日本企業の人事を変える3つのキーワード
SHRM2018の注目テーマ~ハイトラストカルチャーとは?~

2018.11.14

環境変化のスピードが加速する時代、企業組織のあり方もまた変革を迫られている。日本企業においても、「グローバル化」「働き方改革」等、多様な人材が活躍する組織への変革が急がれる。本コラムでは、米国で開催された人事向けカンファレンスで注目され、日本企業の組織変革において重要なキーワードを3回シリーズでご紹介する。1回めのキーワードは「ハイトラストカルチャー」だ。

執筆者プロフィール
葛山 智子 | Tomoko Katsurayama
葛山 智子
グロービス アジアパシフィック/グロービス タイランド ディレクター

大学院卒業後、ナイキ・ジャパンを経て、アマゾン・ジャパンにて​スポーツ用品部門​事業などに参画。その間、マーケティング戦略、販売戦略の立案と実施、マーチャンダイジング、部門オペレーション等に携わる。その後、外資系コンサルティング会社で小売業界を中心に新規事業戦略立案等のコンサルティング活動に従事する。
グロービスでは、経営戦略・マーケティング領域の研究・プログラム開発に携わると共に、G1グローバル などの世界会議の立ち上げ・運営を行う。また、グロービス経営大学院では日本語・英語プログラムで登壇すると共に、グローバル、戦略・マーケティングを中心に企業研修も多数実施。現在は、シンガポール・タイを拠点として、ASEAN地域の 人材育成事業を推進する。名古屋大学教育学部卒業、オハイオ大学経営大学院修士課程(MBA)、同大学院スポーツ健康学部スポーツマネジメント修士課程(MSA)修了


世界最大級の人事関係者組織:SHRM

2018年6月17-20日の4日間、米国シカゴにて世界最大級の人事関係者組織“Society for Human Resource Management”(以下SHRMと表記)のアニュアルカンファレンスが開催された。グロービスからは3人が参加した。

SHRMは、300,000人の会員組織で、米国を中心に活動をしており、米国以外には、中国、ドバイ、インド(ムンバイ)の3か所にオフィスを構えている。海外展開にも力を入れており、今年のカンファレンス参加者17,000名のうち、海外からの参加者は90カ国1,400名となった。

アメリカの人事部スタッフに向けたカンファレンスのため、人事担当者のモチベーションをあげることを最大の目的にしていた印象で、セミナーの内容を見ても人事スタッフトレーニング的な位置付けのセッションも多く、ペイロールやコンプライアンスから、コーチング的なセッションまでをカバーする。


SHRM2018の注目テーマ

2018年のアメリカの人事関連トピックの中には、AI・ロボティックスの効果・影響なども含まれたが、今回の会議でフォーカスされたテーマとしては以下の通りである。

多くの人が近いうちに現在の職業とは全く違う職業に就く日が来るその将来に向けてどのように準備をしていくべきか


ダイバーシティー(人種や性差だけではなく、世代の違い、教育レベルの違いを含む)が最優先事項になる中で、どのようなトランスフォーメーションが必要か


さまざまな環境変化が起きている中で、HRはどのような役割を果たしていくべきか。特に、リモートワーク等が導入されている一方、人間的つながりや、信頼をベースにした組織文化の醸成、それに紐づく従業員のエンゲージメントはどのように高めていくべきか


今回、SHRM2018で取り上げられたテーマの中で日本の人事の皆さんに示唆深いと思われることを「ハイトラストカルチャー」「エンゲージメントと人間中心主義」そして「戦略人事」の3つの視点に絞り、お届けしようと思う。

第1回はハイトラストカルチャーで組織の競争優位性を作るという考え方を紹介する。


トラストカルチャーを構築している組織はパフォーマンスが高い!

SHRM2018では、トラストカルチャーを構築している組織は、エンゲージメントが高いだけではなく、パフォーマンスが高いというデータが示されていた。つまり、良い組織文化というのは、パフォーマンスにつながるということである。それだけでなく、トラストカルチャーは 社員のストレスが低く、仕事にエネルギッシュで、疲弊社員が少ないとのこと。企業のパフォーマンスとトラストカルチャーの関連性があることから、トラストカルチャーの構築が最終的には企業の競争優位にもつながり、戦略の実行上重要な役割を果たすと言えるだろう。

昨今「エンゲージメント調査」を実施している企業も多いと思うが、エンゲージメントが高いこと自体が重要なのではなく、エンゲージメントの高さが組織のパフォーマンスに結びつくことが最も重要であり、そのためには「トラストカルチャー」の構築がカギになると言えよう。


トラストカルチャー構築のカギは、Culture FitではなくCulture Contribution

それでは、「トラストカルチャー」の構築で最も重要なことは何だろうか? 

トラストカルチャーの提唱者で『Give and Take: 与える人」こそ成功する時代』の著者アダム・グラント氏によると、正しい人を採用することからトラストカルチャーの構築は始まるという。これは、多くの方々が共感するコンセプトである、「ビジョナリー・カンパニー2」の「誰をバスに乗せるか」という概念とも共通する部分が伺える。

そして、ここからが面白い。

採用すべきは、“Culture Fit”する人ではないというのだ。多くの企業は組織文化に合う候補者を探していたのではないだろうか。グラント氏によると、採用すべきは、“Culture Contributor”であるいう。

カルチャーに合っていることが重要なのではなく、カルチャー構築に貢献できる能力を持つ人かどうかが重要であるという概念は多くの人にとって新しい発見ではないだろうか。


トラストカルチャーの構築に貢献する力とは?

そもそも組織文化とはどのようなものだろうか? 

ここでは、組織文化を以下のように定義する。組織文化とは、組織の構成員が共有している価値観、信念、思い込み、およびそれらを反映した行動様式、行動規範などの集合体。企業の盛衰を左右する大きな要素の1つで、組織文化は企業の構成員のものの見方(知覚と思考)と行動を規定する。

つまり、トラストカルチャーの構築に貢献する力の1つとは、組織が永続的に勝ち続けられるための判断軸や考え方をしっかりと持つことができる力なのではないだろうか。

それはつまり、経営の基本概念の理解、基本概念を理解し考え決断する力、そして周囲を巻き込み実行する力の3つであるともいえるだろう。トラストカルチャーとは、ただ単に仲の良い組織文化ではなく、これらの力をフル活用し組織全体に「貢献意識・貢献意義」を高めることができている文化であるのかもしれない。

社員エンゲージメントを高め、組織の活動に活かしていくこと、そしてそれを競争優位につなげることは、決してたやすい取り組みではない。しかし、この活動に関与するリーダーを増やし、そのリーダーの経営スキル・マインドを高め、一歩ずつ進んでいくことこそ重要なことであろう。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。