Wayを策定する1~継承と変革

2008.04.25

この連載は6回目になりますが、最初の3回で「Wayマネジメントへの注目が高まる背景」を整理し、その後の2回で「Wayマネジメントの効用」を考えてきました。それぞれの要旨をまとめると以下の通りです。

○Wayマネジメントへの注目が高まる背景

・職場の多様性がかつてないほど高まり、その中で組織としての価値観や基本的な考え方の共有度合いが下がっている。また、そうした状況が引き起こす事態が深刻化している。

・価値観や基本的な考え方の共有度合いを高めるための、「対面での」コミュニケーションの絶対量を確保することが難しくなってきている。従来、組織メンバー間での価値観や基本的な考え方の共有度合いを高めるために機能していた「自然体の仕組み(OJT)」が機能しにくい環境になっている。

○Wayマネジメントの効用

・組織(コミュニティ)の存在意義、自己定義が明らかになり、組織への求心力、凝集性が高まる

・組織内のコミュニケーションコストを引き下げ、スピード経営を実現する

今回は、いよいよWayそのものを「作る」ことに目を向けていきます。これまではどちらかと言えばWayマネジメントの背景や効用といった「意味合い」について考えてきましたが、このパートではWayを作る、策定するという取り組みの方法論的な部分やその中で見えてきたこと、考えられることを皆さんと共有していきたいと思います。

Way策定にまつわる疑問

Wayマネジメントに取り組む際には、当たり前のことですがWayが存在しなくては何も始めることができません。そこで、Wayマネジメントに取り組むことを考えた際に最初に直面するのが「一体、Wayの中身は『どうやって』作るのだろうか?」という疑問ではないでしょうか。

では、具体的に考えてみましょう。みなさんの会社でWayマネジメントに取り組むとしたらどうするべきか、以下の問いについて、少し考えてみてください。

「共有すべきWayはウチの会社に存在しているのだろうか?」
「もし定まっていないとしたら、誰がそれを作るべきだろうか?」
「それはどうやって作るべきだろうか?」

いかがですか?それぞれの問いについて、様々な方法論が考えられますよね。

Wayの策定を考えるパートでは、連載第4回に登場していただいた外資系の電子デバイスメーカーY社のケースを元にみなさんと考えていきます。
(※参考:連載第4回「Wayの効用~アイデンティティ・クライシス」)
ただし、読者のみなさんにとって単なる他社事例のインプットで終わらず、できる限りWay策定に関する本質を押さえるために、上述の問いを通じてみなさん自身の頭の中に浮かんだ「ウチだったら・・・」というイメージと比較しながら、Y社のケースを考えてください。

Wayは「どうやって」作るのか?

Wayを「どうやって」作るかを考えるには、そもそもWayとは何であるか、どういう性格のものであったかを押さえなくては、単なる表面的な方法論の議論に陥ってしまいます。これまでの連載で整理してきた表現を用いるとするならば、Wayとは「仕事をする上での考え方や判断・行動の基本」に他なりません。

そうすると、Wayを策定する際に考えるべきアプローチは、

(1)これまで大切に培ってきた「考え方や判断・行動の基本」を言葉に落とす

(2)こうありたい、というあるべき姿としての「考え方や判断・行動の基本」を定める

という2つに大別されることになります。分かりやすく言い換えると、(1)は既にあるものを言葉にする、(2)はまだないものを言葉にする、ということです。

(1)の代表例が、トヨタ自動車のトヨタウェイです。その説明として「創業以来、様々な経験をもとに形作られ、『暗黙知』として受け継がれてきた経営上の信念や価値観を、誰にでもわかるように整理、集約した」ということが謳われています。

また、同じ自動車業界の日産自動車では、有名な日産リバイバルプラン(NRP)以降の変革の中で実践されてきたことが日産ウェイとして「マインドセット(心構え)」と「アクション(行動)」の2つの軸で言語化されています。これも(1)の代表例と言えましょう。

両社の例に共通していることは、「いつからの話か」という点に長短の違いはあるものの、「これまでやってきたことの中から、今後も大切にしていきたいことを抽出、言語化」している点です。

みなさんの会社ではいかがでしょうか?「これまでの業務運営の中でやってきたこと」は、全て「今後も大切にしていきたいこと」ばかりでしょうか?? もし、「これまでやってきたこと」が「今後も大切にしていきたいこと」ばかりではない場合にはどうしたらいいのでしょうか?

Y社のアプローチ「『これまで』だけで足りるのか?」

連載第4回でお話したとおり、外資系の電子デバイスメーカーY社では、グローバルな組織再編の渦中にあって、自己定義を明確にし、求心力を高めていくために、Wayマネジメントに取り組む決断をしました。Wayマネジメントの企画・実行のパートナーとして弊社に声をかけていただき、弊社もその実行に最大限の支援をすることとなりました。

実際にWayマネジメントの目的やゴールをすり合わせた後で最初にセットしたミーティングの目的は、「どうやってWayを作っていくか?」がテーマでした。このミーティングのために弊社では、「トヨタWay」、「花王Way」、ジョンソン&ジョンソンの「Our Credo(我が信条)」など数社のWayの内容や来歴を参考資料として用意し、Y社でのWay策定のアプローチを検討するブレストが始まりました。

弊社(以下GOL)「他社事例を見る限りでは、これまでの業務運営や経営判断の中で大切にされてきたことを丹念に掘り出して言語化するアプローチをとっていくのが常道のようですね。」
Y社「うーん、でもなぁ・・・ウチの場合、必ずしもこれまでやっていることがそのままで良いとは思ってなくてね」
GOL「え? どういうことですか? 前社長の発揮されていた強いリーダーシップとか決断力などは、今後も継承していきたいものじゃないんですか?」
Y社「というよりも、その影響として残っている『上意下達の意識』や『ミスの指摘はするけど、チャレンジを尊ばない姿勢』なんかはそのままで良いとは思えないんだよね・・・」
GOL「ということは、アプローチとして『これまで実践してきたことの言語化』だけでは不十分で、むしろ『これから必要だが、まだできていないことの言語化』のほうが重要ということになるんでしょうか?」
Y社「『むしろ』のほうが大切かも知れないね。従業員を指示や命令で萎縮させるのではなく、もっと自由闊達にのびのびとやってもらいたいからね」
GOL「なるほど・・・。 そちらのアプローチを方法論に落としていく必要がありますね。でも、ちょっと待ってください。これまでの御社のビジネスの中で、やっぱりこれにこだわってきたから今がある、という『何か』があるんじゃないですか?」
Y社「えーっと、そうですね・・・。 あ、やっぱり、品質に対するこだわりとか、先進的な技術に対するこだわりとかは強いですよ。そんな言わずもがなのこともWayに含める必要があるのかな?」
GOL「言わずもがなとか当たり前が通用しなくなってきていることも、Wayマネジメントを進める大きな理由の一つじゃないですか。言葉にしたら当たり前のことでも、言葉にしておかないと劣化してしまうのも現実です。『これまで持ってきたこだわり』アプローチもしっかりおさえていきましょう」

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こんなやり取りを経て、Y社では著名企業のWayマネジメントで取られているであろうアプローチの「(1)これまで大切に培ってきた『考え方や判断・行動の基本』を言葉に落とす」のみならず、「(2)こうありたい、というあるべき姿としての『考え方や判断・行動の基本』を定める」アプローチも加えていくことが決まりつつありました。

ミーティングでの結論をそんな風にまとめているときに、Y社プロジェクトチームのメンバーの一人がこんなことをぼそっとつぶやいたのでした。

「(2)のアプローチって、会社を変えていこうということなんですね・・・」

その場にいたY社、我々GOLのメンバー全員がはっとした瞬間でした。
(1)のアプローチは、一言で言い換えると「継承」そのものです。一方で(2)のアプローチを一言で言い換えるならば「変革」そのものでしょう。この一言のつぶやきをきっかけとして、Y社においてのWayマネジメントの取り組みの本質が「継承と変革のマネジメント」であることがプロジェクトメンバー全員に認識されたのでした。

みなさんが頭に浮かべていた「ウチの会社だったら・・・」ということと比べていかがですか?継承のみならず、少なからず変革の要素が必要だと考えられていた方も多いのではないのでしょうか?事業環境の変化の中で変革が必要とされている企業が多いことと考え合わせると、Wayマネジメントを進めるにあたり、変革の要素が何らかの格好で入っているケースは少なくないと言えるでしょう。

Y社ではこの後、これまで培ってきたことをどうやって言葉にしていくのか? こうありたいという姿をどうやって言葉にしていくのか? この後も難問が待ち構えていますが、次回も引き続き、Y社の事例に基づいてWayの策定・言語化をテーマにしてみなさんと考えていきたいと思います。

執筆者プロフィール
湊 岳 | Takeshi Minato
湊 岳

グロービス講師。一橋大学経済学部卒業。上海交通大学漢語科修了。
株式会社スポーツクロス 代表取締役。
大学卒業後、三井物産株式会社に入社し自動車部門にて日系自動車メーカーの中国、ロシア、東南アジアへのグローバル化プロジェクトに従事。 中国駐在時には、日中合弁企業の経営再建や自動車部品製造工場の新規立ち上げを担当。
1999年から経営教育の世界に転じ、グロービスの企業研修部門のマネジング・ディレクターとしてコンサルティングチームを統括。講師としては、リーダーシップ、新規事業、企業理念、企業変革等の分野を中心に、年間約700名の次世代リーダーの成長をサポート。
2011年、株式会社スポーツクロスを設立し、スポーツを通じて人が人生を豊かにする機会を広げていくための活動に従事。関東学生アメリカンフットボール連盟理事。
著書に『ウェイマネジメント -永続する企業になるための企業理念の作り方』(東洋経済新報社)。
共訳書に『MITスローン・スクール 戦略論』(東洋経済新報社)がある。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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