【サントリー・セールスフォース】エンゲージメントとグローバル競争優位性
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グロービス コーポレート エデュケーション
昨今、多くの企業が取り組んでいるテーマの1つに「社員エンゲージメントの向上」があります。特にグローバル化展開をする企業にとっては、「世界で活躍する社員のエンゲージメントをいかにグローバルでの競争優位に繋げていくか」という視点は必要不可欠です。インセンティブによるエンゲージメント向上ではなく、働きがいや働く意義を構築しながらエンゲージメントを高め、いかにグローバル競争下での競争優位構築に活かしていくかは多くの企業にとっての重要な戦略課題の1つになっているのではないでしょうか。そこで、今回は、日本で最も働きがいのある会社として選出された企業の人事責任者をお招きし、グローバルな企業文化の浸透や、テクノロジーによってエンゲージメントを高める施策など、各企業のお取り組みをご紹介いただきました。(文=ProFuture編集部)
(関連記事:日本企業の人事を変える3つのキーワード)
【セミナー概要】
■開催日時:2018年10月22日(月)14:30~16:30
■登壇者:
浅田靖隆氏 株式会社セールスフォース・ドットコム 人事本部 ディレクター
(戦略・オペレーション担当)
田中憲一氏 サントリーホールディングス株式会社 グローバル人事部 部長
■モデレーター:
高橋亨 株式会社グロービス グローバル エデュケーション代表
グロービス アジアパシフィック代表/グロービス タイランド代表
サントリー ご講演~理念に基づくエンゲージメント~
エンゲージメントに必要な要素1:ユニークな企業文化
エンゲージメントを高めるためには、以下の3つの要素が必要だと考えます。1つ目は、「ユニークな自社の個性(“Identity&Purpose”)を明確にすること」。2つ目は、「伝える・知る・繋がる」(“Communication&Connectivity”)。そして3つ目は、「各社・各個人の尊重」(”Empowerment&Respect”)です。
サントリーを語る上で、創業者 鳥井信治郎の存在は欠かせません。彼の遺した言葉を我々は今も大事にしながら仕事をしています。中でも代表的なのが、「やってみなはれ」と「利益三分主義」という2つの価値観です。「やってみなはれ」は、現状に満足せず絶えず成長する企業でありたい、人がやらない新しいことを粘り強くやって成果を出そうということ。一方の「利益三分主義」は、儲けたら、ちゃんと世の中にお返しするということ。我々はこうした創業者精神を継承し、挑戦し続ける企業でありたいと思っています。
エンゲージメントに必要な要素2:グローバル化しても「伝える・知る・つながる」
我々サントリーは国内における歴史は非常に長いのですが、本格的な海外展開に関しては実はあまりまだ歴史がありません。2009年にニュージーランドの大手飲料メーカーのフルコア社を買収したのを皮切りに、フランス大手飲料メーカーのオランジーナ・シュウェップス社、インドネシア ガルーダフード社の飲料事業、イギリス グラクソ・スミスクライン社の飲料事業、米国スピリッツの大手メーカー、ビーム社などを次々に買収し、戦略的なM&Aを本格的に加速させてきました。サントリーにとってグローバル化戦略はまさに始まったばかりなのです。
現在グローバル化を進めている中で、よく使われているのが“East Meets West”という言葉です。これは日本的なものとグローバルなものの良い所をお互いに混ぜ合わせていきましょうという考え方です。
日本ではもともと一人ひとりを丁寧にケアする全社員型のタレントマネジメントを進めてきました。この考え方を基本的にはグループ全体に広めつつ、一方で新しいことにも取り組むべく、グローバルレベルでの人材の発掘・活用・育成やグループシナジーの推進などを行っています。また、グループ全体のタレントレビューメカニズムとして、グローバルにグループ内の人材ポートフォリオを強化し、社員にグループワイドなキャリアパスを提供しています。
エンゲージメントに必要な要素3:各社・各個人を尊重し、もっとも人材が育つ会社へ
(関連記事:エンゲージメントと人間中心主義)
エンゲージメントに関わるものとして、サントリー大学という企業内大学も設置しており、世界で最も人材が育つ会社を目指し、学びと能力開発を通じて、全サントリアンが創業精神を胸に、強いリーダーシップを持ちサントリーグループの成長に貢献するというビジョンを掲げています。グローバルリーダーや次世代のグローバルリーダー、さらに海外グループ会社などを対象とした様々なグローバル・プログラムを用意しております。
エンゲージメントを高めるためには、唯一無二の風土・生態系が不可欠です。私たちは、「人材獲得」「人材育成」「人材配置・異動」「相互支援」「人材の質・多様性」「エンゲージメント」の6つの要素を重視し、サイクルを回しながら、グローバル化に向けた人・風土におけるバリューチェーンを進化させています。
セールスフォースご講演~社員エンゲージメントのためのセールスフォース~
エンゲージメントの公式は【カルチャー+テクノロジー+データ=エンゲージメント】
弊社が創業時から最も大事にしている経営理念の1つが「カスタマーサクセス」です。つまりお客様の成功のために、セールスフォースが存在すると考えています。一方で人事部門(エンプロイーサクセスチーム)が創業以来大切にしている価値観は部署名そのものである「エンプロイーサクセス」です。つまり社員の成功を支援するのが我々の存在意義であると考えています。本日はそういった考えのもと、エンゲージメントを高めるためにどのような人事施策を展開しているかについて事例を交えてご紹介させていただきます。
Kevin Kruse氏が提唱する「社員エンゲージメントのROIチェーン」は、社員が幸せになる=顧客が幸せになる=株主が幸せになる、という図式で表されますが、私たちセールスフォース が提唱する公式は、【カルチャー+テクノロジー+データ=エンゲージメント】で表されます。1つ目のカルチャーを語る上では、会社のコアバリューが不可欠です。セールスフォースのコアバリューは主に4つあります。1つ目は「信頼(セキュリティ、安定性、パフォーマンスの点において、業界で最も信頼性の高いインフラストラクチャを追求)」。2つ目は「カスタマーサクセス(お客様の成功に注力して、互いの成長を促進)」。3つ目は「イノベーション(年3回のリリースで革新的な機能強化を行い、お客様は最新のテクノロジーを入手して、イノベーションや開発業務に従事)」。4つ目は「平等(誰もが平等で、多様性が尊重される環境)」です。
スマホアプリを活用しエンゲージメントを向上
もう一つ大事なポイントは、アプリ中心の世の中になり、ニーズが変化していること。特に若い世代やこれから入社するメンバーは、スマホで何でも操作ができる環境で育っています。弊社では、ワーク・ライフ・インテグレーションというキーワードを使うのですが、これは世の中のトレンドを社内でも実践しようというものです。実際お客様に対しては、様々なアプリケーションサービスを提供しておりますし、社内でも同様に活用できるようにしており、それがエンゲージメントの向上に繋がっています。
弊社ではアプリケーションやテクノロジーを人事施策に活用してエンゲージメントの向上に努めていますが、本日は3つの事例をご紹介させていただきます。
1つ目は、目標設定のための「V2MOM」です。Vision, Value, Methods, Obstacles, Measuresの頭文字を組み合わせた言葉で指針、優先度、果たすべき責務をリアルタイムで確認し、目的や目標からぶれずに仕事を進められる仕組みです。特徴は全世界で全社員のものが公開されていること。透明性を高めることによって、社員同士の信頼やエンゲージメント向上に繋げています。2つ目は、「リアルタイムフィードバック」です。弊社は2年ほど前に目標管理評価制度を廃止し、その代わりに「リアルタイムフィードバック」を導入しました。上司や部下、同僚に対してよりリアルタイムなフィードバックをすることで、透明性が高まり、信頼やエンゲージメント向上に繋げています。そして3つ目は、社員の満足度調査です。約60項目の質問に答えてもらい、年に2回実施。部下が5人以上であれば、点数が公開される仕掛けになっており、こちらもV2MOM同様、全社員に公開されます。
この他にも弊社のプラットフォーム、アナリティクス、マーケティングクラウド、サービスクラウドなど、様々な自社テクノロジーを活用しエンゲージメントの向上を図っています。
パネルディスカッション
「働きがいのある会社ランキング」トップ2社が語るエンゲージメントの高め方
高橋 セールスフォース・ドットコム社は「働きがいのある会社ランキング」で第1位に選ばれましたが、改めてどんなところが評価されたとお考えになりますか?
浅田氏 エンプロイーサクセスという思想のもと、エンゲージメントを高めるために必要となる、カルチャー+テクノロジー+データという3つの要素を人事施策に織り交ぜて実践し続けている事だと考えております。
高橋 一方、サントリー社も「働きがいのある会社ランキング」で第2位に選ばれました。ソフト、ハードを含め、さまざまな仕組みを導入されているそうですが、御社ならではのこだわっている部分があれば教えてください。
田中氏 サントリーの場合、やはり人へのケアが独特だと思います。みんなお互いのことをとてもよく知っています。これには色々な理由があるのですが、社内で接点が多いということもありますし、ローテーションを重ねる中でお互いを知り合って、その後も関係がずっと続くということもあると思います。家族のように人を大切にしなければいけないという教えが、創業者から脈々と続いているのが大きいでしょう。
グローバルな理念浸透の鍵は「トラスト(信頼)」「譲れないもの」そして「現地へのリスペクト」(サントリー)
高橋 サントリー社は新たな買収先などグローバルにわたって企業理念を浸透させています。なぜそのようなことが可能なのか、成功の秘訣を教えていただけないでしょうか。
田中氏 例えば、ビーム サントリー社は買収して約4年が経ちますが、幹部同士の信頼関係作りはとても重視していますし、サントリーとして譲れないもの、伝えたいものも明確に示しています。同時に、現地側へのリスペクトもしっかり行っています。また色々な形で人材交流をする中で、お互いのカルチャーを理解することが出来てきたと思います。
高橋 浅田さんは逆にグローバル企業の日本法人を預かっている身だと思いますが、日々の仕事の中でご苦労されている点などはありますか?
浅田氏 おっしゃる通り、私たちは日本の現地法人ですので、サントリー社とは逆にカルチャーを伝えられる側です。本社から役員クラスが来日する際も、Town Hall Meetingなどでまずは社員に対してカルチャーの話をしますし、あるいは私たち人事部が様々な人事施策を展開する際も、それが会社のコアバリューに連動しているのかを確認しています。
「エンプロイーサクセス」へのチャレンジは人事部門の終わりなき旅(セールスフォース)
高橋 エンゲージメントの部分では両社とも大きな成果を上げられているわけですが、今後さらにチャレンジしたいことなどがあれば教えてください。
田中氏 私たちは2030年に向けて更なる成長を目指しており、まずはそこに向けて何をすべきかが大きな課題です。我々のような酒類・飲料・食品を扱う業界は、例えばIT業界のような急激な変化が起こることは少ないかもしれませんが、テクノロジーなど含めて、本当に今までのやり方で良いのかグローバルレベルで議論をする必要があると思います。そして「やってみなはれ」をベースに、今まで業界内の他のプレイヤーが思いつかなかったようなモデルを提示していくことが不可欠でしょう。
浅田氏 弊社は創業以来、カスタマーサクセスを追求する上で年3回の製品の機能強化を行いお客様のイノベーションをサポートし続けてきました。そのベースにあるのがお客様からの弊社の製品に対するフィードバックです。マーケットやお客様の変化にあわせて改善や機能強化を行うのと同様に、我々人事部門も社員の声に絶えず耳を傾けエンプロイーサクセスを追求し続ける事がエンゲージメントの秘訣だと考えています。
<登壇者プロフィール>
■浅田 靖隆 氏
株式会社セールスフォース・ドットコム 人事本部
ディレクター(戦略・オペレーション担当)
富士通株式会社にて人事業務に従事。採用、教育、人事ビジネスパートナー、国内グループ会社への出向を経て、米国子会社へ出向し駐在員サポート、現地の人事関連プロジェクトなどを担当。2017年4月より株式会社セールスフォース・ドットコム入社後は主にシェアード・サービス業務を担当。自社テクノロジーを活用し、バーチャルヘルプデスクによる人事機能のパラダイムシフトや社員のエクスペリエンス(体験)向上を図る。
■田中 憲一 氏
サントリーホールディングス株式会社 グローバル人事部 部長
1990年富士通株式会社入社。日本・欧州での人事業務経験後、GE(ゼネラル・エレクトリック)、Burberryにて採用・リーダー育成・組織開発・ビジネスパートナー・アジアパシフィック地域戦略パートナー等、様々な人事リーダー職に従事。現在サントリーホールディングス株式会社にてグローバル人事部に在籍し、人・組織に関わるグローバルな仕組み・枠組みの構築を推進中。
■高橋 亨(モデレーター)
グロービス グローバル エデュケーション 代表
グロービス アジアパシフィック代表 / グロービス タイランド代表
大学卒業後、丸紅株式会社に勤務。7年間の海外勤務では、イランにてインフラ整備プロジェクトに携わった後、在ベルギーの欧州・中東・アフリカ地域統括会社にて、同地域における事業の立ち上げ、出資先、取引先への経営支援、ファイナンス供与などグローバルビジネスに広く携わる。現在は、日本およびグロービスの在シンガポール海外拠点において、アジア地域での人材育成、組織変革事業を推進する。
- セミナーレポート
【サントリー・セールスフォース】エンゲージメントとグローバル競争優位性 - VOL.3セミナーレポート
【JOLED】役員向けプログラムの最新事例と潮流 - VOL.2セミナーレポート
将来を創るハイ・ポテンシャル人材を如何に発掘し引き上げるか? - VOL.1セミナーレポート
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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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