育成失敗のサインと回避するマネジメントのコツを紹介
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澤田 菜月
「部下の育成に失敗してしまう原因は?失敗しているような気がして不安」
「部下の育成を成功させたい!いい方法はある?」
部下の育成は難しく「失敗したかもしれない」と感じたことがある方は多いのではないでしょうか?部下の育成が失敗してしまう大きな原因としては、次の3つがあります。
部下と円滑なコミュニケーションが取れていない、部下を育成する方法がわからないとなると、部下の育成は失敗しやすくなります。しかし失敗をしたとしてもすぐに気付いて軌道修正をすれば、問題はありません。
なぜ部下の育成に失敗をするのか原因を理解したうえで、成功するポイントを把握することが大切です。そこでこの記事では、部下の育成が失敗する原因や成功させるためのポイントをまとめて解説していきます。同時に部下の育成に失敗しているときのサインも確認ができます。
この記事を読むとわかること
- 部下の育成が失敗しているときのサイン
- 部下の育成に失敗する3つの大きな原因
- 部下の育成に失敗するとどうなる?
- 部下の育成を成功させるための6つのポイント
この記事を最後まで読めば部下の育成が失敗する原因が理解でき、失敗を回避しながら育成できるようになるはずです。大切な人材を育てるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
部下の育成が失敗しているときのサイン4つ
部下の育成が失敗しているときには、下記のような4つのサインで確認できます。
チェックポイントも用意しているので「部下の育成が失敗しているかもしれない」と気になっている方は、当てはまる項目がないか確認してみてください。
1-1 部下側からのコミュニケーションが減る
1つ目は、部下側からのコミュニケーションが減っているときです。職場でコミュニケーションを図る際に、一般的な社員は信頼性を重視している傾向があります。上司への信頼度が高ければ高いほどコミュニケーションが重要だと理解し、十分なコミュニケーションを図っています。
一方で、上司への信頼感や関係性が崩れると心理的安全性(自分の考えや気持ちを安心して発信できる環境であること)が確保できないと捉え、コミュニケーションを疎かにする傾向があります。
例えば、上司から頼まれた業務を行うときに不明な点が出てきたとします。信頼関係が築けていれば、部下側から連絡をして指示を仰ぐでしょう。しかし、何らかの理由があり「上司と連絡を取りたくない」「上司の意見を聞きたくない」と思っているならば、自ら連絡をすることはありません。
部下と円滑なコミュニケーションが取れないと育成が進まないのはもちろんのこと、双方の意見や考え方が理解しにくくなります。その結果、部下の育成の失敗へとつながってしまいます。
チェックポイント
- 部下から積極的に業務報告をして来ない
- 部下から業務の相談を受ける機会が減った
- 部下が自己判断で業務を進めるようになった
- 部下からコミュニケーションを図る機会が減った
(上司から連絡しないとコミュニケーションが取れない)
1-2 部下の現状を理解できていない
2つ目は、部下の現状を理解できていないときです。部下を育成するには現状を理解し、現状に応じたサポートや目標設定をする必要があります。
- 自分の業務が多忙で部下を放置しがち
- 部下の進捗状況や現状は自己申告としている
- 他の人(同僚など)に部下の育成を任せたままにしている
など、現状を理解できない状況では適切なサポートができず、失敗につながる可能性があります。
例えば、自分の業務が忙しく部下の進捗状況や現状を理解できていないとします。部下に適切な指示ができないため、業務の知識やスキルが身につくまでに時間を要します。
他の部署に部下の同僚がいる場合には現状を比較してしまい、モチベーションの低下や上司への不信感につながるかもしれません。
チェックポイント
- 部下の予定や進捗状況を把握していない
- 部下の課題を理解できていない
- 部下の業務習熟度をチェックできていない
1-3 部下のやる気やモチベーションが低下している
3つ目は、部下のやる気やモチベーションが低下しているときです。部下の育成が順調に進んでいればできる業務が増え、部下本人もやりがいや達成感を得られます。上司とも良好な関係を築くことができ「上司のためにも早く一人前になりたい」「上司のような社員になりたい」と奮起するでしょう。
しかし、部下の育成が失敗していると「Chapter2. 部下の育成に失敗する3つの大きな原因」で解説している原因により、モチベーションが低下しやる気が起こらなくなります。最悪の場合には、離職を検討することになるでしょう。
部下になった当時に比べるとモチベーションが低くなり、業務に対する積極性が見られなくなっている場合は、部下の育成方法を見直す必要があるでしょう。
チェックポイント
- 業務に対する積極性や主体性がなく上司の指示を待っている
- 業務外と業務中の表情や態度が異なる
- 最近、部下のやる気が見られない
- 最近、部下の口数が少なくなった
1-4 部下の知識やスキル、技術が向上しない
4つ目は部下の知識やスキル、技術が向上しないときです。仕事上で成長していくため、数か月~年単位で部下の変化が見られない場合には、アサインの方法やマネジメントがうまくいっていないと考えられます。
例えば、営業職の部下がいたには場合、部下の提案能力がいつまでも向上しない、提案に必要な知識を習得できていないなどです。部下の努力が足りない場合もありますが、努力しているのに身についていない場合にはマネジメントの見直しが必要です。
もちろん、業務で取り扱う内容によっては、すぐに成果を出したりすることが難しいケースもあります。この場合は、適宜スキルチェックやテストなどを実施し、知識やスキル、技術が備わっているか確認する機会を設けるようにしましょう。
チェックポイント
- 目標設定した当初と比較し知識やスキル、技術の向上が見られない
- 業務を通じた変化が部下に見られない
部下の育成に失敗する3つの大きな原因
部下の育成が失敗する原因は「コミュニケーション・マネジメント・配置や制度の問題」の3つに分けることができます。
部下の育成に失敗する3つの大きな原因 | |
コミュニケーションの問題 | 部下を放置する |
高圧的・威圧的な態度を取る | |
部下によって態度を変える | |
マネジメントの問題 | 部下の目標や課題を共有・可視化していない |
新しい仕事や責任のある仕事を任せない | |
成果に応じた適切なフィードバックが出来ていない | |
配置や制度の問題 | 適切な人材配置ができていない |
人事評価制度が明確ではない | |
研修や育成制度が整っていない |
なぜ部下の育成が失敗する原因となってしまうのか、具体的な例を踏まえて解説していきます。部下の育成が失敗したときには原因がわからないと改善できないため、参考にしてみてください。
2-1 コミュニケーションの問題
部下の育成に失敗する1つ目の問題は、コミュニケーションの問題です。
- 双方の意見や思いを汲み取る
- 業務の現状やスケジュールを報告する
- 業務内容を理解する、または理解できているか確認する
など、コミュニケーションは部下の育成を進めるうえで非常に重要な役割を果たします。だからこそ、円滑なコミュニケーションが取れないと部下の育成失敗に直結しやすくなります。
一般社団法人日本経済団体連合会が実施した「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、約半数の企業が人材育成時の個別のコミュニケーションを見直す必要があると回答しています。
参考:一般社団法人日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果」
部下の育成時のコミュニケーションでは、どのようなことが問題となるのか確認していきましょう。
2-1-1 部下を放置する
部下の育成ではコミュニケーションをとる以前に、部下を放置してしまうケースがあります。
- 上司の業務が忙しくて部下の育成が疎かになる
- 部下に指示や指摘を聞いてもらえないためどうしたらいいか分からずそのままにする
などが具体的な行動です。ここで押さえておきたいのは上司が部下を放置するつもりはなくても、部下が放置をされていると感じることが多いことです。
上司は「やっておいてください」という指示以外にも、業務の仕上がりの確認方法や期限などを含めて伝える必要があります。依頼された業務が終わった後の対応まで確認できていないと、部下はどうしたらいいのかわからなくなってしまいます。
上司側には放置したつもりはなくても、プロセスの途中での確認が一切ないと、不安が募り、放置されたと感じるようになるでしょう。
放置されたと感じてしまうと信頼関係が崩れ、コミュニケーションが取りにくくなります。上司への信頼感や安心感も薄れてしまうので結果として育成が失敗する原因となります。
2-1-2 高圧的・威圧的な態度を取る
部下の育成に失敗する上司の中には、部下とのコミュニケーションで高圧的な態度や威圧的な態度を取ることがあります。具体的には、下記のような行動が該当します。
- その日の感情によって意見や指示が異なる
- 部下の意見や話を最後まで聞かないで遮る
- 発言や指示が雑であることが多い
- 自分の意見が正しいと押し付ける
- 上司の言うことは絶対と捉えられる発言をする
- 自分の立場や権限を話して言うことを聞かせようとする
とくに、部下の話を最後まで聞かない、自分の意見を押し付けるというのは高圧的な態度を取る上司の特徴です。例えば、部下が業務の内容を質問したとしましょう。
部下:〇〇の部分をもう一度聞きたいのですが。
上司:何回目だと思っているの?他の社員は皆1回で覚えたよ。
部下:申し訳ありません。
上司:しっかりと話を聞いてないんじゃないの?普段の心構えが間違っているよ。
部下:申し訳ございません。
このように、部下を必要以上に責めたり周囲と比較するような発言をしたりすることがあります。高圧的なコミュニケーションを取られると、誰でもいい気分になりません。
上司と部下の関係では上司への不信感や恐怖心につながることも考えられるでしょう。その結果、部下のモチベーションが下がり、上司の話や指示を聞きたくないと感じるようになってしまいます。
2-1-3 部下によって態度を変える
部下によって態度を変える上司も、コミュニケーションに問題があると言えます。部下は上司の態度や接し方をよく見ています。自分だけ厳しくされている、自分にだけ素っ気ないなどと感じると、信頼関係は崩れてしまいます。とくに、下記のような行動を取ることは、好ましくありません。
- 業務の成績によって言動や態度を変える
- 直属の部下にだけ誰が見てもわかる程度に厳しく接する
例えば、成果の出ている部下にはフィードバックが甘く、成果の伴わない部下に対しては著しく厳しい指導をするようなケースが考えられます。上司としては業務の遂行・達成度合いで区別をしているという意図かもしれませんが、他の部下と異なる対応を受けた部下は「自分の態度が悪かったのかな?」「自分だけ嫌われているのか?」と不安になるでしょう。部下指導に一定の意図を込めることはあるでしょうが、部下に著しく不安や不信感を抱かせるようなコミュニケーションは上司と部下の意思疎通を阻害し、部下の育成失敗へとつながります。
2-2 マネジメントの問題
部下の育成に失敗する2つ目の問題は、マネジメントの問題です。部下を育成する上司にマネジメントする知識やスキルがないと、人材育成そのものが思ったように進みません。
厚生労働省が公表している「令和3年度能力開発基本調査」によると、事業所が抱える能力開発や人材育成の問題点として「指導する人材不足」が1位となっています。
その他にも「人材育成の方法がわからない」などが挙がっており、適切な人材育成指導のできる人材がいないことが問題視されていることがわかります。では、上司のマネジメント力不足はどのような点で表面化するのか、詳しく見ていきましょう。
2-2-1 部下の目標や課題を共有・可視化していない
マネジメントができていない上司は課題の抽出や目標設定を疎かにして、ただ業務内容を教える状態に陥っています。
部下の人材育成では、目標の設定や課題の抽出が重要だと考えられています。部下の課題が的確に理解できていないと、現状に応じた目標が設定できないからです。また、目標がないまま人材育成をしても、部下は何を目指せばいいのか分からず、形骸化された人材育成となってしまいます。
課題の抽出や目標設定ができていない上司には、下記のような特徴があります。
- 部下とコミュニケーションが取れていない
- 1on1やミーティングなどを実施していない
- 目標を立てて業務を行う習慣がない
- 当該チーム・部の目標の成り立ち・目的感について説明出来ない(「上が言っているから」など)
とくに課題の確認や目標設定を行うミーティングや1on1を実施していない場合は、部下も自分の現状や課題、目標が理解できていない状態となります。その結果、モチベーションの維持が難しくやりがいを感じにくくなり、人材育成の失敗へとつながります。
2-2-2 新しい仕事や責任のある仕事を任せない
マネジメント力が不足している上司は部下にチャレンジする機会を与えず、成長を阻むことがあります。初めてチャレンジする業務は、誰でも最初から上手に要領よく取り組めものではありません。実際に取り組んでコツを掴み、自分なりの手法や手順を習得していきます。
人材育成はゴールや目標に応じたチャレンジをして新たな知識やスキルを習得することが大切なのです。しかし、下記のような考えから、部下には簡単な業務やできる業務のみを任せるケースがあります。
- 部下に新しい業務を担当させると時間や手間がかかる
- 自分で業務をしたほうが早く終わる
- 部下に業務を任せてミスをされることが不安
その結果、部下の知識やスキルは現状維持となり、人材育成のゴールに達しないでしょう。
2-2-3 成果に応じた適切なフィードバックが出来ていない
上司は部下の成果に素早く反応し、具体的なフィードバックを提供することで、部下が自身の強みを理解する手助けをし、それをどのように活かせばよいかを学ばせることも重要です。しかし、上司によってはフィードバックが不定期で漠然としたり、時には全く提供されないといった、適切なフィードバックを実行出来ないことがあります。
例えば、プロジェクトの期限内に成果が出ない部下がいたとしましょう。上司はただ期限を延ばすのみで具体的な改善策やサポートを提供しません。この上司は部下の成果に対して何の言及もせず、部下は自身の働きについて適切な評価を得る機会を失います。
フィードバックの機会を得られない部下は、具体的に以下のようなことに見舞われるかもしれません。
- 部下はどの行動が評価され、どの行動が改善の余地を残しているのか区別がつかなくなる
- 部下のモチベーションの低下とともに、仕事の質も落ち始める
- 成長機会を失った部下は将来リーダーになる可能性を妨げられ、人材としてのポテンシャルが十分に発揮されない可能性がある
適切なフィードバックがなされないと職場内での学びの機会が制限され、個人の能力開発が停滞します。これは長期的に人材育成の失敗へとつながります。
2-3 配置や制度の問題
部下の育成に失敗する3つ目の問題は、配置や制度の問題です。
「2-1.コミュニケーションの問題」と「2-2.マネジメントの問題」は部下の育成に携わる上司の問題が大きいですが、制度や配置は企業の人事や評価制度などの問題点となります。
迅速な変更や改善が難しい部分ではありますが、どのような点が人材育成の失敗につながるのか確認してみましょう。
2-3-1 適切な人材配置ができていない
部下の知識や能力を生かせる人材配置ができていないと、人材育成に時間がかかったり思ったような成果が出なかったりすることがあります。
例えば、工具を使用する業務に携わっているとしましょう。未経験の社員と工具を使い慣れている社員とでは、後者のほうがスムーズに人材育成が進みます。もちろん本人のやる気や努力を加味する必要もありますが、企業の戦略や考え方と差がある場合には適切な人材配置を再考する必要があるでしょう。
また、人は誰でも得意不得意があります。不得意な業務が多い部署ではどうしても、知識やスキルの習得に時間がかかります。それだけでなく本人のモチベーションも維持しにくく、やる気や自信の喪失につながることも考えられます。
- 部下のスキルや経験、やる気をベースに人材配置ができていない
- 部下のスキルや経験などを数値化できていない
- 人事部と各部署の連携ができていない
という場合には、人材配置がネックとなり育成が失敗している可能性があります。
2-3-2 人事評価制度が明確ではない
人事評価制度が属人化しており、標準化された基準がない場合も部下の育成の失敗につながることがあります。「なぜ人事評価が人材育成の失敗に直結するの?」と感じる方もいるかもしれませんが、成長意欲の高い部下はどのような基準で評価をしているのか気になるところです。
例えば、将来は部長となり部署を引っ張っていきたいと考えている部下は
- どのような成績が昇進の基準になるのか
- どのようなスキルが必要なのか
- どのような姿勢が評価させるのか
など、部長になるための要件が気になるところです。このような部分が不明瞭だと、現状と目標の差が分からずゴールを見失います。また、年功序列や属人化された制度になっている場合は、どうせ評価されないとやる気を損なうきっかけになる可能性があります。
2-3-3 研修や育成制度が整っていない
企業によっては「人材育成は部下が自発的に取り組むもの」「部下は上司が育てるもの」だと考え、研修や育成制度を用意していないことがあります。
人材育成の手法は大きく分けると、OJTとOFF-JTの2つがあります。
手法 | 概要 | 例 |
---|---|---|
OJT | 職場での実践を通して人材育成を行う手法 | ・上司に同行して業務を覚える ・先輩か業務内容を教えてもらいながら業務を進める |
OFF-JT | 通常の業務や職場から離れて人材育成を行う手法 | ・新人研修リーダーシップ研修 ・eラーニング |
上司が部下を育成する手法は、OJTに該当します。実践的な知識やスキルを学ぶときに向いている手法ではありますが、OJTのみに頼っていると幅広い知識や階層別に必要な知識の習得が難しいです。
例えば、新入社員のビジネスマナーやセキュリティの知識の低さが課題になっている場合は、専門的な知識のある講師から直接学んだほうか育成の成果を得られるでしょう。
また、場合によっては部下側だけでなく人材育成を担当する上司のマネジメント力を向上する研修を実施すると、人材育成の成果が向上する可能性があります。
このように、人材育成は課題やゴールに応じて、さまざまな手法が検討できます。
- 部下の育成は上司に一任している
- 企業側で研修や育成制度を検討していない
という場合には、人材育成の成果を最大化できていない可能性があります。
部下の育成に失敗するとどうなる?
部下の育成に失敗していると感じた場合は、焦る必要はありません。いち早く失敗の原因に気付き「4.部下の育成を成功させるための6つのポイント」で紹介している内容を参考に軌道修正を行えば、現状を立て直すことができるでしょう。
問題なのは、部下の育成が失敗している状態を放置することです。部下の育成が失敗している状態を維持すると、下記のようなことが起こります。
- 優秀な人材が育たず企業の利益が減少する
- 部門・チーム全体のモチベーションややる気が低下する
- 離職者が増える
- 適切な人材教育を受けていない社員が将来的に教える側に立つ
とくに深刻なのは、企業の経営資本となる人材が育たないことです。自社の戦略を理解している人材が育たないため、自然と利益の減少につながります。また、やりがいや向上心を得にくくなり、優秀な人材の離職につながることも考えられるでしょう。
「1.部下の育成が失敗しているときのサイン」で触れた育成が失敗している予兆を捉え、いち早く軌道修正をすることが大切です。
部下の育成を成功させるための6つのポイント
部下の育成が失敗する原因が理解できたところで、成功に導くにはどのような点を意識したらいいのでしょうか?ここでは、部下の育成を成功させるためのポイントを6つご紹介します。
部下の育成を成功に導くために押さえておきたいポイントばかりなので、参考にしてみてください。
4-1 部下とのコミュニケーションを活発化する
まずは、部下の育成の要となるコミュニケーションを活発化させることが大切です。
「Chapter2. 部下の育成に失敗する3つの大きな原因」でも触れましたが円滑なコミュニケーションが取れないと、モチベーションや信頼関係が崩れます。場合によっては双方の意思の疎通ができず、大きなミスにつながることも考えられます。コミュニケーションを活発化するためには、次の2つのポイントを押さえてみてください。
①コミュニケーションを取る時間を創出する
意識的にコミュニケーションを取る時間を作らないと、コミュニケーションの活発化につながりません。下記のような手法を検討し、部下と上司がコミュニケーションを取る時間を創出しましょう。
手法 | 概要 |
---|---|
1on1 | 上司と部下が1対1で実施する個別面談のこと |
朝会・昼会の実施 | 朝やランチ時など部下と上司が集まりやすい時間帯にコミュニケーションを取る |
チャットツールの活用 | テキストベースのコミュニケーションツールを導入していつでも相談や報告ができるようにする |
1on1は上司と部下が1対1で実施する個別面談のことです。課題や目標、スケジュールの確認がしやすく、部下の状況を理解できます。出社時や昼食時にコミュニケーションが取れる場合は、朝会や昼会を実施し気軽に会話をすること検討できます。
②上司のコミュニケーション方法を改善する
一般社団法人日本経済団体連合会の「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、人材育成時のコミュニケーションの8割が上司とのコミュニケーションだとわかっています。つまり、上司とのコミュニケーションを最適化できれば、人材育成を成功に導きやすくなります。
部下とのコミュニケーションでは、下記のようなポイントを意識してみてください。
【部下とのコミュニケーションのポイント】
- 部下を意識的に褒めるようにする(部下の頑張りや取り組みを認める)
- 話しやすい雰囲気をつくる(威圧的な態度を取らない)
- 部下の話を最後まで聴く
- 人前でることはしない(できる限りネガティブな発言は避ける)
- 前向きに取り組むための提案をする
- 部下の悩みや課題は放置しないで一緒に考え解決策を見つける
とくに大切なのは部下の話を最後まで聞いて、頑張りや努力を褒めることです。例えば、業務の途中でつまずいてしまい遂行できなかった場合には「ここまでよく頑張ったね」「ここまで取り組むことも大変だったと思う」と、業務に取り組んだプロセスを認めます。
そのうえで部下の話を最後まで聞いて課題を見つけ、今後どのように解決していくのか話し合います。コミュニケーションは双方向のものであることを忘れず、部下がやる気を持てるような接し方を心がけてみてください。
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4-2 部下と上司は対等であることを忘れない
部下とのコミュニケーションを活発化するときに押さえておきたいのは、部下と上司は人として対等であることです。上司のほうが上だと思っていると「2-1-2.高圧的・威圧的な態度を取る」や「2-1-3.部下によって態度を変える」ことにつながります。
会社は組織である以上役職上では上下がついてしまいますが、人としての優劣や上下とは関係ありません。相互尊重をベースとして、言葉遣いや接し方を改めることが大切です。上司と部下が対等な関係となっている基準の一例としては、下記のような状態が該当します。
- 部下と上司が互いの顔色を見ないで言いたいことが言える
- 双方の意見を聞いて判断ができる
- どちらかが劣等感や不満を抱いていない
対等な関係では双方が気兼ねなく意見を言うことができ、円滑なコミュニケーションが取れるようになります。また、信頼関係も構築しやすくなるため、前向きに育成に取り組めるようになるでしょう。
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4-3 部下の「経験・能力・意欲」を把握する
続いて、部下への理解を深めることが大切です。部下の現状を正しく理解していないと、的外れの指導をすることになります。部下を理解するときには、「経験・能力・意欲」の3つの指標を確認しましょう。
部下の現状を理解する3つの要素 | |
---|---|
経験 | 社会人になるまでの経験 入社してからの経験 |
能力 | 部下の強みや得意なこと 部下が苦手とすること |
意欲 | 部下の業務に対するモチベーション |
例えば、業務を進行する速度が遅い部下がいたとします。業務経験が足りていないのか、モチベーションが低下しているのか、そもそも苦手な業務なのかによってサポートするべきことが変わります。
業務経験が足りない場合には速度が遅くても、できるまで見守ることができるでしょう。モチベーションが低下している場合にはコミュニケーションを取り、どこに原因があるのか理解することが大切です。
このように「経験・能力・意欲」の3つの指標で部下を理解し適切なサポートをすることで、育成の失敗を回避できます。
資料をダウンロードする:モチベーションマネジメントに必要な「3つの観点」
4-4 部下の課題や成長を可視化する
部下のモチベーションを維持し成長につなげるには、現状の課題や成長を可視化し共有することが大切です。本人だけでは、自身の成長を自覚できないことが多いです。毎日頑張って業務をしていても成長が実感できず、モチベーションが低下することもあります。
そのため、1on1や人事評価制度を活用し、上司と部下で成長を共有できるようにしましょう。1on1を重ねていくと、過去の課題や日々の取り組みの軌跡が蓄積されていきます。定期的に振り返ることで「〇〇ができるようになりましたたね」「〇〇の取り組みの成果ですね」など、成長を確認することが可能です。そのうえで、ワンランク上の課題や目標を設定すると、モチベーションアップにつながるでしょう。
また、上司側も部下の課題や成長を把握しておくことで、重点的に取り組むべきことや任せるべき業務が判断できるようになります。育成内容の精度が上がるため、育成を成功へと導きやすくなります。
4-5 部下を信頼して仕事を任せる
部下ができる業務が増えてきたら、思い切って仕事を任せるようにしましょう。もちろん初めのうちは手取り足取り教える必要がありますが、ある程度教えたら担当する業務を割り振ります。担当する業務が決まったら口出しをしないで、部下が自分で考え行動するように促します。
このときに業務を割り振り放置するのではなく、適切なサポートをすることが大切です。進捗を確認し業務が滞っている様子が見受けられた場合には「業務で難しいところはないですか?」と上司から声をかけてサポートをします。
自分で遂行できる業務が増えれば、部下の自信ややる気にもつながります。上司の業務を見ている、もしくは上司の手伝いをしている状態ではなく、積極的に業務を与えることを意識してみましょう。
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4-6 上司のマネジメント力を向上させる
部下を育成する基盤を整えても、上司にマネジメント力がなければ育成の成果が出にくいです。「2-2.マネジメントの問題」でも触れましたが、上司のマネジメント力は普段の業務ではなかなか養うことができません。
そこで、上司のマネジメント力不足を感じている場合には、育成に必要な知識やスキルを身につける研修を受講することが一般的です。研修ではマネジメント力の向上に必要な考え方や知識を身につけ、部下の育成時に役立てます。
なぜなら上司は役職が上がるほどマネジメント力を他者から指摘される機会は少ないため、本人では間違いや自分の考え方の偏り・癖に気づきにくいからです。他者からの客観的なフィードバックは貴重なため、外部のサービスを活用しての研修受講をおすすめします。
- 外部のサービスを活用してマネジメント力を鍛える研修を受講する
- マネジメント力に特化して講師を招いて講習を受ける
など、上司のマネジメント力の向上に特化した施策を実施してみるといいでしょう。
部下の育成につながる!リーダー育成の好事例
ここまで述べたように部下の育成が失敗する原因は多岐に渡りますが、部下を育成する上司にマネジメント力やリーダーシップ力があれば部下の知識やスキル、意欲を向上させることができます。つまり、部下の育成を成功させるには、同時に上司の育成が重要なのです。
しかし上司の育成といっても手法は多岐にわたります。
重要なことは、今自社で起きていることは何か、どんな状態が理想(ありたい姿)かを考え、それに到達するためには、どんな能力を付与すべきかを具体的に捉えることです。
先日筆者が遭遇したケースでは、上司が部下を育成することの重要性を理解していないというマインド面での課題が強い企業様でした。しかし、実際に行っている研修は“部下へわかりやすく伝える方法を強化するスキル研修”(コミュニケーション力研修)でした。解決すべき課題はマインド面なのに、打ち手がスキル面のみに留まっていれば、研修の成果は出ません。(事実、ご担当者様は成果が出ないと嘆いておられました。)
こうならないように、課題解決につながる育成施策を行いましょう。
グロービスでは、3300社以上の上司のマネジメント力やリーダーシップ力を向上させる育成施策を実施してきました。部下の育成につながる上司を育てる人材育成のプログラムの提供やサポートを行い、ノウハウを有しています。実際の事例として、2つご紹介します。
5-1 【相鉄ホールディングス株式会社】研修後、部下に思い切って仕事を任せるようになり、部下が今まで以上に自ら動いてくれるようになった
課題:自分が完璧なリーダーでなければならないと思うと、部下に対しても厳しい要求をしたり、細かい確認を求めたりしがちだった。
受講内容:リーダーは何でもできなければならないと思い込んでいたが、自分なりのリーダー像を目指せばよいことを学べた。
成果:自分の中でのあるべきリーダー像が変わったことで、部下との接し方も変えられた。受講を経て、メンバーと目標やゴールをすり合わせた後は思い切って任せる接し方を意識するようになった。メンバーは商談を担い、自分は会社側への説明責任を負うという役割分担も伝えると、部下が今まで以上に自ら動いてくれるようになった。
下記で詳しく解説していますので、参考にしてください。
導入事例を読む:相鉄ホールディングス株式会社 「『リーダーとはこうあるべき』という思い込みから脱却し、自分らしいリーダー像を目指して変化の激しい時代を歩む」
5-2 【コニカミノルタジャパン株式会社】一回り以上年の離れた部下にも、習得したファシリーテーションスキルでコミュニケーションが活性化した
課題:メンバーとは一回り以上年齢が離れているため、20代の頃の経験をそのまま伝えても、必ずしも活かせるとは限らない。部下をどうモチベートしてスキルを磨き、結果を出すべきか試行錯誤していた。心理的安全性が保たれていなければ、オンラインでは発言しづらく、実りある議論をして結論を出すのは難しい。
受講内容:ファシリテートのクラスでは理論を学び、多様なメンバーと限られた時間で合意形成をする実践ができた。会議の準備やロールプレイなど、実践に直結する内容だった。
成果:ファシリーテーションのクラスで学んだポイントを踏まえて、メンバーの考えに興味をもって耳を傾けると、どんどん意見が出てくるようになることを日々実感している。
下記で詳しく解説していますので、参考にしてください。
導入事例を読む:コニカミノルタジャパン株式会社様「GESでの学びを活用し、正解のない時代に立ち向かうために、メンバーの力を引き出すマネジメントを実践」
2つの事例以外にも、研修で他の人と議論することで「私はメンバーに権限委譲をしていたつもりでしたが、任せきれていない自分に気づきました。」といった声をいただいています。
部下の育成など上司としてのスキルを高めたいという場合には、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
ここまでの記述で、部下の育成が失敗する原因を理解し、成功に導けるようになったかと思います。最後にこの記事の内容を振り返ってみましょう。
〇部下の育成が失敗しているときのサインは次の4つ
- 部下側からのコミュニケーションが減る
- 部下の現状が理解できていない
- 部下のやる気やモチベーションが低下している
- 部下の知識やスキル、技術が向上しない
〇部下の育成が失敗する3大原因は次のとおり
- コミュニケーションの問題
- マネジメントの問題
- 配置や制度の問題
〇部下の育成を成功させるポイントは次の6つ
- 部下とのコミュニケーションを活発化する
- 部下と上司は対等であることを忘れない
- 部下の「経験・能力・意欲」を把握する
- 部下の課題や成長を可視化する
- 部下を信頼して仕事を任せる
- 上司のマネジメント力を向上させる
部下育成に失敗した・失敗したかもと感じたら焦らずに原因を突き止め、改善していくことが大切です。また、部下の育成には上司のマネジメント力が欠かせません。
グロービスでは人材育成の課題に応じた施策を提案、提供していますのでお気軽にお問い合わせください。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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