よい対話とはなにか?「対話」の質を高める鍵(前編)

2020.06.12

メディアなどが実施した「働き方に関する意識調査」によると、「今後もテレワークを継続したい」が60%~80%という結果に。また、歴史ある大企業が「在宅勤務の継続、人事制度の見直し」を発表するなど、働き方改革は加速し、組織のコミュニケーション、マネジメントスタイルにも影響をもたらします。変化が起こる今、「組織を率いるリーダーに問われている姿勢とは何か?」「よい組織をつくる対話」について、戦略人事を担うディレクターの福田亮に、鎌田英治が聴きました。

「管理統制」から「自律分散」の流れが加速してこそイノベーションは生まれる

鎌田:
福田さんは、コロナ禍は「組織のあり方」にどのような影響をもたらしたと考えていますか?

福田:
まず、急速に広がったテレワークによる働き方の変化は、マネジメントスタイルにも大きく影響がもたらされると考えています。ITによる働き方変革は緩やかに始まっており、コロナ禍によって急激かつ強制的に進んだことで、組織はこれまでのヒエラルキー・管理統制型から自律分散型の方向になると予想しています。

その上で、「自律した個」や「エンパワーメント」が進むことで、旧来型の組織であっても、カルチャーをよい方向に変えていける機会になればと考えます。

鎌田:
なるほど、共感します。ちなみに、福田さんの考えは「組織カルチャーの全てを変えるべき」ということですか? 変えるために、リーダーは何をすべきだと思いますか?

福田:
変えるべき面、残すべき両面があるでしょう。これを考える上で忘れてはならないのは、「イノベーション」と「カルチャー」の関係です。

企業は常に新しいことを創出し、成長と事業持続が求められる。管理統制から自律分散になると言った背景は「ヒエラルキー・管理統制ではイノベーションが生まれない」という考えがあるからです。

イノベーションが起こるためには、組織内の心理的安全性が担保されていて、誰もが率直に思ったことを言えるカルチャーが必要です。そのためには、リーダー自らが「組織の中での対話の在り方を変えていくこと」が大切です。

環境変化に適応できる人・組織を作るために、「対話」というアプローチは有効で、「対話」は学習によって体得できると考えています。

「価値観を押しつけられている」という言葉にハッとした

鎌田:
福田さんは部門の戦略人事として、採用・育成・エンゲージメントの向上など、戦略を実現できる組織開発をリードしてくれていますよね。その中で「対話」に強い問題意識を持っている背景には何があるのでしょうか?

福田:
恥ずかしながら、失敗の原体験です。数年前、講師を担当している時に、受講者から「価値観を押し付けられている」と言われてハッとしたんです。

私自身は押し付けているつもりはなく、「よい変化をして欲しい」という想いでした。ただ後で振り返ると、相手の話に耳を傾けているつもりでも改善点ばかりに目がいき、改善点の指摘・アドバイスにばかり捉われていました。自分としては良かれと思ってしていたことだったので、率直な言葉に衝撃を受けるとともに、「私の対話は、対話じゃなかった」と気づかせてもらいました。

鎌田:
対話ではなく、「変化を強く促すための分析」や「課題解決」になっていたことを気づく貴重なフィードバックでしたね。僕ら講師は、「相手によい変化をもたらしたい」という意欲が基盤になりますが、実はとても難しい。経験からどのようなことを学びましたか?

「自分が正しい」との思い込みを手放し、「私とあなた」で向き合う大切さ

福田:
「いい対話」の定義を考える機会になったことはもちろんですが、自分と相手を「主体と客体」に分けることで、対話に分断を生んでいたことに気がつきました。

当時は、「研修には厳しさが求められる」と思い込んでいたことも大きく、「いい研修、いい対話をしなくてならない」というプレシャーを自分で勝手に背負っていました。実は、このプレッシャーは、講師という立場に限らず、リーダーの皆様にも同じことが言えるのではないでしょうか。

鎌田:
確かに、講師だけでなくリーダーも同様のプレッシャーがある可能性は高い。さて、「自分と受講者」を「主体と客体」に分けたことで何が起きましたか?

福田:
相手を「それ(≠人)」という分析対象にして、タイプ分析、課題発見、解決アプローチの提示というコミュニケーションになっていました。

鎌田:
感情を持つ存在ではなく、無機質な対象として分析・ラベリングして、受け手が福田さんの「形」にはめられてしまったわけですね。

福田:
相手の方は「分析の根拠ってなんだ? 何がわかるのか? 偉そうに」と悲しく・不愉快に思われたでしょう。実は、フィードバックをいただいた時、「自分に権威があればよかったのか?」とも考えました。

鎌田:
仮に権威があったとして、対話は成立した?

福田:
いえ、成立しなかったと思います。

鎌田:
「権威は関係ない」と本質的なことに気が付いた。そこから学んだことはありますか?

福田:
主体客体を分けず「自分も問題の一つである」と捉えること。自分が関わることで、変化を起こせる余地・可能性はないかを考えること。ちょっとした一言で、相手の表情も思考も変化する、「言葉による変化の力」を学びました。

鎌田:
対話は「する側・される側」に学びがあります。福田さんは自分のアプローチの間違いに気が付いた時、どうしましたか?

福田:
「自分が正しくなくてはならない」という思い込みが苦しかった。「自分の正しさ」を捨てて、向き合うことだと考え方を切り替えました。

鎌田:
マインドとスキルの両方を切り替えた。対話には、話を引き出すための「how-to」は重要で、スキルは学習しやすい。

冒頭、福田さんは「対話は学習によって体得できる」と言ってましたが、マインドは学習できると思いますか?

福田:
私は、学習できることを学びました。大切なのは自分の内なる感情との対話ではないでしょうか?

「コルブの経験学習モデル(経験を内省して、概念化、教訓化して、もう一回実験する繰り返し)」にもある通り、人は経験を内省し自分の感情を表に出すことで心のありようをセルフマネジメントできるという実体験は大きいものでした。

人、本、経験から継続的に学ぶ姿勢と、「弱み」をみせる自己開示も大切

鎌田:
「正義の反対は、別の正義」という言葉がありますが、相手は自分とは異なる正しさを持っていると受け止めることはセルフガバナンスそのもの。

不確実性と多様性が高まる時代、リーダーは益々柔軟性と寛容さが求められますが、一方で「自我(エゴ)」は誰もが持っています。福田さんは、「自我」をどのように捉えてますか?

福田:
自我はあります。私は「自由」という言葉を大切にしていて、自分の幸福を追求したい。それ故に「自分が正しい」という前提で自分の意見を相手に押し付けることもありました。

だからこそ、他者のフィードバックを受け入れ、失敗から学ぶことで「自分が変われる」という経験は、自分の成長に大きな意味がありました。「自分のこだわりを手放し、『今』起こっていることに素直に歩み寄ることで、よい変化をおこせる」。その実体験があるからこそ、「学び方」にこだわっています。

鎌田:
原体験は重要ですね。「人はいくつになっても変容できる」を、他者に伝えていくにはどのような切り口があると思いますか?

福田:
リソース(変化の資源)は自分と考え、自分の心に火をつけることでしょうか。

一定の年齢、立場があったとしても、人、本、経験から継続的に学び、自らが努力する姿勢を示し続けることで、周囲によい刺激をもたらすことができるのではないでしょうか。そして、「弱み」も含めた自己開示も大切です。

いい対話とは、「相手の中に小さくても変化が生まれている状態」

鎌田:
福田さんは、役割に対する周囲からのプレッシャーを感じ、「厳しさ」で相手に変化を強いていた。でも、厳しさを手放して、気づきが生まれるサポートの姿勢に変化したことで、相手にも自分にも心に火をつけるよい循環が起こるようになっていった。

その理解であっていますか?

福田:
そうですね。私は期待される役割(ペルソナ)を意識しすぎると、その役割を果たすことに意識が向いて相手に関心が向かない傾向があります。そのため、一旦は捉われている「役割」を片隅に置いて、自然体で相手に向き合うと、良い変化が生まれることも経験から学びました。

私は、いい対話とは決して自分本位ではなく「相手の中に小さくても変化が生まれている状態」だと考えています。だから、小さくてもいいから相手に変化が起きる働きかけとして、何ができるかを常に考えて対話に臨みたいと思います。

鎌田:
いいですね、共感します。

とはいえ「変化」の形は様々で、前進感のある変化もあれば、自分を責める変化もある。変化に対する評価や副作用をどう捉えていますか?

ネガティブなフィードバックは、光と影の両面を伝える

鎌田:
ネガティブな副作用ですか、難しいですね。ただ、「絶望の中に希望を見出す力」が人にはあると信じています。

学習のサイクルには、フィードバックが必要です。そして、人間には光と影の両面がある。ネガティブなフィードバックをする時は、光の面も伝えた上で、「私には、今、あなたの影が強めに見えている」と率直に伝え、「他者にはどう映っているか」を気づいてもらうよう心がけています。

大切なのは「光の部分も分かってくれている人がいる」という安心感。これがあるからこそネガティブなフィードバックが、自己認識の再考をしたり、自分の本心に向き合うきっかけになると思います。

福田:
リーダーは、両面を伝えた上で「気づき」を促すことに徹するわけですね。

~~後編に続きます~~

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。