部長の役割とは? 〜経営陣・人事による定義と期待から始まる〜
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岡本 佳那子
皆さまの企業では、部長の役割をどのように定義していますか?
リクルートワークス研究所は、部長を”何らかの事業あるいは機能領域を統括する立場の人であり、自身の責任下に存在する複数課(チーム、グループなど名称はさまざまに考えられる)の長(課長など)の一次評価責任者を負う直属上司である人”、”現在の業績に対する責任を負いつつも未来を構想し、その実現に向け、組織内(上・横・下)および組織外に働きかけ、事業の改善、刷新、変革および創造につなげることが役割である”と定義しています1)。
本コラムでは、上記の定義も参考にしながら、各企業で部長の役割をどのように定め、部長職本人がその役割を果たせるよう、組織としてどう対応していけばよいのかを考えます。改めて、部長の役割について考えていただく機会になれば幸いです。
日本企業における部長職の現状
日本企業においては、部長職がどのような役割を担う存在なのか、明確に定義できている企業は多くありません。その背景として、以下のような組織体制や人事制度の影響があると言われています。
- スパンオブコントロール(マネジャー1人が直接管理している部下の人数や、業務の領域)を適切にする考えのもと、中間職が多く置かれている
- 職能的・年功的な人事制度の中で、部長級クラスとなった人材へ処遇を与えるために、新たな部長ポストを設置する
部長という役職でありながら、何らかの事業あるいは機能領域を統括する立場ではない。そんな場合もあるようです。
部長のあるべき姿/役割を、 経営状況から考える
役割が明確にされていないと、部長職を担っている人材も、どう行動してよいものか悩んでしまうでしょう。その結果、部長の配下にいるメンバーも戸惑い本来の力を発揮できないなど、組織運営においても問題が生じます。
企業における組織とは、ミッションを果たすために集まった集団・仲間です。これまで述べたとおりの現状があるとしても、人組織のプロである人事部は、個々が力を発揮できるよう、部長の役割を具体的に定義していくことが必要です。
ではその部長の役割をどう定義していけば良いでしょうか。
ポイントは社内ではなく、社外の環境に目を向けることです。自社(自事業)が置かれている環境をまず押さえましょう。
その環境変化の中、自社はいつまでにどこを目指しているのか。目指していくにあたり、現状抱えている課題は何であり、どう変わっていく必要があるのか。経営陣はどのような戦略(あるべき姿を達成するための方法)を描き、打ち出しているのかを理解しましょう。
このステップに沿って、置かれている環境から部長の役割までを考える具体的な例を挙げたいと思います。
近年、カーボンニュートラルの議論が世界的に大きく進んでいます。国際的な目標も設定され、各企業での取り組みが期待されています。その中、取り組みをしないという選択肢をとるのであれば、クライアントや従業員、投資家などステークホルダーから事業に対する賛同が受けづらくなり、持続的な会社経営が難しくなるでしょう。
こうした外部環境の変化に対応するにあたって、自社がいつまでにどのような目標を置く必要があるか、または置いているか確認します。その目標を期限までに達成するにあたって、何をしていく必要があるか具体的に考えていきましょう。
例えば、2030年までにカーボンニュートラルの達成が必要な中、既存の商品では対応できず、新たな商品が必要ということを課題と置くとします。すると、バリューチェーンの中で、研究部、商品開発部等が会社において強化する部門となるでしょう。
ただ、それが困難を極める商品開発であれば、それにとどまらずその部署は、営業部や製造部、協業会社、国など、社内外と連携しながら、失敗を成功に変えるPDCAを素早く繰り返すことが必要です。
また場合によっては、他の手も考えていかないといけない必要もあり、その場合は新規事業の部署を構える必要があるでしょう。
このように考えていくと、具体的に、どの機能をいつまでに強化しなければいけないかが見えてきます。
「何らかの事業あるいは機能領域を統括する立場」であるのが部長であるならば、強化すべき機能領域と行動が見えると、求められる能力も定義しやすくなります。各部門に複数の部長がいる場合においても、それぞれの部長がどのように役割分担し、行動すれば、部門目標の達成が近づくのか、考えられるレベルにもなっているでしょう。
環境変化が激しいVUCA時代においては、戦略1割、実行9割と言われるほど、実行力が経営の結果を左右します。こうした状況下で、「何らかの事業あるいは機能領域を統括する立場」である部長職が担う役割の重要性は増しています。
各企業において経営の要となる部長職の役割を、この機会に見直してみてはいかがでしょうか。
部長の役割発揮は、 「期待を伝える」ことから始まる
人事部門は、部長の役割を定義して終わりではありません。次に、部長自身が求められている役割を解像度高く理解できていることが必要です。
人事部門は、組織や人のプロとして、目指す組織像を経営陣と擦り合わせ、部長の役割を定義し、本人達に期待を伝え、戦略を実現できるよい組織にすることが期待されています。部長職がその役割を発揮するのは、「経営陣と人事の期待から始まる」といえるでしょう。
では、部長の皆さまへはどのように期待を伝えれば良いでしょうか。例えば以下の観点が考えられます。
- 誰から:社長、直属の上司、人事部長 など
- どのような方法で:1on1で、役員会議で、部署の会議で など
- どのような言葉をかけるのか:何を期待しているのか なぜ期待しているのか など
部長職の能力開発について
前述したように、現在の部長職の中には、職能的・年功的な人事制度などの影響によって、実質的な部長としての職務を担っていなかったため、新たに求められる役割を果たしきれない方がいるかもしれません。
しかしながら、部長職本人には役割を担うための努力が求められますし、人事部門としては、役割を果たせずに悩む部長に対してどうコミュニケーションし、育成し、評価をするか、運用面までを見据えておく必要があるでしょう。
能力開発については、企業の目指す姿や、現状の課題によって取るべき方法は異なりますが、具体的な手法を検討する際は、以下のポイントを考えることをおすすめします。
- タイミング:部長職に就く前か、もしくは就いた後か
- 方法:On-JT(職務上で)、Off-JT(研修で)、あるいはOn-JTとOff-JTを組み合わせるか
- 企業指定の能力開発か、個人での自主的な能力開発か
- 学ぶ仲間:社内で切磋琢磨するか、もしくは社外の人も交えて他流試合をするか
筆者も皆様の活動の応援をしたいと思っておりますし、この記事が部長職の役割を再考するきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。本記事が人事の皆様の参考となりましたら幸いです。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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