「オンライン×グローバル研修」で直面した学習体験 再設計への挑戦

2020.07.14

「定石」とされる道から、新たな道を築くには、何かしらのきっかけが必要ではないだろうか。これまで組織開発・人材育成における研修の定石を築いてきたグロービスコーポレートソリューション部門は、コロナ禍で多くの研修をオンライン化したが、振り返るとそれは、リアルの単なる代替に留まらず、リアル・オンラインを越えた新たな価値を模索するきっかけとなっていた。

ここでは、グロービスコンサルタント 本田龍輔 が、大手住宅メーカーのグローバル案件のオンライン化の中で、設計の在り方やコンサルタントの価値を捉え直しながら、学びの最大化を問うた軌跡をお届けします。

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
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ー 5か国から受講者が集う本グローバル研修。 目的は、個々人のリーダーとしての能力開発と、担当エリアを越えて互いに磨き合う関係性構築だった。

グローバル案件のオンライン化に伴い、まず検討すべき問題は「時差」だった。グローバルで活躍する受講者全員が同じタイミングで実施することは、現実的に不可能だったため、1日を複数グループに分けて実施するスタイルに変更した。

しかしこの変更は、個人あたりの学習時間の減少につながる。その中で、研修目的の ”個人の能力開発”、そして、”関係性構築” という、2つを達成するという大きなチャレンジに向け、本田は再設計を進めた。

暗黙の前提「全員が同じ時間に同じ空間に集まる」ことを、ゼロから問い直す

ーー初回は、全員が集まり演習の意義を確認し温度感を揃えながらの進行を予定していた。 しかし本田は、その必要性を疑い、全員が集まるのではなく「グループ単位×講師」のセットで再設計することを決めた。前提を覆すこの設計に当初不安もあったが、「結果として、その場で皆が集まってやるべきこと・やらなくてもいいことを問い直すきっかけとなった」、と本田は言う。

本田:
通常は、複数グループを順次講師が見回り、議論内容を全体にも共有するという流れです。今回グループ単位で実施したことで、これまで以上に講師がグループ議論をしっかり見守り、必要なタイミングで必要なファシリテーションを行うことが可能となりました。これは、まだ議論に慣れていない初回において、非常に効果の高い方法でした。

ーー但し、グループ単位で実施したことで、他グループの議論展開が見えないというデメリットも生じる。この問題にはどのように向き合ったのだろうか?

本田:
これには、研修の事前・事後課題を充実させることで対応しました。具体的には、他グループのセッション動画を事後視聴し、その感想や意見をメーリングリスト(ML)上で共有する、という課題を追加しました。他メンバーの意見に触れる機会をしっかり設け、また、半減した研修時間の学びの補完にも繋げることができました。

ーーそして、事後の議論共有を理解しやすくするために、事前課題の段階で、クラス全体の共通フォーマットを用意することで、思考のベースを揃えた。

本田:
共通フォーマットの準備は、今回初めて行ないましたが、リアル研修においても、目的次第ではとても有効だと考えています。というのも、フォーマットが揃っているので、お互いの分析内容・考えを、共通認識のもとに実施することが出来るからです。結果、単純な時間短縮だけでなく、議論の質も高めることになったと感じています。

オンライン上の「自己開示 × 相互対話」で関係性構築を実現する

ーー時間的制約の中で、研修の枠内で実施が難しくなったコンテンツの一部は、インターバルを活用し、受講者のみのオンラインでのグループ活動に変更した。実施したのは、研修の狙いでもある相互理解を深める上で重要な「価値観の共有」だ。

本田:
自主グループ活動に変更したため、当日は講師もコンサルタントも介在しません。そのため、私からは、実施目的や進め方の留意点を伝え、全員で目線を揃えるようなメッセージ出しを行いました。そして、他グループメンバーも理解する仕掛けとして、実施後に、それぞれのグループでの対話の振り返りを、MLに共有してもらいました。

正直、リアルで膝を突き合わせないと胸襟を開くことは難しいのではと懸念していましたが、受講者の振り返りコメントは、リアル以上に詳細で熱い内容でした。そこから、「リアルでないと関係構築出来ない」という感覚は、自分の単なるバイアスなのかもしれないと考えるようになりました。

そもそもリアルの場で、大人数を相手に自己開示することは、ハードルが高いものです。そのため、今回のグループという小規模な場が、自己開示に適した環境になったのだと思います。

ーー本来、リアルの場で講師のファシリテーション前提で実施するワークを、オンライン上で受講者だけで深めることが出来たことから、本田は新たな可能性を感じていた。

~こうした設計の工夫の中、自社課題の題材は、コロナ禍において重要性が増したシナリオプランニングだ。

予想できない難しさの中で、受講者の学習効果を高めるために、コンサルタントはどう動き、その存在に価値を生んだか。

受講者に適した情報のシャワーをギフトする

ーー10年後の未来をあらゆる角度から予測し、戦略ビジョンを考察するシナリオプランニングを実施した6月は、日々状況が変化する混乱の最中だった。

本田:
受講者の方々は、未来からバックキャスティングで考えることに馴染みのない方も多いことが予想されました。

そこでまずは、参加者が視野を広げながら、情報を摑みに行ける土俵をご用意することに努めました。具体的には、例えば『2052 今後40年のグローバル予測』をはじめとする、各産業や技術の未来予測に関する5冊の参考書籍を参加者に提示しました。

他にも、各省庁やシンクタンクのレポートなどを10本程、「グロ―ビス学び放題」からも関連動画15本程と、合計30以上の素材を提供しました。ちょっと多いかなとも思いましたが、しっかり学んでもらうことを重視し、これに加えてCOVID-19の影響を分析するレポートも追加的にご案内しました(笑)

ーーこれらの情報は、グロービス社内に蓄積されている膨大なデータベースから、顧客に合わせてコンサルタントが独自で準備している。この準備過程で、本田自身もまた、理解を深めていった。

タイムリーな情報共有は、リアル以上にオンラインの方が容易、かつ効果的

ーーその上で、シナリオプランニングのセッションは、受講者に大胆な仮説を持って発想を広げながら、未来への洞察を深めていくことを目的としている。議論中、講師によって全体の構造整理を行うが、セッション特性上、あらゆる角度で意見が飛び交うため、受講者は結論に至るまでのプロセスを見失いやすい。

本田:
そこで、コンサルタント側で、チャット機能を用いて受講者の発言を、即時記録しタイムリーに共有していきました。受講者は一通り意見を発散した上で、休憩時間などにチャット記録を再度見返すことで、意見交換の文脈や、発言者、言葉のニュアンスなども含め、順序立てて落とし込んでいただきました。

オンライン特性を活かし、講師とコンサルタント双方で役割分担をすることで、受講者が迷わないよう、整理していくことが出来ました

意図をもった情報提供で、受講者を刺激する

ーー即時共有に関連し、もう一つ。 本田は、オンラインならではのコンサルタントの介在価値を発揮した。

本田:
受講者の事前課題は、私も予め目を通しているので、「当日こういう話題が出そうだな」ということをある程度予測して当日を迎えます。そのため、受講者の思考を広げるために必要な記事を検索しておいたりします。

今回で言えば、「3Dプリンターによる建築技術の進化」という議題が挙がった際、「一般化まではまだ時間がかかるのではないか」という意見も挙がっていました。

そこで私からチャットで、関連記事リンクを共有し、「既に起きている現実ですよ。その前提で考えてみましょう」と暗に伝えることで、もう一段踏み込んだ議論展開に貢献できたのではと思っています。

ーーリアル研修では、コンサルタントは教室の後方から受講者の様子や発言を記録し、主に休憩時間や研修後に、講師とチューニングするため、研修中の即時介入はなかなか難しい。しかし本田は、オンラインでのコンサルタントの在り方を問い直し、受講者にも目に見える形ですぐに還元出来るよう工夫したことで、新たな価値を生み出した。

実現したいことに真正面から挑むことで、学習体験を再設計する

ーー今回、グローバル案件の、非同期かつオンラインへの設計変更の中で、気づかされたことが多々あった。同期/非同期、リアル/オンライン、どちらかではない。それぞれに良さがある。

あらゆる可能性を考え、価値提供の在り方をゼロから問い直し、学習体験を再構築していくことが、新しい時代に必要だということを、考えるきっかけとなった。

本田:
本案件は今後も継続してオンライン実施することが決定しているため、設計のアップデートの挑戦が続きます。

大事にしたいことは、実施形態に関わらず受講者の学びを最大化することです。そのためには、リアル研修を単純にオンラインに置き換えるのではなく、我々が提供してきた価値を見つめ直し、非同期型で行うべきもの、同期型で行うべきものをゼロベースで考えることだと思います。

その中でコンサルタントとしてどんな価値が提供できるのか、今までのやり方に拘らず、自身に問い続けていきます。

【編集後記】
今回、研修の在り方を問い直すことで新しい可能性の模索に繋がりました。これは研修に限らず、働き方や業務の在り方を再構築する今日において、意識したい考え方だと感じます。変化の激しい中で新しい在り方をゼロベースで考えていきたいと思いました。(編集担当:塩谷佳未)

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。