アジアで加速する、 オンラインのビジネス教育サービス(1)
2018.05.18
Edtechのキーワードで称されるデジタル技術によって、社会人向けのオンライン教育サービスの変革が加速している。本レポートでは、Edtechに関する「グローバル」と「日本」の市場の動向、そしてすでにオンライン教育の市場規模が大きく、さらに急成長中の「中国」でのサービスのタイプや特徴的な傾向をご紹介する。
大学を卒業後、大手電機・通信会社にて携帯電話・スマートフォンの国内・海外の商品企画に従事。その後、監査系コンサルティング会社、スタートアップ系のコンサルティングファームにて、新興国に向けた海外支援コンサルティングに携わる。
グロービスに参画後は、グロービス学び放題の企画業務に従事。
目次
はじめに
Edtech市場はグローバルで急速に成長をしている市場の一つである。2017年で2810億ドル市場と見込まれ、2020年には2520億ドルの市場に拡大する見込みだ(表1)。また、地域別の市場規模の割合を見ると、アジア圏で世界全体の54%(2013-2020年CAGR20%)の成長が予測され、その勢いは他の地域と規模と成長速度に差が出ている(表2)。今回はこの急速に拡大している市場のグローバルな潮流を紹介する。次稿では、中でも急速な拡大が見込まれるアジア、特に中国を取り上げて紹介し、日本を含む市場の今後を展望する。
キーワードは「Digitalization」「Globalization」「Privatisation」
Digitalization
教育のデジタル化が本格的に進んでいる。海外ではスタンフォード大学教授が創設したCousera(コーセラ)やマサチューセッツ工科大学とハーバード大学によるedx(エデックス)といった、オンラインで大学の受講や専門家から講義を受けることができるサービスが増えてきている。
ほかにはLynda(リンダ)やUdacity(ウダシティ)といったオンライン教育企業がビジネスやデザイン、エンジニア領域の最先端で活躍する人々が講座を提供するなど、より実践を意識したコンテンツを多数配信している。これらのサービスにより、現地にセミナーや講義を受けに行かず、学習したいと思ったタイミングで誰もがいつでも最先端の情報を学ぶことのできる仕組みとなってきた。
また、AIの進化により、学生がチューターをロボットだと気づかない、という現象が報告されるように、配信の仕組みだけでなくコンテンツにもAIの影響が及びはじめている。
Globalization
800年の歴史のあるオックスフォード大学やケンブリッジ大学のような大学の学生数とほぼ変わらないユーザー数を、Couseraは5年で獲得できている。
また、テクノロジーの進化により、ロボット、AI、IoT等の領域で世界の36%の従業員はスキルを再トレーニングする必要が出てきている。中国はEdtech市場で80億円を超える市場となり、前年比50%の成長といわれており、世界の中でもアメリカにづづく大きく・注目の集まる市場となっている。現に、世界のEdtech市場におけるベンチャーキャピタルの投資額の約35%は中国となっているのだ。
Privatisation
従来の教育機関だけではなく、テクノロジーを活用した新しいスタイルのプライベートスクールが注目されている。
Mineruva(ミネルヴァ)大学は2012年設立で世界7か国でプロジェクトベース型で学んでいく。オリジナルのVideo Instructional Platform(オンライン講義を実現するビデオ会議システム)を活用し、全米で最も難関な大学といわれている。このトレンドの背景にはSchool Centric(学校中心)ではなく、Learner Centric(学ぶ人中心)という発想がベースとなっている。
急速に拡大するEdtech市場の方向性
Edtech市場の代表サービスの一つにCouseraがあるが、Couseraなどその他の多くのMOOCs(大学の講義がオンライン配信され、修了すると公的にも使用できる大学の単位を取得することもできる)は単に知識を伝えるだけのプラットフォームではく、学習インフラとしてユーザーの効果を支えるサービスとしてプレゼンスを発揮してきている。
特にCouseraはCouseraの受講者のキャリアの動向を調査し、キャリア上のメリットを感じた(72%)、昇進や昇格などのキャリアの進展があった(52%)、新しい仕事を見つけた(26%)、新しいビジネスを始めた(9%)と多くの効果を実証し、またそれが多くのユーザーを集めている。
このようにMOOCsがプラットフォームとしての影響力を高める一方、アセスメントや個別学習などのユニークなサービスも議論が加速している。Edtech市場でも特に存在感のある”K12″(幼稚園=Kindergartenの”K”から始まり高等学校を卒業するまでの13年間の教育期間)や”Higher Education”(大学、高等専門学校、専門学校などで行われている教育)の領域では、アセスメントが注目されている。4年間かけて大学を卒業するよりも、個別のニーズに合わせて独自の学位や修了証を獲得し、能力があることを証明するアセスメントで自身の実力を説明したほうがROI(投資利益率)が高いという考え方だ。
デジタル学習サービスはアセスメントや個別学習の領域に強みが発揮しやすい。例えばアセスメントや個別テストで個々の人の学習課題を特定し、その学習課題に合わせた最適なコンテンツを個別に提供すれば、結果的に学習のROIが高くなる。そのような仕組みを取り入れていくことがサービスに求められている。
また異なるサービスの連携も始まっている。Lynda.comはビジネス、デザイン、ソフトウェアを実践で活躍するエキスパートから、より実践で使えるテクニックや考え方、昨今のトレンドをオンライン上で動画で学ぶことのできるサービスを提供している。Lynda.comの特徴の一つは、動画配信のプラットフォーム提供だけでなく、エキスパートの選定、動画の制作までこだわりを持って行っていることだ。そのため動画を見ても一貫性のある動画で勉強することができ、クオリティが担保されている。Lynda,comは北米でスタートアップとして立ち上がったサービスの一つではあるが、2016年にLinkedInに買収をされ、Lynda.comで得た学びを転職時に活用できるといったような、サービスの連携が今後より強化に実行されていくと考えられる。
次稿では、急速な拡大が見込まれるアジア、特に中国を取り上げて紹介し、日本市場を含む市場の今後を展望する。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
アジアで加速する、 オンラインのビジネス教育サービス(2) 急成長する中国市場と今後の展望