ブログ:コンサルタントの視点
「既存事業の革新」実現におけるポイント

2013.09.30

本ブログでは、グロービス・コーポレート・エデュケーションのコンサルタントが交代で、人材育成・組織開発の現場で考え、感じた潮流や問題意識をお伝えします。今回は人材育成の前提となる経営課題のなかで、とくにお客様から話を伺うことの多い「事業革新」について、西村聡が執筆します。

執筆者プロフィール
西村 聡 | Nishimura Satoshi
西村 聡
関西学院大学経済学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA) 大手鉄鋼会社にてプラント及びプラント関連機器等の国内外営業に従事。ま た、プラントビジネスの経営企画・管理部門にて短期/中長期経営計画策定、 事業再構築、新規ビジネ ス創出等に従事。 グロービスでは、企業研修部門のチームリーダーとして、企業の経営課題解決 のための人材育成体系構築支援、プログラム設計等、人材育成・組織開発のコンサルティング全般に従事。

はじめに

これまでメーカー、商社、金融、IT等、様々な業界の顧客企業の経営課題解決の支援に携わらせていただいてきたが、昨今多くの企業に共通する経営課題のひとつとして「世の環境変化は激しく、従来のやり方にとらわれず大胆に既存事業を革新する必要があるが変われない」というものがある。 この既存事業の革新を実現するためのポイントについて考えたい。

既存事業の革新とは何か?

「ゼロベースで既存事業の革新を検討せよと言っているのに過去の延長線上の話しか出ない」「根本的な事業の革新が必要なのに、従来の戦略の改善しか挙がってこない」といった話をよくお聞きするわけだが、様々な顧客との議論を通じて見えてきたことがある。それは、そもそも「既存事業の革新」のとらえ方が人によって相当異なるということである。 皆さんは「既存事業の革新」にどのようなイメージを持つだろうか? 筆者が実際におうかがいした既存事業の革新のイメージは多岐にわたる。たとえば、  「ゼロベースでやり方を変えるイメージ」  「100円を200円にするというレベルではなく、1000円、10000円にするイメージ」  「うちの既存事業の革新とはずばり『海外展開』のこと。今は国内一本故」 等々、様々である。 このように既存事業の革新へのイメージは様々だが、経営陣が考える既存事業の革新の共通項とは「ビジネスモデルの変更にまで踏み込む」と言える。 すなわち、既存事業の革新とは、「既存事業のビジネスモデルの変更を伴う成長戦略の立案と実行」と言える。ここでは既存事業の革新をこう定義する。

ビジネスモデルとは何か?

では、ビジネスモデルとは何か?このビジネスモデルという言葉のとらえ方も人によって様々である。 「儲ける仕組み」「業務フロー」「商品・サービスの流れ」「目指すべき方向性」等々。 たとえば、ハーバード大学のクリステンセン教授らは「ビジネスモデルを成功させる要因」として次の4つの要素への分解を掲げている(*1)。 ・顧客価値の提供(CVP : Customer Value Proposition) ・利益モデル(Profit Formula) ・カギとなるプロセス(Key Process) ・カギとなる経営資源(Key Resources) この整理に従って既存事業の革新の定義を肉付けすると「従来のビジネスモデルでは成長が見込めないと判断する場合は、まず顧客価値の提供すなわちどのようなニーズを持つ顧客にどのような価値を提供するか(以下、CVP)を再定義し、それを実現する利益モデル、プロセス、経営資源を再構築する」という感じになろう。

組織が既存事業の革新を実現するためのポイント

以上の話も踏まえ、組織が既存事業の革新を実現するための根本的なポイントを挙げたい。 1.組織における「既存事業の革新」の定義の統一 上述の通り、「既存事業の革新」や「ビジネスモデル」という言葉は人によってとらえ方が異なる。組織の中でこの認識に違いがあると、そもそものスタートから目指す方向が異なり、結果として議論が進まない可能性がある。 まずは組織における定義の統一が不可欠である。 2.既存事業の革新の検討に求められる独自の知見の獲得 既存事業の革新とは「既存事業のビジネスモデルの変更を伴う成長戦略の立案と実行」であり、「従来のビジネスモデルでは成長が見込めないと判断する場合、CVPを再定義し、それを実現する利益モデル、プロセス、経営資源を再構築する」ことである。 この場合、従来のCVPを実現するための強みが変更後のCVPにおいては活きない可能性も大いにある。理屈で考えると当然なのだが、従来の強みは従来のビジネスモデルでの強みであり、変更後のビジネスモデルでも強みになるとは限らない。 ところが、戦略論においては「強みを活かす」ことは定石とも言える。この定石に従い従来の強みありきで考えると、新たな発想でのCVPの再定義は難しく、ひいてはビジネスモデルの変更は難しい。まずは新たなCVPから考え、必要な強みは後から獲得するという発想も重要である。 この強みの話は一例だが、既存事業の革新を実現するには独自の知見の獲得が必要である。 3.組織における既存事業の革新プランに対する評価能力の強化 いざビジネスモデルの変更にまで踏み込んだ画期的な既存事業の革新プランが挙がってきた時に問題となるのは、組織としてのプランの評価能力である。 ビジネスモデルの変更にまで踏み込んだ既存事業の革新プランは、従来(今)の事業と比較して「ネガティブ」に見える可能性も高い。たとえば、 「自分達の強みが活きない」 「従来の顧客に迷惑をかけてしまう(ターゲット顧客変更の場合等)」 「従来の事業とのカニバリゼーション(共食い)が起きる(商品・サービス変更の場合等)」 等は、CVPの変更に始まる既存事業の革新においてはよくある話である。このように一見ネガティブな点が目立つプランを組織として正当に評価するのは難しい。 これを克服するには、そもそもなぜ今ビジネスモデルの変更を検討しているのか?に立ち返ることがまずは重要である。従来のビジネスモデルではもはや成長できないからこそビジネスモデルの変更を検討しているのである。実際はこの根本的な背景がネガティブな要素の前で忘れ去られるケースは多い。 また、意思決定者自身もビジネスモデルの変更にまで踏み込んだ経験を持たないケースは多い。長い時間軸でとらえると、日本の大手企業は戦後確固たるビジネスモデルで継続的に成長を実現し、バブル崩壊後あたりからそのモデルが限界を迎えているとも言える。よって、ビジネスモデルの変更を実現した経験のある企業も経営者も必ずしも多くはなく、その意思決定も容易ではない。 これについては、上記1.「組織における「既存事業の革新」の定義の統一」と2.「既存事業の革新の検討に求められる独自の知見の獲得」は、既存事業の革新プランを具体的に検討する当事者と意思決定者の両方に対して取り組むことが有効である。 以上、既存事業の革新実現におけるポイントについて考えてきた。途中でも触れたが、これまでの日本企業及び経営者にとって経験の少ない領域の話であり、必要な認識・知見を組織内に構築しつつ、実現の方向性を検討することが重要である。 *1「ビジネスモデル・イノベーションの原則」(C.M.Christensen他著、DHBR April 2009)

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。