アジアで加速する、 オンラインのビジネス教育サービス(2)
急成長する中国市場と今後の展望

執筆:佐藤 寛子

2018.05.22

Edtechのキーワードで称されるデジタル技術によって、社会人向けのオンライン教育サービスの変革が加速している。本レポートでは、Edtechに関する「グローバル」と「日本」、そしてすでにオンライン教育の市場規模が大きく、さらに急成長中の「中国」でのサービスのタイプや特徴的な傾向をご紹介する。


本レポートのポイント

  1. 1.オンライン教育サービス(Edtech)市場のトレンドキーワードは「Digitalization」「Globalization」「Privatisation」
  2. 2.オンライン教育の市場が急成長中の中国は提供コンテンツ数とボリュームの勝負に←今回

前回のコラムは、市場の傾向を「Digitalization」「Globalization」「Privatisation」の3つのトレンドキーワードで紹介した。今回は、この潮流を背景に、オンライン教育市場が急拡大中の中国のオンライン動画学習サービスの状況と、日本を含む市場の今後を展望する。
取材協力:朱子青(グロービス中国法人) 

市場拡大のスピードが止まらない。
提供コンテンツ数・ボリュームで勝負が決まる中国のオンライン動画学習サービス

中国のEdtech市場でもグローバルと同じく、”K12″(幼稚園=Kindergartenの”K”から始まり高等学校を卒業するまでの13年間の教育期間)や”Higher Education”(大学、高等専門学校、専門学校などで行われている教育)を中心とした学校教育が市場のほとんどを占めている。本稿では、新たに拡大中の市場として、グロービスとも親和性の高い、ビジネス学習領域および社会人向けのオンライン教育にフォーカスを当てよう。

中国国内における業務・仕事関連のオンライン学習サービス事業者は网易云课堂 やMOOC中国という大手企業が中心となっている。この市場構造の背景には、実際にはベンチャーが小さく事業を開始するのだが、すぐに大手企業が投資や出資を行い、自社の事業として事業を拡大していくという構図がある。そのため、Edtechサービスの主要企業は通信事業者や大学などの教育機関、IT企業など多岐にわたっているのも特徴的だ。

大手企業が中心に展開するということもあり、事業の設立はどこも2010年以降となっているが、すでに1サービスで提供コンテンツ数は月に100コース以上追加されるなど、カウントができないスピードで発展している。

中国ならではのサービス対応、習慣が加速のカギに

なぜ中国でここまで市場拡大が進んでいるのだろうか。

実は中国でのオンライン動画学習サービスが加速する背景として、北米と同じように、オンライン上での学習という習慣がEdtechが注目される前からもともとあったことが挙げられる。移動の距離がかかる、何らかの理由で自宅から離れられないといった理由が大きく影響している。また、これらの背景を後押しするものとして、中国のインターネットの浸透率の拡大やスマートフォンの普及率がある。そのため、Edtechに限らず様々なオンラインサービスが存在し、ユーザーもオンラインでの学習に対するハードルが低い。

二つ目の理由として、決済の仕組みのローカライズがある。中国は都市部を除いて、まだまだクレジットカードの浸透率は低くなっている。利用者の間口を広げるという意味でも、決済は中国式のデビットカード決済や、現金での取引ができる仕組みに対応している。

三つ目の理由は、コンテンツのコピー防止機能のリスク対策の対応の進化。コピー防止機能は各国でも付帯されているが、中国においてはダウンロードはもちろんのこと、キャプチャすらできない等かなり高い技術に進化しているようだ。また、動画の上にIPを強制表示させ、万が一流出したときに誰がやったのか大本が突き止められるようにするなど、その機能の進化に抜かりがない。特に二つ目と三つ目の理由は中国だからこそ進化した、業種問わずオンラインサービス全般で進化してきた機能となる。

中国の主なビジネス系の動画学習サービス事業を紹介する。

サービス名

网易课堂

果壳网
MOOC学院

慕课网

概要

実用スキルを学ぶプラットフォーム。2012年12月から今。主に学習者に大量の質の良いカリキュラムを提供。実用知識とスキルの学習

最大のMoocs系中国インターネット学習コミュニティ 。中国のMOOCユーザーの60%が利用。社会人向け、最も多い講座は、語学系となる

国内最大のITスキルモックプラットフォーム。ITに関連した授業が幅広く展開されている。エンジニアがメインのユーザーとなる

規模

約1000万人以上

約120万人以上

不明

主なターゲット

社会人・実用知識が必要な人

社会人・言語学習・実用知識が必要な人

エンジニア全般、IT系の学生

提供学習領域

ビジネス科目(MBAに代表される主要科目)ビジネスツール、インターネット、語学、生活・趣味、金融知識、資格など

コンピュータ、経済学、人文、デザイン、社会科学、数学などの学問系科目中心

エンジニア領域を幅広くカバー

実用的なスキルをオンラインで提供する「网易云课堂」

ビジネス系のコンテンツを学ぶことができる、国内最大規模のオンライン動画学習サービスを運営している网易云课堂について紹介する。

网易云课堂(NETEASE INCORPORATED)は2012年に創設、ソーシャルゲーム、ポータルサイトの運営、個人及び法人向けメールサービスといった通信関連事業を幅広く展開している事業者である。このサービスは約1000万人の社会人層がメインユーザーと想定され、提供コンテンツも毎日のように100件を超えた動画が公開されている。

提供コース数は1万コース以上、総学習時間で換算すると10万時間は軽く超えていると想定される。動画コース毎に300-800元(5000円~14000円)程で設定され、中国の相場からすると少し高めに設定されている。しかし高価格に設定されていても飛ぶように売れるコンテンツは多く存在する。 最近の中国での傾向の一つとして、いいものには高くてもお金を出す、という習慣が根付いてきており、このような背景も多少金額が高くとも売れ続けている後押しとなっている。

提供コンテンツ領域はビジネスに限らず趣味や語学、学校教育のサポートも含まれるが、主のユーザーは社会人や就職活動中の学生となっている。

動画配信だけではない、多様なバックアップサービスを提供

网易云课堂はただ様々な動画コンテンツを提供しているわけではない。そこで学んだ動画の修了証を履歴書に書き、転職のサポート事業も実施している。また、何を学べばよいか、どんなコンテンツを選択すればよいか、迷っているユーザーに対し、適切なアドバイスができるような仕組みを取り入れている。

また、一部の無料コンテンツやオープンクラス(オンライン上での公開セミナー)、まさにどんな学習をしたらよいか、どう学んでいけばよいか、などで学習に不安を抱えている人に対し、学習の進め方をサポートする仕組みづくりも積極的に取り組んでいる。
さらに先に紹介したように、网易云课堂は個人/法人向けにメールサービスを提供している事業者でもあり、動画配信サービス拡大する上でオンラインユーザーの囲い込みにおいて他事業者よりも強みを持っている。

こういった活動を通じ、ユーザー数を確実に伸ばし、中国でも最大規模のEdtechプラットフォームに進化を続けている。

网易云课堂に代表されるように、動画配信サービスのプラットフォーマーは、コンテンツの質の良さだけでなく、付帯サービスの充実性を目指すことで事業の拡大を実現しているように感じる。中国在住の教育コンサルタントにインタビューしたところ、このように回答が来た。

「中国のビジネス向けオンラインサービスは今まさに群雄割拠の時代に突入し始めております。ラーニング・マネジメント・システム((学習管理システム:eラーニングの配信や学習進捗、成績などの情報を統合的に管理するシステム)を提供するプラットフォームに事業者、学習コンテンツを作る企業、教育機関や個人、それらをサポートするコンテンツ制作会社など、随所に点在しており、凌ぎを削っております

前述でもあったように、多くの資金が今中國の教育マーケットに投入され、この乱立の状況を作っている元凶ともいえますが、そのお陰でサービスが日進月歩で進化しているのも確かです。プラットフォーマーとした場合には、モバイク、滴滴打车、Taobaoの様に、トッププレイヤーしか生き残れない世界が待っている可能性は十分にあるが、つよいコンテンツを持っていれば、資本の大小に飲み込まれることなく生き続けることができるとも思っています。いずれここ2−3年でオンライン教育の構図が出来上がって行く気がします、中国から目が離せません。」

今後の中国の動画学習サービスの動向を見守りたい。

オンラインビジネス教育サービスの傾向:今後の仮説

ここまで市場別にいくつかサービスを取り上げてみてきたが、各市場の特徴をまとめると、

  • 1.CouseraやEdx、网易云课堂のような動画配信のプラットフォーマー
  • 2.動画配信プラットフォームに加え、コンテンツも提供することで一貫したコンテンツのクオリティとストーリーでサービスを提供する事業者

の2つの方向性が見えてきた。両者ともビジネスモデルは違っており、現在は類似しているように見えていても今後の展開次第では大きく違うサービスに成長していく可能性もある。

日本市場は教育のデジタル化の浸透へ

日本はまだまだ教育のデジタル化が浸透しているとは言い切れない。しかし、今後はグローバルの潮流と類似したトレンドの波が、日本の教育のデジタル化を後押しし、オンラインで学ぶ動画学習市場も一緒に成長していくことになる。その波は個人向けの学習から浸透する可能性が高いが、法人向けの学習もデジタル化の浸透ももうすぐのことだろう。

今後グロービスも「オンライン」というキーワードをもとに、個々にフィットした学習環境を提供していくことに力を入れていきたい。

アジアで加速する、 オンラインのビジネス教育サービス(1)

 

<編集部のおすすめ>

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<補足> 文中で紹介した各サービスの概要(Wikipedia、各社ホームページ、Speeda参照)

・Cousera:コーセラは、スタンフォード大学コンピュータサイエンス教授Andrew NgとDaphne Kollerによって創立された教育技術の営利団体である。世界中の多くの大学と協力し、それらの大学のコースのいくつかを無償でオンライン上に提供している。2012年設立。

・edx: エデックスとは、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立されたMassive open online courseのプラットフォームであり、世界中の学生に無償で、多岐な分野にわたる大学レベルの授業を無償で提供している。両大学がそれぞれ3千万ドルをこの非営利のプロジェクトに貢献している。2012年設立。

・Lynda.com: 1995年にアメリカで設立されたオンライン学習のリーディングカンパニー。カリフォルニア州カーぺンテリアに本社があり、サンフランシスコ、ロンドン、シドニー、オーストリアのグラーツに支社を置くグローバル企業。大規模な英語のトレーニングライブラリに加え、ドイツ語、フランス語、スペイン語によるコースも提供。2015年LinkedInに買収される。

・Udacity: セバスチアン・スラン、David Stavens、Mike Sokolskyが設立した、massive open online courseを提供する営利教育機関である。 スランによる名前の由来は、”audacious for you, the student”(生徒よ大胆であれ)という願いから。2011年設立。

・Mineruva大学:2014年、サンフランシスコに開校。新設校ながら初年度には98カ国11,000人以上の応募があり、その合格率は2.8%。世界7都市のキャンパスを移動しながら学ぶ全寮制4年制大学であり、今最も新しい教育を行っている学校、と全世界から注目される。創立者ベン・ネルソン氏。

・网易云课堂 :母体はNeteease(网易)という、ヤフージャパンのように通信業界の関連事業を幅広く手掛ける企業。

・MOOC中国:母体は网易云课堂と同じNeteease(网易)。CouseraやedxのようなMoocs事業の中国版となる。

 

執筆者プロフィール
佐藤 寛子 | Hiroko Sato
佐藤 寛子

大学を卒業後、大手電機・通信会社にて携帯電話・スマートフォンの国内・海外の商品企画に従事。その後、監査系コンサルティング会社、スタートアップ系のコンサルティングファームにて、新興国に向けた海外支援コンサルティングに携わる。
グロービスに参画後は、グロービス学び放題の企画業務に従事。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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