心構えは「手伝い業」

2010.04.27

これまで続けてきた本コラムも、今回でいったんピリオドを打ちたいと思う。本コラムでは、現在のビジネス環境下、次世代リーダーの典型的な成長機会である修羅場が構造的に作りがたくなっていると議論してきた。その結果として、多くの次世代リーダーが「諦め」てしまっていること、それが本コラム冒頭の問題意識だった。この「諦め」は煎じ詰めてしまえば、成長すること、学ぶことへの「諦め」だ。ここが教育の要所、ヘソなのだと思う。今回は、これまでの議論を改めて振り返り、このチャレンジに取り組む者として大事にすることをまとめておきたい。

育てるのか、育つのか

「人は育てるものか、それとも育つものか」

教育という領域に携わっているとよく出会う議論である。皆さんはどちらの立場をとるだろうか。まず、ある方のコメントを紹介したい。不可能と言われる無農薬のリンゴ栽培に成功した、腐らない「奇跡のリンゴ」で名を知られる木村秋則氏のコメント (1)(2)である。

「人間はどんなに頑張っても自分ではリンゴの花ひとつも咲かせることは出来ないんだよ。(中略)そんなことは当たり前だって思うかもしれない。そう思う人は、そのことの本当の意味がわかっていないのな。(中略)主人公は人間じゃなくて、リンゴの木なんだってことが、骨身に染みてわかった。それがわからなかったんだよ。自分がリンゴを作ると思い込んでいたの。自分がリンゴの木を管理しているんだとな。私に出来ることは、リンゴの木の手伝いでしかないんだよ。失敗に失敗を積み重ねて、ようやくそのことがわかった。それがわかるまで、ほんとうに長い時間がかかったな。」

木村氏は「リンゴは自ら育つもの」であるとようやくわかったと語っている。私はこの姿勢に強い共感を覚える。“リンゴ”を“人”に置き換えていただきたい。私も木村氏と同じ立場である。「人は育つもの」であり、我々にできることは「人の手伝いでしかない」ということだ。本来人は成長する、学ぶ力を持つはずだと強く信じている。しかし、現代のビジネスにおいては、その力が放っておくと埋もれてしまっているというのが本コラムで提示した問題意識だった。これまでは修羅場が学ぶ力を磨く貴重な機会であった。しかし、その機会が構造的に作りがたくなっているために、修羅場の代替として経営教育の可能性を模索してきた。では、リーダーが育つためには修羅場さえあればよいのだろうか?

仕事は「手伝い業」

「修羅場さえ用意すればよいのですか?」

ある読者から寄せられた質問である。本コラムでは、修羅場の持つ「自分の力量で太刀打ちできない」かつ「逃げられない」という特徴に注目して論じてきた。この特徴だけでは、ただでさえ疲弊している体に追い打ちをかけているように見えかねない。やむを得ないと思う。そこで、ここまで議論し尽くしていない点にも触れておきたい。キーワードは上述の木村氏のコメントにある。木村氏は自身の仕事をこう呼ぶ、「リンゴ手伝い業」。とすれば、我々も同じ「手伝い業」なのである。では、何を「手伝う」のか。ここで強調したいのは、のびのびと学ぶ力を発揮できるよう、2つの阻害要因を取り除くことである。

第一は、失敗を受け入れるということだ。「自分の力量で太刀打ちできない」チャレンジをすれば、すべて成功するわけではない。むしろ必ず失敗すると言ってもいい。しかし、失敗するからこそ痛みを覚え、より深く考え、自分事として取り組む。だからこそ、成長する。そして、再び挑戦する。こうしたサイクルにつきものの失敗が即座に否定されてしまったらどうなるだろう。失敗の恐怖に足がすくんでしまって、チャレンジできない。それでは自分自身が考え、試行錯誤するサイクルが回らずに終わってしまう。だからこそ、失敗を許容するよう「手伝う」のである。疑似的な研修の場でも同様だ。失敗は失敗として指摘する。しかし、我々自身がその本人の失敗を受け止める。加えて、その本人の周囲に失敗を受け止めるような環境をいかに作れるか。失敗を許容する環境を作るためには、前回議論したようにCLOだけでは手が回らない。やはり現場に仲間を作らねばならないのだ。

第二に、足を引っ張る敵から守るということだ。修羅場における幾多の失敗を越えても、成功を目前に足をすくう敵もありうる。修羅場に臨むことそのものを妨げるような敵も存在する。たとえば、卑近な例だが真剣な姿勢への周囲の揶揄もその一つだ。研修という疑似的な場であっても、修羅場同様の真剣勝負の環境を目指す。その場に真摯に取り組もうという本人をからかうような周囲の言動があるとどうなるだろう。本人のチャレンジしようという意欲を削ぐ。こうした外野の誹謗中傷で、せっかくの機会を活かせないことほどもったいないことはない。こうした誹謗中傷をコントロールすることも力量のうちともいえる。だが、とりわけ早い段階ではこうした足を引っ張る敵から守るよう「手伝う」のである。失敗を許容する環境同様、敵から守ることはCLOだけでは手が回らない。阻害要因を取り除くためには現場に仲間を作っていくことが大事なのだ。

紙面の制約で十分に語りきれていないが、こうした「手伝う」ための土壌として押さえるべきポイントとして、ゴシャール(3)の「自己変革のための行動環境」4つの要素が参考になる。4要素とは、「規律」「ストレッチ」「サポート」「信頼」である。比較的これまでの議論では、規律とストレッチに焦点を置いてきた。しかし、上述の阻害要因を取り除くようなサポートや信頼もまた重要な要素である。ここまで十分に触れては来なかったが、さらに技術を研いだ暁には、再びご紹介する機会が用意できればと思う。

「手伝い業」としての「想い」

最後に「手伝い業」として加えておきたいことがある。それは「手伝う」側としての想いだ。王貞治氏が語っている。

「選手を育てるのは選手の気持ちではない。コーチの想いだ」

我々自身も想いを大事にしていきたい。日本にある会社のあちこちで創造と変革の志士が活躍している、我々はそんな状態を本気で目指しているし、できると信じている。そのためのカギとなるのが、多くの次世代リーダーが抱えている「諦め」を払拭することだ。今の状態を放ってはおけないと思う。この「諦め」という曇りを払って、各々が持っている成長する力、「学ぶ力」を解き放つお手伝いができればと願っている。

ちなみに、この課題認識は日本に限った話ではない。欧米における経営教育のトッププレーヤーの認識も同じだ。たとえば、米国のCenter for Creative Leadership やスイスのIMDなどが重視している点もまさにこの「学ぶ力」だ。彼らの英語での表現では ”learn how to learn” となる。この「学ぶ力」はやはり世界共通の、本質的な課題なのである。同時にまだ確固たる解は見つかっていないと考える。つまり、これからヨーイドンで技を磨いていくことのできる領域なのだ。だからこそやりがいがある。

私自身10年近くこの経営教育という領域に携わってきて、年間250社以上のお客様と試行錯誤する中で、最近ある手ごたえを感じつつある。それは、経営教育を通じてこの「学ぶ力」を解き放つお手伝いができそうであるということだ。その一つのヒントがこれまで現場で作られてきた「修羅場」である。その修羅場が担ってきた機能を、研修という場で再現できそうなのである。技を磨いていく方向性は見えつつあるということだ。

僭越ながら、同じように感じている方があちこちにいらっしゃることもわかってきた。とすれば、次の10年、今見えつつある解決の方法を皆で磨いていけば、面白いことができるのではないかと感じている。今書きながらですらわくわくしてくる。このわくわく感も多くの方と共有しながら、次のステップに進んでいきたい。

ここで、9回に渡る拙い連載をいったん終えたいと思う。多くのお客様、関係者の皆さまのおかげでここまで筆を進めることができた。心から感謝申し上げたい。ありがとうございました。いったん連載は終えるが、あくまでもスタートだと思っている。これからも多くの方と手を携えて楽しみながら取り組んでいきたいと思う。どこかでお会いすることを楽しみに。

以上。

出所:

(1)茂木健一郎、住吉美紀ほか『プロフェッショナル 仕事の流儀 農家 木村秋則の仕事 りんごは愛で育てる』(2007年、NHKエンタープライズ)

(2)石川 拓治、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録』(2008年、幻冬舎)

(3)クリストファー A. バートレット, スマントラ・ゴシャール『個を活かす企業』(2007年、ダイヤモンド社)

参考:
Center for Creative Leadership http://www.ccl.org/leadership/index.aspx
IMD http://www.imd.ch/

執筆者プロフィール
河尻 陽一郎 | Kawajiri Yoichiro
河尻 陽一郎

東京大学法学部卒業、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)修了 (Master of Nonprofit Organizations)。外資系戦略コンサルティングファームに入社。経営コンサルタントとして戦略立案及び実行支援を行う。その後、グロービスに入社。現在グロービス経営大学院の研究開発チームの1つ、グローバルなアジェンダにフォーカスしたグローバル・ファカルティ・グループの研究開発リーダーを務める。経営大学院におけるグローバル領域科目や、企業の経営幹部育成研修における講師も務める。共著に「個を活かし企業を変える」(東洋経済新報社)「新版MBAマネジメント・ブック 」(ダイヤモンド社)など。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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