将来を創るハイ・ポテンシャル人材を如何に発掘し引き上げるか?

公開日
テーマ
  • アセスメント
  • グローバル人材育成
  • 次世代リーダー育成
執筆者
  • グロービス コーポレート エデュケーションのプロフィール

    グロービス コーポレート エデュケーション

去る2017年2月8日、「将来を創るハイ・ポテンシャル人材を如何に発掘し引き上げるか?~ハイ・パフォーマー中心の人材管理からのシフト~」 と題したカンファレンスを開催いたしました。グローバル・タレントマネジメントの設計・推進におけるポイントや運用上の工夫、現在の課題についてSAPジャパン様・アシックス様よりご講演いただきました。

■開催日時:2017年2月8日(水)14時~17時
■会 場:グロービス経営大学院東京校(大阪校と中継)
■主 催:株式会社グロービス コーポレート・エデュケーション
■ご来場者数:約130名 

当日のスケジュール

ご講演とパネルディスカッションという構成で実施いたしました。

14:05 オープニングノート:西 恵一郎(株式会社グロービス マネジング・ディレクター)
14:15 ご講演①:南 和気様(SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューション部長)
15:00 ご講演②:中野 修様(株式会社アシックス グローバル人事総務統括部 人財開発部長)
15:30 コーヒーブレイク
15:45 パネル・ディスカッション:SAPジャパン様×アシックス様×グロービス
16:45 名刺/情報交換会

オープニングノート

スピーカー:西 恵一郎(グロービス マネジング・ディレクター)

■概要
グロービス法人部門代表で、モデレーターを務める西より、カンファレンス開催に至った問題意識をお伝えするとともに、ご講演者のSAPジャパン様・アシックス様をご紹介させていただきました。

■内容
・本日のテーマは、「将来を創るハイポテンシャル人材をいかに発掘し、引き上げるか」。昨今、育成の枠を超えたご相談をいただくことが増えている。企業人事の皆さまにとって、将来を牽引できる人材をいかに見つけ、育成して、活かしていくか、考えるべき範囲は広い。

・日本企業が直面する課題として3点取り上げたい。①日本市場の相対的位置づけが低下し、主戦場は海外になる。特にアジアでどう勝っていくのか。②企業の人員構成が「砂時計型」になり、成長の中核を担う40歳前後の人材が不足している。若手を抜擢するか、海外から人材を発掘するかが必要になってくる。③AI等の技術進化により見える化が加速する中、テクノロジーを駆使していかに人事業務のパフォーマンスをあげていくかが求められてくる。このような課題の中、現在のハイパフォーマー人材だけでなく将来成果を出せるハイポテンシャル人材の見極め・登用がますます重要になってくる。

・このような経営環境と人事が直面する課題に対し、SAPジャパン様、アシックス様よりどう向き合い、チャレンジしていくかをお話しいただく。

SAPジャパン様 ご講演(抜粋)

スピーカー:南 和気様(SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューション部長)

■2倍の事業成長という経営目標にコミットした人事改革
2010年人事の挑戦が本格的にスタートした。その改革に関わった経験を苦労話含めてご共有させていただきたい。

■「全員がタレント」という考え方のもと、シンプルな運用へ
約8万人の全従業員を共通の2軸「パフォーマンス」と「ポテンシャル」で評価する。次世代を担う「Fast Tracker」と呼ばれる集団を毎年選抜し、グローバルリーダーへの経験を積んでもらう。「パフォーマンス」は仕事の成果を5段階評価で見ており、「ポテンシャル」は当初コンピテンシーで評価したが、評価がバラつき、コンピテンシーは複雑すぎたという結論に至った。翌年、もっとシンプルに変えた。「Growth(今の仕事を普通にできる)」「Accelerated(今この時点で1つ上の役職ができる)」「Fast Track(1つ上のポジションで違う事業or地域or職種でもできる」という3象限だ。このやり方で「Fast Tracker」として5%程度(4,000人)を認定し、鍛え、新しい事業領域やマーケットに配置している。

■毎年誰にでもチャンスがあり、断ってもキャリアが終わるわけではない
選抜は不公平が出るのでは?というご指摘もいただくが、「Fast Tracker」は毎年入れ替わるので、チャンスは誰にでもあり、およそ30%程度が入れ替わる。 「Fast Tracker」の通知は本人と上司にしかわからないようにしている。あくまで本人の希望が前提で、希望しないという選択肢もある。専門職や、国に根差して頑張るキャリアもあり、キャリアパスを複線化し、本人の希望と会社の意図を合わせることが重要だ。

■ダイバーシティへのチャレンジ。若手から経営者を輩出する
ジェンダーはもちろんだが、ジェネレーションはもっと重視している。できれば40代でグローバルのCEOを輩出したい。これまで35歳のCOO、31歳のCIO、39歳の日本CEOを輩出することができた。皆、一気にこのポジションに来たわけではなく、若い間にチャンスを与えられ、積極的にチャレンジし、結果を出してきた。40代でグローバルCEOとして輩出するにはスピードが重要だ。本当に早い段階で人を見出さなければならない。

■難しさを前提としたリモートマネジメント
グローバル組織をつくると、リモートマネジメントは避けられない。顔を合わせない中で、いかに部下の考え方やその国の文化を電話で理解するか、評価する/されるか。このようなマネジメントを想定し多様性を理解し経験を積むことが必要だ。

■次のチャレンジは人事評価の正当性
我々は人事評価が正しくできているだろうか。例えば、弊社は5段階評価で見ているが、原資配分の観点から3が多くなる。しかし3.9と3.1は同じと考えてよいものか?そこで1年に1度ではなく、年間を通じて継続にフィードバックを重ね、育成に重点を置いたレビューを行うものとした。また、3.9と3.1の違いを出した上で、優秀な人材を選ぶ評価制度を新たに導入しようとしている。昨年パイロット的に社員の一部に導入し、今年全社員に導入する。

■2010年からの人事改革を通じて学んだことは
– 改革は小さく始め、フィードバックを得て改善して広げることが大事である
– IT自体は道具に過ぎない。ただ、人材育成を効果的に進めるためには、唯一の武器となる
– 改革は「人事プロジェクト」と位置付けるのではなく、ビジネスの推進に不可欠な「経営プロジェクト」である。経営戦略と人事のアラインは必須だ
– 人はすぐに育たない。時間がかかることを織り込んで施策を考えることが大事

アシックス様 ご講演(抜粋) 

スピーカー:中野 修様(株式会社アシックス グローバル人事総務統括部 人財開発部長)

■売上の8割が海外。グローバル人財育成は喫緊のテーマ
これまで国内中心のビジネス展開をしてきたが、ここ数年で海外の売上が伸び、今やグローバルでの売上が8割をしめている。人事としても、海外展開を担っていく必要がある。特に、グローバルで活躍する人財と海外で事業を担う外国人の採用をいかに行っていくか。ダイバーシティを加速しながら、ビジネスの中でどう人を育てていくかが重要なテーマになっている。

■ビジネスの中でラーニングし、スキルを高めていくことが基本
教育は、日本の多くの企業は「研修」という名を使っているように、「レクチャー」して学ぶことが主眼になりがちだ。でも重要なのは「ビジネスに勝つためにどうやって使っていくか」に視点をあてることだ。スキルの7割がOJTで育成されるので、いかにそのスキルを深めていくか、ラーニングしてビジネスに取り組んでいくのか、という観点で人財開発・育成を設計している。

■人財育成カルチャーを醸成しつつ、マネジメントの質を高める
複雑なコンピテンシーをシンプルにし、成果を数値に置き換えたKPI評価を導入した。このような評価の仕組みを通じて、管理職のマネジメントの質を高め、人財育成カルチャーを醸成していきたい。人が変わるには、時間がかかるものだ。変化対応には3年かかると想定している。1年目で人に興味、理解し、評価の仕方を覚えてもらい、2年目に試してみて納得してもらう、3年目に自ら実践していく、というステップだ。

■部門と協働したグローバル人財育成
グローバル規模での視点をもった人財育成にも注力している。昨年からグローバルプログラム「アシックス・アカデミー」をスタートさせた。メンバー選出時は、各統括部長と綿密に擦り合わせを行う。ダイバーシティや評価の視点をもちつつ、研修のサポートを担ってもらう。重要なのは、「育てる」ことに焦点をあて人選することだ。統括部長と本人が中長期の育成プランをつくり、次のキャリアについて議論・対話を行っている。プログラムにおける自社課題報告会では、経営側のフィードバックは厳しい。しかし、次に自分がビジネス展開するときの参考になるため、貴重な学びの機会だと思っている。将来の会社を背負う人財として自律し、当事者意識を持っていくこと、高いキャリアプランを描き実行していくことを目指した人財育成の重要な位置づけとしている。

■グローバルポジションへの配置に向けた準備
ビジョンや戦略、変革に果敢に挑戦する人財開発にも注力している。ビジネスのスピード、変化に対応できる人財を計画的に輩出していかなければならない。誰がどのようなコンピテンシーをもって成果をだしているのか、今は国内が中心のため、今後はグローバルレベルで可視化して議論し、ポジションの準備をしていきたい。

■対話を通じて意識改革にチャレンジする
このような変革を組織で進める上では、壁もある。いかに影響力の高い人を巻き込んで、納得してもらうか、仕組みやシステムのみならず、丁寧に対話を重ねて地道に取り組んでいる。個々人の意識を変えていくというチャレンジは、道半ばだが、しっかりと向き合っていきたい。

パネルディスカッション(抜粋)

パネリスト: 
南 和気様(SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューション部長)
中野 修様(株式会社アシックス グローバル人事総務統括部 人財開発部長)

モデレーター:
西 恵一郎(株式会社グロービス マネジング・ディレクター)

■人事は経営や事業戦略との連動が必須であり最重要
西:変革を進める中で、高い壁を挙げるとすると何か?

南様:経営とのアラインに尽きる。人事の戦略は結果が出るまでに時間がかかる。一方で、経営は短期的な結果を求める傾向にある。ここをいかに擦り合わせるか。

中野様:日本の人事はオペレーションから着手する傾向がある。ビジネスプランを描く領域を経験しておくことが大事。このようなキャリアパスをいかに描くかが大事であり日本企業の課題ではないか。

南様:現場のマネジメントと人事との距離がまだまだ遠い。人事だけでやろうとせずに、現場で人事の取組に理解のあるマネジメントを巻き込んで進めるとよい。

中野様:人を育てるのには時間を要する。中期的な視点を持って育てるというカルチャーをいかに醸成するか。様々な角度で議論し、ハイポテンシャルをいかに見出していくかが課題だ。

■重視するコンピテンシーは“構想力”
西:SAPさんは、コンピテンシーはないというお話だったが、南さん個人として、Fast Trackerで重視する評価軸は何か?

南様:個人的には4つある。1つは、ストラテジー。今ではなく未来がどう見えているかどうか。2つ目は、人を巻き込むコミュニケーション力。1人でイノベーションは絶対起こせない。3つ目はやり切るエグゼキューション力。最後は、もっているキャラクター。

西:4つの中であえて選ぶとしたら何ですか?

南様:圧倒的にストラテジー。リーダーは未来が見えていないとダメだと思う。

西:我々もアセスメントをする際に、構想力(=未来をみる力)は特に重視する項目だ。もう1つは、志。皆さんでいうと主体性と同根だと認識している。

■ラーニングできないと結果は出せない
西:アシックスさんは、コンピテンシーを元に運営される中、ラーニング重視とされている意図は?

中野様:コンピテンシーをいくら評価に使おうと、結局は結果を出せないと、現場では通用しないし上にもあがれない。結果を出すにはラーニングが必要だ。中長期的に戦略と変革、多様性に着目できるかが大事。だんだんスペシャリストになってくるので人を見る力も大事。これをコンピテンシーの中で見られることが必要だ。

西:最近、学習する力、ラーナビリティが重要になっている。我々も結局は育成を通じて、「学び続けなければならないことにいかに気づいてもらうか」を重視している。幹部人材育成では特に気づく力が重要だと考えている。

■最後にご登壇者より一言
中野様:人を育てることは難しい。だからこそ、中長期で戦える人をしかるべき時期に信念を持って選んでいかなければいかない。ビジネスの目線を持ちながら客観視してハイポテンシャル人材を選んで育てる。それが人事の責務だ。

南様:人は1年2年で育たない。色んな経験やチャレンジを通じて初めて育つ。これは本質的には変わらない。だからこそ 5年10年続けていける仕組みを考えてほしい。どんな美しい制度を描いても続かなければ形骸化する。丁寧にやれば必ず人は育つ。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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