自律型人材の育成方法
2019.11.29
自律型人材を育成するにはどうすればよいか? という相談が増えています。自律型人材の必要性に対して、異論を唱える人は少ないでしょう。しかし、いざ自律型人材の育成を指示されると、頭を抱えてしまう人は多いようです。本コラムでは、そもそも自律型人材とは何かを紐解きながら、育成方法について解説します。
目次
自律型人材とは?
そもそも、自律型人材とはどのような人材でしょうか。自律型人材について議論していると、以下のようなキーワードをよく耳にします。
- ・自ら考え、行動できる人材
- ・受け身ではなく、能動的に動ける人材
- ・自ら課題を設定し、解決に向けて行動できる人材
もっと具体的に考えていきましょう。自ら考え、行動できる人材とは具体的にどのような人材でしょうか。
- ・自身の業務における成果を出すため、常に改善活動を行っている人材?
- ・自身の業務だけに目を向けるのではなく、組織的な課題に対して自ら率先
して取り組んでいる人材? - ・既存事業の改善だけでなく、新しい事業を生み出すことに積極的に挑戦している人材?
どれも自ら考え、行動しているといえそうです。はたしてどれが正解でしょうか。お気づきの通りどれも正解であり、不正解でもあります。なぜなら「自律型人材とは?」という問いに対する答えは、企業によって異なるからです。
自律型人材の育成方法を検討する上で最初にすべきは、自社にとっての自律型人材を定義することです。いきなり育成方法を検討するのではなく、どのような人材を育てたいかという育成ゴール(図1の赤枠)、すなわち自律型人材とはどのような人材かを設定しなければいけません。
それでは自社における自律型人材は、どのように定義すればよいのでしょうか。
自律型人材の具体的な要件とは?
自社に必要な自律型人材を定義する方法は、2種類あります。経営戦略から落とし込む方法と、すでにいる自律型人材を分析して抽出する方法です。両方のアプローチを取ることで、理想と現実のバランスが取れた自律型人材像の設定が可能になります。それぞれについて見ていきましょう。
1:経営戦略から自律型人材を定義する
皆さまの会社では激しい環境変化を受け、組織をどのような方向に進めようとしていますか。たとえば以下のような戦略が考えられます。
- ・既存の製品やサービスを持って、グローバル市場への参入を試みている
- ・既存事業を維持しつつ、新事業創出に取り組んでいる
- ・テクノロジーを活用し、既存事業のビジネスモデル変革へ挑戦している
このように企業によって目指す方向性が違うため、求められる(あるべき)自律型人材像も必然的に異なります。そのため、まず理解すべきは自社が目指している方向性、すなわち自社の経営戦略です。経営戦略を実現するためのあるべき組織・人材像の要素に、自律型人材が含まれていると考えましょう。自律は自律でも、自社の経営戦略に即した自律が求められると気づくはずです。
新規事業創出を大テーマに掲げている会社を例に、求められる(あるべき)自律型人材を考えてみましょう。いくら積極的に考えて行動していても、既存業務の改善活動だけでは物足りなさそうです。既存の延長線上にない考えを積極的に上司や経営層に提案していく、そんな人材が評価されるのではないでしょうか。
このように自律型人材定義のポイントは、自律型人材への期待を具体的な行動レベルで表現することです。自律=自ら考えて行動する、という抽象度の高い表現に留まってはいけません。「具体的にどのような行動発揮を期待するのか」という問いに答えられる具体性が必要です。
経営戦略から落とし込む手法で考慮すべきは、経営戦略と現状に大きなかい離があり、求められる(あるべき)人材像の基準が高くなりすぎてしまう場合です。すると、求められる(あるべき)人材像と現在の人材とのGAP(図1の赤矢印)が大きくなりすぎ、非現実的な計画になってしまう恐れがあります。そのような場合は、次に紹介する手法(すでにいる自律型人材を分析して定義する)を併用するとよいでしょう。
2:すでにいる自律型人材を分析して定義する
すでに組織内にいる人材をロールモデルとして活用する手法です。現組織の中で自律型人材といえそうな人物がいる場合、その人の行動を観察し、保有しているスキル・マインドを分析することで自律型人材像を設定します。
実際の従業員を目標とするためゴールがイメージしやすく、自社・自部門で実際に必要な行動やマインドを抽出できるという点がメリットです。一方で、分析している人材が本当に自社に必要な自律型人材でない恐れもあります。そのため、この手法だけを行うのではなく、戦略から落とし込む手法と併用することが必要です。
上記の手法で、ご自身の中で自律型人材のイメージを具体的に固められます。最後にすべきは、関係者間でのイメージ共有です。抽象度の高い表現を具体化していくと、人によってイメージが異なってしまうものです。上司・同僚・経営層など立場が異なれば、自律型人材に対するイメージも異なる恐れがあります。関係者とすり合わせをしたうえで、具体的な育成方法の検討へ入っていきましょう。
どのように自律型人材を育成するのか?
自律型人材の定義が十分にできていれば、育成方法の検討はそれほど難しくありません。1:期待役割を達成するための「行動」を具体的に定義し、2:「行動」を実現するために必要な「知識・スキル」と「マインド」は何か?という視点で考え、整理することが重要です(図2)。
たとえば自身の業務の成果を上げることに加え、組織的な課題に対して積極的に取り組むことが求められているとしましょう。その場合に必要なスキル・マインドはどのような要素でしょうか。
今まで会社から与えられた業務を遂行しているだけでよかったのが、組織的課題に取り組まなければいけません。その場合、全社・部門が進もうとしている方向性を理解する力が必要ですし、自ら課題を設定し、解決に導く力も必要そうです。
また組織的課題となると、人を巻き込む範囲が広がり、難易度も高くなります。そうなると、人を巻き込む力も必要です。
さらにマインド面では、会社から与えられた個人の成果だけを追うという従来の役割をアップデートするために、過去のやり方や成功体験にとらわれない変革マインドが求められるかもしれません。その他にも必要な要素は考えられそうですね。
このように自律型人材に求められる行動を軸に、必要なスキル・マインドを整理することで、どのようなテーマで育成すべきかが見えてきます。ただし、出てきたテーマすべてに対して取り組む必要はありません。最終的には現状を踏まえ、どのテーマから育成すべきか優先順位付けをし、育成を行います。
補足として、自律型人材というテーマの中に「自律的学習」が含まれるケースがあります。その場合は、社員が学びたいと思ったときに学習できるよう、多様な学習機会を用意する必要があるでしょう。一般的には、育成は会社から一方的に与えることが多く、手法も対面式の研修が多いものです。しかし、学び方はどんどんアップデートしています。オンラインを用いた学習手法など最新の学び方にもアンテナを張っておくことで、自律的に学ぶ人材を増やすことができ、結果として自律型人材の育成につながります。
自律型人材の育成における落とし穴とは?
ここまでは自律型人材の育成対象者本人に焦点を絞ってお話してきました。しかし、本人だけが問題となっているケースはまれです。自律型人材の育成には、本人を取り巻く環境要因にも目を向ける必要があります。図3に、自律型人材を育成するために必要な環境要因をソフト面とハード面で整理しました。
1:ソフト面
まず必要なことは、自律型人材が育つための社内文化です。新しいことへのチャレンジや自己研鑽が称賛されず、失敗から立ち直ることが難しいといった組織文化は自律を阻害します。経営に関する情報が可視化されていないことも、自律的な判断の阻害要因です。
OJTにおいては、上司が企業の目指す方向性(経営戦略)を十分に伝えられていなかったり、適切な業務付与ができていなかったりすると、メンバーの自律を阻害します。社内文化とOJTの環境が整ったうえで、研修などOff-JTとの整合性を持たせることが重要です。
2:ハード面
ハード面で必要なことは、自律型人材を評価するためのHRM(Human Resource Management)施策の整備です。たとえば評価基準であれば、チャレンジしたことへの評価を高くする必要があります。与えた仕事の成果のみで評価される場合、自律を促すには不十分です。その他、配置や報酬についても、自律型人材のモチベーションを高める施策にする必要があります。
自律型人材を育成するためには、Off-JTとOJT環境、HRM施策とのリンクが不可欠です。育成対象者本人だけでなく、自律を阻害する環境要因にも目をむけることで、より効果的な施策が導き出すことができます。育成だけで解決できる課題なのか、育成以外にも見直すべきポイントがないかなど、さまざまな観点から自律型人材の育成方法を考えるとよいでしょう。
最後に
本コラムでは自律型人材の育成方法を検討してきました。大変残念なことに、企業が自律型人材の育成に取り組むとき、自律させられていると感じる社員もいるようです。本来は企業のみならず、社員がキャリアを築く上で非常に意味のある取り組みなのに、です。取り組みの背景や社員にとっての意味を十分に伝えながら、自律型人材の育成に取り組んでいただければと思います。
もし自律型人材の育成でお悩みのことがあれば、お気軽にご相談ください。弊社の持つ豊富な事例をご紹介しながら、自律型人材の定義からお手伝いいたします。

大学卒業後、
リクルートキャリアでは主に新卒採用領域の営業担当として法人ク
その後グロービスへ入社。 入社後は、法人企業向け事業に従事。
金融、商社、IT・通信等幅広い業界を担当し、
人材育成体系の構築支援、研修プログラムの企画・設計・
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。