ブログ:コンサルタントの視点
部長研修の鍵は「成長意欲に火をつけること」

執筆:平井 和典

2015.01.26

部長にさらに成長していただきたいが、実績もあり能力も高い方々に何を提供すればよいのだろうか? そんな人事部のお悩みに向けて、「成長意欲」にフォーカスする部長育成のコンセプトとアプローチをご紹介いたします。執筆は大阪オフィスの平井和典です。

部長層の育成に悩む人事部

「経験、年齢を重ねた人が変われるのだろうか」
「忙しい彼らを拘束してまでやる効果が本当にあるのだろうか」

日頃、我々がお会いする人事担当の方々から聞こえてくる「部長層」育成への悩みである。

そもそも部長とは、過去素晴らしい実績を残し、それを実現するためのスキル・意識を具備し、人間的にも優れた選ばれた方々がほとんどである。しかし同時に、さらなる成長を求められる立場でもある。日本企業は既存のビジネスモデルからの転換やグローバル展開等、これまでの延長線上ではない戦い方が求められている。そのような中で現場と経営を結ぶ要となるのが部長層であり、彼らの「器」が全社の成長を決めるといっても過言ではない。

部長層に変わってもらわなくてはならない、でも、本当に変われるのだろうか。このような課題意識に対し、これまで取り組んできた育成アプローチをご紹介したい。

 

キーワードは「我々は“まだまだ成長できる”“あがりではない”」

部長層の育成におけるキーワードは「まだまだ成長」である。「もうあがりだ」と思ってもらっては困るのである。部長自身が「リーダー(部長)の器が組織の器を決める」という認識と、その目指すべき器に対して自分自身がまだまだ達していないという健全な危機意識をもち、自分もまだまだ成長できるかも、という小さな成功体験と成長実感をもつことが、会社が今後も成長していくためには大変重要である。

「まだまだ成長」を実現するための重要なコンセプトは「足らざるを知る」「学び方を学ぶ」である。

●「足らざるを知る」

人が成長したいと思うためにはあるべき姿・なりたい姿を描き、自分とのギャップに気付くことが重要となる。しかしながら、若手ならいざ知らず、部長層に「あるべき姿に足りていないので頑張りましょう」と説いたところで反発をかうだけであろう。周囲からのガイダンスを最小限にし、自分自身で腹の底から“いかに自律的 に足らざる”状態を痛感してもらえるかが重要となる。

一つのアプローチとしては、本来の知るべきことの広さや深さをシャワーのように徹底的に浴びることが有効だ。シャワーの範囲は、自分自身が担当している自社事業や機能を当然のことながら大きく超える。たとえば以下のような流れである。

(1)  他社事例を通じて経営の全体像や定石に触れ、それに比較して自分がいかに担当部門・機能のみに閉じているか認識する
(2)  視野を “世界”(社会・経済・文化・民族等)にまで広げ、それらが企業経営に与える影響やつながりを考える
(3)  さらにはその裏に流れる“原理原則”まで深く考える

とにかく徹底的に視野を広げ、視座を高め、多様な視点に触れ、深く考え続けさせることに徹するのだ。そのうえで彼らにとっての最後の砦であるはずの「担当事業・機能」について改めて考えると、本来の広さ、高さ、深さでは自分は何も知らない、ということが痛感されるのである。いい意味で自信が打ち砕かれ、健全な焦りが生まれてくる。

●「学び方を学ぶ」

「足らざるを知った」上で次に大事なことはそれにどう向き合っていくべきかである。すべてに対して決まった答えがあるわけでもなく、誰かが知っているわけではない。重要なのは答えを探すのではなく、何を考えるべきか自ら“問い”を立てることである。

そこで徹底的にその問いの立て方を訓練する。例えば、ケース(企業事例)を何のガイドもなく読むよう指示し、「このケースからそもそも我々は何を学びとるべきなのか? 我々にとって示唆は何か?」を受講者に問うてみる。質問された受講者は当初何のことかわからず唖然とする。しかし講師は受講生の思考を広げたり、深めたりするための投げかけを徹底的に行うが、受講生の発言に対する良し悪しの判断や問いに対する答えは出さないようにする。 可能な限り自分達で何を学びとるのかを自分達で決めてもらうのである。

 

知識習得より成長意欲にフォーカスを

これらの営みを通じて得られるものは何だろうか。
研修終了時点で受講生は「すっきり答えがわかった」というのとは対照的に「知らないことが一杯ある」「考えるべき問いの山ができた」等、よい意味での焦りや<もやもや感>で満たされている。同時にこれまでの経験や断片的に知っていたことの関係性が一部整理・構造化され徐々につながった・わかってきたという実感もうまれている。部長としてある種の「もうあがりだ」と思っていた自分の殻が破れ、まだまだ成長しなくてはならない、成長したい、という継続的な自己成長のエンジンを積んだ状態となっている。
 
最近フォローアップ研修で当時の受講者と再会する機会があった。眼前の業務に忙殺されそうになりながらも、「成長」したいという意欲にあふれている。終了後の懇親会や休憩時間に講師や担当である私に「成長」というネタで多くのお話をしていただけることに感銘を受けた。

限られた部長研修の機会を「知識習得」ではなく「成長意欲」に使うことは、人事部にとっても、担当するグロービスにとっても勇気を要する決断だ。しかしこれこそ部長育成に求められる本質だという確信を深めている。本稿でその手ごたえが少しでも伝われば幸いである。

 

執筆者プロフィール
平井 和典 | Kazunori  Hirai
平井 和典

大学卒業後、サントリー株式会社にて、小売チェーン本部に対する営業担当や、エリアマーケティング等の業務に携わる。グロービス入社後は、大阪オフィス法人営業チームリーダーを経て、法人営業部門の経営企画、業務推進の責任者を務める。現在は企業向け人材育成・組織開発(コーポレート・エデュケーション)部門にて、 様々な業種・業界の企業に対してコンサルティング活動を行う。
講師としては、クリティカル・シンキング等の思考系科目を担当している。
グロービス経営大学院(MBA)修了。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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