そもそも持つべき心構え、役割認識とは何か(2/2)
- グローバル人材育成
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高橋 亨
グロービス講師
グローバル企業コマツの取り組み
これに関連して、グローバルに成功している企業で私が商社時代にお付き合いのあったコマツ(建設機械、鉱山機械、産業機械の製造販売がメインのグローバル企業)の例を取り上げてみたい。
コマツの成功は、グローバルでのロジスティクスや生産管理、管理会計など大変優れた戦略を展開していることにフォーカスされがちだ。こうしたハード面での優れた戦略もさることながら、私はむしろ、ヒトを中心としたソフトの面において一日の長があると思っている。製造業の中でも建設機械、鉱山機械という製品が持つ特性が、コマツの人における能力アップに大きく寄与したと捉えている。
建設機械という製品が持つ特性は何か?特に他の日本の製品と比べて圧倒的に違うのは、分かりやすい言い方をすれば、どんなに良い製品でも壊れるということだ。建設機械は建設現場や鉱山などの過酷な環境下で使用される。そうするとどんな優れた機械でも磨耗するし、破損も起きる。”品質が良くて、安くて、壊れない” と三拍子揃って表現された自動車や電気製品に代表される日本製品の特性のうち、”壊れない” という要素が、その特性上、建設機械という製品には欠けており、この点が他の日本の製品が誇る優位性を持たないということで、決定的に異なるのだ。この点が実はグローバル化という観点でコマツに幸いしたと思っている。なぜだろうか?
建設機械のお客様である建設現場や鉱山開発の現場は、厳格なタイムラインに則って工事や開発が進められている。そこで使用されている機械にトラブルが発生した場合、当然ながらいつまでも機械をストップさせておく訳には行かない。止まっている間の時間のロスは、そのままコストに反映されてしまう。したがって、機械の不具合状況をもとに、対応方針を的確に判断して迅速に実行に移すことが、建設機械のビジネス上の重要な鍵となる。そのため、部品供給体制を作り、優秀なエンジニアやサービスマンを確保し体制を整える必要がある。この体制をグローバルに構築するのにコマツは大変なご苦労をされてきた。
お客様の不満や要望などをきめ細かく理解するためには、その国の人同士が密にコミュニケーションすることがもっとも効果的、効率的だ。しかし、コマツの製品やサービスの背景にある考え方を、海外の現地採用の社員が必ずしも十分に理解しているとは限らない。かといって、日本人社員が世界中の建設現場に赴くのは非現実的である。そこで、コマツは、自社の機械の面倒を見る人を世界中で育成し、そのための組織文化を創ることに真剣に取り組んだ。あるいは、製品特性から来る宿命により取り組まざるを得なかったとも言える。
まず、現地で採用した人に対して徹底的にコマツの企業ポリシーを伝える必要がある。コマツの機械はどういう特性があり、どんなフィロソフィーで設計され作られているのか。また、どんなトラブルが起きやすく、修理にあたって無償/有償はどう判断するのか、そしてお客様とどう対応するのかといった考え方も合わせなければならない。更には、現場で起きたトラブルの再発を防止するために、トラブルの問題点や原因、解決策を明らかにし、見える化を通じて関係者に共有する必要もある。まさに暗黙知の形式知化と組織の知恵の蓄積を外国人社員にも行ってもらわなくてはならないのだ。
こうした活動を世界中できちんと行うには、ビジョン・ミッションの周知徹底や一人一人が持つべき心構えを現場でしっかり伝え、相手が腹落ちするまで教育する必要がある。こうした愚直な努力の継続が、コマツのグローバル企業としての揺ぎ無い競争優位を作っていると私は考えている。
コマツといえば、坂根前社長時代の経営改革が有名だが、その取組の柱は「トップの現場密着」、「方針展開」、「パートナー間の連携」、「グローバルリーダー育成」であった。トップ自らが現場に赴いて、方針を徹底するとともに、現場ミドルを核として継続的にその方針を展開していく。それは社内の部門間はもちろん、協力企業やパートナーに及ぶ。その推進役として、海外経験を重視し、特にモノ作りを担う生産技術者の管理職の海外駐在を強化し、その技術の海外への移植を推進した。この取組の背景にあったのが、コマツの強さ、行動スタイルやノウハウといったものを明文化した”コマツウェイ”である。海外の社員と方針を共有するには、それまで明文化されていなかったものを言語化する必要があったのだ。
この点において、コマツが長年世界各地で取り組んできた人材育成や組織文化作りは参考とすべきことが多いと思う。
今、日本の多くの企業は、海外市場においても他の先進国の企業と同様に、”商品価値” から “使用価値(あるいは、実現価値)”へと価値の訴求の仕方を変えていく宿命にある。 この”モノ” から “コト”への流れは、単に性能の良いモノを生産していれば売れていた時代は終わり、自社が提供する顧客にとっての価値をしっかり語れる社員を増やさないと、今後のビジネスの伸張が困難になることを意味する。では、現実にこのような人材は果たしてどのくらいいるだろうか。同様の現地採用社員はどのぐらい育成できているだろうか。
今後、日本企業のマネジメントは、現地で採用した人を育成する能力がますます求められるようになる。こうした高い部下育成能力がリーダーの必須条件であるならば、リーダーには、能力面はもちろんのこと、 相手に対する深い愛情があるか、冒頭に紹介したような国や習慣に関わらず赴任した国を愛し感謝する気持ちを持てるかといった点が、極めて重要になるであろう。
では、どうしたらそうした役割認識やベースとなる愛情を持つことができるのか?という問が立つ。そもそも持っている価値観や人間性に根ざすところも大きいと思わるであろう。
次回はこうした課題への取り組みを紹介したいと思う。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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