「丸紅人財エコシステム」で、経営戦略と連動する人財戦略を推進する
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グロービス コーポレート エデュケーション
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日系5社のCHROが集まり、富士通株式会社が主催しグロービスがファシリテートする形で、企業価値向上のための人的資本経営の実践について6回にわたり議論した「CHROラウンドテーブル」。
参加企業の1社である丸紅株式会社 執行役員 CHRO 鹿島浩二氏と、モデレーター役を務めたグロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西恵一郎が、本ラウンドテーブルの取り組みを振り返り、丸紅様の人的資本経営における構想を語った。
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(右)グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西恵一郎
各社のCHROが人的資本経営の運用にまで踏み込んで議論したラウンドテーブル
鹿島氏がCHROラウンドテーブルに参加したのは、人的資本経営のあり方をCHRO同士で深く議論することで、他社の先進的な取り組みを知ることだけに留まらず、実際の運用まで話し合える期待があったからだという。
「各社が行っている取り組みの内容は、各社からの発信やセミナーなどを通してある程度知っていましたが、どのような課題や悩みを抱えているのかまでは見えません。それを共有させていただいたことは、非常によかったですね」(鹿島氏)
各社各様の課題を抱えながらも、それぞれが経営戦略の実現に向けて人財戦略を立案し、課題を解決する取り組みをしているとわかり、勇気づけられたという。また、本ラウンドテーブルのアウトプットとして、「CHRO Roundtable Report」をまとめて発信できたことも非常によかった、と振り返る。
さらに、普段は社内外に人財戦略を説明することが多い鹿島氏にとって、逆に聞く立場になったことは新鮮な経験であり、どのように伝えれば聞いている側に腹落ちしてもらえるのかの気づきが得られたという。
「経営戦略と連動するストーリーがあって、可能であれば裏付けとなるデータもそろっていると、『伝える力』につながるのだと実感しました」(鹿島氏)
本ラウンドテーブルを通して、経営戦略と人財戦略をより合致させていく必要があることや、人事関連データ分析を進化させるべきことなど、同社が今後注力すべきポイントが明確になったと鹿島氏は述べた。
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時代に即した変革を続ける、丸紅の人的資本経営
丸紅様は、近年スピーディーに人事面の改革を進めている。激しい時代変化を踏まえ、今後の方向性を明文化した「丸紅グループの在り姿」を2018年に発表。2019年からの中期経営戦略「GC2021」ではグループ人財戦略の基本概念である「丸紅人財エコシステム」を策定し、翌2020年には人事制度改革をスタートさせた。
一貫しているのは、これらの人財戦略は経営戦略のひとつとして存在しており、人事だけの文脈でメッセージを述べていない点だ。
「人的資本経営というワードを意識したことはあまりなく、今も使っていません。総合商社のビジネスは時代に応じて変わるものであり、以前から、収益の源泉は『人財』であると考えてきたからです。この考え方はすなわち、人的資本経営なのだと思っています」(鹿島氏)
経営戦略と人財戦略をより密接に紐付けるために行ったのが、2020年の人事制度改革だ。「実力本位」「チャレンジ」「現場」「オーナーシップ」「オープンコミュニティ」という5つのコアとなる概念のもと、処遇やタレントマネジメント、働く環境など、人事制度全体を刷新した。
特に大きな改革となったのは「ミッションレーティング」だ。従来のコンピテンシー評価ではなく、その年の役割(ミッション)の大きさに基づいて等級が決まる。また、ボーナスも個々人の貢献度に応じて、各本部の組織長が原資を配分する仕組みを取り入れた。
こうした人事制度を通して、「会社も個人も共に成長していき、社員と会社とのエンゲージメントが深まることも期待している」(鹿島氏)と考えている。
そして、力点を置いているのは、人財戦略会議である「タレントマネジメントコミッティ」の運営だ。社長、CAO、CSO、CHRO、人事部長、経営企画部長を主要メンバーとするコミッティで、経営戦略と人財戦略とが合致し続けるための議論やモニタリングを行っている。
新人事制度が施行されてから3年ほどが経ち、鹿島氏は現在までの成果を「効果測定はなかなか難しいのですが、総じて良いと思っている」と語る。エンゲージメントサーベイをはじめとした各種サーベイの結果を見ても、高い結果が得られているという。
丸紅様のような大企業、かつ歴史のある組織において、短期間で大胆に人事制度を改革することは難しい。順調に改革が進んでいるポイントを、鹿島氏はこう語る。
「役員や社員に『完璧な制度は作れていません』と宣言しました。まずは走り出してみて、タレントマネジメントコミッティでの議論や社内の声を踏まえて、導入後にも引き続き制度を整えていくことにしています。
求められるスピードと制度の完成度のどちらも満たすことは難しかったことから、スピードを優先させたものです。いかに割り切って動き出せるかが重要だと思いますね。
それに、数年をかけてしっかりした制度を作り、中長期的に運用する時代でもありませんから、当社の進め方は時代にも則していると思っています」(鹿島氏)
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社員のチャレンジを後押しするための各種制度
以前より丸紅様の複数のプロジェクトを支援し、本ラウンドテーブルでも議論を共にした西は、丸紅様の人的資本経営の特徴を「上司が部下をコントロールする管理型になりやすい総合商社のマネジメントにおいて、社員のやる気を解放することに重きを置いている」と述べる。
「社員の皆さんが自由にチャレンジし、のびのびと活動できたほうが今の時代に合っていると思いますし、プラットフォームとしての魅力も増すでしょう。一方で、この方針を機能させるために乗り越えるべき壁もあると考えます」(西)
丸紅様では、人事制度改革の思想を全社へ浸透させるためにさまざまな施策を行ってきたという。
その施策のひとつが、社内プロジェクトである「丸紅アカデミア」だ。世界各地で活躍する丸紅グループの社員を選抜し、商品軸を超えてイノベーションを起こすための育成をする。デジタル・イノベーション室が主催し、人事部が運営サポートをする形で、イノベーションの実例を見るために世界各地へ参加者全員で足を運び、学びを得る内容だ。すでに開催は5期目に入り、参加者が100名ほどになったため、アルムナイ活動も検討中だという。
プログラム企画はグロービスが支援し、社員の経験を題材にして学ぶ取り組みを行っている。
「丸紅アカデミアは研修ではなくプロジェクトという位置付けで、イノベーションを起こすという基本思想を大切にして企画しています。参加者の負荷は高いものがありますが、相応に得られる刺激がありますので、良い機会になっていると思います」(西)
また、社外との人財交流プログラムや、新入社員を含む、組織や世代が異なる3名で相互メンタリングをし合う「トライアングル・メンター」、新規事業企画の「ビジネスプランコンテスト」なども実施している。社員の自律的な学びを後押しする学習ツールとして、「GLOBIS 学び放題」を導入している。
これらの施策の土台にある方針が、同社の「15%ルール」だ。就業時間の15%は、担当業務以外であっても、丸紅グループの価値向上に繋がる活動であれば充てて構わないとしている。
そして、こうした活動や学習をするか否かは、すべて個人の意思に委ねられているのだ。人財育成全体の方針も、従来の階層別研修ではなく、今後は社員自身が学ぶ領域を選んだり、部署ごとに選んだりする形に変えていくという。
「丸紅人財エコシステムにあるように、マーケットバリューの高い多様な人財が集い、活き、つながり新たな価値を創造する状態を作っていきたいと思います。そのためには、実務経験と人財育成の両面から、今後の施策を考えていく必要があります」(鹿島氏)
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各現場が、人事制度の運用にじっくり時間をかけていく
丸紅様が人的資本経営を進化させていくための課題としては、データ活用が挙げられるという。CHROラウンドテーブルでは、富士通様の人事データを用いた分析を行い、自ら手を挙げて異動した人財が多い部署ではエンゲージメントや業績に違いが見られることなどがわかった。
鹿島氏は、人事制度を立案する際には、人事関連データ活用も常にセットで検討していくべきだと考える。従来から力点を置いているエンゲージメントサーベイの実施とデータ分析などは続けながら、データ活用の幅をさらに広げていきたいという。
西も同様に、データ活用の重要性を述べる。
「投資家をはじめとするステークホルダーの皆様に、人的資本経営の実態を説明して納得してもらうためには、データとストーリーで語ることが不可欠になっていると思います。一方で、きれいにデータを集めて整理しなければならないといった心理的なハードルがあることも事実です。そうなると、今の体制ではデータ活用はできない、と諦めてしまいかねません。
だからこそ、第一歩としては、今あるデータから活用し始めるのがいいと思います。そのうえで、CHROラウンドテーブルのレポートで発表した『人的資本価値向上モデル』に自社の施策を当てはめていくと、新たにデータを取得できそうな箇所も見えてくるでしょう」(西)
また、新人事制度では、現場の負担も少なくないが、各本部が人事制度の運用にしっかり時間をかけてもらうよう、経営からメッセージを発信しているという。
「管理職層は、自身が育てられた時とは異なるやり方で部下を育てる必要性が生じています。世代間ギャップも大きくなっていますし、マネジメントの大変さは増していると思いますね。ただ、新人事制度のコアとなる概念のひとつに『現場』があるように、各現場で考えて、走りながら運用を見直していく方針です」(鹿島氏)
西も、管理職層が役割を果たす難しさは増していると考える。
「丸紅様では今後、データ分析によって組織の改善点がより可視化され、自律的な組織運営がもっと進むでしょう。自由な組織をマネジメントすることは、ルールで縛るよりも難易度が高く、リーダーの力量が問われます。これからの管理職層は、マネジメントではなく、“経営する力”がより重要になると考えます。
さらに、その上位層にあたる役員クラスの方々の魅力をもっと高めていく必要もあると思います。総合商社は、情報を持っているだけでは価値を発揮できない時代になりました。情報がオープンである現代において影響力を発揮していくためには、魅力ある人が組織を率いる必要があると思うのです。そして、そのような組織に優秀な人が集まります」(西)
丸紅様は今後も、丸紅グループの在り姿の実現に向けて、丸紅人財エコシステムを実現し、経営戦略と人財戦略を合致させて実行していく。2022年にスタートした新中期経営戦略「GC2024」でもこの方針は引き継がれ、修正を加えながら人的資本経営を実践していく。
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(右)グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西恵一郎
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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