はじめに知ってほしい「研修体系の考え方」

研修体系を考える際は、これからお伝えする3ステップでの検討がお勧めです

≪3ステップで出来ること≫
  • ・人材育成の“そもそもの目的”が明確になる
  • ・育成によって目指したい組織像・人材像が具体的になる
  • ・プログラム内容に説得力が生まれる

企画から実施まで、組織内での賛同を得ながらスムーズに進めるコツを、ぜひご覧ください。

育成課題の優先順位付けや、社内での合意形成にお悩みではありませんか?

1. 人材育成・組織開発プログラムを企画する3ステップ


ステップ1:自社の戦略を深く理解する

1-1 自社の置かれた経営環境を理解する

人事部などの企業の育成担当部門で、人材育成や組織開発のプログラムを検討するとき、すぐに内容を決めようとしがちです。しかしその前に、そもそもどのような人材を育成すべきか? 組織を作るべきか? という人材・組織の戦略を立ち止まって考えてみることが重要です。

ステップ1では、自社の戦略が何をめざしているかを理解するために「環境変化」と「戦い方」に注目します。
戦略の背景にある内外の環境変化は何か? を把握しましょう。多くの場合、戦略は業界を取り巻く環境の変化、業界内の競合・顧客の変化、そこから導かれる業界のKSF(※)に規定されます。

例えば、マクロ環境の変化のうち、自社ビジネスに大きな影響を及ぼすものは何か? 顧客が求める価値はどのように変わっていくのか? それに対し競合はどのような戦い方をするのか? --環境変化に関するこれらの問いの答えが、自社の戦略には集約されています。自社の置かれた経営環境の変化を押さえれば、自社の戦略をより深く理解することができます。

※ KSF:業界で勝つための要件・条件

1-2 自社の戦い方を理解する

どのような人材を育成すべきか? 組織を作るべきか? という人材・組織の戦略を設定するために、次に「自社の戦い方」を明らかにしていきます。

経営陣は自社の強みをどのように捉え、活かし、勝とうとしているのか? それを実行する人材・組織に求められる変革の度合いはどのくらいか? 変革のスピードはどうあるべきか? 変革において何が難所となりそうなのか?  これらを押さえることが、戦略実現のために人事として注力すべきことの優先順位付けやロードマップ(行程)策定につながります。         
一般に、人・組織の変化には時間がかかるものです。だからこそ人事部はいちはやく自社の戦略を押さえ、先を読み、次のステップで考える「戦略を実現するための人・組織の姿」を準備する必要があるのです。

ステップ2:あるべき人・組織像を設定する

 

2-1 いきなり「人材要件」を考えず、「あるべき組織像」を考える

人材育成・組織開発のプログラムを企画するステップ2では、ステップ1で理解した戦略を踏まえて、自社のあるべき人・組織の姿を描きます。ここでは戦略を実現するために必要な人材要件を定義します。

戦略から人材要件を導き出す際に、実務的に考えやすいと思われる方法をここではご紹介しましょう。いきなり「人材要件」を考えず、「あるべき組織像」から考える方法がおすすめです。

具体的には、たとえば「戦略を実現するために組織全体としてどんな<行動>が求められているのか」といった、組織として共通で持ちたい「軸」(指針)をまず決めます。その指針に沿って、各階層に期待される役割や行動などの人材要件を定義する流れです。

戦略が変われば、求められる組織像が変わります。新たな戦略で求められる組織の「軸」を定めることで、「部長に何を求めるか」「課長に何を求めるか」「担当者に何を求めるか」を考えやすくなります。

 

2-2 人材要件定義は枠組みを使ってスムーズに行う


人材要件定義の手順としては、上で考えた組織として共通で持ちたい「軸」(指針)を元に、まず各階層の主な期待役割を定めます。その上で、「行動」「知識・スキル」「マインド」の3つの枠組みで整理するとスムーズです。

  • 0.各階層の主な期待役割を定義する
  • 1.期待する役割を果たすために必要な「行動」を定義する
  • 2.行動を支える要素である「知識・スキル」を定義する
  • 3.行動を支える要素である「マインド」を定義する

「行動」「知識・スキル」「マインド」の3層構造は「氷山モデル」※というフレームワークを使っています。

※氷山モデル:「氷山の一角」という言葉があるように、物事の見えている表面のみならず、見えていない要素も含めて全体像を捉えようという考え方

この3つの枠組みの中で、特に「行動」が重要です。期待役割を果たし、結果、戦略を実現するのは「行動」だからです。新たな自社戦略を踏まえ、求められる行動は何か? その行動を生み出すために必要な「知識・スキル」「マインド」は何か? このように分解していけば、自社戦略に紐づいた人材要件を定義することができます。

下の表はこの3つの枠組みで、人材要件を整理した一例です。内容には、会社ごとの戦略や「自社らしさ」を言葉遣いに織り込むなどして、社内の誰もがどういう人材が求められているかをイメージしやすい表現にしていくことが重要です。



実は、私たちが人事部からご相談いただくお悩みの中で多いのは「人材研修体系の見直し」です。
「人材研修体系をつくってはみたが、組織内で合意が得られず、実施に向けて一向に話が進まないためアドバイスがほしい」というケースがよくあります。
そんな時グロービスでは、人材研修体系を考える前に、先ほどお伝えした手順で各階層で求められる人材要件の定義を作ることをおすすめしています。

ステップ3:人材育成プログラムに落とし込む

3-1 人材育成の課題を特定するには情報収集が肝

人材育成・組織開発のプログラムを企画するためのステップ3です。ここでは「人材育成プログラム」を中心にお伝えしますが、組織開発プログラムでも基本は同じです。

まずプログラムで解決すべき課題を特定します。人材要件で定義した「あるべき人材像」と「現状」の差が、対象となる人材の育成課題となります。

課題設定で難しいのは「現状」の把握です。人事部がすべての人材・組織の状況を実地で確認することは不可能ですし、入手できる情報も限られています。

そこで、各職場の要となるキーパーソンへのヒアリング、職場診断の結果などのさまざまな情報を収集することが重要になってきます。人事部が管理する情報に限る必要はありません。たとえば事業部へのお客様からのフィードバックなどは、分析すれば特定の部門・機能の強みや課題を雄弁に語ってくれるものです。これら定量・定性の多面的な情報を通じて、現在の人材・組織の特徴や課題を把握しましょう。

さまざまな課題を把握し、どの対象層の、どのような課題を解決するかという優先順位を決めます。

3-2 人材育成プログラムのゴール・コンセプトをまず考える

人材育成プログラムの「ゴール」=「あるべき人材」ではない

いよいよ人材育成プログラムを設計する段階に来ました。まず、プログラムのゴール・コンセプトを考えます。
ここでのポイントは「この人材育成プログラムで、どのような状態まで持っていくか」というゴールを決めることです。

よく勘違いしてしまいますが、研修のゴール=研修参加者があるべき人材として育ち切っていること、ではありません。研修は、さまざまある育成手法の1つの手段であり、魔法の杖でもありません。

育成手法に飛びつく前に、育成プログラムの「コンセプト」を考える

ゴールを決めたら、それを実現するために「この育成プログラムで何を重視するか」というコンセプトを決めます。
コンセプトを決めるには、たとえば「参加者がいろいろな人と交わり、そこで積極的に意見交換することで視野を広げる」等といった、この研修の場や期間において外せない要素を洗い出し、絞り込んでいきます。

3-3 人材育成プログラムの議論に関係者を巻き込む

コンセプトを定めたら、それを実現する手法を幅広いアイデアの中から検討しましょう。単に科目を決めるだけではなく、期間・場所・講師の要件・参加者との事前/事後のコミュニケーションなど、多岐にわたる工夫のポイントがあります。

アプローチに関して、グロービスも含めてさまざまな研修会社がノウハウを持っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

最後に重要なのは、育成プログラムに落とし込むプロセスをしっかりと、人事部内部・研修パートナーと議論することです。このプロセスを疎かにすると、講師ありき・手法ありきの研修になってしまうなど、適切なプログラムの設計ができなくなります。加えて、プログラム実施中・実施後に立ち返る指針がなく、軌道修正や振り返りが難しくなります。

また、事後のフォローや、効果検証には、人事部だけでなく現場のマネジメントに協力してもらう必要が出てくるかもしれません。プログラム実施前に事後のフォローを設計し、関係者に協力を取り付けておくことで、より企画意図にかなった研修にすることができます。関係者を巻き込む際には、ステップ1・2・3の整理が役立つはずです。プログラムを必要とする理由・目的・ゴールを筋道立てて説明し、協力を得ましょう。



以上、人材育成・組織開発プログラムを企画する3つのステップをご紹介しました。これらのステップを進める上で、人事部は自ら動き、さまざまな社内接点から情報を得たり、分析したりする必要があります。簡単ではないかもしれません。しかし戦略を実行するのは最後は人であり組織です。人材・組織戦略を担う専門家として、人事が戦略実行に果たす役割は重大であることを意識し、一歩一歩進めていきましょう。

私たちは、そのような人事・人材育成担当の皆様のパートナーとして、お役に立てることを願っています。

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