テクノベートがもたらす「新しいリーダー像」や「組織の変化」

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  • テクノベート領域
  • 企業事例
  • 次世代リーダー育成
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  • グロービス コーポレート エデュケーションのプロフィール

    グロービス コーポレート エデュケーション

グロービス・コーポレート・エデュケーションは去る2016年9月13日に人材育成責任者を対象にしたCLO会議(CLO=Chief Learning Officer、人材育成責任者)を開催した。

会議のテーマは「テクノベートがもたらすインパクト~人・組織はどう変化すべきか?」

人工知能(AI)、IoT、ビッグデータといったテクノロジーが社会や企業活動に大きな影響を与える「テクノベート」(テクノベートとは、テクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語)について、その全体像に触れ、企業に求められる変革と人・組織の課題を考察した。

登壇者に、インダストリー4.0を推進するローランドベルガー 代表取締役社長 長島聡氏(以下長島氏)を始め、トヨタ自動車、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、オムロン、全日本空輸(ANA)、帝人等の各社で変革に取り組む責任者の方々をお迎えし、変革の最先端の風景と問題意識をお話しいただいた。

本レポートでは、1日の講演とパネルディスカッションを通じて届けられたさまざまなメッセージを改めて振り返り、テクノベートのもたらす変化、その中で価値を創出するために求められる人・組織の姿、そしてそれらを牽引するリーダー人材の要件など、CLOとして今考えるべきことを提示する。
(文責:グロービス CLO会議事務局 松村・岩崎・辻田)

テクノベート時代の到来

IoT、ビッグデータ、クラウド、AIなどの技術の圧倒的進化により世界は指数関数的な変化に直面している。そして、それはさまざまな業界のビジネス常識を根底から書き換えると予想されている。今回のCLO会議では、このような環境変化に対し、企業戦略やビジネスモデルをどのように再構築すべきか、組織人材面の課題や新たに求められる能力は何か、などについて議論が行われた。

「テクノベート」が変えるもの~異次元の見える化と圧倒的な機動力~

第1部全体会セッション、ローランドベルガー長島氏の講演では、「インダストリー4.0」の本質が「異次元の見える化」と「圧倒的な機動力」というキーワードで紹介された。

長島氏によれば、「異次元の見える化」とは、サプライチェーンや価値創出(バリュー)チェーンにおいて取得できる情報が飛躍的に増加することにより、リアルタイムに問題を把握することができ、産業全体の俯瞰力が向上することを指す。例えば、顧客先に納品した装置や部品からリアルタイムで情報を得ることで稼働の偏りや異常、ボトルネックなどを瞬時に把握し、社内外で分断されていたサプライチェーンや、企業内の各部署間での情報共有が進展することで将来のニーズに対する予測精度を上げることなども可能になるだろう。

長島氏の言うもう1つのキーワード「圧倒的な機動力」は、発見された課題への対応において、AIや自動化を梃子とすることによって飛躍的な効率化と付加価値向上が可能になることを指す。例えば、「ムリ・ムラ・ムダ」を迅速かつ精度高く減らすことができる、コスト構造の改善により収益性を向上させることができる、頻繁なトライ&エラーにより製品化スピードの短縮や性能向上が可能になる、などが考えられる。このように、従来とは圧倒的に異なる機動力で、価値創出や全体最適を図ることができるようになる。

異次元の見える化と圧倒的な機動力が迫る、顧客起点の価値創出

「異次元の見える化」と「圧倒的な機動力」がもたらすのは、価値基準の変化であると長島氏は続ける。

顧客との継続的な対話を通じて、改善を促す短いPDCAサイクルを常に回し、お客さまの真のロイヤリティを獲得することが重要」「お客さま起点で提供価値を再定義し、社内の対話を重ねつつ、現場への落とし込みを丁寧かつスピーディに行う必要がある」(長島氏)といった言葉に表れるように、テクノベートがもたらす変化の1つは、顧客が対価を支払う基準が、提供されたものやサービスによってもたらされる効用に重点を移していくことだ。例えば、提供者がリアルタイムな顧客情報を大量に得ることで、瞬時に不具合の発見・調整をしたり、製品を有効活用するためのカスタマイズサービスを提供したりといったことが考えられる。どのような付加価値を生み出し提供できるかが問われることになる。

また、サービス業界でも顧客起点の価値創出は課題の中核となっている。デジタルマーケティングのコンサルティング等を行うネットイヤーグループ 佐々木氏によれば、同社に寄せられる相談には、拡大する顧客接点に、会社全体としてどのように付き合っていくべきかという内容が増えているという。佐々木氏は、「商品の差別化ではなく、買いやすさなど体験を重視する消費に変わってきている。お客さまの都合に合わせて、サービスを提供するのがオムニチャネル」であり、提供側が設定したサービスの範囲に捉われず、顧客体験に基づきサービスを提供できる体制に変えるよう、社内改革を進めていくことが重要と語っている。

重要なのは、AIや自動化といった先端テクノロジーが顧客との関係性を変え、ニーズを刷新しつつ、新たな価値創造に挑戦するための仕組みとして活用することである。
「異次元の見える化」と「圧倒的な機動力」だけで中長期的な競争力が強まるのではなく、それらを通じて新たに創出される「顧客起点の価値創造」が企業の競争力の源泉となると考えられる。

「顧客起点の価値創出」を実現する人・組織とは

このように、テクノベートは企業の提供価値と、その価値創造のプロセスを大きく変える。社内外をつなぐサプライチェーン/バリューチェーンの再構築、顧客との緊密な関係性の確立などを実現するためには、これまでとは異なる組織能力が求められる。CLO会議では、登壇者それぞれの知見・体験に基づき、あるべき人・組織の姿と課題が語られた。

例えば、トヨタ自動車の鯉渕氏は自動車産業がサービス業に変化するという大転換の中で自社の提供価値を再定義するにあたり「これまでとは異なるスキルセット」が必要になると語られた。従来自動車メーカーが経験を十分に蓄積してきていない技術分野(AIなど)での他社との協働関係の在り方や、規制当局との調整、さらには社会的コンセンサスをどう形成していくかなど、非技術領域で物事をまとめ上げる能力が求められるという。

SMFGもスタートアップとの連携や産学連携を通じ、外部のアイディアを取り入れつつ、迅速な商品・サービス開発に力を注いでいる。「システムでは従来、銀行の勘定系は大手ベンダーに依頼し、ウォーターフォール型で精緻な要件定義をし、作りこみをしてきていた。 迅速なサービス投入が求められる現在では、これに加えて、スタートアップ等の持つ技術を使ったアジャイルな開発をしていく」(SMFG中山氏)

これらは、テクノベート時代を迎えるにあたり、価値創造のプロセスや協働者の変化が余儀なくされ、従来の自前主義や潔癖主義(失敗しない文化)からの脱却・転換が求められていることを示唆している。そのためには、組織全体の意識や価値観を変化させる必要がある。登壇者からは組織の在り方のヒントとなる事例が多く共有された。

新規事業の提案で規模を問うてはいけない。つぶれてしまう。ある程度の数のアイディアを既存事業から隔離して育てることが大事」(Qrio 西條氏)

「イノベ―ションプロジェクトは、新規事業を提案してもらう。検討会議で叩くのではなく、経営企画がサポートして一緒につくりあげる。会社が新規事業をやるという本気を見せるのが重要だ」(帝人 早川氏)

これらに共通するのは、新しいアイディアを組織内で生み出すことを通じ、組織全体の創発性を高めていく必要があるということだろう。同時にその難しさと意識して保護・育成しないとなかなか育たないという文脈も読み取れる。

「銀行では失敗してはいけないという文化がまだまだ強いが、徐々に変えようとしている。」(SMFG 中山氏)

「これまでITとビジネス側の人材が分かれていたが、今はITが直結してビジネスを変えることにつながろうとしている。自分自身、IT出身でマーケティングに異動したことが現在につながっている。人の力の融合を進めることが重要」(ANA 冨満氏)

これは、新たな環境や事例とのマッチングの中で従来の前提を柔軟に変化させながら、人や組織の持つ適応性を高めていかなくてはいけないということと理解できる。

「自動車の付加価値がハードからソフトに変化し、グーグル等異業種プレーヤーも出現する中、従来の戦い方は通用しなくなる。(中略)外と組んで加速すべきところはどこかなどを考えていく必要がある」(トヨタ自動車 鯉渕氏)

「IoTの取り組みを進める上での課題は意思決定。始めの段階では成果が見えない。重要なのは、まずやってみようという人で始めること。次に、ひとたび成果が出れば、成果が見える仕組みを作ること、3つ目は始めから大きな目標を立てないことだ」(オムロン 本条氏)

ゴールが見えない中でできるところから小さく始め、その小さな営みのPDCAを高速に回しながら持つべきゴールや答えるべき問いを研ぎ澄ます俊敏性が必要だということだろう。

このように、創発性、適応性、俊敏性こそ、これからのテクノベート時代で成長し続ける組織能力のキーワードだと言えるのではないだろうか。

テクノベート時代も成長し続ける組織を率いるリーダーの要件とは

テクノベート時代で戦うためには、過去のスキルと価値観からのシフトが迫られる。とりわけ、そのような変化を牽引するリーダーにはどのような要件が求められるだろうか。

グロービスの堀は、テクノロジーが引き起こす変化の時代を「乱世」にたとえ、そこで勝つためにはテクノロジーを武器とする「テクノベート人材」が必要であると語った。ただし、それはテクノロジーを専門とする人材という意味ではない。むしろ、テクノロジーが持つ経営への影響を理解し(テクノロジーの定石)、技術進化を前提に新たなビジネスモデルを描き(テクノロジーで競争優位を作る力)、自社の方向性を顧客や組織メンバーに正しく伝え、リーダーシップを発揮していく能力(テクノロジーを使ったコミュニケーション/リーダーシップ能力)が必要となるということだ。

AI時代の協創は、ビジネスモデルの戦いになる。日本企業は、従来の発想にはないビジネスモデルにもっと意識を向ける必要がある」(IGPI 川上氏)

「新しいことをやるには他部門の協力も必要。現場だけでなく1つ上のレイヤーで社内を調整し、かき回し、共感を作っていくプロセスを担うミドルマンがいると結果的に変わっていく」(ネットイヤー 佐々木氏)

テクノベート時代のリーダーは、複雑曖昧化する世界の中で方向性を見いだし、社内外の変化をリアルに認識し、広範囲な協働の中で、情報(エビデンス)に基づいたビジネスプロセスを進めながら、自分の裁量でリスクを取り、組織に健全なチャレンジを生み出していくことが求められる。

多くの企業で明文化されてきたリーダー人材の要件が根底から覆ることはないと考えられるが、それらに加えテクノロジー関連資質を備えた人材をテクノベート時代の新しいリーダー像として早急に見いだし、育成していくことが必要になるのではないだろうか。

CLOが考えるべき問い

さて、ここまでのレポートからどんな印象をもたれただろうか?
 「先端技術人材の確保?人事業務とテクノロジー?育成に紐づかない……」
 「実際のビジネスにどんな変化・影響をもたらすか、まだ見えない」
 「(要するに)一体何がどうなるの?」
などの疑問をもたれた方もいるかもしれない。

帝人の早川氏は「トップがやりたいことをよく聞いて、事業の話をよく聞いて、それを担える人材育成や採用を行うのが人事の役目。やることは従来と変わらない」と断言された。

それを受けてテクノベート時代を迎えるにあたり、まず考えるべきは前項のような知識・スキル・マインドを身につけた新しいリーダー像に見合った人物を見いだし、もしくは育成し、来るべき状況に備えるかということではないだろうか。さらには、昨今世界規模で難しくなっている先端技術人材の確保が必要になるかもしれない。また、現場の一人ひとりが広い視野と機動力を持つことも必要になるかもしれない。

いずれの人材がいつ、どのくらい必要か。それを考えるためには自社がどのようにテクノベート時代に向き合うのかを把握する必要がある。変化が大きな潮流となり、産業界に大きなインパクトを与えるのはまだこれから。それに備え、CLOとして考えるべきことは多いのではないだろうか。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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