Wayを策定する2~人選の考え方

2008.05.29

Wayマネジメントについて考えてきたこの連載も、いよいよ前回からWayそのものを策定するフェーズに入ってきました。前回は、Wayを策定する際のアプローチとして以下の2つがあることをみなさんと共有してきました。

(1)これまで大切に培ってきた『考え方や判断・行動の基本』を言葉に落とす

(2)こうありたい、というあるべき姿としての『考え方や判断・行動の基本』を定める

今回も、電子デバイスメーカーY社の事例を基にして、Wayを「作る」プロセスでどんなことが起きたか、どんなことを乗り越えて先へ進んだか?といった点を中心に、Wayを作る上での重要なポイントや難所について皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。

執筆者プロフィール
湊 岳 | Takeshi Minato
湊 岳

グロービス講師。一橋大学経済学部卒業。上海交通大学漢語科修了。
株式会社スポーツクロス 代表取締役。
大学卒業後、三井物産株式会社に入社し自動車部門にて日系自動車メーカーの中国、ロシア、東南アジアへのグローバル化プロジェクトに従事。 中国駐在時には、日中合弁企業の経営再建や自動車部品製造工場の新規立ち上げを担当。
1999年から経営教育の世界に転じ、グロービスの企業研修部門のマネジング・ディレクターとしてコンサルティングチームを統括。講師としては、リーダーシップ、新規事業、企業理念、企業変革等の分野を中心に、年間約700名の次世代リーダーの成長をサポート。
2011年、株式会社スポーツクロスを設立し、スポーツを通じて人が人生を豊かにする機会を広げていくための活動に従事。関東学生アメリカンフットボール連盟理事。
著書に『ウェイマネジメント -永続する企業になるための企業理念の作り方』(東洋経済新報社)。
共訳書に『MITスローン・スクール 戦略論』(東洋経済新報社)がある。


誰がWayを作るのか?

Y社でWayを作るに当たって、(1)これまで大切に培ってきた『考え方や判断・行動の基本』を言葉に落とす、 (2)こうありたいというあるべき姿としての『考え方や判断・行動の基本』を定める、という二つのアプローチから検討と策定を進めていくことになったことは前回お伝えしたとおりです。

その次に我々が直面したことが、「Wayは誰が作るべきなのか?」というテーマです。
今回もみなさん自身が、「ウチの会社でWayを作るとしたら、それは誰がやるべきだろうか?」という点で少し考えてイメージを膨らませてみてください。いかがですか?みなさんが真っ先に思い浮かべたのはどういう立場の人ですか?その人(達)にWayは作れそうですか?その人(達)がWayを作っていくとしたらどんな困難に直面しそうでしょうか?

「Wayは誰が作るべきなのか?」というテーマについての我々の議論を少し再現してみましょう。

弊社(以下GOL)「Wayを作っていくアプローチが大きく二つあるということが決まったとして、ではWay策定を一体誰が主体になってやっていくか、という点について考えませんか?」

Y社「そうですねぇ、こういうのは『トップのコミットメントが大事』ということも言われているぐらいなんで、やはり社長を中心に考えていくことになるんでしょうかねぇ、、、」

GOL「そのやり方も無いわけじゃありませんが、それだとあまりにも『上の偉い人が決めたこと』と受け止められてしまい、一般社員が受身になってしまいませんかね?」


Y社「確かに。では、タスクフォース的にメンバーを集めて、最終的に社長に承認を取る形、かな?」

GOL「オーソドックスなやり方ではありますね。問題は誰を集めるか、ですね。」

Y社「思い切って若手社員に自由に絵を描いてもらうとか、、、」

GOL「ちょっと待ってください。確かに自由にあるべき姿を描く側面も必要ですが、これまで大切にこだわってきたことを言葉にする部分もあるんですよね?そうすると若手社員だとそれだけのこだわりの経験が不十分なんじゃないでしょうか?」

Y社「これまでのこだわりを一番持っているのはベテランの幹部クラスかなぁ、、、でもなぁ、彼らにあるべき姿を描けというのも無理があるような気がするなぁ、、、第一、それができるなら現実の組織運営の中でそうしているはずだよ。それができるポジションにいるわけだし、、、」

GOL「『誰が作るか』っていうのは難しいテーマですよね。でも、今の議論でいくつか見えてきたことがあるんじゃないですか?ちょっと整理してみるとこんな風に言えますかね。1)作るのが誰か?ということが受け手に与える影響を考える 2)作るアプローチに応じてそれができる人選が必要」

Y社「確かに整理するとそういう感じだね。」

GOL「考えるべき視点はこれで十分でしょうか? 他に人選を考えるにあたって考慮しておくべき点を幅広く考えてみるといかがでしょうか?」

Y社「うーん、、、作るのはいいとして、作ったら終わりってわけじゃないんで、Wayを策定したメンバーには、その展開や浸透の先頭に立ってやってもらいたいなぁ」

GOL「だとすると、全社運動の先頭に立つべき影響力を持った人を選ぶ必要がありますよね。そうすると、もう一点、3)作った後の展開を考慮した人選 ということを入れてもいいですね。その観点から行くと、具体的にY社の場合だとどのレベルの人たちになりますか?」

Y社「部長クラスかなぁ、、、うーん、、、」

GOL「我々から見ても部長クラスのみなさん、というのはピンと来るのですが、何かまだ懸念がありますか?」

Y社「いやぁ、部長クラスというのはカリスマ性の強かった前社長から直接の薫陶を受けてきた世代なんだよね。だから、アプローチの二つ目の『今は実現できていないけど、こうありたい姿』というのを考えられるかという点が引っかかっていてね、、、」

GOL「そうだとすると、部長クラスの人だけにこだわらずに、少しその下の課長クラスやチームリーダークラスの人とミックスしてはいかがですか?」

Y社「そうか!そうすれば、階層間の交流も期待できるかも知れないし、お互いの意見が刺激になることもありそうだね!」

こんな議論の末に、Y社のWayは各部門の部長クラスを中心に、課長・チームリーダークラスも混じった混成チームで策定を進めていくことが決まったのでした。

Way策定のメンバー選定の視点

Y社での議論を振り返ると、Way策定のメンバーを選ぶに際しては、重要な検討の視点がいくつかあることが分かります。少し一般化して整理してみると、以下のようになります。

1)「誰が作ったか」という事実が受け手に与える影響を考慮する

経営幹部や上位者が作ってしまえば策定プロセスそのものはスムーズでスピーディに進むでしょう。ただし、多くの一般社員は「上から押し付けられた感」や「突然降ってきた感」を強く感じてしまい、仮に作るまでは良かったとしても、その実践や浸透といった段階でスムーズに進まなくなることが予想されます。近年Wayマネジメントに取り組む多くの会社で、社員が参加するタスクフォースやPJTチーム方式が採られているのは、出来上がったWayに受け手がどれだけの距離感を感じるかという点を考慮しているためだと考えられるでしょう。

2)策定のアプローチに即した「力量」を持った人選を考える

Way策定では多くの場合、これまでに行われてきた企業活動や個々人の行動や判断の中からエッセンスを抽出するアプローチが含まれます。これを可能にするためには、どんな事実があるかということを知ることに加えて、その中に含まれているエッセンスを解釈することが必要となります。そこには、当事者の視点からの分析と客観的な第三者の視点からの分析の両方が欠かせません。当事者だけの分析では、固定観念の枠の中に議論が予定調和的に収束してしまうケースが少なくないし、逆に第三者だけの分析では、新鮮ではあるものの、机上の空論的なリアリティのないレッスンしか引き出せないことが多いからです。そう考えると、どんなアプローチでWayを策定していくかというプロセスの中で、必要とされるスキル・マインド・経験・知識といったものを洗い出し、それをどういう立場の人が集まるとより良くできるか?という観点で考えていく必要があるでしょう。

3)作った後の展開を想定した人選を考える

Wayは作って終わり、ではありません。そこで謳われていることが、実際の行動として組織のありとあらゆる場面で実践されているようになることがゴールと言えます。その意味で、作ること以上に作った後に如何に徹底的に実践をしていくかがWayマネジメント成功のカギである、と言っても過言ではありません。即ち、Way策定フェーズの次にはWay浸透フェーズが来るのだとしたら、Way浸透フェーズでリーダーシップを発揮すべき立場の人を、Way策定フェーズから巻き込むことによって、彼らの当事者意識を高めておくことができます。こう考えると、Way策定のメンバー選定は、Way策定そのものを効果的に進めるという観点のみならず、その先に待ち構えているWay浸透を効果的に進める、という観点からも考えておくべきでしょう。

みなさん自身の会社でWay策定に取り組むとしたら、上記三点を踏まえたメンバー構成はどのようなものになるでしょうか?Y社と同じ部長クラスというケースもあるでしょうし、もう一段下の層というケースもあるでしょう。ここは企業毎の事情によって異なるところなので、一概にこれが正解!ということは言えないと思います。ただし忘れてはならないのは、一概に絶対的に正しい人選はあり得ないにしても、少なくとも上記の三点のような重要な視点を十分にふまえ、「人選の意図」を十分に議論して整理しておく必要があります。

なぜか?
それは、事務局としての大きな難関、「メンバーに選ばれた人に『なぜあなた達が選ばれたか?』を説明する説明責任」が待ち受けているからです。

今回再現したY社での議論は、我々事務局がどうしようか?と議論しただけの話で、実際にWay策定メンバーに選ばれた人たちがその気になってぐいぐいとプロジェクトを前に進めていくかどうか、というのはまた別の話です。

実際にY社のWay策定メンバーに選ばれた人たちの反応はどうだったのでしょうか?次回も引き続き、Y社の事例に基づいてWayの策定・言語化をテーマにしてみなさんと考えていきたいと思います。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。