人的資本経営とは?
成功の4ステップと実践事例をわかりやすく解説
人的資本経営って、分かるようで分からない…こう感じたことはないでしょうか?
人的資本経営とは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」のことです(経済産業省定義)。要するに、投資対効果を意識した人材投資を戦略的に行うことで、企業価値向上に繋げる経営手法と言えます。
(出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」、2024年3月確認)
人的資本経営が難しく感じてしまう要因のひとつは、その方法論がまだ十分に確立していないからでしょう。経済産業省や伊藤レポートが示す方向性は一つの指針にはなりますが、最終的には自社なりのアプローチを模索することが求められています。
つまり、現時点では「唯一絶対の正解」は存在しないのです。
ただ、人的資本経営は、全く新しいことを求められているわけでもありません。「人材こそが企業の成長を支える」という、これまで大切にしてきた本質的な考え方は同じです。ただ、「人材ポートフォリオ」「リスキリング」「エンゲージメント」など、さまざまな要素間の関係性が見えにくかったり、各要素と売上・利益といった業績との関係性が示しにくかったり、新たに人的資本の情報開示が求められていることで、理解するのが難しく感じられるだけなのです。
しかし、心配は無用です。「何から始めればいいのかも分からない」という方のために、このコラムではこれまで約6,700社の人材育成を支援してきたグロービスの経験を活かして、人的資本経営の基本をわかりやすく解説します。難しい専門用語は極力避け、図表やイラストも活用しているので、安心して読み進めてください。
また、本コラムは人材育成担当者の方々に対しても、人材育成企画や研修企画を立てる際に知っておきたい視点を提供しています。特に、人的資本経営を推進する上でのポイント(第6章)、企業を取り巻くステークホルダー別のアクション(第8章)は、人材育成施策を実行するときに関係してきます。これらの視点を押さえておけば、具体的な施策を進める際の参考になるでしょう。
皆さんの会社の人・組織の力を最大限引き出すために、自社に合ったアプローチを一緒に探していきましょう。
フェロー
早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築や商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。その後、グロービスの企業研修部門にて組織開発、リーダー育成を通じた多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を経て、コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクターとして事業責任者を務める。
現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーションのフェローとして、グローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングの講師を担当する。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。また、富士通株式会社のCEO室Co-Headとして、全社経営戦略を担う。
システムインテグレーターを経てグロービスに参画。法人向け人材育成・組織開発コンサルタント、定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」の事業開発担当マネージャーを経験。
現在はグロービス経営大学院教員として、ビジネススクールや法人研修で論理思考・人事組織系科目の教鞭を執る他、教育プログラム開発も担う。また、テックカンパニーの取締役 最高人事責任者(CHRO)、経済メディアNewsPicksのトピックスオーナーも務める。大阪大学卒業、グロービス経営大学院修了(成績優秀者表彰)
人的資本経営とは「投資対効果を意識した人材投資を戦略的に行うことで、
企業価値向上に繋げる経営手法」
人的資本経営とは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、
中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」のことです(経済産業省定義)。
要するに、投資対効果を意識した人材投資を戦略的に行うことで、
企業価値向上に繋げる経営手法と言えます。
さて、この定義を初めて見た方は、「私たちはこれまでも人を大切にしてきた。いったい何が違うのだろうか?」と疑問に思うかもしれません。確かに、人的資本経営は日本の企業が重んじてきた「人を大切にする経営」の観点も含んでいます。
根本的な違いは、人材を「資本」として捉えるという視点にあります。すなわち、資本である以上、投資と同じようにリターンを期待する合理的な考え方が求められるということです。
人事の現場では、採用から研修、エンゲージメント調査に至るまで、多様な投資が行われています。具体的には、採用であれば広告費やセミナー会場費、研修であれば外部委託費用の他にも、受講者の時間や会場への交通費、場合によっては宿泊費などがかかります。
人的資本経営では、このように投じた全ての資金や労力に対する効果を示すことが求められます。実際には施策の準備工数や機会損失なども含めて評価するのは難しいものの、理想的には、投じた資金や労力に対するリターンを論理的かつ定量的に導き出すことが求められています。
このような考え方の転換は、人材や組織に対して様々な変革を求めることになります。その変革の方向性として、2020年版の伊藤レポートでは、従来の経営と「人的資本経営」の違いを示す対比図を提示しています。
この図から読み取れるメッセージは、人材をコストではなく投資対象と捉え、経営層が主体的にイニシアチブを握り、投資家や従業員と積極的に対話しながら、企業と従業員が相互に選び、選ばれる関係性を構築し、共に成長を目指す姿勢が重要であるということです。
企業価値とは、その企業が将来にわたって生みだすお金の「現在」の価値の総和を指します。
企業というのは、さまざまな投資プロジェクトの集まりと考えることができます。したがって、それぞれの投資プロジェクトが将来、どれぐらいの お金を生み出すかを計算し、合計することで企業価値を算出することができます。
こうした企業価値は、財務資本(財務諸表上に表されている=見える資産:現金、設備、株式など)と非財務資本(財務諸表上に表されていない=見えない資産:ブランド、特許、人材など) の合計で考えることができます。このうち、人的資本を含む非財務資本は、企業の将来の価値を大きく左右するものと認識され始めています。そのため、投資家やステークホルダーは、財務情報だけでなく、非財務情報も重視するようになってきているのです。
人的資本経営が目指すものは財務インパクト
では、こうした人材・組織変革の先に、人的資本経営が目指すものは何でしょうか。
結論から言えば、それは「財務インパクト」です。財務インパクトとは、企業の活動や意思決定が財務状況に与える影響のことを指します。
企業が人的資本への投資を通じて、個々の資質や能力を最大限引き出すことができれば、組織全体として価値を生み出す力へと転換させることができるでしょう。それらの成果はめぐりめぐって、売上や利益などの向上といった、企業の財務状況にポジティブな影響をもたらすことが期待できます。つまり、人的資本経営は個人の成長を組織全体の成長に繋げ、企業価値向上を実現しようとする取り組みなのです。
2-1 そもそも人的資本はどういう性質のものか
さてここで、投資対象である「人的資本」への理解も深めておきましょう。
しばしば引用されるOECDの定義では、人的資本とは「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」と定義されています。企業経営においては、企業の価値創出を生む元手であり、従業員の資質や能力などと言えるでしょう。
(出所:OECD (2001), The Well-being of Nations: The Role of Human and Social Capital, OECD Publishing, Paris.)
こうした人的資本の性質のひとつとして押さえておきたいのは、非常に流動性が高い無形資産であるという点です。したがって、こうした資本を活用できるのは、それら人材と雇用契約を結んでいる期間だけであり、人的資本が失われないように、企業としてはその資本を組織知として活用できる状態にしておく努力が必要です。
このことを示す事例のひとつに、2019年の米国Appleの最高デザイン責任者、ジョナサン・アイブ氏の退職が挙げられます。彼はiMac、iPod、iPhoneなどのヒット商品を手がけたデザイナーですが、彼の退職報道が出たことで、Appleの時価総額が1兆円も目減りしたのです。もちろん、株価が暴落した要因は他にもあるでしょうが、個人が有する人的資本が失われたことが、企業価値にどれほど影響を及ぼすかが理解できるエピソードでしょう。
ただし、これはわかりやすい事例の一つで、多くの従業員が持つ人的資本は、対外的に識別可能な資本として示すことは難しいでしょう。一方で、企業価値に影響を及ぼすものである以上、投資家は出来る限り、その実態を知っておきたいと考えています。そのため、現状では情報開示において、財務諸表以外の情報(非財務情報)として発信することが求められているのです。
2-2 財務インパクトをどう示せば良いか
では、こうした性質を持つ人的資本経営への投資により、企業が得られる効果をどう示すと良いのでしょうか。
経営の取り組みである以上、その成果は何らかの形で投資家に示す必要があります。しかし、その成果を財務諸表などの数字で表現することは極めて困難です。ただ、直接的な因果関係が明確でなくとも、投資によるリターンがあったことを示すために、相関関係を用いることはできるでしょう。
その事例のひとつに、富士通株式会社の取り組みが参考になります。同社では、人的資本関連データと業績と相関関係を分析し、どのような取り組みが売上高や営業損益に影響を与えているのかを明らかにしています。現実的には、ここまで詳細に分析し、その結果を公開することは難しいかもしれません。しかし、投資対効果を示す方法として、このような取り組みは有益なヒントとなるものと考えています。
人的資本経営の背景となる4つの視点
人的資本経営が注目される背景も見ておきましょう。
こうした動きが加速したきっかけとしては、2018年に国際標準化機構(ISO)が公開した人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」や、2020年に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に義務化した「人的資本の情報開示」が挙げられます。日本でも2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されています。
こうした動きを押さえておくことに加え、これら背後にある社会環境の変化も把握しておくことも大切です。視点としては大きく4つです。
01.社会的視点
02.金融的視点
03.戦略的視点
04.世代価値観の視点
3-1 社会的視点:サステナビリティ、ウェルビーイングに企業の経営方針がシフトしてきた
ESGや持続的な社会作りへの関心は、ますます高まっています。その動きにより、株主資本主義からステークホルダー資本主義へと、ビジネスのあり方も変化を続けています。株主に対する利益の最大化を狙うのではなく、ステークホルダーとの関係性を長期的に良好に保つことが重要だ、との認識に変わってきました。
3-2 金融的視点:人的資本に関する情報は、投資判断としても有用な情報となっている
企業価値の源泉が徐々に、財務資本から非財務資本へと移行しているため、投資家の投資判断においても、非財務資本の評価を重視する傾向にあります。この動きは欧州ではサステナビリティ報告基準として、また、米国では財務報告書での人的資本開示の義務化が進んでいます。日本では、現内閣の経済政策でもある「新しい資本主義」=人に対する投資を促進することによって、日本の企業の成長を後押ししたいという政策にあると考えられます。
3-3 戦略的視点:持続成長、イノベーション創出に向け、「個々の能力向上」と「能力発揮しやすい環境づくり」が重要になっている
産業の転換が頻繁に起こる現代において、イノベーションの創出がますます重要になります。イノベーションを生み出すには、既存の要素を新しく組み合わせることで新たな価値を生み出すことが重要です。人的資本経営においても、多様な人材が持つ知識や経験を組み合わせることでイノベーションが生まれることが期待されています。
3-4 世代価値観の視点:新しい世代の支持を得ることが急務になっている
企業が永続的に成長し続けるためには、新しい世代の価値観を理解し、その人材を獲得する必要があります。将来の柱となる新しい世代(Z世代やα世代)は、SDGsなどの社会貢献活動に対する強い関心を持っています。こうした人材を獲得するためには、こうした世代が支持する社会的・倫理的な価値観も経営に取り入れなければなりません。
人的資本経営に取り組む6つのメリット
ここまでの内容を踏まえると、人的資本経営は、従業員を単なる労働力ではなく、価値創造の源泉として捉え、人材投資を戦略的に行う経営手法であることがわかるでしょう。こうした取り組みは企業に6つのメリットをもたらします。
6つのメリットを、経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」の観点から見てみましょう。
01. ヒト
4-1従業員エンゲージメント向上
4-2優秀な人材の確保
02.モノ
4-3生産性の向上
4-4イノベーション創出
4-5ブランド価値向上
03.カネ
4-6投資家からの評価
4-1 従業員エンゲージメント向上
従業員が自身の能力を最大限に発揮できるようになれば、自らの貢献を実感でき、モチベーションやコミットメントが高まることでしょう。このような高いエンゲージメントは、結果的に企業の業績向上や離職率の低下につながり、企業全体の成長を促進することが期待できます。
4-2 優秀な人材の確保(採用力強化)
人的資本経営の取り組みの中で、充実した研修やキャリア支援など、人材育成に力を入れる企業は増えています。このような取り組みは、求職者に安心感を与え、優秀な人材を惹きつけるインセンティブとなり、採用力を強化することにも繋がるでしょう。
4-3 生産性の向上
人材への投資によって従業員の能力が向上すれば、無駄な作業やミスが減少し、業務効率の向上も期待できるでしょう。これにより、企業全体の生産性が高まれば、結果的に業績向上にも繋がることでしょう。
4-4 イノベーション創出
人的資本経営の一環として、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)やリスキリングなどに取り組むことで、多様な視点や知見が交わり、より多くの創造的なアイデアが生まれる可能性が高まります。こうしたアイデアを生み出す土壌が育まれると、企業のイノベーションも促進されるでしょう。
4-5 ブランド価値向上
人的資本経営を実践する企業は、社会的な評価や信頼を得ることに繋がるでしょう。たとえば、福利厚生への取り組みは企業が社会的責任を果たしていることを示し、内外からの信頼や好感度向上に寄与すると考えられます。その結果、企業のブランド価値も向上するでしょう。
4-6 投資家からの評価
意図を持って人的資本の情報開示に取り組み、投資家との対話を通じて改善に取り組めば、投資家からの評価にも繋がります。同時に、こうしたプロセスは自社の現状を見直すきっかけとなり、戦略やビジネスモデルの強化が必要な領域も見えてくるでしょう。
人的資本経営で最初に向き合うべき「2つ」の論点
人的資本経営を実践する際、最初に以下の2点に向き合うことが大切です。それぞれの論点を具体的に見ていきましょう。
5-1 論点① ありたい姿として、自社はどんな人・組織を目指すのか?
一つ目の論点①から見てみましょう。
人的資本経営で取り組むべき一つ目は、「人と組織のありたい姿」を描くことです。具体的には、ミッション・ビジョン・バリューの策定、組織構造設計、カルチャー醸成、人事システム構築など、様々な側面に取り組む必要があります。その中でも人的資本経営で特に重視されるのが、経営戦略に基づいた理想的な人材ポートフォリオを定めることです。
人材ポートフォリオとは、戦略を実現するために必要な人的資本を構成したものを言います。人的資本経営は、企業が目指す方向性に対して「どのような資質や能力を持った人材が」「どんな場で」「どんな取り組みをしてもらうべきか」を明確にすることから始まります。
この人材ポートフォリオの策定は、大きく3つのステップで進めるものと考えられます。
5-1-1 [ステップ1]人材ポートフォリオの軸の選定
最初に取り組むべきは、人材を分類する軸を選定することです。その際、人材を適切に把握するためにも、自社に最適な軸を見つけることが必要です。
世の中には
・人材の「希少性」「価値」の軸を用いた人的資源アーキテクチャモデル
・「定型・非定型」「分析業務か否か」の軸を用いたタスクモデル
など、様々なモデルが存在しますが、これらの既存モデルをそのまま自社に適用すると、その後の運用がなかなかうまくいきません。
継続性も視野に入れながら、自社の状況に合わせた適切な軸を設定することが重要です。
5-1-2 [ステップ2]将来必要な人材の”中身”の検討
次に、描いた戦略を実現するために必要な人材の中身を考えます。
例えば、
・どんな役割を担う人材が必要か
・どのレベルの人材が必要か
などを検討していくのです。
このとき注意したいのは、単に各人材の中身を機械的に割り出してしまうことです。人材ポートフォリオの軸は、人材を分類するための基準であり、その中身を現実的な形に具体化することが最も重要です。言い換えると、人材ポートフォリオは、戦略を実現するための道具であり、その道具を最大限に活用するためには、具体的な人材の配置と役割が明確でなければなりません。
そのため、このステップでは、各人材が担当する仕事内容はもちろん、取り巻く環境や事業特性なども考慮に入れながら、関係者全員で議論を重ね、決定していくことが大切です。
5-1-3 [ステップ3]将来必要な人材の”総数”の検討
人材の中身が把握できたら、最後は戦略を実現するために必要な人員の総数を見積もっていきます。その際、押さえておきたいのは部門ごとに検討すべき視点が異なることです。
例えば、
・営業部門で3年後に100億円の売上を目指す場合、"一人当たりの売上"から必要な人員数を予測します。
・開発部門や管理部門では同じ視点で見積もるのは難しく、異なる視点で必要な人員数を算出する必要があります。
このように、将来必要な人材の総数を検討する際、部門ごとで必要な総人員数を割り出すための視点を、個別に設定することが重要です。
さて、ここまで人材ポートフォリオの策定ステップを見てきましたが、その企業が置かれている状況によっては、必ずしもこのステップ通りに進める必要はありません。例えば、全体の人数を算出し、その後に各人材の中身を検討する企業も存在します。改めて人材ポートフォリオ策定で大事にしたいのは、戦略を実現するために、質・量の双方の観点から必要な人材を描き出すことです。
5-2 論点② ありたい姿に近づくために、何に取り組む必要があるのか
理想的な人材ポートフォリオを描いた後は、現状とのギャップを見出し、それらを埋めるための取り組みを検討します。
これが二つ目の論点です。つまり、人材戦略を策定することです。
人材戦略の立て方はさまざまな考え方が存在しますが、その中でも課題になるのは、どのような取り組みが、経営的な影響を及ぼすかを導き出すのが難しいことです。これまでも多くの人事施策を立案・実行してきた中で、経営に対するインパクトを明確にできないもどかしさを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでご提案したいのが、人的資本経営の先進企業とグロービスとが共同で構築した「人的資本価値向上モデル」です。
人的資本価値向上モデルを活用することで、「ストーリー作り」と「人事データ活用の検討」という、人的資本経営の実践で重要な2つの要素を同時に実現しながら、経営にインパクトをもたらす可能性の高い人材戦略を策定できるものと考えています。
5-3 グロービスの「人的資本価値向上モデル」とは
このモデルでは「持続的効果を生むための取り組み」と「成果を生むための取り組み」との2つのアプローチで構成されています。
[成果を生むための取り組み]
戦略実現に必要な施策です。必要な人材の配置・獲得、評価、能力開発などが該当します。これらが企業理念・パーパスに基づいたビジョン・戦略との相関関係が考えられる要素であり、最終的に収益を上げることに繋がるものと考えています。
[持続的効果を生むための取り組み]
成果を出すための施策を効果的に機能させる土壌づくりの取組みです。エンゲージメントの向上や人材の流動化、個人のキャリア、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)などの施策が当てはまります。これらの施策は業績との関係性を直接示すことが難しいため、KPIとして捉えるのが妥当と考えています。
この2つのアプローチをどちらかに偏ることなく両立させていくことが重要です。このモデルを活用することで、人的資本の価値向上に欠かせない要素同士の関連性を把握しやすくなり、同時に整合性の高いストーリーを描くことができるものと考えています。
人的資本経営を成功させる4つのポイント
さて、ここまで人的資本経営に取り組むための基本を確認してきましたが、より成功確率を高めるためのポイントもご紹介しておきます。
01.何を目指すのかを明確に示し、関係者を巻き込む
02.「自社にとって重要な戦略的指標」を意識する
03.人材ポートフォリオは事業ポートフォリオとセットで考える
04.取り組む優先順位をあらかじめ決めておく
6-1 ポイント① 何を目指すのかを明確に示し、関係者を巻き込む
人的資本経営の目的は、財務インパクトであり、企業価値を向上させることにあります。この目的を達成するには、経営陣をはじめとする関係者が一体となって取り組むことが不可欠です。
しかし、いざ現場で始めようとすると、
・データをただ集めるだけ
・集計・開示・分析方法がわからないので、専門部署に丸投げする
・どの部署がどの役割を担うのかが不明確で、連携がうまくいかない
などの問題が生じることがあります。
こうした問題に陥らないためにも、関係者が共通の目標を理解するのはもちろん、その進め方についても合意形成することが重要です。
6-2 ポイント② 「自社にとって重要な戦略的指標」を意識する
人的資本経営における指標は、経営戦略やビジネスモデルに密接に結びついたものを選択し、開示することが重要です。
しかし、実際の現場では、
・取得が容易な指標を選択したり
・他社と同じ指標を選んだり
・良い印象を与えるために良好な数値だけを開示する
といった光景をたびたび目にします。様々な要因が絡み合い、こうした状況に陥ってしまうのは仕方ありませんが、本来の目的に照らし合わせると、企業価値の向上に寄与しにくいことは明らかです。
たとえ状況が良くない場合でも、解決すべき課題を示す指標を選択し、その進捗や達成度を公開することが重要です。そして、客観的なフィードバックを得て改善に取り組み続ければ、企業価値の向上に繋がっていきます。
6-3 ポイント③ 人材ポートフォリオは事業ポートフォリオとセットで考える
人材ポートフォリオと事業ポートフォリオは緊密に結びついており、両者をセットで考えることが重要です。その策定・運用においては両者の整合性を意識しながら、柔軟性を持つことが必要です。
具体的には、整合性を意識しないままに両者を策定すると、戦略の実現が困難になります。しかし、整合性を完璧に求めすぎても問題です。その策定に時間や労力が膨大にかかってしまうだけでなく、運用時に環境変化が起きた際、それらに対応する柔軟性が損なわれてしまいかねません。
大切なのは、適切なバランスを見つけることです。特に両者の運用主体が異なる場合、お互い整合性が失われないように連携しながら、柔軟に対応していくことが重要です。
6-4 ポイント④ 取り組む優先順位をあらかじめ決めておく
人的資本経営で取り組むべきテーマは多岐にわたります。例えば、「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」「働き方改革」「リスキリング」など様々なテーマが存在します。しかし、時間とリソースは有限であり、すべてのテーマに同時に取り組むことは現実的ではありません。そのため、予めどのテーマから取り組むべきかを明確にすることが重要になってきます。
では、どのように優先順位を付けるべきでしょうか。例えば、
・戦略との整合性
・企業価値への影響
・関係者のコミットメント度合い
・実行可能性
などの視点で、各テーマを評価していくのです。これらの視点を踏まえながら、優先順位を決定していくことが必要です。
まずは、自社の人事施策を整理して、何にこだわって取り組みを進めているのかを理解し、それが数字で可視化できるか、売上、利益とどの程度相関がありそうか、これらをまずは出来るところから着手してください。
人的資本経営の実践事例
7-1 富士通株式会社
富士通株式会社は「人的資本価値向上モデルによるストーリー構築の流れ」において参考になる事例です。
[課題]
人的資本経営への向き合い方について、「どの情報を開示すべきか」、もしくは「人事施策が業績にもたらす効果をどう証明するか」、といった部分的な議論が多くなっているという問題意識があった。
[アクション]
・分析に当たってはまず現状のデータをどう使っていくか、という視点でデータ分析を進め、次に重点施策から足りないデータを集めるなどの改善を重ねていく方法を取った。
・実際の人事データを用いて分析を行い、財務指標にインパクトを与えているKPIを見出し、「人的資本価値向上モデル」(下記)に当てはめた。
・次に、経営戦略と人事戦略を紐付け、各人事施策の関連性を伝えるストーリーを描いた。
[効果]
・改めてストーリーを整理したことで、「ある程度一貫性を持って人事制度の改革は進めてきたけれど、『事業を継続的に成長させ、企業価値を持続的に向上させるために、このような人事制度改革を進めていくべきだ』という訴求は、十分に出来ていない」ということに気づけた。
・経営戦略や事業戦略にストレートに成果が出るような人材像の定義付け、人材ポートフォリオの設計、組織設計といったことをもう一度やり直し、それらの「あるべき姿」と現状のギャップを埋めていくことに取り組み始めている。
[この事例のポイント(この事例から参考にすべき視点)]
・事業部門とのコミュニケーションを強化する上で、カギを握るのが人的資本価値向上モデルによるストーリーである。
・事業部サイドには、人材に対する投資がどのように事業部門の成果に反映されるのかということを認識してもらい、互いの信頼関係を高めることが重要。
7-2 丸紅株式会社
丸紅株式会社は「経営戦略と人財戦略の連動」において参考になる事例です。
[課題]
・これまでは人材戦略を経営戦略上の必要性から説明することはあまり意識しておらず、人事が行った制度改革を人事の視点で説明することが大部分だった。
・分析の観点では、人事データを蓄積できていない部分が多かった
[アクション]
・社長、CAO、CSO、CHRO、人事部長、経営企画部長を主要メンバーとする人財戦略会議=「タレントマネジメントコミッティ」を立ち上げ、経営戦略と人財戦略とが合致し続けるための議論やモニタリングを行うようになった。
・エンゲージメントサーベイの結果を部署、階層、年齢、性別などの切り口でクロス集計して分析した。(組織と個人の間に存在するエンゲージメントの状態を明らかにすることは、人材戦略のアウトプットとして有効なため)
[効果]
・経営戦略と人財戦略をより合致させていく必要があることや、人事関連データ分析を進化させるべきことなど、同社が今後注力すべきポイントが明確になった。
・分析の結果見つけた課題に対しては、改善プロジェクトを実行できている。
[この事例のポイント(この事例から参考にすべき視点)]
・大企業、かつ歴史のある組織において、「スピード」と「体制・制度の完成度」のどちらも満たすことは難しいが、まずはスピードを優先させる。
・まずは走り出してみて、タレントマネジメントコミッティでの議論や社内の声を踏まえて、導入後にも引き続き制度を整えていくことにしており、「いかに割り切って動き出せるか」が重要。
7-3 auフィナンシャルホールディングス株式会社
auフィナンシャルホールディングス株式会社は「人的資本経営と人事制度との整合」において参考になる事例です。
[課題]
・自社でどのように人的資本経営を実践するのか、非常に難しさを感じていた。
・KDDIでも中期経営計画で人事制度をジョブ型に移行させた時期でもあり、変化の只中であった。
[アクション]
・「人的資本価値創造モデル」を活用し、自社の人事戦略のストーリーについて社内の人事部門のメンバーと議論した。
・中期経営計画の重要課題(マテリアリティ)として、2020年に「人財ファースト企業への変革」というメッセージを組み込んだ。
・採用や育成は、ジョブ型を前提に、社員に自律的なキャリア形成をしてもらうための変革を進めた。新卒採用では、内定時に配属先までを確約する「WILLコース」を導入。また、育成においても階層別の必須研修を減らし、希望者が学ぶ公募型の研修に置き変えていった。
[効果]
・社内メンバーとの議論の結果、企業理念やKDDIフィロソフィ、収益を生み出す経営戦略と人事戦略までがどのように紐づいて流れていくのかが見え、人的資本経営の推進に必要な要素の特定が容易になった。
・特に、部門ごとに何年後までにどのような人材を配置すべきか、という具体的な話が出来た。
[この事例のポイント(この事例から参考にすべき視点)]
・人的資本経営で会社が変革していくにあたり、各事業部の責任者やリーダー層がマインドを変えて自律することが必須。
・そのためには、事業責任者を人事面からサポートするHRビジネスパートナー(HRBP)の存在も必要。HRBPの育成も両輪で回したい。
7-4 オムロン株式会社
オムロン株式会社は「地に足のついたKPI策定」において参考になる事例です。
[課題]
・2022年度から開始する長期ビジョン「Shaping The Future 2030(SF2030)」で、自社が具体的にどのような取り組みを行い、企業価値とどう繋がるのかのストーリーを模索中であった。
[アクション]
・長期ビジョンに沿った人財づくりとして、最注力要素として「ダイバーシティ&インクルージョン」(D&I)を定義づけた。
・「人財の価値の総和」を表すKPIとして、「人的創造性」を設定。(グループ全体の付加価値額を人件費で割ったもの)付加価値額とは、オムロンが「市場に向けて創り、届けた価値」の大きさであり、人件費は、その価値を創り上げた担い手であるもの。
・人的創造性を7%向上させるため、「人財の最適な配置」「人財の能力獲得・強化」「保有能力の発揮」の3要素を強化する施策を実行した。
[効果]
・シンプルかつ自社なりの思想を込めたKPIを設定することで、現場に浸透しやすくなった。
・KPIから落とし込んだ人財施策にも自分たちのユニークネスも含めた定義を作り込んだ結果、現場にも浸透しやすい地に足のついた施策となった。
[この事例のポイント(この事例から参考にすべき視点)]
・人的資本経営やD&Iなどのテーマについて、自社なりのユニークネスも含めた定義をしっかりと作ることが重要。
・KPI策定の際には、定義のほかに「考える順序(付加価値を成長させて企業価値を最大化するために⇒人財が能力を発揮してもらうための投資をするという順序を守ること)」「単純に数値をよくすることだけにとらわれない」ことが重要。
これらの事例とともに、グロービスでは2022年3月より、富士通株式会社が主催した「CHROラウンドテーブル」において、富士通、パナソニックホールディングス、丸紅、KDDI、オムロンのCHROとともに、人的資本経営の実践に向けて、各社の経営戦略・施策や実際の人事データに基づく仮説の検証や提言内容を議論しました。本ラウンドテーブルは6回にわたって開催し、2023年4月、その内容を「CHRO Roundtable Report」として発行しました。
【ステークホルダー別に解説】
人的資本経営推進で取るべきアクション
突然ですが、あるとき、あなたが人的資本経営の推進役を任されたら、どんなアクションを取るでしょうか。
人的資本経営の推進は、それぞれのステークホルダーに対して、適切なアクションを考え、実行することが求められます。こうした中で多様なステークホルダーを巻き込み、共に推進していくためには、ステークホルダーごとに取るべきアクションのポイントを押さえておくことが重要です。
具体的に見ていきましょう。
8-1 「経営陣(特にCHRO)」に対して取るべきアクション
経営陣に対して、推進役は「よきパートナー・相談役」であることが求められます。
人的資本経営の推進でイニシアチブを取るのは経営陣であり、その中心を担うのは最高人事責任者(CHRO)です。CHROは、経営者のビジネスパートナーとして、人や組織のパフォーマンスを向上させる貢献が期待されています。
では、CHROへのアクションで意識すべきポイントは何でしょうか。ひとつは、経営者のビジネスパートナーであるCHRO自身も、共に議論できるパートナーを求めているということです。したがって、推進役としてはこうしたCHROの役割や悩みを理解した上で、その企業が何に取り組む必要があるかを議論し、ともに解決策を模索すると良いでしょう。例えば、社員のスキル、教育への投資、労働生産性、エンゲージメントなどの定量的なデータを、仮説を立てながら収集・分析し、それぞれが人や組織のパフォーマンスにどのような影響を与えているかを提示しながら議論することが必要です。
auフィナンシャルホールディングス株式会社 取締役副社長CHROの白岩徹氏のインタビュー記事など、具体的な事例を参考にすることで、CHROの役割や取り組み方をより深く理解することができます。
8-2 「株主」に対して取るべきアクション
株主に対しては、推進役は対話の機会を創ることが求められます。
株主が果たす役割のひとつは、人的資本の情報開示を促し、その内容を評価し、改善に向けたフィードバックを提供することです。
この役割に対して、現状、公開されたデータだけから判断できることは限られています。それは、データの算出方法や基準が企業ごとに異なることや、そもそも人的資本経営の取り組みをどのように評価すべきかの手法が明確でないことも、判断を難しくしています。
そのため推進役に求められるのは、さまざまな手段を用いて株主に情報を発信し、対話の機会を作ることです。例えば、株主総会や個別面談、決算資料、公式ウェブサイトなどを通じて情報を伝えることが重要となります。お互いが役割を全うできるように、コミュニケーションの機会を創出することが鍵となります。
8-3 「従業員」に対して取るべきアクション
人的資本経営は、企業と従業員の関係性を根本的に変革する可能性を秘めています。
これまでは終身雇用や年功序列などにより、企業と従業員との関係性は依存的な状態にありました。しかし、近年は社会環境の変化に伴い、その関係性が見直され始めています。今後は、企業と従業員が対等な立場で選び合い、自律的な関係を築いていくことが期待されています。そのため、従業員自身が自分のキャリアを考え、能力開発に積極的に取り組むことが求められます。
推進役は、こうした変化が起きていることを従業員に伝え、新しい関係性へと促していくことが求められているでしょう。その中でも、現場リーダーへの働きかけは何より重要になってきます。
現場リーダーは、チームの人的資本を最大化する役割を担っています。そのため、現場リーダーがメンバー一人ひとりの能力を最大限引き出すことができれば、人的資本経営の目的にも近づきます。推進役としては、現場リーダーがこうした役割を果たせるように支援することが重要です。
人事ご担当の皆様は、重責を担う現場リーダーを育成施策などで支える必要があります。
8-4 「顧客・パートナー企業」に対して取るべきアクション
人的資本経営の視点でも、顧客やパートナー企業との関係性は重要です。単なる取引関係に留まらず、お互いが成長し合えるパートナーシップを築くことは、持続的なビジネス成功に繋がることでしょう。こうした観点を踏まえると、顧客やパートナー企業が人的資本経営にどれだけ注力しているかは、その企業の中長期的な成長性や競争力を示す指標となると考えられます。
推進役としては、まず自社の人的資本経営の取り組みを明確にし、それを顧客やパートナー企業に伝えることが必要でしょう。同時に、顧客やパートナー企業との関係性を深めるために、定期的なコミュニケーションも欠かせません。状況に応じて、定期的なミーティングや情報共有などを通じて、相互理解を深める機会を作るのも良いでしょう。
グロービスでも、取引関係以上にお互いの事業に良い影響をもたらせるように、学び合い、成果を共有しあえる関係を築くことを目指しています。ひとつの事例として、各社の最高人事責任者(CHRO)が人的資本経営について意見交換する「CHROラウンドテーブル」は参考になることでしょう。
8-5 「求職者」に対して取るべきアクション
採用においても、人的資本経営は無視できない取り組みです。
今後、求職者は働く先を選ぶ際、人的資本経営の取り組みを重要な指標として考慮することになるでしょう。そのため、企業としては求職者に対して、人的資本経営の取り組み状況を十分に開示し、魅力的な職場であることを伝える努力が必要です。
推進役としては、透明性の高い採用プロセスの構築やインターンシップの機会の提供など、採用担当者と連携しながら、具体的な取り組みを伝えることが必要です。
【最新】基礎から押さえる「人的資本の情報開示」
「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正により、2023年3月期決算以降、国内の上場企業に対して「人的資本の情報開示」が義務付けられました。これは国内だけの動きではなく、世界的な潮流として求められているものです。
義務化に伴い、国内では7分野・19項目が人的資本情報として開示が望ましいとされています。これらすべての分野と項目で情報開示が求められているわけではありませんが、必須として開示が義務付けられている項目も存在します。
9-1 人的資本情報で開示すべき5項目
2023年12月現在、人的資本情報で開示が義務化されている項目は全部で5項目存在します。
01.人材育成方針
02.社内環境整備方針
03.女性管理職人数・比率
04.男性育児休業取得率
05. 男女間賃金差異
①と②に関しては、具体的にどんな指標で開示すべきかまでは指定されていません。
一方で③から⑤は、企業規模や女性活躍推進法等に基づいて、何をどこまで開示すべきかが異なってきます。また、人的資本の情報開示義務化以前より「平均勤続年数」や「女性役員人数・比率」は開示が求められていたため、実際にはこれらを合わせて7項目の開示が必要になっています。
※2023年12月時点の情報です。最新の情報は適宜ご確認ください。
9-2 情報開示で意識したい5つのポイント
人的資本経営の目的を踏まえると、当然ながらこれら義務化された7項目の情報のみを開示するだけでは不十分です。むしろ本質的に求められているのは、情報開示を通じて、社内外からフィードバックを得て、人材戦略を改善することにあります。
では、情報開示にあたって、何を意識すれば良いのでしょうか。2022年8月に政府から発表された「人的資本可視化指針」を参考にしながら、意識したい5つのポイントをご紹介します。
こうした5つのポイントを押さえながら、論理的かつ定量的に開示し、投資家や従業員との対話を行い、ブラッシュアップを進めることが重要です。
まとめ
改めてのお伝えとなりますが、人的資本経営とは、「投資対効果を意識した人材投資を戦略的に行うことで、企業価値向上に繋げる経営手法」です。
人的資本経営のもと、人材・組織を変革をしていった先に目指すものは「財務インパクト」であり、向き合うべき論点として下記の2つがありました。
01.人と組織のありたい姿の設計図「人材ポートフォリオ」を定める
02.ありたい姿を実現するための道筋「人材戦略」を策定する
この2つの論点を満たすモデルとしてグロービスが提案するのは、人的資本経営の先進企業とグロービスとが共同で構築した「人的資本価値向上モデル」です。このモデルを活用することで、「ストーリー作り」と「人事データ活用の検討」という、人的資本経営の実践で重要な2つの要素を同時に実現しながら、経営にインパクトをもたらす可能性の高い人材戦略を策定できます。
人的資本経営を成功させるポイントとして以下の4つが挙げられます。
これまで人的資本経営の基本を見てきましたが、自社に合ったアプローチを考えるヒントは見つかりましたでしょうか。
本コラムを参考に、実際に計画策定に臨む方もいらっしゃると思いますが、その際大切にしていただきたいのが「戦略の実行」です。
人的資本経営の推進でたびたび見かけるのは、開示対応に手一杯だったり、その説明に時間を費やしてしまったりと、肝心の実行がおそろかになることです。しかし、どれだけ素晴らしい戦略を描いたとしても、それが実行されなければ意味がありません。また、戦略は必ずしも計画通りに進むわけではなく、実行するなかで磨かれることもあります。
特に人や組織の問題は、実行すれば必ず現場からの反応があります。
その反応を踏まえて、社内外からフィードバックをもらい、改善を繰り返すことが、
人的資本経営の実現に繋がります。
実際に取り組んでみると、さまざまな困難に直面することでしょうが、それらを乗り越えることではじめて成功の果実を得ることができます。そのためには、何よりもまず「実行」することが重要です。これが、人的資本経営の成功の鍵だと考えています。
以上の内容をご参考の上、出来るところから人的資本経営推進の一歩を踏み出していきましょう。
グロービスはこれまで人的資本経営の先進企業とともに歩み、その実現に向けて支援してまいりました。
人的資本経営の実現に向けてお悩みがあれば、ぜひ下記お問い合わせ・ご相談フォームよりお問い合わせください。