セルフ・コンパッションを組織で実現する
~誰もが燃え尽きず、組織で成果を出すマインドセット~

昨今、多くのビジネスパーソンが疲弊しています。皆さまの組織にも、以下のような方がいるのではないでしょうか。

  • 日々起こるイレギュラーな仕事に振り回される
  • 仕事のプレッシャーもどんどん高まる中で、必死に頑張っている
  • なんとかしようとするが、手ごたえがない
  • 疲れきる毎日、回復しないまま、自己犠牲感が高まる

筆者の周りでも、多くの方々が疲れを抱えながら、日々奮闘しています。
その結果、負荷に耐え切れず、退職してしまったり燃え尽き症候群になってしまったり、という話を聞くことも少なくありません。

そのような方々のサポートをしたいとお考えの、人事の皆さまにお勧めしたいのが、“セルフ・コンパッション”です。

日本語に訳すと、自分への優しさ、思いやりです。筆者はセルフ・コンパッションのことを、“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”と説明しています。

セルフ・コンパッションは日本ではまだなじみの薄い言葉かもしれませんが、この十数年で急速に研究が進み、海外ではメジャーになりつつある考え方です。Google Scholarの論文数を見ると、2003年の85本から2020年には8940本まで増えています1)

これらの研究を紐解くと、セルフ・コンパッションを実践している人は幸せになり、自信が向上し、人生の満足度が高まることが分かります。

個人の幸せだけではありません。セルフ・コンパッションをリーダーが実践することにより、チーム・組織へも良い影響が起こります。具体的には「コラボレーションの促進」「組織へのコミットメントの向上」「リーダーシップの発揮」につながることが、分かっています。

本コラムでは、幸せな個人・チーム・組織を実現するために、どのようにセルフ・コンパッションが活用できるのか、その実践方法を解説していきます。皆さまが明日の一歩を踏み出せるよう、具体的な実践方法や事例を多数掲載しています。是非、最後までご覧ください。

執筆者
若杉 忠弘
 

東京大学工学部卒業
東京大学大学院工学修士課程修了
ロンドン・ビジネス・スクール経営学修士課程修了
一橋大学国際企業戦略研究科博士課程修了
学位:修士(工学&経営学)、博士(経営学)

グロービス経営大学院教員。グローバルリーダーの育成に従事。組織におけるコンパッションやウェルビーイングの研究を行う。コンパッション・センターを主宰し、コンパッションの研究と普及に努めている。

以前は、戦略コンサルティングファームにて、全社戦略、事業戦略等の立案・実行支援を通して国内外のクライアント企業をサポートした。ロンドンの教育ベンチャーを経て、グロービスでは、英語MBAプログラムのディレクターや、英語オンラインMBAの立ち上げなどをリードした。

一般社団法人日本ポジティブ心理学協会理事、一般社団法人人生100年生き方塾理事。マインドフル・セルフ・コンパッション講師(Center for Mindful Self-Compassion)およびヨガアライアンス認定講師(RYT200)。

CHAPTER
01

セルフ・コンパッションとは

1-1. セルフ・コンパッションとは、“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”

セルフ・コンパッションを一言で表すと、“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”です。日本語に訳すと “自分への優しさ”“自分への思いやり”で、カウンセリングや心理セラピーにも活用されています。

文字にすると簡単なようですが、皆さんは実行できていますか?具体的に考えてみましょう。

大切な友人が困っている場面、苦しんでいる場面を思い浮かべてください。友人は何かで悩んだり、失敗したり、自分は駄目な人間だと思ったりしています。そのようなとき、皆様はその友達にどのように接しますか?もしくは接しましたか?思い出してみてください。どのような口調で、どのような言葉を掛けるでしょうか。

では次に、自分が困っている場面、苦しんでいる場面を思い出してください。何かで悩んだり失敗したり、自分は駄目な人間だと感じたりするような状況です。そのようなとき、皆様はどのように自分に接しますか?もしくは接しましたか?

最後の質問です。友人への接し方と自分への接し方を比べてみてください。何か違いはあったでしょうか?

これらの質問をすると、多くの方は違いがあることに気づかれます。このように、“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”は、意外と難しいことだ、とまずはご認識ください。

1-2. よくある誤解:セルフ・コンパッションは、自分を甘やかすことではありません

セルフ・コンパッションとは“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”。この定義を読まれて、このような懸念を持つ方が多いのではないでしょうか。

セルフ・コンパッションに対する懸念その1
セルフ・コンパッションは、自分を甘やかすことなのだろうか?
もともと自分に甘い人には逆効果なのではないか?

この問いに、筆者は明確に「ノー」と答えます。

むしろ自分に甘いタイプの人にこそ、セルフ・コンパッションを始めて欲しいと考えます。

例えば筆者はポテトチップスが好きなのですが、脂っぽいものを食べ過ぎると皮膚トラブルを起こしやすい体質です。筆者にとって以下のどちらを選ぶことが、セルフ・コンパッションとなるでしょうか。

1. ポテトチップスを食べたい気持ちがあるから、たくさん食べよう
2. ポテトチップスを食べると体に悪いから、控えておこう

このように本当に自分を大事にできれば、短期的な快楽や結論の先延ばしを避けられるようになります。自分に甘いタイプの人こそ、セルフ・コンパッションを実践することで、より良い選択ができるようになるのです。

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CHAPTER
02

セルフ・コンパッションを実践するメリット

ここまで読んで「確かに自分に思いやりを向けたら、個人の幸せは上がりそうだ」と思われた方が多いのではないでしょうか。一方で、こんな懸念を持たれた方もいると思います。

セルフ・コンパッションに対する懸念その2
自分を大事にしたら、社員は自己中心的になってしまって、
チームワークに支障を来すのではないか?

このような不安や懸念について、答えは「ノー」です。

むしろ、チーム・組織へ良い影響を与えることが、ここ20年間のセルフ・コンパッションの研究データから分かってきています。

本章では、“個人”と“チーム・組織”、それぞれが得られるメリットを整理し、皆様にお伝えします。

2-1. セルフ・コンパッションによる、個人へのメリット

セルフ・コンパッションを実践することで得られる個人のメリットは、大きく2つです。ポジティブな側面の向上と、ネガティブな側面の減少です。以下に、それぞれの項目を整理しました。

ポジティブな側面の向上

  • 幸福感が増す
  • 人生への満足度が高まる
  • 楽観性が高まる
  • 自信が出てくる
  • レジリエンス力(回復力)が高まる
  • 心身の健康が高まる など

ネガティブな側面の減少

  • ストレスが減少する
  • 抑うつ状態を抑制できる
  • 不安な気持ちが低減する
  • 完璧主義を抑えることができる
  • 失敗したらどうしよう、といった恐怖感が減少する など

2-2. セルフ・コンパッションによる、チーム・組織へのメリット

セルフ・コンパッションの実践により、個人だけでなく、チーム・組織へもメリットがあることが分かっています。具体的には以下の3つです。

セルフ・コンパッションによる、チーム・組織へのメリット
01
コラボレーションが促進される
02
社員が成長し、組織へコミットメントするようになる
03
リーダーへ、リーダーシップの発揮を促す

それぞれについて見ていきましょう。

2-2-1. コラボレーションが促進される

セルフ・コンパッションによる組織へのメリットその1
自分を労わることで
相手を思いやる余裕が生まれ、
コラボレーションを推進するための
円滑な人間関係を築ける
ようになります。

コラボレーションの重要性は、皆様もご認識の通りかと思います。その結果、多くの現場ではコラボレーションの負担が増えています。社内では部門間連携、クロスファンクショナルチームの立上げ、1on1の面談が推進され、社外とはオープンコラボレーション、お客様への共感・傾聴・伴走が求められているのです。

その結果、多くの現場では業務負荷の増加に伴い、共感によるフラストレーション(共感疲労)が起きています。

このような共感疲労に対して、セルフ・コンパッションは有効な対策となります。セルフ・コンパッションにより、必要な時にノーと言えるようになるからです。体調が悪いときに、「今は休もう」「回復してから取り組もう」と言える勇気が出てきます。その結果、共感疲労を抑制できます。

自分をケアして疲労が軽減すると、相手に思いやりを与える余裕ができます。そして相手を助け、コラボレーションし、付加価値を出すことができるようになって仕事の満足度が向上します。相手の間違いを許す余裕も生まれ、人間関係が向上します2),3)

結果として、相手と円滑な関係性を構築でき、コラボレーションが推進されるようになるのです。

それだけではありません。チームメンバー各自のセルフ・コンパッションの度合いが高い場合、チームに受け入れられているという感覚が生まれます4)。いわゆる心理的安全性です。すると、チームメンバーの幸せが高まり、新しいアイディアやイノベーティブなアイディアを考えて行動することが増えていきます。

2-2-2. 社員が成長し、組織へコミットメントするようになる

セルフ・コンパッションによる組織へのメリットその2
自分は変化できる、成長できる、
という信念を持てるようになり
改善努力・成長マインドセットの促進
つながります。

このことを、ある実験結果からご紹介します5)

その実験では、参加者に仕事でのミスなど、過去の間違ったことや後悔していることを書いてもらいます。書いた後に、参加者を三つのグループに分け、それぞれに文章を書いてもらいました。

1つ目のグループはセルフ・コンパッションのグループです。このグループには、自分に思いやりを持った言葉を書いてもらいます。例えば「大変だったね」「頑張ったね」「今度はうまくいくよ」のような言葉です。

2つ目のグループは自己肯定感のグループです。自分のいいところを書いてもらいます。

3つ目のグループは趣味について書いてもらいました。これは実験と無関係なことを書いてもらうグループです。

その後、それぞれのグループに、今後同じような間違いを起こさないかどうかを聞いてみます。すると結果は、セルフ・コンパッションのグループが、間違いを起こさないという意志が最も高かったのです。つまりセルフ・コンパッションにより、間違いを認め、それを改善に変える力が高まることを示しています。

セルフ・コンパッションの実践は、無責任になることを促すわけではなく、むしろ改善努力・成長マインドセットの促進につながります。自分は変化できる、成長できるという信念を持つようになるのです。その結果、ワークエンゲージメントの向上や、チーム・組織へのコミットメント向上につながることも分かっています。

2-2-3. リーダーへ、リーダーシップの発揮を促す

セルフ・コンパッションによる組織へのメリットその3
リーダーの心に余裕が生まれ、
リーダーシップの発揮が促進されます。

こちらも研究データを用いてご説明します6)

その研究では、様々な業種から、上司と部下を6週間にわたって調査しました。すると変革型リーダー(組織変革を推進し、新しいビジネスモデルを導入し、既存事業を改革するようなリーダー)は、何もしなければ徐々に疲弊していき、部下へのケアを怠ったり職場を離れたりする意向が高まりやすい、と言うことが分かりました。

リーダーのケアは非常に大事です。理想的な変革型リーダーを目指せば目指すほど、疲れが溜まり、パンクしてしまうわけです。皆さまの会社でも、組織をけん引し変革を促すリーダーは、疲弊していませんか?

リーダーがセルフ・コンパッションを実践することで、余裕が生まれ、部下の個人的な問題や仕事の課題をサポートできるようになります。そして部下からは、「リーダーのコンピテンシーが高い」「リーダーが優しい」といった評価を受けます。すなわち、自分を大事にするリーダーには部下がついてくるということです7)

結局のところ、自分を大事にできるリーダーは、部下も大事にできるということなのでしょう。自分を1人の人間として大事にする感覚があれば、他人も1人の人間として大事にすることができるようになります。これこそが、リーダーシップの本質です。セルフ・コンパッションにより、部下へのケアやサポートをより適切に行えるようになるのです。

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CHAPTER
03

セルフ・コンパッションで重要な3つの要素

本章では、セルフ・コンパッションにおける3つの重要な要素について、解説します。

セルフ・コンパッションにおける3つの重要な要素
01
マインドフルネス
02
共通の人間性
03
自分への優しさ

3-1. マインドフルネス

1つ目の要素は、“マインドフルネス”です。セルフ・コンパッションにおいては、目の前の出来事をありのまま見つめること、すなわちマインドフルネスの考え方が重要です。今の状況、環境、体験などについて「良い」「悪い」を判断せず、ありのままを受け入れ、バランスのとれた見方をすることが求められます。

セルフ・コンパッションとマインドフルネスの違いを気にされる方が多いのですが、セルフ・コンパッションの要素の1つにマインドフルネスがある、と捉えるとイメージしやすいかと思います。

3-2. 共通の人間性

2つ目の要素として、“共通の人間性”があります。これは、周りの人も同じような状況に置かれている、と認識することです。自分だけでなく、周りの人も同じように苦しんでいます。皆さんが悲しんだことがあるように、周りの人も悲しい経験をしたことがあります。これが、共通の人間性です。

これを感じられると、「1人じゃないんだな」という感覚が出てくるため、3つ目の要素である“自分への優しさ”を実践しやすくなります。

3-3. 自分への優しさ

最後の要素として、自分への優しさがあります。親しい友達、同僚、大切にしている人に対して思いやりや励ましを届けるように、自分にも思いやりと励ましを届けることが、セルフ・コンパッションの実践となります。

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CHAPTER
04

セルフ・コンパッションの具体的な実践方法

この章では、セルフ・コンパッションの実践方法について具体的に解説します。セルフ・コンパッションは一種の筋肉のようなもので、実践で鍛えれば鍛えるほど強くなります。ぜひ、継続してみてください。

4-1. 対個人:モーニングルーティンで、自分に思いやりと優しさを持った時を思い出してみる

まず個人でできる、簡単なセルフ・コンパッションの練習を紹介します。毎朝、以下のことを思い出してみてください。

仕事でしんどかったときに、自分に思いやりと優しさを持って接した経験

これは自分に対して思いやりと優しさを向けた体験を思い出すことで、セルフ・コンパッションの大切さを再認識するエクササイズです。

研究データによると、朝のわずかな時間、このルーティンを行うだけで、午後の疲労感が軽減し、自己肯定感が向上し、やる気と活力が出てくるそうです。ワークエンゲージメントとレジリエンスが高まり、夜には仕事がはかどり、人生の意味をよりよく感じるようになります。8)

仕事の始まりが夜や昼の方は、仕事が始まる前にセルフ・コンパッションの実践を行っていただければ、同じ効果が得られます。

朝、皆さんはスマホを見ていませんか? SNSをチェックしていませんか? 他人を羨んで「自分は駄目だ」と思うようなネガティブな感情で1日を始めてしまうと、それを引きずってしまいます。是非、朝のわずかな時間でも良いので、自分への思いやりを思い出してみてください。

4-2. 対チーム:リーダーが十分な睡眠と健康的な食事を取る

チームにおいては、チームリーダーがセルフ・コンパッションを体現することが、非常に重要です。チームリーダーが体現することで、チームメンバーも自分自身を大切にすることが許されると感じ、自身のセルフ・コンパッションが高まるためです。

ではリーダーはどのような行動を取ると良いのでしょうか。すぐに実践できる具体策として、十分な睡眠と健康的な食事を取ることを、筆者はお勧めしています。

ワシントン大学の研究によると、十分に睡眠を取れなかった上司は、翌日、攻撃的になる傾向があるそうです。逆に、十分な睡眠を取ることで、攻撃的な態度を避け、チーム全体のやる気にポジティブな影響を与えることができます。つまり、よく眠ることは自分自身のためのセルフ・コンパッションであり、同時にチーム全体のやる気に影響を与えることにもなるのです。

そして、良い食事を取ることも重要です。業務後に不健康な食事を取ることで、翌日の仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが分かっています9)。例えばジャンクフードを食べ過ぎたり、お酒を飲み過ぎたり、夜遅くに食べてしまったり、といった食習慣は翌日、胃もたれなどの体調不良に加え、当人が罪悪感を覚えることが分かっています。「食べ過ぎた」「飲み過ぎた」と思い、仕事のパフォーマンスが下がり、他人を助けることが減り、リーダーに相応しくない日を過ごすことになります。

健康的な食事をとることは、結果的にチームを大事にすることにつながるのです。

自社のリーダーへ、セルフ・コンパッションを実践するための機会を提供したい方へ

4-3. 対組織:自分らしく成長できる機会を提供し、サポートする

組織レベルでセルフ・コンパッションを実践するには、社員それぞれが自分らしく成長できる機会を提供・サポートすることが重要になります。具体的には、自分らしさの発揮を重視することと、そのためのスキル獲得の機会を作ること、です。

ここでは具体例として、グロービスの提供している研修プログラムの考え方をご紹介します。

4-3-1. 自分らしさに気づき、それを活かして社会にどのように貢献したいかを考える

自分らしさを発揮するには、自分らしさ(=自分の価値観や強み)に気づき、それを活かして社会にどのように貢献したいかを考えることが有効です。自分の価値観、強み、そして社会への貢献について考え、どのようなことを成し遂げたいか、世界にどのような影響を与えたいかを探求することで、自分らしさについて理解し、腹落ちすることが重要です。

これは、グロービスの研修の重要なコンセプトです。“志“という概念に重点を置き、自分の価値観や強みに気づき、それを活かし、社会にどのように貢献したいかを考える。自分の価値観、強み、そして社会への貢献について考え、どのようなことを成し遂げたいか、世界にどのような影響を与えたいかを探求する。こういったことを、志に関する研修プログラムでは実践していきます。

志系領域の研修ラインナップはこちら

4-3-2. 自分の価値観を振り返り、何を大事にしたいのかを考える

弊社の研修プログラムの一つに、女性リーダー育成プログラムがあります。

本プログラムでは様々なテーマを扱いますが、まず取り組むのが自己認識の変革です。参加者は自分の価値観、何を大事にしているか、どのような強みを持っているかを振り返ります。リーダーとして組織や社会に影響を与え、貢献することも重要ですが、まずは自分が何を大事にしたいのかを考えることが始点です。

本プログラム参加者の具体的な声を、第6章に掲載してありますので、そちらも是非ご覧ください。

また、女性リーダー育成プログラムの詳細を知りたい方は、下記バナーをクリックください。

プログラムに関する質問も歓迎しております
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CHAPTER
05

自分への接し方の失敗例

セルフ・コンパッションとは、自分自身にも思いやりを持って接することでした。一方で多くの方は、自分自身へ異なる接し方をしてしまうようです。

具体的には、“自己批判”“自己軽視”“自己肯定”のいずれかで接する方が、多い傾向にあります。しかしこれらの接し方には、危険な副作用があることも分かっています。

自分への接し方の失敗3例
01
自己批判は、抑うつ症状につながる
02
自己軽視は、自他の感情に疎くなる
03
自己肯定は、自己中心的になる

それぞれについて、詳細に見ていきましょう。

5-1. 自己批判は、抑うつ症状につながる

自己批判は、自分が困難な状況に置かれた際に、「自分はなんて駄目なんだ」「こんなんじゃ駄目だ」「なんで自分は馬鹿なんだ」と自分へ追い打ちをかける接し方です。

自己批判は短期的には効くかもしれませんが、長期的には自信低下に繋がり、不安感が高まります。場合によっては抑うつ症状に繋がり、メンタルに深刻なトラブルをきたすこともあります。

日本人は欧米人と比較して自己批判の傾向が強く、結果的に自信を失っている可能性があります。以下のグラフを見ると、日本は欧米諸国と比較して自信がないことが分かります10)。この理由の一つとして、自己批判があると言われています。

5-2. 自己軽視は、自他の感情に疎くなる

自己軽視とは、困難に直面した際に「大したことない」と感情に蓋をする接し方です。本当は辛かったり、傷ついていたりするのに、それを直視しないことです。

確かに当座は乗り切れるかもしれませんが、こちらも重大な副作用があります。自分の感情に気づけなくなるのです。感情の回路をシャットダウンしてしまうので、自分の感情に疎くなり、本当に辛いときでも自分を守るためのアクションが取れなくなってしまいます。

更なる副作用として、相手の感情にも鈍感になってしまいます。すると、相手を傷つける言動や発言をしてしまい、円滑なコミュニケーションを取りづらくなってしまう恐れがあります。

5-3. 自己肯定は、自己中心的になる

最後の接し方は、自己肯定です。困ったことがあっても「自分は間違っていない」「自分は正しいことをしている」「自分はこういう強みがある」と自分を正当化する接し方です。

このアプローチは確かに、自己肯定感を高め、自信を持って次に進めるようになるかもしれません。しかし昨今、重大な副作用があることが分かっています。それは、他責になってしまうということです。周りのせいにする、改善しようとしない、学習しない。下手をすると、自分を肯定したいがために、自分の非は認めないという態度に繋がる恐れがあります。

自己肯定を繰り返すうちに、わがまま、自己中心的、周囲へ攻撃的になっていくという可能性があることを、認識しましょう。この副作用の懸念から、実は心理学の世界では、自己肯定感を高めようという運動は下火になりつつあります。

“自己批判”“自己軽視”“自己肯定”を避けるためにも、
セルフ・コンパッションの実践が重要です。

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CHAPTER
06

セルフ・コンパッションの成功事例

本章では、セルフ・コンパッションを実践してイキイキ働く例として、グロービスのお客様の事例をご紹介します。

【相鉄ホールディングス】「リーダーとはこうあるべき」という思い込みから脱却し、自分らしいリーダー像を目指して変化の激しい時代を歩む

経営戦略室 課長 矢野 薫様 (インタビュー当時)

研修前に抱えていた課題

  • 女性のロールモデルが周りにおらず、どのようなキャリアを歩んでいくのかイメージできていなかった

研修内容

研修後の効果・成果

  • その時に起こった出来事を楽しみ、キャリアの方向性をすぐに決めきらなくてもいい、と肩の力を抜いて考えられるようになった
  • リーダーは何でもできる存在でなければならないと思い込んでいたが、「苦手な部分はメンバーに補完してもらえばよい」「自分なりのリーダー像を目指せばよい」と思えるようになった
  • メンバーと目標やゴールをすり合わせた後は、思い切って任せるようになった。その結果、部下が今まで以上に自ら動いてくれるようになった

この事例のポイント

  • 研修の初期にて、自分の価値観、何を大事にしているか、どのような強みを持っているかを振り返る時間を取った
  • 「クリフトンストレングス®️」の結果について、講師から「矢野さんの強みとして、しっかり認識していくといい」とコメントがあった

グロービスの解説

  • セルフ・コンパッションにおいて大切なことは、自己認識です。リーダーとして組織や社会に影響を与え、貢献することも重要ですが、まずは自分が何を大事にしたいのかを考えることも重要なのです
  • 自分は強みも弱みもある、不完全だがそれで良い、ということを認めて受け入れることで、他のメンバーの良さも活かすことができるようになります
  • 他の素晴らしいリーダーたちのリーダーシップを真似るのではなく、自分自身のリーダーシップを築くことが大切です。これがセルフ・コンパッションとリーダーシップの結びつきを示しています

女性リーダー育成プログラムの詳細を知りたい方は、下記バナーをクリックください。

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CHAPTER
07

セルフ・コンパッションを学ぶのにおすすめの書籍

筆者のおすすめの書籍は、以下の2冊です。

セルフ・コンパッションを学ぶのにおすすめの書籍
01
セルフ・コンパッション(クリスティン・ネフ著)
02
ストレスに動じない“最強の心"が手に入る セルフ・コンパッション(石村郁夫著)

おすすめ書籍その1:セルフ・コンパッション

セルフ・コンパッションは、アメリカの心理学者クリスティン・ネフによって、提唱されました。彼女の著書「セルフ・コンパッション」(クリスティン・ネフ著、金剛出版)がおすすめです。セルフ・コンパッションの研究が紹介されているだけでなく、彼女の波乱万丈な人生も書かれていて、読み物としても面白いと思います。

おすすめの書籍はこちら(Amazonのリンクが開きます)

おすすめ書籍その2:ストレスに動じない“最強の心”が手に入るセルフ・コンパッション

また、ポジティブ心理学などを専門にされている石村郁夫先生の著書「ストレスに動じない“最強の心"が手に入る セルフ・コンパッション』(石村郁夫著、PHP研究所)は、コンパクトにセルフ・コンパッションについてまとめられていて、実践的です。

おすすめの書籍はこちら(Amazonのリンクが開きます)
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CHAPTER
08

セルフ・コンパッションに関する、よくある質問

Q1. セルフ・コンパッションと他人へのコンパッション、どちらから先に始めると良いのでしょうか

A. まずセルフ・コンパッションを育て、その後で他人に対するコンパッションを発揮する。この順番を守ることが重要です。

セルフ・コンパッションが育っていない段階で他人へのコンパッションを強めると、燃え尽き症候群や疲弊感につながります。セルフ・コンパッションを先に育てることで、自然に利他的な精神・行動を実践できるようになります。

皆さんが飛行機に乗った際、酸素マスクの付け方をアナウンスされますよね。その際、まずは自分に酸素マスクをつけ、その後に周りの子供に付けましょう、と言われます。まずは自分を万全にすることで、他人へ貢献できるようになるのです。

実際にセルフ・コンパッションが高い人は、他人への思いやりも高くなることが分かっています。助けたときの喜びも増え、仕事の満足度が高まるという良いサイクルが働くのです。

Q2. セルフ・コンパッションと自己肯定感の違いについて、より詳しく教えてください

A. 自己肯定感は、自分をポジティブに捉えることです。一方でセルフ・コンパッションにおいては、ポジティブ/ネガティブの判断をせず、現状をそのまま受け入れることが重要です(=マインドフルネス)。

自己肯定感も本来は、成功しても失敗してもありのままの自分を受け入れることを指すのですが、これは難しいものです。どうしてもポジティブな判断をしようとする過程で、世界を歪んで見る恐れが出てしまいます。その結果、失敗を環境や他人のせいにし、自分の過ちを認めないという副作用が出てしまうのです。

自己肯定感を高めようとした結果、部下の意見やAIからのアドバイスを受け入れにくくなる傾向が出ることも分かっています。これは新しい変革を阻害する可能性があるため、異なるアプローチであるセルフ・コンパッションが注目されはじめているのです。

Q3. セルフ・コンパッションと自分を慰めることは、何が違うのですか

A. セルフ・コンパッションを実践した結果として、自分への慰めを行う場合もあります。

セルフ・コンパッションで大切なことは、自分に何が必要かを、時と場合に応じて理解し、提供することです。慰めが必要な時は慰めを、励ましが必要な時は励ましを、交流が必要な時は人間関係を築く行動をとる、といった具合です。自分らしさの追求も一つの方法であり、要するにさまざまなアプローチがある、と理解いただくと、明確になるかと思います。

Q4. セルフ・コンパッションの良さを組織に広めるにはどうすればいいですか

A. 一番よいのは、読者のみなさんが、セルフ・コンパッションを体現することです。みなさんが生き生きと活躍しているのを周りの人がみることで、セルフ・コンパッションの良さが説得力をもって、組織に広まります。

もう少し組織的なアプローチの観点から紹介すると、セルフ・ケアの重要性をことあるごとに伝えることです。たとえば、「休暇を取得していますか?」などのコミュニケーションを実施し、ご自身を大切にすることを伝えていきましょう。

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CHAPTER
09
セルフ・コンパッションを
社内で実践できるリーダーを増やしたい場合は、
ぜひグロービスへご相談ください

もしセルフ・コンパッションを実践するリーダーを社内に増やしたいとお考えでしたら、ぜひグロービスへお問い合わせください。なぜなら、グロービスは“志”に関する教育をグロービス経営大学院の開学以降続けている、パイオニアだからです。

4-3章でも説明した通り、組織レベルでセルフ・コンパッションを実践するには、社員それぞれが自分らしく成長できる機会を提供・サポートすることが重要です。グロービスなら様々な手法で、自分らしさ(≒志)を皆様に考え、気づいていただくための機会を提供することができます。

リーダーは志=“自身が何を大事にし、何を達成しようとしているか”を明確にすることが必要です。

その、志の教育のパイオニアであるという自負が、
グロービスにはあります
自社のリーダーへ志について考える機会を提供したい方へ
リーダーへの教育は、経営スキルやロジカルシンキングだけでは足りない。志が必要な理由を分かりやすく解説

以下では、グロービスがどのような“志”の教育を提供しているかをご紹介します。自分らしさを大事にし、セルフ・コンパッションを実践するリーダーを育成したい場合は、ぜひご参考にしてください。

9-1. 企業内研修

企業内研修は、貴社の社員を複数名集め、一度にプログラムを受講いただくスタイルの研修です。グロービスでは皆様の課題感に合わせ、3つの”志系領域”の企業内研修プログラムをご用意しています。

9-2. スクール型研修

スクール型研修は、研修会社が主催するプログラムへ参加し、他社の人材と学ぶ場のことです。社内では得られない緊張感と刺激が、視野を広げ、固定化した考え方を解きほぐします。

グロービスで提供しているスクール型研修“グロービス・エグゼクティブ・スクール”では、他業種の受講生と志について考え、言語化し、実践を繰り返します。役職やキャリアにあわせて、組織と個人にとって最適な志を醸成できるよう、全6プログラムの中からご選択いただけます。

9-3. eラーニング

グロービスが提供している動画学習サービス“GLOBIS 学び放題”では、志に関する55個のコースを用意しています(2024年現在)。

GLOBIS学び放題で学べる、志系領域プログラムはこちら

どのプログラムが良いか分からない場合は、ぜひ弊社へお問い合わせください。専任担当から皆様へご連絡させていただき、適切なプログラムをご提案させていただきます。

GLOBISへのご相談はこちらから
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まとめ

本コラムでは、セルフ・コンパッションとは自分を思いやることであり、弱さや甘え、自己犠牲、自己中心的とは異なることをお伝えしてきました。社員の幸せな活躍を促進するための重要な心理的態度であり、能力であり、スキルであることを、最新の研究結果や実践例を通じて学んでいただけたと思います。

この記事の要点を簡単に整理すると、以下のとおりです。

1. セルフ・コンパッションとは“大切な友人に思いやりを持って接するように、自分自身にも思いやりを持って接すること”です。

2. 自分を甘やかすことと、セルフ・コンパッションとは異なります。

3. セルフ・コンパッションは個人の幸せはもちろん、チーム・組織へも良い影響を与えます。

  • コラボレーションが促進されます
  • 社員が成長し、組織へコミットメントするようになります
  • リーダーへ、リーダーシップの発揮を促します

4. セルフ・コンパッションの実践方法として、以下の3つを紹介しました。

  • 毎朝、 “仕事でしんどかったときに自分に思いやりと優しさを持って接したことを思い出す”
  • 十分な睡眠、健康的な食事を取る
  • 社員それぞれが自分らしく成長できる機会を提供し、サポートする

自社の社員にセルフ・コンパッションを実践させたいとお考えの育成担当者の方がいれば、ぜひ本コラムを参考に、第一歩を踏み出してみてください。

もし社員それぞれが自分らしく成長できる機会を提供し、サポートすることに興味がある方がいらっしゃれば、グロービスがお役に立てるかもしれません。是非お気軽に、ご相談ください。

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参考文献

1) Dodson and Heng, “Self-compassion in organizations: A review and future research agenda”, 2021.

2) Dodson, S. J., & Heng, Y. T. “Self‐compassion in organizations: A review and future research agenda. Journal of Organizational Behavior”, 2022, 43(2), 168-196.

3) Lefebvre, J. I., Montani, F., Courcy, F., & Dagenais‐Desmarais, V. “Self‐compassion at work: A key for enhancing well‐being and innovation through social safeness at mdivtiple levels.” 2021, Canadian Journal of Administrative Sciences/Revue Canadienne des Sciences de l'Administration, 38(4), 398-413.

4) Lefebvre, J. I., Montani, F., Courcy, F., & Dagenais‐Desmarais, V. “Self‐compassion at work: A key for enhancing well‐being and innovation through social safeness at multiple levels.”, 2021.

5) Breines, J. G., & Chen, S. “Self-compassion increases self-improvement motivation. Personality and Social Psychology Bulletin”, 2012, 38(9), 1133–1143.

6) Lin, S.-H. (Joanna), Scott, B. A., & Matta, F. K. “The Dark Side of Transformational Leader Behaviors for Leaders Themselves: A Conservation of Resources Perspective.”, 2018, Academy of Management Journal, 62(5), 1556–1582.

7) Lanaj, K. “When Leader Self-Care Begets Other Care: Leader Role Self-Compassion and Helping at Work.” 2021, Journal of Applied Psychology.

8) Jennings, Remy & Lanaj, Klodiana & Kim, You. “Self‐Compassion at work: A self‐regulation perspective on its beneficial effects for work performance and wellbeing.” 2022, Personnel Psychology.

9) Cho, S., & Kim, S. “Does a healthy lifestyle matter? A daily diary study of unhealthy eating at home and behavioral outcomes at work.”, 2022, Journal of Applied Psychology, 107(1), 23–39.

10) Scholz, U., Doña, B. G., Sud, S., & Schwarzer, R. “Is general self-efficacy a universal construct? Psychometric findings from 25 countries. European Journal of Psychological Assessment”,2002, 18(3), 242–251.