人的資本経営につながる採用のポイント~採用から育成まで一貫した組織づくりを考える~
- 人的資本経営
企業の未来をつくる「人的資本経営」、
経営戦略と人事施策の連動がカギ
日本経済・世界経済はデジタル変革や地政学リスクなど、様々な機会と脅威に直面し、変動性や不確実性が一段と増しています。
VUCA※といわれる不確実な外部環境の中では既存事業だけで持続的に成長することが難しくなり、俊敏にイノベーションを起こし続ける必要性が増しています。VUCA時代において勝てる企業であるためには、これまで盲目的に重視されてきた「実行フレーム※」から、「学習フレーム※」へ考え方を変え、変革を引き起こさなければなりません。
※VUCA:先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態
※実行フレーム:しっかりと計画をたてて、その通り正確に実行する
※学習フレーム:なにが売れるかわかり難いので、実験し、失敗からも学ぶ
学習フレームの思考で変革を起こし、企業を持続的に成長させるために、今求められることが「人的資本経営」です。
これまでは、組織の目標達成のため、経営資源の1つである人的資源を活用した制度を設計し、運用する「人的資源管理」が重視されてきました。しかし、変化が激しい時代においては一度決めた制度が外部環境と整合しなくなるスピードも速くなります。VUCAの世の中で変革やイノベーションを起こし、企業価値を高めるには、人材の価値を増大させるために投資をする「人的資本」の観点を持ち、その価値を引き出す「人的資本経営」にシフトすることが不可欠となります。
では、人的資本経営はどのように実現すればよいのでしょうか。「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と人事戦略が連動する必要性を強調し、求められる3つの視点と5つの共通要素を示しています。
図から分かるように、企業の経営戦略を達成するためには人事戦略が重要です。それゆえに、経営層が戦略を遂行する上でのパートナーとして、人事部への期待役割も高まります。
人事部が責任を持つことが多い人材マネジメントに含まれる機能は、採用・配置・評価・報酬・育成と多岐に渡ります。人的資本経営においては、「これらの人事施策が、しっかりと経営戦略に整合しているか」「各施策間は整合しているか」を考えながら企画・実行しなければなりません。
さらには、経営戦略を実現するために多様な経験、価値観、専門性を組織へ取り込むとともに、社員のリスキリングを促し、組織のあり方や働き方をアップデートすることが求められます。
DX時代の人事戦略の1つとしてリスキリングが必須
昨今、注目されているリスキリングは、経済産業省の定義によると「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で求められるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」を指します。
特に近年では、デジタル化によって新たに必要となったスキルの習得を指すことが多く、DX時代の人材戦略の1つがリスキリングといっても過言ではありません。WORLD ECONOMIC FORUM 『The Future of Jobs Report2020』では、今後5年間で、人間、機械、アルゴリズムの労働分担が進むことによって8,500万人の雇用が消失し、9,700万件の新たな雇用が創出されるため、従業員の2人に1人はリスキリングが必要(主にデジタルスキル)と示されています。
社員に求められる力として、思考力が必要
デジタルスキルに注目が集まる一方、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が発表した論文「THE FUTURE OF SKILLS EMPLOYMENT IN 2030」では、VUCA時代に働く人に必要とされるスキルの1位として「戦略的学習力」(新しい事を学んだり教えたりする時、状況に応じ最適な学習法を選び、実践できること)が挙げられています。2位以下にも、学習能力やメンバーの教育に関するソフトスキルが多く並びます。
また、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏は、ポストコロナ時代の必須スキルとして、「スキル転換⇒学習棄却⇒適応力⇒未来予測 」を回し続ける能力と姿勢を挙げています(下図)。
時代の変化やテクノロジーの進展に伴い、新たな知識やスキルを学習・獲得するにあたり普遍的に役立つのが、クリティカルシンキング(過去の知識や価値観に対する批判的思考)、ロジカルシンキング(理解力、判断力等)です。
また、イノベーティブなアイディアを生み出すためにも、チャレンジ精神や、多様性受容等のインターパーソナルスキル(対人関係能力)に加え、現状に異議を唱え、斬新なインプットを組み合わせる認知的スキルとしてクリティカルシンキング(過去の知識や価値観に対する批判的思考)、ロジカルシンキング(理解力、判断力等)が必要とされます。
選考プロセスでエネルギーをかけるべき重要ポイントは、大きく3つにまとめられます(上図参考)。
1つ目は、求める層に近い人材を確実に絞るという点です。成長できそうな人材かどうかは、思考力測定テストや適性検査などで効率的に見抜くことが有効です。クリティカルシンキング、ロジカルシンキングの高低を見極めるために、GLOBISのアセスメント・テスト「GMAP」も多くの採用選考でスクリーニング目的に活用されています。
2つ目は、候補者を絞った上で、確度の高い人材に対して面接やインターンでしかできないことを行い、間違いのない見極めに繋げるという点です。組織に定着し、力を発揮できるかを精度高く見極めることがポイントとなります。学習し成長する力を見るためには、ケースディスカッションなどを用い、思考パターンを確認することも一案です。さらに、会話を通してパーソナリティや人物像を深掘り、組織文化へのフィット感やパーパスへの共鳴を見極めることも欠かせません。
そして3つ目の内定通知・入社受諾段階では、最終的に入社してもらうための丁寧なケアをしていく必要があります。選考プロセスの中で、候補者が自分の将来像や自己実現のイメージを持てるよう、入社後の教育体制や成長機会、キャリア自律などの方針を訴求し、候補者の疑問に丁寧に寄り添うことが重要です。このように地道に魅了することが、最終的な入社の決め手に影響するのです。
採用プロセスを設計する際は、エネルギーを使うべき部分に人事部のリソースをしっかり投資できるようにするのが理想的です。一連のポイントを認識した上で、メリハリのある活動を行うよう心掛けましょう。
優秀人材を惹き付ける入社後の施策
マイナビが2023年卒学生に行ったアンケート「2023年卒 就職活動における価値観に関するアンケート」では、7割以上の学生が、企業選択で成長できる環境であることを重視すると回答しました。
では、若手世代を中心とする社員が求める「成長できる環境」を整えるために、企業としてどのような取り組みをしたらよいのでしょうか。グロービスでは、多くの企業事例をもとに、社員が成長できる環境を整えるための共通要素をまとめました。これらの要素を今後の人事施策に取り入れることをお勧めします。
このうち、新たな経験や挑戦でどのような学習ができたか振り返るには、経験を変換することで知識をつくりだすプロセスである「経験学習サイクル」を繰り返すことが有効です。
▼経験学習サイクル
経験そのもの以上に経験をどう解釈し、そこからどのような教訓を得るかが成長の鍵となるのです。経験学習を促す事例として、「1on1ミーティング」による内省支援を中心にして、目標・評価基準の設定、研修、ジョブアサインメント、ジョブローテーションなどの様々な施策で社員を支えている企業もあります。
まとめ
VUCA時代でも成長し続けるための人的資本経営が成り立つためには、経営パートナーとしての人事部の力が不可欠です。本コラムが、人事部が貴重なリソースとエネルギーをどのように活用すべきかについて戦略的な選択と集中を検討する上で役立つことを願っています。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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