一番会いたくない人に、一番会いたくない時に、会いに行け
- グローバル人材育成
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高橋 亨
グロービス講師
「月に集合して、月から宇宙に浮かぶ地球を見ながら会議をすれば、発想も変わってくるんじゃないか?」最近お会いした人のとても印象に残る言葉だ。どうしたら真にグローバルな発想で仕事ができるでしょうか?という質問をした際の返事であった。漆黒の大宇宙の闇に浮かぶ青く輝く星=地球を目の当たりにしながら、地球の明日を考える。こんな会議を開催することができたら、いったいどんな意見が出てくるのだろうか。
天動説から地動説へ
数日前、宇宙ステーションで活動中の若田さんを迎えに行ったスペースシャトルが無事ステーションにドッキングしたというニュースを見た。宇宙ステーションでは、米国、ロシア、欧州、そして日本のグローバルチームで仕事をしているそうだ。彼らは地球を見ながらどんな会話をしているのだろうか?と興味が沸いてきた。機会があったら、是非、若田さんにインタビューをしてみたい。
さて、今回が最終回となるこのグローバルリーダー育成シリーズでは、グローバルでリーダーとして認められ、活躍するにあたって、我々日本人が陥りがちな罠はなにか?どのような備えをすべきなのか?そのために持つべきマインドセットは何か?ということを中心に、私が経験したこと、考えていること、そして、今、グロービスでチャレンジしていることを6回に渡って述べてきた。
しかし、真のグローバルリーダーとは何か?という問は常に私の中に残っている。問われているのは、インターナショナルではなくグローバルである。我々はグローバルと言いながら、本当に地球を見据えた話をしているのだろうか?我々の発想は、まだ天動説の世界(=インターナショナルの次元)にいるのではないか?そんな気がしてならない。
ラジカル・トランザクティブネス
人間は、なかなか自分中心の発想からは逃れられないものだ。どうしても夜空の星や太陽は自分の周りを回っていると捉えてしまう。頭では地球が太陽の周りを回っていると知りながらも、普段景色を見ていていると、やはり太陽の方が昇って沈んで行くという感覚は、そう簡単にはぬぐいさることはできない。同様に、グローバルと言いながらも、我々の大半は、日本起点の発想や、せいぜい日本が世界でどう戦って行くのか、どう生きて行くのかといったレベルからは抜け出ていない。では、どうすれば思考の枠を壊して、視野を広げることができるのだろうか?
これを打ち破るための一つの方法として、持続可能な開発と環境保護に関するグローバルビジネス戦略研究の世界的権威スチュアート・L・ハート氏は、その著書「未来を作る資本主義」の中で、ラジカル・トランザクティブネスの重要性を説いている。
ラジカル・トランザクティブネスとは、ラジカル(=これまで企業にとって急進的、あるいは、瑣末と捉えてきたステークホルダーにアクセスすること)、そして、トランザクティブネス(=企業とステークホルダーが相互に影響し合う双方向の対話)を意味するそうだ。
現時点では自社にとって重要とは思わない、あるいは、先に進み過ぎていてとても付いていけないような人、つまり通常は接点がない人たちと意図的に接点を持つことによって、企業は将来的に自社の競争力を左右するかもしれない複雑な課題を理解できるようになるのだそうだ。言い換えると、1.企業の視野を四方八方に広げる能力、2.企業の常識を覆す多様な知識を内部に取り込む能力を身に着けることになると述べている。
私は、このくだりを読んでいて、ある自動車メーカーで長年、開発に携わった方と話をした時のことを思い出していた。彼は現在、どんな自動車にも標準となった技術を開発した優秀な開発者の一人である。私はその方に、いきなり「バカヤロー!」と、どやされた。世の中を見る、次の時代を見るには、今、変化が起きているところに行け!そして、その変化点でじっと観察して人は何を求め始めているのか?を嗅ぎ取れと。氏は、以下のように続けた。
・おばあちゃんの原宿=巣鴨に行ってみたか? 巣鴨も見ないで高齢化社会を語れるの?
・秋葉原のメイド喫茶に行ったか? そこに来る若者(あるいはおじさん?)は何を求めているのか良く見ろ!
・うなずき人形で遊んでみたか? どんな人がこんな人形を買って帰るのか?どんな人が開発したのか?
考えてみろ!
お前、そんなこともしてないで、どうやって未来を語るのさ? 変化が起きている場所に行ってじっと見て本質を探れ。そして、次の世界を予測しろ。ヘンリー・フォードだって、エジソンだって次の時代をみていたぞ!つまらない話をするぐらいなら、外に行ってちゃんと見てこい!
せめて自分の身近なところからでも外を見る。何も大それたことをしなくても、やっていないことはたくさんある。こうしたベタな動きこそが、実はグローバルリーダーを作る第一歩なのではないかと感じた。
前出のスチュワート・L・ハート氏は、今後求められるリーダーの姿として、”想像力、曖昧さに対する寛容、精力、情熱、共感、自己反省、勇気は、知性、分析能力、知識と同じぐらい重要かもしれない。”と述べている。
私は特にこの中では、曖昧さに対する寛容はとても大事だと考えている。未来は分からないことだらけだ。その曖昧さを許容し、新しいものを生み出そうとする情熱と勇気を持つことは、必ずしも誰にでもできることではない。
我々は日頃とかく曖昧さや抜け漏れを追及することに熱心で、将来の芽や真理をつぶしていないだろうか?かつて、コペルニクスやガリレオが地動説を唱えている傍らで、後生大事に宗教書だけにひたすらしがみついていた人たちがたくさんいたのだ。
果たして、今の我々はどうであろうか?ガリレオを裁判にかけた人たちを何と愚かなと言えるだろうか。我々も同じように、未知なるものへの違和感を拒絶していないか?あるいは、新しい可能性を否定していないか?鋭く自問すべきだ。
想像力を働かせ、曖昧さを許容しながらも物事を進めることができる。この胆力こそがグローバルに活躍するリーダーとして重要な資質と言えるのだ。
「一番会いたくない人に、一番会いたくない時に、会いに行け」
この言葉は、私が前職時代、初駐在でイランに出発する際に、上司から授かった言葉だ。会いたくない人に会いに行けというのは、言葉としてネガティブな響きがあるが、私はこの言葉をとてもポジティブなものとして捉えている。そして、この言葉こそがグローバルリーダーが持つべき重要なマインドセットだと思っている。以来、私はこの言葉を座右の銘としている。
もともとは、「厳しいイランでのビジネスに逃げずに立ち向かえ。物事を先送りしていても何もいいことはない。むしろ、一番会いたくない人に、一番会いたくない時に会うことによって、多くの局面は打開できるのだ」といったことを端的に伝えてくれたものだ。イランではひとつ間違えると取引停止のブラックリストに載せられてしまうことがあるので、駐在初心者は問題を先送りにしてしまいがちだ。それを戒める言葉である。
更に、この言葉は、ラジカル・トランザクティブネスを実現する上でも自分の背中を押すものでもあると、私は考えている。全く違う世界の人や先端を行っている人に会いに行くのは時として勇気がいるものだ。また、忙しい時は面倒に思うこともある。またこうした活動は、今すぐにやらなくても、すぐに致命的な問題にはならないので、先送りになりがちだ。
私は、前職時代の14年間一貫して海外との取引に従事してきたが、やるべきことをやらずに、会うべき人に会わずに、お茶を濁している日本人ビジネスパーソンをたくさん見てきた。中には、ほぼ毎日、日本人同士だけで話をして、毎晩、日本語がしゃべれるウエイトレスのいる日本食レストランに通い、そして、日本人会の会合だけに参加する。これでは、まともな情報は取れないし、現地の人との信頼関係を築くことはできるわけもない。ましてや広い視野を獲得することなど、とても望めない。自分の世界を広げるチャンスをみすみす逃しているのである。
この座右の銘の下、私は、様々な人種、国籍、宗教、習慣の人々との出会いを積極的に求めてきた。思いもよらぬ出来事や、全く異なる人々の発想や考えとの出会いに面食らいながら、世の中に絶対ということはないことを学んだ。
同時に、こうした環境の中で、リーダーとしてどう振舞うべきかに関して、私がたどり着いた結論は、
“違い”ばかりに目をむけるのではなく、”共通する”点を見出すこと。
“違いの解消に労力を使う”よりも、”共感できる接点を見出す”こと。
・・・である。
異なる環境の中で違いにばかり目を向け、その違いを嘆いていても始まらない。同じ人間同士こちらが心を開けば必ず接点は見つかるものだ。接点さえ見つかれば次への展開が見えてくる。
そして、共感できる接点を見出すためにやるべきことは、自分はどうやって社会に貢献したいのか、自分はどういう人間なのかを語ることである。私がこの一連のシリーズを通してお伝えしてたかったのはこの点だ。
青い美しい地球を見ながら、世界中の人々がマイ・ストーリーを作り、語り合う。そんな世界を実現するのが私の夢である。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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