管理職の昇進・昇格試験に納得性・根拠を持たせるには?

2021.05.20

新型コロナウイルスの感染拡大により、ビジネス環境は一変しました。経営戦略や働き方の変化に伴い、昇進・昇格試験制度の見直しをされている企業様も多いのではないでしょうか。本コラムでは、特に管理職の昇進・昇格試験に焦点を当て、試験結果に納得性・根拠を持たせるための具体的な仕組みを解説します。

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階層別研修と選抜研修の違い・役割

 

はじめに

「管理職」というポジションの重要性は、これまで以上に増しています。環境変化のスピードが加速度的に上昇し、不確実性が高まる昨今のビジネス環境においては、企業の戦略を見直すスパンも短期化しています。

戦略実行の確度を高めるためには、戦略を正しく理解したうえで現場へと落とし込み、メンバー一人一人がコミットできる状態をつくることが重要です。また、リアルタイムに現場の情報を吸い上げることで、戦術を柔軟に軌道修正しながら、刻々と変化する環境に適応した新たな戦略を描くことが求められます。

これらの取り組みにおいてカギとなるのは、経営と現場の結節点となる管理職です。

 

また従来は長期的視点で「人を育てる」という機能は”人事部任せ”であったことがほとんどでしたが、中間管理職が担う部分が拡大しています。成果創出における戦略実行を牽引しながら組織をマネジメントする管理職の職務範囲・職責は大きく、管理職というポジションの重要性や難易度は、ますます高まっていると言えるでしょう。

このような背景から、管理職への登用にはこれまで以上に納得感が求められ、管理職への登用を決める昇進・昇格試験も、その重要性を増しています。

昇進・昇格の判断に求められること

昇進・昇格の判断において、必要なこととは何でしょうか?本稿では重要なポイントとして、以下2点を挙げたいと思います。

2-1:管理職に求める人材要件を明確にする

まずは、見極めの拠り所となる要件定義を確認しましょう。個人のミッションの達成にコミットする現場のプレイヤーとは異なり、管理職は、経営に参画し、組織全体のマネジメントを担う立場となります。まずは、組織内の役割の違いに着目しましょう(図1)。

図1:階層別役割定義例

図1:階層別役割定義例

 

組織から期待される役割が変われば、役割を果たすためにとるべき行動、そしてその行動に必要なスキルやマインドも変わります(図2)。これらを詳細に定義し、組織にとって必要な管理職の要件を明確にしましょう。

図2:氷山モデルによる、期待行動をもたらすための要素(能力・資質)の階層別整理

図2:氷山モデルによる、期待行動をもたらすための要素(能力・資質)の階層別整理

2-2:過去だけでなく未来をみる

昇進・昇格の考え方には主に2種類あります。1つは、現在の職位・等級の要件を満たしていることが確認できた段階で昇進・昇格する「卒業方式」。基準は明確ですが、一つ上の職位等級での要求水準を満たしているかどうかは分かりません。もう1つは、上位の職位・等級の要件を満たしたことを確認してから昇進・昇格する「入学方式」です。

先述のとおり、管理職は非常に重要なポストであり、事前に適任かどうかを慎重に見極める必要があるため、入学方式をとるケースが多いです(すなわち、管理職になってからではなく、なる前に育ててから昇進する)。ここで問題になるのが、「一つ上の期待役割を果たせるどうか」というポテンシャルを昇格前に見極める必要があるということです。

 

ポテンシャルを見極めるためには、人事評価など、顕在化している過去の行動結果に加え、適性検査などのあらゆる情報から潜在的な資質や能力・意識を含めて、総合的に判断することが重要です。(図3)。昇進・昇格時に獲得しておいてほしいことと、ポテンシャルがあればいいことを分け、それぞれ適切な手法で確認していくとよいでしょう。

図3: 氷山モデルと人事評価要素の対応

図3: 氷山モデルと人事評価要素の対応

 

さらに、昨今のビジネス環境の変化の中で、既存の仕事の進め方はアップデートされ続けています。今はまだ存在していない業務に将来取り組むということも起こりうるでしょう。従い、「将来の組織に必要な」、「将来活躍する」管理職の定義・見極めは一層難しくなっていきます。このように、企業にとって極めて重要な管理職を決める昇進・昇格試験において納得感のある意思決定をするためには、どうすればよいのでしょうか?

納得感のある昇進・昇格の意思決定のために

昇進昇格試験の運用において担保すべき3要素

昇進・昇格の見極めにおいては、多くの企業が経営陣や人事部から事務局を組成し、複数人で見極めのプロセスを進めます。また先述のとおり、過去のみならず将来のポテンシャルを見極めるため、あらゆる情報を根拠としながら総合的に判断することになります。

このように複雑な営みとなる昇進・昇格試験を、納得感をもって運用していくためには、「妥当性」「信憑性」「公平性」の3要素を担保することが重要です。(図4)。

図4:昇進昇格試験の運用上の課題

図4:昇進昇格試験の運用上の課題

 

運用上のポイント

妥当性・信憑性・公平性における、課題と対応策について考えていきます。

3-1:妥当性

3-1-1:”見極める観点”の明確化

「十数年前から使い古されてきた評価制度は、今の組織が求める要件とズレている気がする・・・」「結局は、評価者である役員の好みで決まる。お墨付きを貰った候補者は昇格できることになっている・・・」という声をちらほら聞くことがあります。あなたの組織では、「この先の組織を牽引していく管理職に、何を求めるか?」という問いについて十分議論されているでしょうか。

評価制度や昇進・昇格試験は定期運用されるものであり、かつ全社に大きな影響を及ぼすものである為、頻繁に変更を加えるわけにはいきません。しかし、現行のルールでは管理職を適切に登用できていないのだとしたら本末転倒です。

2-1で先に述べたとおり、まずは管理職に求める人材要件を明らかにし、見極めるべき観点を明確化しましょう。管理職の人材像を定義する際には、成果創出の軸と組織貢献の軸の両輪で捉え、全社戦略・組織戦略と整合させる必要があります。また、理念の体現と現場への浸透など、管理職の視座でこそ求めたい評価観点を盛り込むとよいでしょう。

3-1-2:”求める水準”の明確化

評価項目は明確になっていても、各項目に対する評価水準が曖昧では評価にぶれが出てしまいます。「会社としてどこまで目指すべきか?」「自社をどこまで引き上げる必要があるのか?」を定義し、事務局・評価者間で認識を揃えておくことが必要です。

評価水準を定義する際には、自社内の議論に閉じず、社外のデータと比較検討することが望ましいです。

とある企業では、管理職への昇進・昇格試験の評価水準設定において、自社の属する業界の上位企業のみのデータを抜粋し、採用されました。外部環境を踏まえた期待値の設定によって、管理職登用の妥当性が上がるだけでなく、自社及び候補者の相対的な立ち位置を知ることが出来、健全な危機意識の醸成にもつながります。

グロービスのアセスメント・テスト(GMAP)なら、他社も含めたビジネスパーソンとの相対的な比較が可能です。1997年にテストの提供を始めて以来、延べ40万人を超えるビジネスパーソンが受験しています。20年以上にわたり蓄積された多くの受験データをもとに、論理思考力や経営スキルの保有度合いを客観的に知ることができます。さらに、業界別・役職別・職種別・年齢別での相対比較もでき、能力開発の目標設定や人事施策の検討材料など、幅広く活用していただけます。

3-1-3:正確な解釈・判断

昇進・昇格の見極めのプロセスは、事務局・評価者を中心に複数の人が関与します。そのため、ステークホルダー全員が評価項目や評価基準を正しく理解し、認識を揃え、遵守することが肝要です。

一方、あらゆる評価データを根拠としながらも最終的には人間が判断を下すことになるため、主観を完全に排除することは出来ないでしょう。特に、潜在能力の見極めには、見極めるための変数の抽出や算出ロジックの定義、結果の解釈など一つ一つの論理の組み立てに主観が反映されがちです。主観に傾倒しすぎて評価エラーを引き起こさないためにも、認知バイアスを理解しておくとよいでしょう。(図5)

図5:評価エラーを引き起こす認知バイアス(例)

図5:評価エラーを引き起こす認知バイアス(例)

3-2:信憑性

3-2-1:測定項目にあった測定手法の選択

行動観察、面談、適性検査、レポート課題、360度評価、ワークショップなど、人事評価のための測定手法はたくさんあります。しかし、1つの手法で評価できる深さと項目には限りがあります。そのため、複数の手法を組み合わせて総合的に判断することが重要です。

測定項目を具体化・細分化し、各要素の特性に合わせて適切な測定手法を選択しましょう(図6)。

図6:測定項目及び測定方法

図6:測定項目及び測定方法

 

グロービスのアセスメント・テスト(GMAP)は、一問一答で、思考力や知識・スキルを測定する「パワーテスト」です。「思考力・知識・スキルの保有度合い」を可視化することができます。GMAPは単に知識の有無を測定するだけの試験ではありません。ビジネスシーンを想定した設問を取り入れ、知識のみならずその活用度までを問い、より実践に近い能力を測定します。(図7)

図7:GMAPの評価項目

図7:GMAPの評価項目

3-2-2:データの正当性

そもそも、各種測定手法から収集した評価データに誤りはないでしょうか?分析・判断の前に、根拠となるデータが正しく、有用なものかどうかを確認しましょう。

データの正当性とは、値に誤差が含まれていない程度のことを指します。定性評価の場合、評価者の主観が含まれるほど結果にぶれが生じます。

定量評価の場合でも注意が必要です。適性検査、アセスメントの結果を活用する際は、回答者本人の主観や恣意性の介入などを割り引く必要があるでしょう。また業績成果を用いる場合は、アウトプットに至るまでの本人要因と環境要因の影響度なども勘案するべきです。

誰がいつ測定しても正当性の高い値が得られる仕組みの導入と運用が重要です。

3-3:公平性

3-3-1:不公平感の排除

世の中の半数程度の社会人は人事評価に不満を持っていると言われています。それはなぜでしょうか?

それは、不満に影響を及ぼす「公平さ」とは、与えるものではなく受け取る側の主観だからです。よって、どんなに人事制度が精緻で合理的なものであっても、また評価者が被評価者に正しく伝えても、満足するとは限らないのです。

 

不公平感について詳しくみてみましょう。不公平感には、他者と比較し分け前が公平である「分配の公平感」と、評価の内容とプロセスが透明である「手続きの公平感」の2つがあります。

まず「分配の公平感」に関しては、実現が困難とされています。企業は資金にもポジションにも制限があるため、誰もが満足するような公平な分配を追求することは難しいからです。

一方、「手続きの公平感」は実現可能であり、人事評価の設定と運用において非常に重要とされています。組織・本人にとって納得のいく昇進・昇格を実現するための努力の方向性として、手続きの公平感の担保に注力しましょう。

 

手続きの公平感をもたらすためには、次の2つのポイントを考慮するとよいでしょう。

1つ目は、評価項目、評価基準、評価者、評価結果など、評価の内容が公開されていること(評価内容の透明性)。2つ目は、自己評価の反映や、1on1での評価結果の認識すり合わせなどを通し、被評価者も評価プロセスに参画すること(評価プロセスの透明性)です。

あなたの組織の運用プロセスをいま一度見直してみてください。(参考:須田敏子、”HRMマスターコース― 人事スペシャリスト養成講座”、慶應義塾大学出版会、2005年)

3-3-2:信頼関係の構築

前項で述べた「手続きの公平感」のうち、被評価者に対する対応、特に人間関係に焦点を当てた「関係の公平感」が近年着目されています。

丁寧なフィードバック、意見を真摯に聞こうという姿勢が「直接接触する」評価者である上司や人事スタッフから感じられることで、公平感は向上させることが可能になります。同時に、管理職や人事スタッフの人選と教育が問われることにもなります。

 

言うまでもなく、最終判断の結果を本人に伝える際のコミュニケーションが、被評価者の納得感を大きく左右します。評価に関連するコミュニケーションを円滑に進めるためにも、日頃の信頼関係の積み重ねを大切にしながら、透明性の高いコミュニケーションが交わされる組織風土の醸成に努めましょう。

また、コミュニケーションの際は、最終的な判断結果の伝達のみならず、被評価者の良い点・改善点も含めたフィードバックをするとよいでしょう。これらは評価者側の判断の根拠となり、結果の信頼性が増すだけでなく、被評価者の成長にもつながる有意義な取組みとなるからです。

最後に

人が人を評価することは非常に難しく、顕在化した行動結果の「解釈」や潜在能力の「推測」が必要となり、関係者の主観が大いに影響します。とりわけ、この先のビジネス環境では誰も経験したことのない未知の業務をリードする管理職を選任する必要があり、その根拠のほとんどは潜在能力を推測することになります。

このような状況下であるからこそ、組織を率いる重要なポジションである管理職を、納得感をもって選任することは極めて重要です。本コラムが、管理職の昇進・昇格試験の納得性を高めるために、少しでもお役に立てましたら幸いです。ぜひ、よりよい仕組みを私たちと一緒に考えてきましょう!

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階層別研修と選抜研修の違い・役割

 

執筆者プロフィール
上田 元子 | Ueda Chikako
上田 元子
大学卒業後、ネット系ベンチャー企業へ入社。クラウドソーシングを中心としたBPO事業及び人材派遣事業の営業部門にて企画・販促・マネジメント業務を担当。
現在はグロービス法人部門にて企業の組織開発・人材育成支援に従事。  IT、金融、物流、サービス業等、幅広い業界を担当し、戦略実行に資する人材を輩出するための育成体系の構築支援、および研修プログラムの企画・設計を行う。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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