オンラインファシリテーションで陥りやすい罠――より深い学びに繋げる工夫とは

2020.06.15

前回ご紹介した国内製薬会社(以下A社)の事例を引き続き取り上げながら、オンラインでクラスファシリテーションをする際にぶつかりがちな点と、それに対処する方法を、前回に引き続き尾花に聞きました。

 

この研修ではアクションラーニング※を組み込んでいます。元々ファシリテーション難度の高いこのコンテンツを、オンラインでどのように実施したのでしょうか。一般的な研修におけるオンラインファシリテーションと、アクションラーニングにおけるそれとの違いも踏まえながらお届けします。

※アクションラーニング:実際の経営課題に対し、受講者がストレッチし、学習しながら、課題解決に取り組む演習。

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
グロービス コーポレート ソリューション | GCS

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アクションラーニングでは議論の空中戦は厳禁。コツは、成果物を土台にした意見交換

ーー今回の研修のアクションラーニングは、『将来におけるA社の全社戦略の構築』をテーマとしている。受講者は6名毎に3チームに分かれ、複数回にわたり議論しながら最終的には経営陣に新たな戦略を提言するのである。まさに今も議論は続いており、全5回中2回が終了した。

2回目までの議論では『将来のA社における重要な環境変化は何か?』『その変化の中で、会社としてどのようなあるべき姿を描いていくべきか?』について、受講者が個別にリサーチして出してきた見解を、当日の議論の中でぶつけ合うというセッションに設計している。

初日に念入りに「場づくり」を行い、受講者同士の距離が縮まっているとはいえ、研修まであまり関わりのなかった受講者たち。彼らが難易度の高いトピックについてオンラインで話すというのはハードルが高そうだが、オンラインで議論するにあたっての困難はなかったのだろうか。

尾花:
いくつかありますが、最も感じたのは論点がずれがちということです。

これは、ある企業の事例を共通の情報として持ち議論するケースセッションよりも、アクションラーニングでよく見られる事象ではないでしょうか。もともと全く違う部門の方が集まっていることから、前提として受講者の持っている情報が大きく異なります。

リアル研修では、議論に講師が介入し、その内容をホワイトボードに整理をしていくことで、受講者も常に論点を意識し続けることが出来ます。一方オンラインだと、会話だけで議論が進むことも多く、論点が変わっていってしまうことが頻繁に見られました。

例えば、議論の対象が研究開発部門からマーケティング部門に移ったり、国内市場からグローバル市場の話に移ったりし、受講者の間でも今何の議論をしているのかの認識が揃わず、空中戦となってしまうことがありました。

ーー確かに、議論をしている中で論点がずれてしまうことはよく起こる。

オンラインでは特に、共有ファイルやチャット等をフル活用し、文字情報をリアルタイムに落とし込むことを意識しなければ、すぐに受講者同士の議論は噛み合わなくなってしまう。

尾花:
受講者同士で知らない情報、例えば部門特有の情報が急に話題になることもよくあったので、常に受講者同士で発言の前提となっている情報や考えを丁寧に確認し合う時間を取るようにしました。

まずは前提がクリアにならないと、他の受講者も自分の意見を出しにくく、議論の質も高まってきません。

ーーチャットを上手く活用できれば良いが、複雑なディスカッションにおいては、チャットに受講者が前提の異なる意見を一斉に出すと、せっかく良い意見であったとしても読み手の理解が追い付かず、発言が流れてしまい、上手く機能しないこともある。

特にグループで活発に議論してもらう際にはどのような工夫をしたのか。

尾花:
A社では社内コミュニケーション用にZoomとは別のツールを使っていることが分かっていたので、グループディスカッションの際は、その社内ツールも同時に活用しながらお互いの考えてきた成果物(受講者が作成してきた資料)を共有してもらうことから始めました。

その後、受講者同士で最も共感できた成果物を選択し、それを画面共有しながら、お互いの意見を加えていくという流れにしました。議論のベースとなる成果物が可視化されていない状態では、良い議論をすることが難しいと考えたからです。

Zoomのブレイクアウトルーム機能※でグループごとの場を作り、同じ成果物をみながら議論をしてもらいましたが、それでも論点が飛ぶ事もありましたね。※ブレイクアウトルーム機能:参加メンバーを少人数の小部屋を作る機能

その為、講師が各ルームを訪問しながら議論の様子を観察し、受講者を問いで導きながら常に論点を抑え続けるということも、同時にしていました。

講師は、受講者の議論の中で抜け漏れた論点を補足する役割も担います。例えば、受講者同士の議論の内容を確認しながら、更に議論して欲しい論点を直接成果物に書き込んでいきます。このように書き込みを行うことで、受講者同士に書き込まれた新たな論点について更に議論を深めようとするキッカケを与えることができます。

受講者同士の議論は、常に成果物というベースに基づいて行われることで論点のずれを防ぎ、講師の成果物への書き込みにより議論を促すことで、研修が一方的な講師からのフィードバックに終始してしまうこともなくなります

ーー受講者同士で議論し気づきを得る方が、学びは深まる。

講師はすべてのポイントについて指摘し修正出来るとしても、それを伝えるだけでは受講者はその指摘に基づいて成果物を直すだけとなり、本来的な学びには繋がりにくく、実務における再現性のない研修にとどまってしまう。しかし受講者同士で議論を深めてもらうためには、高い講師力が必要になる。

講師は議論の展開を想定しておく必要があり、それに基づいて投げ込むべき論点を考えるからだ。

議論の深さを決める要因は、本質的な質問の理解と、そこへのこだわり

ーーグループワークには想定より時間がかかったという。1グループにつき6人という構成だったが、そのくらいの人数だと認識や前提が大きく異なってきてしまう。認識を揃えるために様々な質問を行い、前提条件を共有してもらったというから、大変である。更に共有されたお互いの成果物を読み込む時間も十分とっておく必要がある。

尾花:
その他に感じた課題感は、受講者が興味本位の質問を行いがちで、より本質的な議論をしてほしい時でもなかなか鋭い質問には行き着かないという事でした。そこで、受講者に対してどのようなレベルの質問を期待しているのかを認識してもらうために、クラスディスカッションの際に講師よりお手本となる質問をしてもらいました。

講師が議論の中で『どのようなことを問いかけているか?』を受講者に観察してもらうことで、求められている基準を認識してもらったのです。

ーー受講者同士で議論を深めてもらうために、チーム編成も慎重に行った。

尾花:
チーム編成は、Day 1の『場づくり』の様子を見ながら行いました。部門や各受講者の特性・能力のバランスを考慮しましたが、その際の能力というのは、視野の広さや、問いに対して自分の考えを整理できる思考力とそれを語ることができる言語化力があるか、を見ていましたね

ーー受講者の誰と誰を組み合わせ、どのタイミングでどの粒度の問いを投げ込むか。問いを直接的に投げ込むだけでなく、議論を整理して論点を示し、どのようにして受講者同士で議論を発展させるか。各セッションにおいて、どのような進行、資料の仕立てにしてもらうか。

ここまで細部にわたって綿密に設計を行っているのは、受講者同士に深い学びを得てもらう為に他ならない。

オンラインでは、受講者の理解を確認する術が少ない。だからこそアウトプットによりフォーカスする

ーー特にクラス全体でディスカッションする場においては、オンラインの良さを感じることができた、という。それは何故なのか。

尾花:
まず第一に、オンラインでは誰もがはっきりと同じ画面の内容を集中して見れる状態にあります。これにより、講師はいま押さえて欲しいポイントに受講者の意識をもっていきやすいと感じました。逆にリアル研修の場では、物理的な距離によるホワイトボードの見えにくさ・机の狭さ等、些細な制約によって人の意識が散漫になりがちです。

第二に、発話と文字しか受講者の情報がないため、逆に受講者の疑問点や思考力、理解度が分かりやすいという点です。リアル研修では、全員に理解の度合いをつぶさに確認していくというのは難しく、その場の雰囲気でセッションが進んでいくこともありますが、オンライン研修で限られた視覚・聴覚の情報に制限されると、発言内容に対する感度が上がるというイメージです。

受講者が本質的な質問をしているのか、またその質問にしっかりと答えているのかが明確になる。その結果、曖昧に発言をして終わるという事が少なくなったと感じています。

ーーオンライン研修というのはリアル研修を単純にオンライン化するのではない。受講者の状態を把握する情報が減るからこそ、その限られた情報に対する注目度が上がり、緊張感も増す。

ファシリテーション次第で、より質の高いアウトプット、フィードバックを行う訓練に繋がるのだ。

講師からの問いに対して、言語化を徹底。この繰り返しが受講者のより深い思考を促す

尾花:
リアル研修では、クラスの中心人物が出来てセッションを活性化してくれたり、講師が受講者にオープンクエスチョンを投げかけ、その回答から論点を取り上げて議論を展開していくことが多いです。一方、オンラインではそういった中心人物も生まれにくく、オープンクエスチョンでは議論も発散しがちです。

そのため講師は受講者全員に目的がはっきりした問いを投げかけ、受講者は各々の考えを言葉に落とそうと思考を深めながら、コメントや質問をリアルタイムで同時に共有します。講師側が議論の方向性を示すことで、受講者は何に対して発言しているかが明確になります。

例えば、講師が『いまの発言に対して、感じたことは? 感想は?』ではなく、『いまの発言に対して共感する方が、どの部分に、なぜ共感したのかをチャットで書いてください』といった具体的な質問を投げかけます。そうすると、まず書き込んだ方が「発言に共感している」というスタンスが明確になり、その後、共感した内容にしっかりと注目できる。

また、人は話す時より文字に書き出す時の方が、物事を整理して考え、どう伝えるかを深く考える習性がありますよね。可視化された情報として残るということからも、具体的な良いフィードバックにしようという力も働きます。

自分の意見を明確に文字にし続けることで議論も活性化し、受講者同士が鍛え合う場を作ることが出来ます。このように目的を明確にした文字化されたフィードバックが、より深い学びにはつながりやすいと感じています。

ーー何について考えてほしいか、講師が細やかなコミュニケーションをとるというのは簡単なようで難しい。しかしこのプロセスによって、受講者はより練られたフィードバックや、前後の文脈に関連の深い本質的な問いを行うことができる。

これは、講師がその場の雰囲気を読みながら問いを投げかけるのではなく、受講者の状態を測る情報が少ないオンラインという形式に合わせたファシリテーションのノウハウ・メソッドを有するから成り立っている。

オンライン研修の方がリアル研修より綿密な問いの設計、「学び」に対する設計能力がより高く求められ、これが研修の質を左右するのである。

【編集後記】
オンライン研修の後は、どっと疲れる」という事をよく聞きます。事実、PCの小さな画面を集中して見続け、姿勢を変えづらいというフィジカルな大変さはありつつ、同時に「それだけよく集中しているのでは?」とも思います。考えを文字にするというプレッシャーの他、チャットで全員が意見を出し合うなどアウトプットの機会も多く、聞き逃した質問を隣の人に聞くような事もしづらいので集中して質問を捉え続けなければならない。リアルの研修では、雰囲気から自分は発言を求められなさそうだと推定出来て気が緩むという事もありますが、オンラインでは皆同様に顔が画面に映るので、誰がどのタイミングで当たるか分からない。結果として研修から持ち帰る学びが多くなり、考えを言語化するという力も鍛える、そんな効果がオンライン研修にはあるのではないかと感じました。(編集担当:筒井秀美)

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。