自律学習を促す、学習設計のポイント

2022.01.06

「さまざまな研修や自己研さんの機会を提供しているが、社員がなかなか自発的に学んでくれない」とのお悩みを、多くの人材育成担当者の方からお聞きします。本コラムでは、自律学習を促すために個人や組織へ、どのように働きかけて仕組みにしたらよいか、学習設計のポイントをお伝えします。

なぜ今、自律学習が求められるのか

健康寿命の延伸やビジネス環境の大きな変化に伴い、一人の人が一つの仕事を生涯続けられる可能性は低くなっています。皆さまの周りでも、最近、転職を決意した方はいらっしゃらないでしょうか。

 

一つの会社に留まらないことがスタンダードになりつつある今、職業人としての学び直しを自ら選択できるかどうかが、今後のキャリアの発展を左右します。だからこそ「人生100年時代」を生き抜くために、自律的に学べることが重要性を増しているのです。

また、組織の強さは、組織の構成員一人ひとりが強く、かつ力を発揮しているかによります。その組織が強くあり続けるためには、社員が自律的に学び成長していくことが直結するといえるでしょう。

一個人だけでなく、強い組織を作っていくためにも、自律的に学ぶ力を伸ばしていくことが重要です。

自律学習ができている状態

「自律学習」について考える前に、「学習」について考えてみましょう。そもそも「学習ができている状態」とはどのような状態なのでしょうか。

図1に、筆者が「学習ができている状態」を定義する際によく用いる考え方を整理しました。

図1:学習設計のポイント

図1:学習設計のポイント(アーリック・ボーザー、”Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ”、英治出版、2018年と、中原淳、”働く大人のための『学び』の教科書”、かんき出版、2018年、を基に筆者が作成)

学びの6つのステップ

学びを身につけるには、以下の6つの学びのステップが必要です。

1:価値を見出す

対象となるスキルをなぜ学びたいのか、自ら学ぶ動機を自覚する

2:目標を設定する

何を学習するか、そのためにどのような計画を立てるべきか、を明確にする

3:能力を伸ばす

自身の状況を正しく把握し、外部からフィードバックを受けることで失敗や間違いを認識し、反復練習をする

4:発展させる

学んだ内容を人に、あるいは自分自身に説明する

5:関係づける

複数のスキルや知識が具体的にどのように関わっているかを考える

6:再考する

知っていると思い込まず、分かっていないことを知る。そのために外部からフィードバックを取り入れ、分散学習をして内省を行う

(アーリック・ボーザー, “Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ”、英治出版、2018年、を基に筆者が作成)

大人の学び3原則

“大人”が学びを得るには、「適度なストレッチ」「振り返り」「つながり」の3原則を押さえることが必須です。学習ができている状態を作り出すには、学びの6つのステップを踏む事が出来ている、または大人の学び3原則が満たされていることを意識しましょう。

 

企業や組織で学びの場を企画する際は、このように学習のプロセスを分解し、どのように進行するのかを把握します。そのうえで研修などの施策全体を通じて、重要な要素をどのようにカバーするのかという視点を持つことが肝要です。

上記を踏まえたうえで、 自律学習を促すには具体的に何をすべきか、次章で学習設計のポイントをお伝えします。

自律学習を促す4つのポイント

自律学習を促す学習設計とは、学習者を学習できている状態(学びの6つのステップ、大人の学び3原則)へ促す仕組みを作ることだ、と筆者は考えます。

よくあるミスとして、学びの6つのステップのうち「3.能力を伸ばす」と「4.発展させる」を最初に取り組もうと考えてしまいがちです。しかし、学習者が自律的に学びを深められる状態を実現するには、「1. 価値を見出す」と「2. 目標を設定する」のステップが不可欠です。

 

学びの6つのステップを意識して企画し、本人の自主性に任せるだけでなく仕組み化して学習者をサポートしましょう。自律学習を促す学習設計において、特に重要な4つのポイントは以下の通りです。

ポイント1:学習者のコミュニティ化

ポイント2:適切な人からのメッセージ

ポイント3:本人による目標の言語化・共有

ポイント4:振り返りの習慣づけ・ガイド

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ポイント1:学習者のコミュニティ化

1つ目は、学習者のコミュニティ化(=つながり)です。大人の学び3原則の1要素である「つながり」は、学びの6つのステップいずれにも深く関連すると筆者は考えています。

なぜ必要か

助けやアドバイスを学習者同士で行えるようにすることが、自律的に学習ステップを踏んでもらうために必要だからです。

とはいえ、人と人が会えばいきなりコミュニティ化していくわけではありません。学習者同士がコミュニティとなるための仕掛けをつくっていくことが、企画者に求められる役割なのです。

どのように行うか

仕掛けを考案する際に参考になる考え方の一つに、成功循環モデル(図2)があります。コミュニティ化の第一歩である「関係性の質」を高めるために、共通目的・共通言語の獲得、相互理解の促進を行う場を設けることが有効です。その上で、学習者同士の学習機会の構築を行うことがおすすめです。

図2:成功循環モデル

図2:成功循環モデル(藤野貴教、”2020年人工知能時代僕たちの幸せな働き方”、かんき出版、2017年、 P.147をもとにグロービスが作成)

ポイント2:適切な人からのメッセージ

2つ目は、適切な人からのメッセージです。学習の場をなぜ会社が提供しているのか、学習者に期待することは何かなど、適切な人から学習者本人へメッセージとして伝えましょう。

なぜ必要か

学習者本人が学びの価値を見出すためのサポートとして有効だからです。また、誰に、どんなメッセージを、どのような形で発信してもらうのが良いかを考える際には、学習者本人がどのような課題に直面しているかを理解しましょう。

どのように行うか

学習者本人に響くメッセージを発信できる立場の人を企画側に巻き込み、学習設計をしましょう。筆者の体験談として、ある研修の参加者へ社長から「参加者の皆さんに期待している。研修でしっかり学び、それを早速活用してほしい」と伝えてもらったところ、参加者皆さまのモチベーションが急増したことがありました。

同じ目的・対象者でも、学びのメッセージを誰がどのように伝えるかによって、学習者の取り組み姿勢が大きく変わる、と筆者自身も学習設計を行う立場として実感しています。

ポイント3:本人による目標の言語化・共有

3つ目は、本人による目的の言語化・共有です。学習者本人に目標を言語化してもらい、自ら上長へ共有するというステップを、学習設計に組み込みましょう。

なぜ必要か

「その機会から何を学び、どのような状態を達成したいか」という目標設定は、学習者本人が設定するべきであり、自ら言語化し他社に共有することが、自ら設定した目標をリマインドすることにもつながるためです。

どのように行うか

大人の学び3原則にある「適度なストレッチ」と「つながり」を押さえ、自律学習や、学びを深めるための土台固めを仕組みで担保しましょう。学習者本人が目標を言語化し、かつ自ら上長へ共有するような仕組みを作ります。目標のストレッチ度合いが適切かどうかのすり合わせができ、学びを進めていく上でフィードバックをもらう「つながり」を自らつくるきっかけにもなるのです。

ただし、これらを行うには、学習者本人の上長が研修などの学習機会の目的・位置づけ・内容について、正しく理解している必要があります。

ポイント4:振り返りの習慣づけ・ガイド

4つ目は、振り返りの習慣づけ・ガイドです。振り返りを習慣づけることと、学びに結びつく設問を設け、振り返りを学習者が自ら行えるようにガイドする工夫が必要です。

なぜ必要か

”経験は、そのまま放置しておいても、学びにはつながらない“からです(引用:中原淳、”働く大人のための『学び』の教科書”、かんき出版、2018年、p.66)

研修などの学習機会も、経験として通り過ぎてしまうだけでは学びとして蓄積されません。学習者本人が学びを深め、次の学びへつなげようと思い行動を起こすには、「ちゃんと学べている」という自己効力感が重要であり、振り返りはその材料になります。

どのように行うか

振り返り自体を目的化しないことと、抽象的概念化を欠かさないこと、この2点が重要です(参考:加藤洋平、“成人発達理論による能力の成長”、日本能率協会マネジメントセンター、2017年)


上記の注意点を踏まえた、具体的な設問例をご紹介します。

・学びのうち、特に重要だと思ったことは何か、なぜそのように思ったのか、を理由も併せて、学習者本人の言葉で説明してください。(抽象化を促す)

・特に重要だと思った学びは、具体的にどのように活かす事が出来そうでしょうか。(振り返ること自体を目的化せず、行動に移すことを促す)

振り返りプロセスに上記のような設問を設け、学びに結びつく振り返りを学習者自らが行えるように工夫しましょう。

最後に

何を学んでもらうかを定義するだけでなく、学びのプロセス全体を設計することが学習を企画・設計する者の役割です。学習設計を試行錯誤しながら実施してみるほど、人の学びや成長は直線的ではないことに気づきます。また、その人の置かれた環境や、向き合う課題そのものの制約を受けることも見えてきます(参考:加藤洋平、“成人発達理論による能力の成長”、日本能率協会マネジメントセンター、2017年)

 

様々な要素の影響を受けつつも自律的に学んでもらうには、「学習できている状態とは?」をステップに分解して全体像を捉えることが重要です。もし自律的に学べていないと思う場合は、何がボトルネックになっているのかを特定し、学習者、そして学習者を取り巻く環境に目を向けて改善策を検討しましょう。

「自律的に学ぶことが大事だ」、という共通認識を組織に広めていくには、学習企画者や育成担当の活動に、学習者の上司など周囲の人々も巻き込んでいきましょう。このコラムを参考に、自律学習を促す学習設計実行への第一歩をぜひ踏み出してください。

執筆者プロフィール
中西 茉奈美 | manami nakanishi
中西 茉奈美

慶應義塾大学総合政策学部卒業。
大学卒業後、IT系コンサルティングファーム、ソーシャルベンチャーを経て、グロービスに参画。
グロービス入社後は、大手企業の次世代リーダー、経営人材育成プロジェクトの企画・実行支援などに従事している。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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