる研修プログラムが、本当に女性リーダーの効果的な育成に寄与しているのか不安だ
とお悩みではありませんか?
年間約3,300社の人材育成をお手伝いさせていただいたグロービスで「女性リーダー研修」のご支援をさせて頂いたところ、「女性リーダー研修」の企画に新たに盛り込むべきエッセンスが見えてきました。女性リーダー候補が管理職昇進をためらう意識的な障壁を越えるために、以下の3つのエッセンスを盛り込むことが重要です。
女性リーダー候補に必要な3つのエッセンス
- 自信の醸成
- 管理職のメリット実感
- 管理職の役割理解
本コラムでは女性リーダー研修のあり方をもう一度見直し、「女性リーダー(候補)本人」・「上司」・「組織」にとって三方良しの企画を進めるための3つのエッセンスをご紹介します。
本コラムをお読みの上企画を進めていただくと、
- 初めて女性リーダー研修の企画に取り組む方
- 過去に女性リーダー研修を実施したが思うような成果につながっていない方
は、研修の場で受講者の意識や行動が変わる瞬間に立ち会え、受講者からの声を「手ごたえ」として受け取っていただけるでしょう。(受講者の声は第8章で述べます)
女性リーダーの育成・登用は企業の継続的な成長のために重要です。そのような重要アジェンダに取り組む際には一切の懸念なく進めていただきたいという思いで執筆しました。
女性リーダー登用、女性リーダー研修の企画に関し疑問や不安をクリアにし、自社に本当に合った女性リーダー研修の企画を考えることにお役に立てれば幸いです。
Chapter1
今女性リーダー研修を行うべき4つの理由
1-1 ダイバーシティ施策はもはや「必須」
近年、女性リーダーの育成・登用が重要視されているのは、以下のような理由から、企業が継続して成長していくために非常に役立つからです。
女性登用の意義 | 詳細 | |
---|---|---|
1 | ダイバーシティ&インクルージョンの必要性 | 多様な人材(性別、年齢、国籍、障がいの有無などだけでなく、キャリアや働き方などの多様性も含む)を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげることが出来ます。 |
2 | 取締役会における多様性の確保 | 取締役会における多様性の確保に向けて、女性取締役の登用を単なる数字合わせに終始させるのではなく、取締役会の“質”の向上に繋げることが必要です。 |
3 | ESG投融資の加速 | 社会や環境に配慮した経営(ESG経営)への注目が高まっています。企業が人々の違いを尊重する経営を進めることで、適切に労働市場・資本市場から人材・資金を呼び込むことが出来ます。 |
労働市場や資本市場からの期待も高まっており、企業は上記の期待に応えるために、女性の活躍を推進する取り組みを進めていく必要があります。その効果の範囲も広く多大であり、より高度なマネジメントや育成が今後求められます。
1-2 ダイバーシティ施策=日本企業はまず「女性活躍」
ダイバーシティ施策の中でも、日本では8割超の企業が「女性の活躍推進」に取り組んでいます。
1-3【女性活躍に登用「前」の研修が急務】女性活躍推進の6つのメリット
日本における女性活躍推進に重要なのは、管理職登用「前」のトレーニング=研修機会です。なぜなら、トレーニングは女性管理職登用における「プラスの影響」を最大化する取り組みだからです。
過去の研究※1によれば、ダイバーシティ推進(女性活躍推進)には企業にとって6つのプラスの影響があるとされています。
プラスの影響 | 内容 |
---|---|
コスト削減 | ますます多様化する従業員の職務満足度が高まることで、離職率・欠勤リスクが低下し、結果としてコストが削減されます。 |
人材確保 | ダイバーシティを推進した企業は良い評判を得、優れた人材を引き寄せる力が増します。 |
労働市場・資本市場との対話促進 | 労働市場・資本市場においては、企業のダイバーシティ経営への取組に対する就業希望者からの期待がますます高まっています。特にミレニアル世代の人材は、就職先を選定する際に、企業の「多様性や包含の方針」を重要視しています。 |
マーケティング | 多様な背景を持つチームは消費者の行動やニーズをより深く理解し、市場や消費者行動に対して対応できる可能性が高まります。 |
創造性の増大 | 多様な視点が集まることで、プロダクトやプロセスについてアイデアが生まれやすくなります。 |
問題解決の進展 | 多様な経験や考え方が寄せられることで、問題解決の質が向上します。 |
組織の柔軟性の増大 | ダイバーシティが高い組織は、複雑な状況やあいまいな業務に対しても柔軟に対応し、柔軟性や順応性が高まります。 |
組織内にプラスの影響を最大化しするためにも、リーダーとしての育成が不十分な状態での登用は組織・本人にとっても、かえってリスクになります。登用後の円滑な組織運営のためにも、女性リーダー育成は何よりも急務です。
※1:Cox, T., and Blake, H. S. (1991) “Managing Cultural Diversity: Implications for Organizational Competitiveness”,
Academy of Management Executive, vol. 5, No.3
谷口真美,「ダイバシティ・マネジメント―多様性をいかす組織 」白桃書房, 2005.9
Chapter2
女性リーダー研修に取り入れるべき3つのエッセンス
女性リーダー研修に取り入れるべき要素・エッセンスは、
- 「自信の醸成」
- 「管理職のメリット実感」
- 「管理職の役割理解」
の3つです。女性リーダー育成における課題の把握や育成プログラムの作成のために、それぞれどのようなエッセンスが必要なのか、理解しておきましょう。
①自分は管理職に向いていないとの思い込み
②管理職は大変なだけという誤解
③管理職のあるべき姿・行動への無理解
これらを刷新することが女性リーダー研修には求められます。
2-1 自信の醸成
女性リーダー研修に必要なエッセンスの1つ目は「自信の醸成」です。
女性は、周囲にロールモデルとなる女性リーダーが少なく、リーダーになった自分をイメージしにくいケースが多いのです。心理学の研究によれば、通常「リーダー」という言葉が持つイメージは「男性的」なイメージであることが多く、「女性的」なイメージとは相反しています。女性のリーダー候補は「リーダーになることは、自己イメージとは合わない」と思ってしまいやすいのです。
まずはそのような固定観念を外し、以下のような気持ちに刷新することが必要です。
- 自身の強みを理解し、自分でもリーダーになれるという自信を抱いている
- 様々なタイプのリーダーが存在することを理解している
上記を実現するには、例えば自己診断ツール(グロービスではストレングスファインダーⓇを用います)を用いたワークショップを実施し自分の強みを確認することや、リーダーシップ・スタイルの多様性についてケースを基に議論する手法が考えられます。
自信の醸成につながった事例:「リーダーとはこうあるべき」という思い込みから脱却し、自分らしいリーダー像を目指して変化の激しい時代を歩む(相鉄ホールディングス株式会社)
2-2 管理職のメリット実感
女性リーダー研修に必要なエッセンスの2つ目は「管理職のメリット実感」です。
女性は、「管理職になってしまうと残業せざるを得ない、ヒトの嫌がる業務を多数引き受けねばならない」と懸念しているケースもあります。
しかし、管理職へのステップアップはそれ自体が新たなチャレンジであることを研修で気づいていただけることを目指したいものです。リーダーとなることで得られる経験やスキルは多岐にわたります。
- 部下やチームの成長を促し、その過程を共有する喜びを得られる
- チーム全体の方向性を決定し、戦略を立案し達成するための方針を決める経験を得る
- 組織全体を見渡す視点を持ち、全体の流れを理解し、それに基づいて判断を下すスキルを得る
上記のような視点を得るためにも、研修では例えば自身のwill(自分の意思)を深堀りし、その実現に向けて必要な取組を考えるワークショップを実施することで、will実現のためには管理職への昇進も選択肢として有り得ることを理解いただくことが重要です。
2-3 管理職の役割理解
女性リーダー研修に必要なエッセンスの3つ目は「管理職の役割理解」です。
2つ目までのエッセンスで「マネジメントは自分なりのスタイルで良いのだ」と気付いたところで、管理職にとって必要不可欠なマネジメントスキルを身につけていただきます。
そのためには、ケースメソッド(企業事例・ストーリーが書かれた教材=ケースに基づいた環境分析から戦略立案、意思決定までのプロセスを、クラス討議などを通じて実際に体験するもの)により、管理職に求められる役割や行動を具体的に理解し、リーダーの持つ力の源泉と、それが自身にもあることを理解する仕掛けをすることが多いです。
Chapter3
女性リーダー研修でやりがちな
3つの失敗要因(難所)とその対策方法
ここまで解説してきたように、女性リーダー研修には3つのエッセンスが必要です。しかし、良かれと思って下記のようなプログラム設計にしていると、研修が失敗につながる可能性があるため、事前に対策をしておく必要があります。
①いきなり具体的な仕事についての対話から入る
②仕事で苦労していることは?という悩み・不満を吐き出させる
③特定のロールモデルだけを提示する、押し付けてしまう
3-1-1 ①いきなり具体的な仕事についての対話から入る
失敗要因の1つ目は、「いきなり具体的な仕事についての対話から入る」です。
研修冒頭、アイスブレイクのつもりでこのような対話を設けている例もありますが、あまり望ましいと言えません。なぜなら、研修冒頭の段階では受講者同士の関係が築けておらず、本音で対話をするには心理的な壁がある状態だからです。
具体的には、関係性がまだ未確立の段階で具体的な仕事の話題に入ると、受講者はプレッシャーを感じ、自身の意見を表現するのが難しくなる可能性が高まります。また、対話が専門的すぎると、一部の人だけが発言する場になり、他の人は取り残される可能性があります。結果、信頼関係の形成が遅れることになるでしょう。
3-1-2「①いきなり具体的な仕事についての対話から入る」への対策
上記の対策としては下記2つが考えられます。
- 適切なアイスブレイクの実施
研修の初めには、受講者が互いに知る機会を提供するための適切なレベルのアイスブレイクを行うと良いでしょう。これには、簡単な自己紹介やゲームなどが考えられます。これにより、受講者は互いを理解し、信頼を築く初期のステップを踏むことができます。同時に講師は他人の視点を尊重することを奨励するような言動を取ることで、その場の心理的安全性(集団の中で、メンバーが誰に対しても恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態)がより高まるでしょう。 - 研修の目的と流れの明確化
研修の開始時に、その目的と全体の流れを明確に伝えることで、受講者が研修に何を期待すべきか、どのようなステップを踏むのかを理解し、不安を軽減することができます。
3-2-1 ②仕事で苦労していることは?という悩み・不満を吐き出させる
失敗要因の2つ目は、「仕事で苦労していることは?という悩み・不満を吐き出させる」です。
本音を話せる信頼関係を築こうという意図が感じられますが、これも望ましい結果を得られないことが多いです。研修の初期段階で単に受講者が自身の不満や問題を共有する場が設けられると、その場の雰囲気がネガティブになります。結果、前向きな対話や協力的な学習環境を形成することが難しくなる可能性があります。
また、雰囲気のみならず受講者の思考にも影響を及ぼし、議論の方向性が問題解決や学習に向けにくくなる懸念があります。
3-2-2「②仕事で苦労していることは?という悩み・不満を吐き出させる」への対策
上記の対策としては、研修の主に初期段階で下記の2つを意識し設計することが肝要です。
- ポジティブな対話の場の設定
受講者が自分自身の成功体験や業務での学び、得意とするスキルについて語る機会を設けることで、前向きな雰囲気を作り出し、受講者が自分自身の能力を再認識する機会を提供できます。講師やメンバーも、共感的な傾聴と前向きなフィードバックを提供することを強く意図するとより効果的です。 - 問題解決の視点を持つ
仕事の困難や問題について語る場合でも、その問題をどのように解決したか、またはそれを解決するためにどのような手段を模索したかという「問題解決」の視点を持つことを奨励することが重要です。
3-3-1 ③特定のロールモデルだけを提示する、押し付けてしまう
失敗要因の3つ目は、「特定のロールモデルだけを提示する、押し付けてしまう」です。
特定のロールモデル(例えば、社内で従来の“働き方”で活躍してきた女性リーダー、高い学歴や職歴など)だけを提示してしまうと、ご自身の今の状態と距離がありリーダーのイメージも沸きにくく、誤解を生む可能性があります。また、特に管理職になることに後ろ向きになっている受講者には逆効果になる可能性があるからです。
特定のリーダー像やキャリア観を押し付けると、女性リーダーの多様な視点やアプローチを試す機会を奪うと同時に、受講者が自分自身のスタイルや力を最大限に引き出すことを阻害するかもしれません。ロールモデルや示された方法と自分自身の性格や価値観が一致しない場合、受講者は自分自身がリーダーとして適合しないと感じるリスクもあります。結果、受講者の自信や自己効力感を喪失させ、心理的に抵抗を感じることも起こるでしょう。
3-3-2「③特定のロールモデルだけを提示する、押し付けてしまう」への対策
上記の対策としては、主に2つの対策が考えられます。
- 多様なロールモデルの紹介
複数のロールモデルを紹介し、それぞれがどのようにリーダーシップを発揮しているかを研修内で明示することで、リーダーシップは多様であるというメッセージを強調できます。これにより、受講者は自分自身のスタイルを見つけ出すことができ、自分に合ったリーダーシップの形を追求する機会を得ることができます。 - 個々の強みと経験の強調
各受講者が自身の経験、能力、視点を共有し、それぞれがどのようにそれをリーダーシップに活用できるかを研修内で議論します。これにより、受講者は自分自身のリーダーシップスタイルを探求し、自分自身の強みを理解し活用するヒントを得ることができます。
Chapter4
主な女性リーダー研修の種類と内容
女性リーダー研修の種類と内容に関し、検討すべき軸は2つあります。
- 研修手法(学び方)
- プログラムの種類(学ぶ内容)
それぞれ特徴がありますので、メリットとデメリットを踏まえ選択・使い分けをすることをおすすめします。
4-1 研修手法の種類(学び方)
概要 | 企業内研修 | スクール通学 | eラーニング |
---|---|---|---|
概要 | 社内・外部講師を用い、同じ会社の社員と学ぶ手法 | 外部スクールなどへ通い、他社人材と学ぶ手法 | 動画視聴など、受講者による自己学習が中心の手法 |
メリット | ・自社ならではの目的・課題に合わせた研修設計が可能 ・社内人材の交流や共通言語作りが可能 ・一度にまとまった人数が研修受講できるため、他流試合型研修と比べ、受講者一人当たりの費用を抑えやすい | ・受講者の課題や期待に応じて、個別に派遣可能 ・業界・職種・年齢・性別などが異なる他社人材との議論や交流が可能 ・一人から受講可能であり、予算や日程などの調整がしやすい ・派遣先にもよるが、一般的には手離れがよく、人材育成担当者(事務局)で対応することは少ない | ・時間と場所を選ばないため、多くの従業員に提供できる ・(左記と比べて)安価で導入できるため、研修コストが削減できる ・幅広いテーマを一斉に提供できるため、受講者の興味関心に沿った学びを提供できる |
デメリット | ・社内がゆえに同じ思考、行動様式、価値観を持つ人材が集まりやすい ・社員一人ひとりの個別性に合わせた研修の実施が難しい ・他流試合型研修と比べ、人材育成担当者の皆様への負担がかかりやすい | ・テーマ、開催時期、時間帯、会場場所、講師など、自社でコントロールできない ・他社受講者の人数、属性などの詳細は、参加するまでわからない | ・業務を優先してしまい、受講の優先順位度が下がりやすい ・自己学習で完結するため、期待できるゴール(受講後の到達度合い)は知識習得までになり、業務パフォーマンスに直結しにくい ・受講者の目的意識・課題意識が明確でないと、受講テーマを選択出来ない |
向いている ケース | ・意図した学習効果を、対象層へ一度に生み出したい時 ・組織内に共通の思考の型・価値観・課題意識を共有したい時 ・部門横断の人的ネットワークを意図的に構築したい時 | ・対象層に業界・自社・自分特有の思考の癖の自覚や客観視の機会を持ちたい時 ・他社人材との議論を通じ、異なる視点を得ることで、対象層の視野を広げたい時 ・対象層に社外の人間との人的ネットワークを構築してほしい時 | ・研修の全体コストを下げたい時 ・対象者自身に強い目的意識・課題意識がある時 ・受講後のフォローまで一貫して設計出来る時 |
それぞれ向いているケースが異なるため、特徴を知って使い分け・併用しながら育成を進めることが必要です。(詳細は当社コラム「社内研修と他流試合型研修の効果的な使い分け」「eラーニングを活用する際に注意すべき3つのポイント」をご参照ください)
第3章にも紹介するように、女性リーダー研修に必要な要素は「女性リーダー(候補)の意識変革」であるため、研修手法としてより適しているのは「企業内研修(講師派遣型)」「スクール通学」となります。以下はその2つに手法を中心に述べます。
4-1-1【企業内研修】「同じ立場の仲間」の重要性
企業内研修の最も大きなメリットは、自社でコントロールを効かせやすいことです。
どの経営課題を解決するか、そのためにだれを集め、どのようなテーマを扱うか、など自社の意図を反映させた設計が可能です。女性リーダー研修は第1章で述べたように自社の経営課題に直結するテーマなので「一定の女性リーダー候補が存在し、社内の共通言語を作ることを優先したい」という意味合いで企業内研修を選択されることが多いです。
グロービスの企業内研修は①事前の徹底準備②当日の徹底した議論③振り返りによる学びの定着によって、学びの効果を最大限に高めています。
グロービスの企業内研修の詳細はこちら
4-1-2【スクール通学】異業種交流での刺激
他流試合型の大きなメリットはもちろん、他社人材との交流です。
一人ひとりの受講者の持つ課題や期待役割に合わせたスクール・科目への派遣が叶うため、主に選抜研修に用いられることが多い印象です。女性リーダー研修の場合は「女性リーダー候補が多くなく(企業内研修を実施するほどは存在せず)、社外の同じ立場の女性と交流し対象層の視野を広げてほしい」という意味合いでスクール通学を選択されることが多いです。
グロービスのスクールでは、多様性に富んだ受講者同士が切磋琢磨する他流試合の場として、実践的なマネジメントスキル開発、人的ネットワークの構築が可能です。社内では得られない緊張感と刺激が、視野を広げ、固定化した考え方を解きほぐします。1名様からでもご派遣いただくことができる一方、企業内研修と組み合わせた長期の研修プログラムとしてもご活用いただいています。
4-2 プログラムの主な種類(学ぶ内容)
女性リーダー研修に必要なプログラムの種類には以下の5種類があります。最も重要な要素はマインドセットで、他の要素は期間や予算などの制約条件によって調整していきましょう。
- マインドセット
- 論理思考領域
- 人事組織領域
- マーケティング・戦略領域
- 会計・財務領域
4-2-1 マインドセット
女性リーダー(候補)のマインドセットを刷新するには、下記の要素を備えていることが肝要です。
①女性であることに適切な自信を持ち、正しい自己認識を持つこと
②リーダーのスタイルは多様であって良いことを女性本人が理解する
①女性であること に適切な自信を持ち、正しい自己認識を持つこと
女性と男性のリーダー候補の間に、生得的な大きな差はありません。グロービスの調査では、リーダー行動において女性リーダーが同僚から高い評価を受けているという結果が出ています。※2(本調査は、周囲の他者がリーダー候補の行動を5段階評価するもの。通常、回答は3~5に集中しやすい)
しかし、女性リーダー自身の自己評価は、男性に比べて控えめであることが多いとされています。自分自身の価値を正しく認識し、自信を持つことが重要です。
②リーダーのスタイルは多様であって良いことを女性本人が理解する
従来、リーダー像は男性的な特徴(例えば決断力や自立)と結びつけられがちでした。これらの固定観念にとらわれず、自分自身が目指す「自分らしいリーダー像」を持つことが大切です。リーダーとしての自分のスタイルを明確に描き、それを目指して歩んでいくことが、組織の多様性と成長に寄与します。
4-2-2 論理思考領域
ビジネスを進める上で基本となる正しい思考プロセスを身に付けるために、問題解決力やコミュニケーション力、仮説構築力などを強化する科目です。管理職が担う「自部署の問題解決をする」「制度や仕組みの企画を立案する」「部門を越えて自らの企画をプレゼンテーションする」「難しい場面での折衝を行う」にあたり不可欠な要素をカバーします。
4-2-3 人事組織領域
ビジネスにおいてご自身・所属組織が成果を出すために必要なことを、リーダーシップ、組織のあり方、人事制度などから考えるプログラム群です。リーダーがメンバーより一段高い視野を持つ重要性を認識するとともに、周囲を動かす影響力行使の仕方も学びます。
4-2-4 マーケティング・戦略領域
企業や組織がどのように目指すべき方向性を設定し、達成に向けた道筋を描くかを、経営戦略、マーケティングという観点から考えるプログラム群です。リーダーシップ発揮にあたっては、より高い視座から自分や自社を取り巻く環境を捉えることが必要であることを理解する必要があります。戦略立案の意味と意義を理解し、基本的な分析手法を習得することで戦略的な視野を培います。
マーケティング・戦略領域のプログラムラインナップはこちら>>
4-2-5 会計・財務領域
アカウンティング(財務諸表の読み解き)とファイナンス(投資の定量的評価)の観点から、企業や組織の活動を考えるプログラム群です。戦略や事業の現状、特徴がどのように財務データに反映されているのか、財務データから経営上の問題をどう発見し、意思決定を行えばよいのかをつかみます。
上記の要素をどのように組み合わせるかは第5章で述べます。
Chapter5
女性リーダー研修の成功事例と学ぶべきポイント
この章では、実際に女性リーダー研修をどのように進めていったのか、グロービスの事例をご紹介します。
- メーカーA社:スクール通学により、他社の同じ立場の女性と交流を図る
- 小売業B社:企業内研修と自社内研修をブレンディングし、幹部候補の社内ネットワークを形成する
それぞれ狙いや効果も異なる事例ですので、貴社の課題感に近しい例をご参照ください。
5-1 メーカーA社での事例:スクール通学により、他社の同じ立場の女性と交流を図る
A社では女性管理職割合を今後4年で現在の2倍にするという社内目標に向けた施策を検討されていました。
女性リーダー育成を開始して間もない時期のため、課長候補の女性対象者向けにグロービス・エグゼクティブ・スクールの「WLP女性リーダー育成プログラム」への派遣を選択されました。A社では受講対象である女性リーダー候補の人数が限られていたこともあり、同じ立場の多くの仲間と交流しながら学べるスクール通学が適当だったのです。
スクールには複数の企業から受講者が集まるため互いが切磋琢磨し、高め合える効果も期待できます。企業が異なると前提となる考え方や持っている知識が異なるので、他の受講者の意見や考え方が刺激となり、視野を広げるきっかけになります。
受講者の方は受講後、下記のような感想を寄せておられます。リーダーになる意欲や自信にポジティブな変容がもたらされています。※3
5-2 小売業B社での事例:企業内研修と自社内研修をブレンディングし、幹部候補の社内ネットワークを形成する
B社ではダイバーシティ推進の取り組みの一つとして、将来の女性経営基幹人材の早期養成に着手されました。意思決定ができる立場の女性部門長を増やし、多様な視点・価値観を事業・組織運営に持ち込みたいとの経営側での強いコミットがあり、本研修の検討に至りました。
対象層はすでに課長としてマネジメント業務を遂行しているものの、部門長としてステップアップを目指すには「身近に女性部長がいないのでイメージが湧かない。」「自分には荷が重いのでは?」という不安が根強くありました。それを解消するため、女性リーダーとして様々な苦労や悩みを抱える対象層により配慮したプログラム設計としました。具体的には半年間の取組みを通じて、女性課長同士の安心できるコミュニティづくりと自分らしいリーダー像の獲得、今後の役割認識のアップデートと行動目標の明確化を行いました。
結果、受講者の意識が徐々に「自分たちこそがロールモデルである」という決意に移行し、マネジメントをしていく上での自分なりの判断軸を見つけたという声も出ています。
5-3 ポイントは企画側のコミットメントにある
A社・B社の施策検討の共通点は経営層のコミットメント(関与・責任の明示)にあります。
経営層が女性リーダー研修に対するコミットメントを社内に示すことは研修時間やコストのリソース確保に有益なだけでなく、以下の効用があります。
研修プログラムを設計される前には必ず経営層の合意・コミットを獲得し、研修の案内や事前オリエンテーションの発信にも協力を取り付けることをおすすめします。
- 経営層のコミットメントは、研修プログラムが一時的な活動ではなく、組織の長期的な戦略の一部であることを保証します。研修ログラムは組織全体に信頼性と一定の優先度を持つことができます。逆に経営層の明確な支持がなければ、他の社員は研修プログラムの重要性を疑問視する可能性が生まれます。
- 女性リーダーの輩出は、企業文化や価値観に多大な影響を及ぼします。経営層のコミットメントは、組織変革を推進するための強力なメッセージとなります。
Chapter6
自社にあった女性リーダー研修の
企画〜実施プロセス
以下の流れに沿って進めることで、女性リーダー研修の企画を漏れなく行うことができます。詳細は「人材育成の考え方~実践的な研修体系を構築する7つのステップ」もご参照ください。
6-1 who:女性リーダー研修はどのくらいの階層・年齢・人数で対象を特定すればいいのか
対象層の特定にあたっては、「階層」「年齢層」「人数」の3つの観点で選択するとスムーズです。
まず、組織が将来実現したい姿や人材ポートフォリオ(全社の総人数・組織構造と部門編成)を基に、出来れば具体的数値で目標を設定することが重要です。下の図のように、階層ごとに現状と数値目標を明記出来るようにしましょう。女性管理職比率を目標にする場合、当該役職でのポスト数の男女比率も鑑みて明記する必要があります。
その後、ボトルネックとなっている階層に育成のフォーカスを当てます。多くの企業では管理職候補≒課長手前層の育成から着手されることが多いです。
あわせて、研修の規模と形式を考慮する際には、どのくらいの人数を対象とするかを考える必要があります。小規模な研修では一人から参加が可能なスクール通学を選択するでしょうし、大規模な人数の場合は企業内研修で社内の共通言語を作ることを優先することが多いでしょう。
6-2 when:女性リーダー研修はどのくらいの時間・期間で行えばいいのか
女性リーダー研修の期間を考える際、単発での取り組みではなく月単位での期間を想定することをおすすめします。
2章「女性リーダー研修に取り入れるべき3つのエッセンス」の要素を盛り込む場合、受講者自身のマインドセットの刷新やマネジメントスキルの付与がプログラムの主たる目的になるでしょう。その場合、単なるスキルインプットのための研修に比べて1~数ヶ月にわたる定期的なセッションが有効になります。特にグロービスの研修は座学ではなく、インタラクティブ(講師と受講者の双方向なコミュニケーションのこと)なディスカッション主体のケースメソッドで行われるので、より長い時間を要します。
また、研修そのものの期間もさることながら、研修後のフォローアップのための時間も考慮する必要があります。新たなスキルや知識を定着させ、適用するためには、定期的な上長とのレビューやクラス内でのアルムナイ(同窓会)が必要になる場合があります。
6-3 why:女性リーダー研修の意義と稟議のポイント
まず、社内の関係者や経営陣と一緒に、女性の活躍を推進する意義について合意形成を目指しましょう。その際には、組織が将来実現したい姿や人材ポートフォリオ(全社の総人数・組織構造と部門編成)を基に、出来れば具体的数値で目標を設定することが重要です。社内で目標を共通認識とすることで、女性リーダー研修の目的・意義・ゴールをより明確にします。
次に女性リーダー研修の実施を社内で上申・稟議を行う場合、下記のポイントを押さえて提案するとスムーズです。
・前提条件と意義の明確化:
稟議への支持を高めるためには、女性リーダー研修を実施する意義を明確にすることが必要です。女性リーダーが企業にもたらす具体的なベネフィット(新たな視点やアイデアの増加、社員満足度の向上、企業の評判やブランドイメージの強化など)を具体的に示すことが重要です。
・目的とゴールの明示:
研修の目的と具体的なゴールを明示することで、プログラムの成果を評価する基準を設けることができます。これにより、稟議を通す際の説明責任を果たすことができます。
・リソースの見積もり:
プログラムの開始に必要なリソース(時間、人材、予算など)を詳細に見積もりましょう。
・研修プログラムの設計
プログラムの内容、形式、期間など、具体的な研修プログラムの設計について説明します。この段階で、研修の有効性を確保するための設計のポイントや手法、その評価方法についても説明することが望ましいです。
・成功事例の提示
他の企業や組織での成功事例を提示することで、提案の信頼性を高めることができます。可能であれば、その事例から学ぶことができる点や、自社のプログラムとの共通点を明示すると良いでしょう。
6-4 how/what:女性リーダー研修はどのような内容を盛り込むべきか
2章「 女性リーダー研修に取り入れるべき3つのエッセンス」、3章「 女性リーダー研修でやりがちな3つの失敗要因(難所)とその対策法方法」を踏まえてプログラム設計を行います。
その際に配慮すべきは、「女性リーダー(候補)本人」のみならず、「上司」「組織風土・環境」も視野に入れることです。
女性リーダー候補が枯渇する背景には、現場で女性をリーダー候補として育成できていない現実があります。女性が意欲や能力を持たないのは、組織風土や上司の要因によるところも少なくありません。例えば、「女性リーダー(候補)本人」「上司」「組織風土・環境」それぞれに下記のような要因が考えられます。
要因 | 行動 | 能力 | 意識 |
---|---|---|---|
本人 | ・リーダーとして評価される行動が取れない・前に出られない | ・ありたいリーダー像が描けない ・リーダー行動を取るために必要な知識・スキルがない | ・リーダーになる自信や意欲が持てない⇒アイデンティティが持てない |
上司 | ・女性メンバーの育成が適切に出来ていない | ・多様性のマネジメント力が十分でない、やり方が分からない ・女性活躍推進の戦略的背景への理解が十分ではない ・リーダー行動を取るために必要な知識・スキルがない | ・(表立っていなくとも)女性に対する偏見がある ・女性の部下に過度に配慮してしまい、育成できない |
要因 | ソフト面 | ハード面 |
---|---|---|
組織 | ・女性活躍推進へのトップの意識が弱い/男性主体の風土 | ・女性が長期的に安心して働ける制度が無い |
Chapter7
女性リーダー研修を外部に依頼する時の
比較検討基準
女性リーダー研修を外部に委託する際、前述の項目以外にも押さえるべきポイントはあります。
「管理職研修を外注/外部委託する前に知っておきたい『5つの選定ポイント』」を参照しつつ、女性リーダー研修の文脈に置き換えて解説します。
7-1
Quality:研修の品質を決めるのは講師“だけ”ではない(「教材の質」や「研修会場のロケーション」)
女性リーダー研修を企画する際、講師のプロフィールを重視する傾向がありますが、それだけでは不十分です。実務・教育経験ともに豊富で、自社の業界にも精通しているのはもちろん、女性リーダー(あるいはその候補者)として取り組む受講者の苦労や葛藤を十分理解し、配慮したデリバリが可能な講師を選定したいものです。他にも教材の質や研修のロケーション・ファシリティ品質が担保されているかも重要です。女性リーダー研修はその性格上、安心して自己開示をする環境を整えることが必要なので、あえて会社から離れた「非日常」の場を提供することもひとつでしょう。
7-2 Cost:費用対効果を左右する「目標設定」
費用対効果とは、「研修を受講した女性リーダーがどの程度行動変容する想定=目標設定なのか」その効果に対して費用が納得できるかどうかです。受講者の意識の変化であれば、相対的に早く表面化することが想定されます。しかしマネジメントスキルの活用となると、効果が表れるのは一定期間が経ってからになるでしょう。どのようなレベルの効果が現れることでよしとするかは目的次第ではあるものの、単に高いレベル(行動への反映や業務上の成果)を目指すのではなく、「奥行き」を想定することで、より現実感のある目標設定が出来るでしょう。
費用対効果に効果的な目標設定の方法についての詳細は「研修効果測定における理想と現実~現実と向き合いながらも、有効な打ち手を導く為には?~」をご参照ください。
7-3 Delivery:希望日にできるかはもちろん、その後の対応力や柔軟性にも注目しましょう
女性リーダー研修の実施において、「研修希望日に研修が実施できるかどうか」は重要な観点です。
多忙な管理職/候補にとって希望日程に研修が実施できるかは実施そのものに関わります。また、まとまった人数での研修実施を検討する場合「複数クラスでの企業内研修を実施したい」という要望が発生することも想定されます。複数クラスのプログラムを「同水準の品質で」「同日に提供できる」研修会社は安心してお願いすることが出来ます。
7-4 Development:期待する能力開発ができる教育プログラムかどうか
女性リーダー研修のプログラム内容において、「目新しさ」や「受講者負荷が小さいかどうか」といった、部分的な評価で教育プログラムを決めてしまうのは避けましょう。
ここで重視すべきは、自社に必要な研修プログラムを「特定」するためのアプローチが出来ているかという視点です。自社に必要な研修プログラムを特定するには、自社の経営環境や組織課題、学習者の特徴を正しく捉えることが必要です。研修会社の担当者が自社の経営状況・組織課題について仮説をもって対等に議論が出来るかどうかは重要な評価基準となるでしょう。
7-5 Management:女性リーダー研修を任せて安心な運営体制かどうか
前項のポイントに引き続き、研修会社の担当者は、事前ヒアリングや研修後のフォローまで伴走してくれるかどうかも見ておきましょう。
更に、複数の講師が登壇するなど数か月に渡る長期間の研修になる場合は、講師間の連携や各研修のテーマのつなぎが重要になります。特に女性リーダー研修では受講者の受講姿勢や意識の変化が成否を分けます。研修期間中、研修会社の担当者と事務局とで連携が取れる状態が理想です。
Chapter8
女性リーダー研修でよくある10の疑問とその回答
8-1
会社の上位層が「女性管理職昇格者数・女性管理職比率の数字達成だけのために」女性リーダー育成の取り組みを検討しているように見える。
このままだと組織の今後を任せる女性リーダー育成につながらない懸念を感じますね。
人材育成施策は会社の投資なので、受講者やその上司には会社からの期待と要望は伝える必要はあります。ただ、女性リーダー(候補)の動機付けを高めたいのであれば、受講者に寄り添う姿勢も大事です。
下記「女性リーダー本人にある悩ましさ・課題」を把握し、その解決こそが中長期的には成果に結びつくことを認識合わせしたいものです。
要因 | 行動 | 能力 | 意識 |
---|---|---|---|
本人 | ・リーダーとして評価される行動が取れない・前に出られない | ・ありたいリーダー像が描けない ・リーダー行動を取るために必要な知識・スキルがない | ・リーダーになる自信や意欲が持てない⇒アイデンティティが持てない ・主体的に前に出る気持ちになれない |
8-2 なぜ女性だけ?特別扱いのように感じるのだが。
高度経済成長期以降、男女雇用機会均等法が策定はされたものの、会社組織では男性がリーダーシップの役割を果たすことが一般的であり、女性がリーダーシップをとる機会は限られてきた傾向 がみられます。
女性のリーダーが限られてきたのは、「女性管理職がまだ少ない」だけでなく、「日常業務の中でリーダーシップを育成する機会も、男性に配分されることが多い」ためです。例えば
- 他部署との調整を行う会議
- 重要な顧客の対応
- 新たな企画を必要とする業務
などは、女性よりも男性に配分されることが多いことが、研究から明らかにされています。
明らかな差別ではなく、ちょっとした日常業務における期待のされ方、育成期会の付与度合い、女性に負荷をかけることへの上司の迷い等が、女性のリーダーとしての成長を妨げていることが良くあります。
女性リーダーの育成プログラムは、これまでの不均衡を正し、多様な視点を組織に取り入れるための手段です。また、1章で述べた様々な研究が示すように、リーダーシップや組織の多様性は新たな視点をもたらし、イノベーションを促進し、組織全体のパフォーマンスを向上させます。女性リーダーの育成は、組織のパフォーマンス向上に寄与するための一施策なのです。
8-3 女性リーダー(候補)の上司の認識・理解が足りません。
女性活躍に対して、上司層の反応は「総論賛成」ではあるものの、現場ではなかなか十分な理解が得られていないのが現実・・・このようなお声をよく伺います。会社の戦略という高い視点から、自分事として捉えられるようになるまでに時間がかかる傾向が伺えます。
一つの要因として、女性リーダー育成の意義について「女性活躍推進=女性に気をつかう・特別扱いをすること」という誤解を持っている場合があります。女性を特別扱いするのではなく、性別に関係なく、一人の社員として育成すればいいのです。女性リーダー育成は組織全体のバランスを考慮した上での取り組みであり、社員全員が最大限に能力を発揮できる環境を作るための取り組みであることを伝えていきましょう。
8-4女性本人の意識転換だけで十分ではないように思うのですが・・・
女性の活躍を推進するためには、職場のマネジメントの在り方も含めて考える必要があります。
女性を育成する立場の上長の方々は女性リーダー育成の戦略的意義を理解し、これまでの考え方を見直していただくことが重要です。
上司向けのプログラムでは、上司として女性リーダー候補と向き合うために必要な知識・姿勢を見直しながら、アクションプランとして具体的な関わり方の展望を持つことを目指しています。詳細な内容はこちらをご参照ください。
8-5 管理職志向がなさそうな女性部下にも、管理職を意識させた方がいいでしょうか?
有職女性(675名)に、管理職への打診があれば、受けてみたいか聞いたところ、「そう思う(計)」は20.9%、「そう思わない(計)」は54.5%となり、機会が与えられても管理職にはなりたくないという女性が半数を超えました。
8-6 そもそも本当に、女性に管理職への志向はあるのか?という疑問があります。
ソニー生命の調査によると、バリバリ仕事がしたい女性の割合が20代では35%超、30代では40%超であるにもかかわらず、管理職の打診を受けたい割合は2割台と、マネジメントへの志向は相対的に少ないと考えられます。その理由は、「プレイヤーの方がいい」というよりも自信がない、「ストレスが増えそう」「家庭との両立が難しそう」などが多数を占め、「(興味はあったとしても)自分には出来ないだろう」という心理が伺えます。
決めつけることは出来ませんが、この調査結果を認識しつつ、本人の中長期のキャリア志向や現状の環境制限(プライベート事情など)を踏まえて、上司の期待(管理職になってほしいなど)を一方的に押し付けないようにしましょう。また、キャリアは最終的に本人が決めることであるため、一つのサポートとしてキャリア開発の重要性が昨今注目されています(次項で解説)。
8-7 女性リーダー研修で長期的なキャリアを考えてもらうべくプログラムに取り入れましたが、思うような成果が出ませんでした・・・
女性リーダーには長期的展望をもってキャリアを考えてほしいーという研修を企画実施される企業も昨今では増えてきています。長期的展望をもってキャリアを考えることは重要ではありますが、成果を阻害する原因として以下のような点が考えられます
①:特有のライフイベントを考慮しきれていない
②:長期的なキャリアプランを描き切れていない
③:継続的な学びの提供機会がないと思っている
①:特に女性の場合出産育児というライフイベントにより長期間、職場からキャリアから離脱せざるをえない時期もあります。研修ではライフイベントを考慮したキャリアプランを考えてもらうことも有効です
②:①を踏まえたキャリアプランを描く必要があります。「いつ子どもが生まれるのか、いつ手が離れるようになるのか、そのタイミングにならないと分からない」という不安だけが先行してしまい、会社での長期でのキャリアプランを描き切れずに、キャリアが断絶してしまうという懸念だけが残る可能性があります。
③:①②に対応できたとしても、学びつづける機会がないことでキャリアが断絶してしまう、と考える方も多いです。学びの内容は人それぞれですが、キャリアプランの中には個々人の将来のキャリア像とともに今後必要な学び(知識・スキルなど)もセットで考える必要があります。この点は前述の通り、上長の理解、サポートも重要となります。
8-8 女性リーダーのロールモデルが社内にいません。
「この人」と1人の理想のロールモデルを探すのではなく、部分・要素ごとに目標となる人を探すのはいかがでしょうか。
女性リーダー育成を始めて間もない会社の場合、「ロールモデルがいない」と訴える方が散見されます。確かに、ご自身がパイオニアになるプレッシャーは相当のものと推察しますが、その中で理想像となるロールモデルを1人と決めるのは物理的に難しいでしょう。そこで少し視点を変えて、
- 目標達成に向けたリーダーシップならAさん
- メンバーの育成ならBさん
・・・といったように、ご自身の目標とするリーダー像を分解し、要素ごとに目標となりそうな人を「部分的なロールモデル」とするのです。こうすることでご自身の思い描いていたリーダー像とはまた異なるリーダー像に触れる機会になり、想定外の気づきや学びを得る機会にもなることでしょう。
8-9 受講した女性はどのように変わったのでしょうか?(受講者の声を知りたい)
女性リーダー研修を受講した方からは、下記のようなお声をいただいています。
8-10 受講した女性の上司はどのように変わったのでしょうか?(受講者の声を知りたい)
上司向けプログラムを受講した方からは、下記のようなお声をいただいています。
Chapter9
まとめ
近年、女性リーダーの育成・登用が重要視されているのは、以下のような理由から、企業が継続して成長していくために非常に役立つからです。
No. | 女性登用の意義 | 詳細 |
---|---|---|
1 | ダイバーシティ&インクルージョンの必要性 | 多様な人材(性別、年齢、国籍、障がいの有無などだけでなく、キャリアや働き方などの多様性も含む)を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげることが出来ます。 |
2 | 取締役会における多様性の確保 | 取締役会における多様性の確保に向けて、女性取締役の登用を単なる数字合わせに終始させるのではなく、取締役会の“質”の向上に繋げることが必要です。 |
3 | 労働市場・資本市場との対話促進 | 労働市場・資本市場においては、企業のダイバーシティ経営への取組に対する就業希望者からの期待がますます高まっています。特にミレニアル世代の人材は、就職先を選定する際に、企業の「多様性や包含の方針」を重要視しています。 |
4 | ESG投融資の加速 | 社会や環境に配慮した経営(ESG経営)への注目が高まっています。企業が人々の違いを尊重する経営を進めることで、適切に労働市場・資本市場から人材・資金を呼び込むことが出来ます。 |
その中でも、「女性が管理職昇進をためらう要因」に対応するため、研修設計における重要なエッセンスは下記の3つが挙げられます。
- 「自信の醸成」
- 「管理職のメリット実感」
- 「管理職の役割理解」
しかし、逆に失敗要因もあるので注意して設計を進めましょう。
- いきなり具体的な仕事についての対話から入る
- 仕事で苦労していることは?という悩み・不満を吐き出させる
- 特定のロールモデルだけを提示する、押し付けてしまう
女性リーダー研修を設計・社内稟議を行う場合は下記の点を押さえましょう。
- who:女性リーダー研修はどのくらいの階層・年齢・人数で対象を特定すればいいのか
- when:女性リーダー研修はどのくらいの時間・期間で行えばいいのか
- why:女性リーダー研修はなぜやるべきかの明示と稟議のポイント
- how/what:女性リーダー研修はどのような内容を盛り込むべきか
女性リーダー研修は企業戦略上重要な位置づけを占める取り組みです。今回ご紹介したエッセンスを参考に、周囲を巻き込みながら企画に着手してみましょう。
参考文献
1) 参考:“ダイバーシティ 2.0 の更なる深化に向けて”、経済産業省、2023年07月に確認 を基に作成
2) 引用:“人事白書調査レポート2020 ダイバーシティ”、日本の人事部、2023年07月に確認
3) 引用:”令和3年度雇用均等基本調査”、厚生労働省、2023年07月に確認
4) 参考:Cox, T., and Blake, H. S. , “Managing Cultural Diversity: Implications for Organizational Competitiveness”, Academy of Management Executive, 1991, vol.5, No.3
5) 谷口真美,「ダイバシティ・マネジメント―多様性をいかす組織 」白桃書房, 2005.9
6) 参考:グロービスが過去に実施したGSS360度調査の全項目平均値 (データ数 男性13,670件、女性565件)
7) 引用: ”女性の活躍に関する意識調査2022”、ソニー生命、2023年07月に確認
8) 引用:”日常の悩みとジェンダーギャップとの関連性調査2022”、株式会社 InsightTech、2023年07月に確認
9) 引用: ”女性の活躍に関する意識調査2022”、ソニー生命、2023年07月に確認
10) 参考:“ダイバーシティ 2.0 の更なる深化に向けて”、経済産業省、2023年07月に確認 を基に作成)