「DEIとはどのような取り組みなの? 最近よく耳にするけれど注目されている理由は?」
「DEIに取り組むメリットは? 企業にとって価値がある取り組みなの?」
昨今、人事や企業戦略の領域で耳にする機会が増えた「DEI(D&I)」。
聞いたことはあるものの「どのような取り組みなのか」「なぜ企業が注目しているのか」理解できていない方は多いのではないでしょうか。
DEIとは人種や性別、年齢などに囚われずに全ての人が心理的な安全性を確保しながら公平に活躍できる社会を目指す取り組みのことです。
企業では主に人事や雇用、社内制度の領域に関する取り組みに活用されています。
DEIを推進すると多様な人材が個性やスキルを活かしながら生き生きと活躍できるので、企業価値の向上や優秀な人材確保などにつながります。
日本企業では本格的に取り組んでいる企業はまだまだ少ないものの、今のうちから推進しないと将来深刻な人材不足や競争力の低下に陥る可能性があるでしょう。
持続的な成長が見込める企業であり続けるためにも、今のうちからDEIに関する知識を深め自社でできる取り組みを検討しましょう。
そこでこの記事では、DEIの概要や具体的な取り組み内容、事例などをまとめて解説していきます。
とくに取り組み内容や取り組みのステップは事例を踏まえて分かりやすくまとめています。
この記事を読むとわかること
- DEIとはどのような取り組みか分かる
- DEIが注目されている理由が分かる
- 企業がDEIに取り組むメリットが分かる
- DEIの具体的な取り組み内容が分かる
- DEIを推進するときのステップが分かる
- DEIの企業の取り組み事例が分かる
この記事を最後まで読めばDEIの重要性が理解でき、自社で必要な取り組みが分かります。
企業の貴重な財産である人材の力を最大限に発揮できる環境を整えるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.DEI(D&I)とは
冒頭でも触れたようにDEI(ディー・イー・アイ)とは、人種や性別、年齢などに囚われずに全ての人が心理的な安全性を確保しながら公平に活躍できる社会を目指す取り組みのことです。
「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字を取り、DEIと呼ばれています。
3つの英単語を分解してみると「Diversity」のみが概念で、「Equity」と「Inclusion」は具体的な行動を示しています。
つまり、ダイバーシティを実現するために、公平性や包括性の取れた行動や取り組みが求められているのです。
多様性 Diversity | 性別・年齢・国籍・障がいなどを問わず様々な価値観・個性を持った人材が共存できる |
公平性 Equity | 多様な人材が直面する格差や不利な状況を調整・支援できる 例:個々の考え方に配慮しつつ人材育成を行う |
包括性 Inclusion | 一人ひとりの心理的安全性を確保でき職場の一員として認められている 例:異論や少数派の意見を排除せず納得できる話し合いができる |
DEIは、企業では主に人事や雇用、社内制度の領域に関する取り組みに活用されています。
例えば「年齢を重ねているから」「女性だから」といった理由で、本人の意思に反して職種が限定される状態ではダイバーシティを実現できません。
DEIでは多様性を受け入れるのはもちろん「管理職に挑戦しみたい」という本人の意思があるのなら、その意見を尊重しサポートすることが大切です。
また、「管理職に挑戦しみたい」と感じたときに労働時間や体調などがネックになるのならば、状況を調整しつつ安心して取り組める環境を整えることもDEIの取り組みに該当します。
このように、DEIは多様性を受け入れつつ適切な調整、機会提供をすることで、企業と従業員がともに輝ける未来を目指します。
【DEIの前身には「D&I」があった】
実は「DEI」の前には「D&I」の考え方が主流でした。 「D&I」はDiversity&Inclusionの略で、多様な人材を尊重しながら個人の力が発揮できる環境を整えることを指します。
しかし、実際に多様な人材が生き生きと活躍するためには「Equity(公平性)」による調整、支援が欠かせないという考え方が広がり、現在は「DEI」が主流となっています。 |
1-1.Diversity(多様性):多様な人材が共存する
Diversity(多様性)は、様々な属性の人材が組織の中で共存することです。
ダイバーシティには「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」があります。
性別や年齢、国籍など見た目で分かる属性だけでなく、その人と関わらないと分からない価値観やスキル、学歴などもダイバーシティに含まれます。
表層的ダイバーシティ (見た目で判断しやすい) | ・性別 ・年齢 ・国籍 ・障がいなど |
深層的ダイバーシティ (見た目で判断できない) | ・価値観 ・勤務経験 ・スキル ・ライフスタイル ・学歴など |
ダイバーシティが実現できていない組織では、下記のように特定の属性の人材を排除したり格差が生じたりすることがあります。
ダイバーシティが実現できていない組織の例 |
格差がある | ・年功序列でしか出世できない ・女性管理職がいない ・働き方により待遇の差が大きいなど |
排除する | ・同じスキル・性別などの属性の従業員しか雇用しない ・学歴制限を設ける |
例えば、性別や勤続年数だけで出世が決まってしまうと、従業員のモチベーションは低下します。
また、一定の学歴や性別、年齢以外の従業員を排除してしまうと、労働人口が減少している現在の市場では持続的な成長を実現しにくくなるでしょう。
ダイバーシティを実現すると、多様性を受け入れながら誰もがスキルや個性を活かして活躍できる企業を目指せます。
ダイバーシティが実現できている組織の例 |
格差がない | ・従業員が納得する指標を持ち人事評価をする(年齢や性別で評価しない) ・本人の意思を尊重しつつ公平なスキルアップ機会を用意する ・働き方による待遇の差を設けない |
排除しない | ・性別や年齢、障がいの有無問わず働ける体制を整える ・学歴や経験のみで採用しない |
このように、企業内で多様な個性を持つ人材が共存し、誰もが自分らしく活躍できる状態が「ダイバーシティ」の目指す姿です。
1-2.Equity(公平性):必要に応じた柔軟な調整ができる
ダイバーシティを実現するうえで欠かせないのがEquity(公平性)です。
公平性とは、多様な人材が直面する調整が必要な状況を組織の制度や運用方法を見直し支援・調整することを指します。
ここでポイントとなるのが、「平等」ではなく「公平」であることです。
下の図をご覧ください。異なる身長の人物が塀の向こうの景色を見ようとしている状況をイメージしてみましょう。
「Equality(平等)」の考え方では、全員に等しく同じ高さの台を与えます。けれど、もともとの身長が違うため、同じ高さの台をもらっても、一番右の人は塀の向こうの景色が見えません。「Equity(公平性)」の考え方では、一人ひとりのバックグランドからくるニーズに合わせてツールを用意するので、それぞれの身長に適した台を用意します。その結果、誰もが塀の向こうの景色を見ることができるようになるのです。
平等と公平の違い |
平等 | どの従業員にも同じ待遇・設備・制度を提供する 例:全員に同じテーブル・パソコンを支給する 例:全従業員の福利厚生制度が同じ |
公平 | 人材に応じて柔軟に調整や支援を行う 例:障がいのある従業員は状況に応じて使いやすいテーブル・パソコンを支給する 例:介護世代・子育て世代など従業員の背景に応じて必要な福利厚生を選択できる |
平等とはどの従業員も同じ待遇や制度、基準で扱うことです。
多様な人材が活躍するときに平等という基準では、個々の違いに対応しきれず本当に必要なサポートや配慮ができません。障がいのある方が自身のスキルを最大限発揮するには、職場環境の調整や周囲のサポートが必要でしょう。
また、従業員の誰もが同じ基準の福利厚生を望んでいるとは限りません。
子育て中の従業員は学校行事に合わせて休暇を取得したいと考えているかもしれませんし、他の従業員は趣味を楽しむための休暇を取得したいと考えているかもしれません。
公平性を意識していない例 |
・全員に同じテーブル・パソコンを支給する ・全従業員の福利厚生制度を平等にしている ・従業員の背景を考慮しないで誰もが同じ時間働く |
このように、多様な人材がそれぞれに違いがあることを認め、そのうえで従業員が同じベースで働くにはどのような調整や支援が必要なのか検討することが公平性です。
公平性を意識した例 |
・障がいがある従業員と話し合いながら働きやすい環境に調整する(機材や机を変えるなど) ・従業員の背景に応じて必要な福利厚生を選択できるようにする ・子育てや介護などの背景を踏まえて勤務時間を調整する |
例えば、様々な背景を持つ従業員がいることを理解したうえで、従業員が福利厚生を選択できるよう調整することは公平性を意識した行動だと言えるでしょう。
また、障がいのある方がスキルを発揮できるように、本人と話し合いながら労働環境を改善することも公平性に該当します。
1-3.Inclusion(包括性):心理的安全性を確保する
ダイバーシティを実現するためには、多様な人材が活躍できる風土が必要です。
このときに大切なのがInclusion(包括性)です。
下記のSTEP3のように職場の一員として認められ、かつ一人ひとりの価値が尊重されている状況が包括性に該当します。
STEP1は、同じような人しかおらず、違う人が入ってきたときに自分たちと同じように「同化」させる、または「排除」する状態です。
STEP2は、多様な人がいる状態ではあるものの、暗黙知的な区別が残っている状態です。元々の人たちとは別のところに存在していて、本当の意味でのインクルージョンはされていない段階です。例えば、女性だけのキャリアがつくられてマミートラックと呼ばれてしまうことや、海外だけのグループを作ってその中だけで活躍を求めることなどが挙げられます。
STEP3は、元々の性質のままインタラクティブにコミュニケーションをして、その中で新たなイノベーションが生まれていく状態です。
いくら多様な人材を採用しても、従業員が不安やストレスを抱えながら仕事をしている状態は好ましくありません。一人ひとりが活躍できるように、企業の制度や風土でカバーして、多様性を受け入れながら一人ひとりを尊重しつつ働く環境を整えることが求められています。
【包括性が足りない例】
・上司に質問しにくい雰囲気がある ・特定の人の意見が通る ・個人の属性に対し無意識のうちに「かわいそう」「大変そう」という目で見る |
【包括性を意識した例】
・誰もが発言しやすい制度や環境を整える ・特定の意見のみに偏らないように反対派や少数派の意見も聞く ・企業にとって必要な存在だと自信が持てるような声掛け・取り組みをする |
従業員の心理的安全性(組織の中で安心して意見・発言ができ一人ひとりが自分らしくいられる状態)が確保できていれば、従業員一人ひとりが企業に愛着心を持ち自分の持つ力を最大限に発揮できる環境を整えられます。
【参考アーカイブ動画】強い組織の礎となるダイバーシティ&インクルージョン〜林恭子×葛山智子(グロービスGLOBIS学び放題×知見録)
▶【関連コラム】心理的安全性の高い職場に必要な4つの要素と高める4ステップ
2.DEI(D&I)が注目される3つの背景
DEIの要素が理解できたところで「なぜ今DEIが注目されているのか」気になっている方も多いでしょう。
ここでは、DEIが注目されている背景をご紹介します。
DEIは今後日本企業が抱える課題を解決する鍵となるので、ぜひ参考にしてみてください。
2-1.グローバルな戦略が必要になった
1つ目は、グローバルな戦略が必要になったことです。
国内市場が成熟ししたことで、新たな販路・利益を創出するために海外戦略も視野に入れた経営が重要視されています。
海外進出を目指すときに、課題となるのが人材の採用や労働環境の整備です。
多国籍な人材が互いを尊重しつつ成果を出すには、まさにDEIの考え方が欠かせません。
例えば、グローバルに活躍できる企業を目指しながらも
- 多国籍な人材を採用できる風土や制度がない
- 多国籍な人材が何となく働きにくい空気がある
という状況では、なかなか前に進むことができないでしょう。
日本マーケティング・リサーチ協会の調査によると日本は他の国よりも「不公平」を感じることは少ないものの、多様性を受け入れている傾向が低いです。
質問 | 各国の平均値 | 日本の一般労働者 |
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従業員の構成に性別の多様性がある | 65% | 31% |
組織の経営陣に多様性がある | 52% | 25% |
自分は所属部門にとって評価され、 不可欠な存在だと感じる | 70% | 38% |
※各国の平均:欧州・北米・オーストラリア・南米の対象国企業の平均
参考:日本マーケティング・リサーチ協会「DEIグローバル調査結果に見る 日本市場の特徴と課題」
日本市場にとどまらずグローバルな成長を遂げるには、世界と同じベースで人事評価や制度を整える必要性が出てきました。
2-2.人材確保が難しい時代になった
2つ目は、人材確保が難しい時代になったことです。
財務省のデータによると、2100年の日本の総人口は2023年の半分程度まで減少すると見込まれています。
背景には少子高齢化の問題があり、2050年には下記のように働き盛りとなる生産年齢人口が減り高齢者が増える逆ピラミッド構造になると予測されています。
生産人口が減る中で企業が持続的に成長するには、従来の雇用方法や人材活用方法を見直す必要があるでしょう。
例えば、現在限られたスキルや経歴を持つ正社員のみを雇用している場合は、今後同等の人材が減ってきたときに優秀な人材の確保や人材不足に悩まされる可能性があります。
そこで、外国人の雇用やテレワークでの雇用、パートタイム雇用など多様な人材に幅を広げると人材確保が難しい時代でも事業を継続させることができるでしょう。
【採用・人材活用の例】
・国内だけでなく海外の人材雇用を視野に入れる ・パートタイムや時短勤務など様々な働き方を許容する ・ワークライフバランスに応じて働けるようにテレワークを認める |
このときに必要となるのが、多様な人材を雇用できる基盤を整えることです。
ただ単に「多国籍の人材を雇用する」「障がい者を雇用する」だけでは、企業と従業員の双方にとって最適な関係が構築できません。
不安やストレスを感じないで一人ひとりがスキルを発揮できる環境や配慮、制度があってこそ、企業に貢献できます。
そこで、多様な人材を雇用するための考え方や取り組みとして、DEIが注目されるようになりました。
2-3.イノベーションの創出が必要になった
3つ目は、イノベーションの創出が必要になったことです。
今までの価値観や考え方から脱却する変化が求められるようになった背景には、次の2つがあります。
国内市場の飽和 | 国内市場が飽和状態になり次の段階への企業成長が必要になった |
VUCA時代への柔軟な対応 | VUCA時代になり凝り固まった考え方ではなく変化への対応力が必要になった |
とくに昨今は変化の激しいVUCA時代だと言われており、市場やニーズ、法規制などが刻々と変化していきます。
この時代の中で同じ知識・同じ考え方・同じ年齢層の従業員で変革を生み続けることは難しいです。
変化が求められる時代だからこそ、多様な人材が活躍し様々な意見を取り入れながら幅広い解決策を見出す必要があるのです。
例えば、会議のときに「反対意見は排除する」「管理職の意見しか取り入れない」という組織の雰囲気では、新しいアイデアや考え方に触れる機会が減ります。
そこで、DEIに取り組み、多様な人材の意見を尊重しながら企業として成長することが必要になってきています。
【関連コラム】ダイバーシティがない企業は勝ち残れない
3.企業がDEI(D&I)に取り組む3つのメリット
ここまで読み、DEIが今後の企業戦略に必要な取り組みであることが理解できたでしょう。
実際に企業がDEIに取り組むと、企業価値の向上や優秀な人材確保などのメリットがあります。
DEIに取り組むべきか判断するためにも、参考にしてみてください。
3-1.企業価値の向上につながる
企業がDEIに取り組むと、様々な側面から企業価値の向上につながります。
項目 | 企業価値が向上する理由 |
---|
消費者の視点 | 多様な人材が活躍できる企業として好感が持てる (ブランドのイメージアップ・商品購入などにつながる) |
企業の視点 | 企業評価や利益がアップする (従業員がスキルを最大限に発揮することで利益拡大につながる) |
従業員の視点 | 誇りややりがいを持ち働ける (離職率低下や生産性の向上につながる) |
従業員の視点ではDEIに取り組むことで自社に不安を抱くことなく、自身のスキルや個性を発揮できます。
例えば、やってみたいことがあるのに意見を聞いてもらえない環境では、なかなか成果が出ないでしょう。
誰もがチャレンジできる風土があれば一人ひとりのスキルを活かし、前向きに仕事に取り組めます。
その結果、企業評価や企業成果がアップするので、企業価値の向上につながるでしょう。
また、消費者には「DEI」という言葉は浸透していないものの、DEIに取り組んでいると「従業員を大切にする企業」「従業員が生き生きと活躍している企業」として好感を持ってもらいやすくなります。
例えば、活躍している女性管理職の姿や若手社員の姿、障がい者の姿など多様な人材の活躍をアピールすることで、自社の価値の向上につながります。
企業にとって人材は、企業の持続性に関わる貴重な財産です。
だからこそ、多様な人材が自分らしく活躍できる企業に変わることで、企業自体の価値も高まっていきます。
3-2.優秀な人材確保につながる
DEIは下記の3つの理由から、優秀な人材の確保につながります。
優秀な人材確保につながる3つの理由 |
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採用の幅が広がる | 年齢やスキル、雇用形態、国籍などに囚われないので採用の幅が広がる |
離職率が低下する | 従業員の心理的安全性と成長機会の双方を確保できるので離職率が低下する |
多様な人材を管理職に採用できる | 管理職に多様な人材を採用しやすくなる |
3-2-1.採用の幅が広がる
「1.DEI(D&I)とは」でも触れたように、「D」に該当するダイバーシティは「様々な属性の人材が組織の中で共存すること」を指します。
DEIに取り組むことで採用難な時代でも、自社に合う人材を採用しやすくなるでしょう。
一例として従来までは、年齢やスキル、雇用形態、国籍で採用人材を定義していたとします。
採用条件を設けると一定の人材を排除することになるので、採用の幅が狭くなりますよね。
従来の採用基準 | 年齢:45歳まで スキル:大学卒業 雇用形態:正社員のみ 国籍:日本国籍 |
DEIを意識した採用基準 | 年齢:制限なし スキル:制限なし 雇用形態:パートタイムやテレワーク可能 国籍:海外在住可 |
DEIに取り組み採用の幅を広げると、優秀な人材を獲得しやすくなるでしょう。
- 学歴がなくてもスキルがあり自社で成果を発揮できる人材
- 正社員では働けないけれど業界経験が豊富で即戦力になる人材
- 日本国籍ではないけれど個性があり新しいアイデアを生み出せる人材
など、従来のフィルターでは除外されていたけれど、自社に必要な人材が獲得できます。
その結果、多様な人材が生き生きと活躍できる企業へと成長することが可能です。
3-2-2.離職率が低下する
DEIに取り組むと、優秀な人材の離職を防止できます。
成長機会があり心理的安全性の保てる企業は、離職率が低い傾向があるからです。
昨今の若手社員は心理的安全性だけが確保されているだけでは「この先成長できるのか」「自分の描く成長ができるのか」不安になると言われています。
DEIは一人ひとりの個性やビジョンに応じた調整や支援も視野に入れて、公平に成長機会を与えます。
そのため「この企業でなりたい自分になれる」と思えるようになり、優秀な人材の流出防止が実現できます。
また、Z世代は1社で働き続けようという前提はなく、適宜自分に最適な環境を選択していく傾向があります。
企業側が従業員一人ひとりと向き合い個性を活かす支援を行うことが、今まで以上に重要視されているのです。
ここでDEIに取り組まず「平等な制度」「年功序列の出世」など形式的な制度を継続すると、優秀な人材から順に離職していくことになるでしょう。
このように、従業員が求める制度と環境を用意して、優秀な人材の離職を防止できるところもDEIに取り組むメリットだと言えます。
3-2-3.多様な人材を管理職に採用できる
DEIに取り組むと、今までメスを入れにくかった管理職にも多様な人材を採用しやすくなります。
実際に企業が実施しているDEIの取り組みを見ると、下記のように管理職に女性や外国国籍の人材を採用するなどの目標を定めているケースがあります。
- 女性管理職比率を増やす
- 外国国籍の管理職を配置する
管理職に多様な人材を配置することで今までにない考え方や課題が見えて、企業の成長につながるでしょう。
例えば、女性が管理職になることで、女性視点での福利厚生の見直しや働き方の改革がしやすくなります。
このように、管理職にも多様な人材を採用し従来の考え方を脱却することで、企業の根幹から変革を起こせます。
3-3.外部評価の向上につながる
DEIは、外部評価の向上にも貢献します。
DEIは企業内だけでの取り組みだと捉えがちですが、ベースには多様な人材への雇用機会の創出や差別のない社会の実現など社会的な問題の解決があります。
そのため、投資家や官公庁、消費者も企業のDEIに関する取り組みに注目しているのです。
例えば、投資家は持続的に成長できる企業や今後利益拡大が見込める企業に注目します。
DEIに取り組み関連する指標を公表することで、将来性のある企業として注目される可能性があります。
とくに海外進出をしたい企業や海外投資家からの投資を検討している企業は、企業価値を伝え評価を高める一因子としてDEIの取り組みをするべきでしょう。
また、DEIの社会貢献度を踏まえて、国内外で様々な賞が用意されています。
例えば、厚生労働省が取り組んでいる「えるぼし認定」は、女性の活躍推進に関する取り組みが優良な企業を認定する制度です。
DEIに取り組むと関連性のある賞や認定を受けることができ、企業の外部評価向上に役立ちます。
【DEIは「ESG」や「SDGs」にも貢献できる】
DEIに取り組むことで「ESG」や「SDGs」にも貢献することも可能です。
ESG | 「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」に考慮した社会を実現する |
SDGs | 人類が2030年までに達成するべき持続可能な開発目標 |
どちらもダイバーシティの取り組みに触れている項目があるので、「ESGの取り組みの一環としてDEIを推進する」「SDGsに貢献するためにDEIに取り組む」なども検討できます。
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4.DEIに取り組まない企業は生き残ることが難しい
ここまで述べたように時代の変化や少子高齢化に対応しつつ、自社が持続的に成長するにはDEIへの取り組みが必須です。
DEIは長期的な取り組みなので今すぐに企業価値が向上することはないかもしれませんが、いずれ下記のように大きな差が生まれるでしょう。
DEIに取り組んでいない企業と取り組んでいる企業の比較 |
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DEIに取り組んでいない企業 | ・深刻な人材不足 ・人材不足により商品やサービスの向上が難しい ・海外進出や海外投資時に提示できる非財務資本指標がない |
DEIに取り組んでいる企業 | ・多様な人材が活躍している ・多様な人材のアイデアにより新しい商品やサービスが生まれる ・海外進出や海外投資時に提示できる非財務資本指標がある |
深刻な人材不足に陥ってからDEIに取り組むと、回復するまでに時間とコストがかかります。
自社の将来を見据えて「企業戦略」の一環として、早い段階からDEIに取り組んだほうが賢明です。
日本マーケティング・リサーチ協会の調査によると、日本ではまだまだDEIの推進に取り組んでいる企業は少ないです。
ただし、海外では取り組んでいる企業が多いことや投資家も注目していることから、今後は国内でも加速していくと考えられます。
次の章ではあなたの企業で取り組めるDEIの内容を解説していくので、参考にしながらDEIに取り組む企業としての一歩を踏み出しましょう。
【「DEI」から進化した「DEIB」が拡大しつつある】
現在の日本企業では「DEI」が主流ですが、アメリカを中心にBelonging(帰属)を追加した「DEIB」の考え方が拡大しつつあります。 Belongingを追加することで従業員の心理的安全性の確保にとどまらず、帰属意識があり組織の一員として居場所がある状態を目指しています。 「DEIB」は「DEI」を実現した先に実現できると考えられているので、まずはDEIに取り組むことが大切です。 |
5.DEI(D&I)の具体的な取り組み内容例
DEIの必要性が理解できたところで、自社ではどのような取り組みができるのか気になるところです。
ここでは、DEIの具体的な取り組み内容をご紹介します。
DEIは企業の目標や課題に応じて取り組むべきことが変わり、必ず取り組まなければならない内容はありません。
そのため「自社の課題やゴールに応じてどのような取り組みができそうか」という視点で参考にしてみてください。
取り組み内容 | 概要 |
---|
社内制度の整備 | 採用制度や雇用形態、福利厚生など、多様な人材が活躍するために必要な制度を整備する |
評価制度の整備 | 採用時の評価制度や昇進時の評価制度など、公平性を保ち従業員が納得感を持てる評価制度を整備する |
組織風土の変革 | 多様な人材が生き生きと活躍するために「互いを尊重し合える」「誰でも意見を言える」などの組織風土を構築する |
5-1.社内制度の整備
DEIに取り組むためには、多様な人材が生き生きと活躍できる社内制度の整備が重要です。
具体的には、下記のような制度の調整が検討できます。
項目 | 概要 |
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採用制度 | 障がい者や外国国籍の人材採用など多様な人材を採用する制度を設ける |
雇用形態 | 正社員や時短勤務、パートタイムなど従業員が選択できる雇用形態を設ける |
勤務場所 | オフィス勤務だけでなくテレワークや海外勤務など勤務場所の制限を減らす制度を設ける |
福利厚生 | 多様な人材誰もが公平性を感じられる福利厚生を設ける 例:福利厚生の選択制度・子育て中・海外従業員・障がい者など立場に応じた福利厚生の用意など |
サポート制度 | 多様な人材が共存するときに起こる不安や悩みを相談できる制度を設ける |
研修制度 | 従業員の望むキャリアに応じて適切な研修が受けられる制度を設ける |
採用制度は多様な人材を雇用するための方法や募集要項、制度を考えます。
雇用、勤務場所は従来の条件に囚われず、多様な人材の立場に立ち検討するといいでしょう。
例えば、育児をしている従業員が多い場合は、育児と仕事の両立がしやすいよう勤務時間や場所を調整することが該当します。
また、福利厚生は、多様な人材の誰もが公平性を感じられることがポイントです。
例えば、出産・育児に関する福利厚生制度は充実していても、外国人や障がい者、単身者に対する配慮がなければ公平とは言えません。
一人ひとりの背景に応じて必要な福利厚生を選択できるなど、納得感のある制度を設けることが大切です。
【【DEI観点で社内制度を検討するときのポイント】
DEI観点で社内制度を設けるときには、企業が目指したい目標だけでなく「制度の実現にはどのようなサポートや調整が必要なのか」考えるようにしましょう。
例えば、女性管理職を増やす目標を立てたときに、単に「女性管理職を増やします」と宣言すると企業側が本人の意思に関係なく意図的に行っているように見えてしまいます。
「女性管理職に興味があるけれど知識不足が気になる」という声がある場合は女性管理職向けの研修を実施するなど、従業員が安心して活躍できる支援や調整を行いましょう。
管理職になりたい女性の思いや意思を組み、実際に管理職を実施するうえでのハードルや悩みを踏まえながら安心して管理職に就ける制度を整えることが重要です。 |
5-2.評価制度の整備
DEIを高めるために社内制度を整えることができたら、同時に評価制度の整備も進めましょう。
評価制度がDEIの「Equity(公平性)」に大きく関わる部分です。
一例として、下記のような評価を整備するといいでしょう。
項目 | 概要 |
---|
採用時の評価制度 | 全従業員に同じ採用制度を当てはめるのではなく、多様な人材の持つ属性や個性の応じて柔軟に対応する |
昇進時の評価制度 | 年齢や性別のみで昇進を判断しないで、求められる役割や成果に基づいて公正に評価する |
報酬に関する評価制度 | ボーナスや月給などの報酬においても、一人ひとりの目標や成果を可視化して納得感を持ち評価する |
評価制度を整えるときには、年齢や性別、障がいの有無などの固定概念で判断する方法から脱却する必要があります。
固定概念で評価をすると該当しない従業員は不満を抱えやすく、心理的安全性を確保できなくなるからです。
例えば、障がいのある方の採用試験を通常通り実施したとしましょう。
本来はハンディキャップに応じたテストをしないと、能力を正当に評価できません。
また、年功序列で昇進を決めてしまうと、成果を出している従業員や若いうちに昇進したい意思のある従業員を置き去りにする可能性があります。
従業員一人ひとりの成果や役割を公平に評価して、モチベーションアップや更なる成果につなげることが大切です。
【DEI観点で評価制度を検討するときのポイント】
DEI観点で評価制度を検討するときは「多様な人材が活躍できる評価制度」に重点を置いて検討しましょう。 「勤続年数が長い従業員が有利になる」「女性よりも男性のほうが有利になる」など、特定の人材が有利になると感じさせないことが大切です。 できるだけ多くの意見を取り入れながら誰もが「この評価制度なら公平に判断してもらえる」と納得できる自社だけの制度を構築するようにしましょう。 |
5-3.組織風土の変革
DEIの取り組みの中で時間を要するのは、組織風土の変革です。
多様な人材の誰もが生き生きと活躍するには、多様な人材を受け入れ、共に認め合える風土が欠かせません。
企業により見直すべきポイントは異なりますが、一例として下記のような点をチェックしてみてください。
項目 | 概要 |
---|
誰もが意見が言えて尊重し合える | 特定の人材しか意見が言えない風土ではなく、誰もが気兼ねなく意見を言える。意見に対して否定ばかりするのではなく尊重し会える |
発言できる公平な機会がある | 特定の人材しか研修できない・特定の人材しか施設利用ができないなどの制限がなく従業員に公平な機会がある |
挑戦を認め合える | 多様な人材が活躍するときに制限をかけるのではなくチャレンジを許容できる風土がある |
例えば、多様な人材が活躍する企業を目指すときに「男性の管理職のみ」の意見が尊重されると、他の属性の人材は「意見を聞いてもらえない」と感じます。
多様性を受け入れるには考え方の違いを理解し、尊重し合える風土が大切です。
先ほどの例で言うと、男性管理職のみではなく女性の意見や外国国籍の人材、障がい者など様々な人材の意見を聞いて、調整しながら誰もが納得できるポイントを見つける環境構築が必要でしょう。
そうはいっても、管理職や役員クラスに女性や外国人を登用してもなかなかその方の良さを引き出せないということもあります。そこで、多様性を引き出す上で有効な取り組みを2つご紹介します。
<多様性を引き出す上で有効な取り組み>
① マイノリティを意思決定の場に参画させる場合は、必ず複数同時に入れる
② マジョリティの経験しか持たない人がマイノリティの経験を持つ
▶【詳しくはこちらのコラムを参照ください】多様性がイノベーションを創る ~ダイバーシティを企業経営に活かすには~
【DEI観点で風土の変革を起こすときのポイント】
DEI観点で風土の変革を起こすときには、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)にも配慮する必要があります。
アンコンシャス・バイアスは無意識のうちに行っている偏った考え方・ものの見方を指します。 アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものですが、DEIを推進するうえでは気づいて行動を改めることが重要です。
例えば、企業内に何となく「女性管理職は大変」「女性なのにかわいそう」という雰囲気が漂っていたとしましょう。 本当にそうでしょうか?本人はやりがいを持ち励んでいるのかもしれませんが、社内の雰囲気が足かせになり本来の力を発揮できません。
このような企業内に潜むアンコンシャス・バイアスに気づいて、地道に行動を変えていくこともポイントになるでしょう。 |
6.DEI(D&I)に取り組む4つのステップ
あなたの企業で検討できるDEIの取り組み内容が分かったところで、具体的な進め方をご紹介します。
繰り返しになりますがDEIは長期的な取り組みになるので、数年先を見据えながら計画を立てることが大切です。
今回ご紹介する4つのステップはあくまでも一例ではありますが、DEIをどのように推進していくのか参考にしてみてください。
6-1.戦略や課題に応じてDEI推進方針を設定する
まずは、自社の戦略や課題に応じて、DEI推進方針を設定しましょう。
明確な目標やゴールがないままDEIを始めてしまうと企業風土として根付かず、形骸化する恐れがあるからです。
下記のようにまずは自社の現状や将来像を明確して、課題や目標を達成するためにどのようにDEIを取り入れていくべきか考えてみてください。
項目 | 具体的な事例 |
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企業戦略 | 企業の今後の戦略を明確にする 例:5年後に海外進出を目指す・地域に根ざした企業を目指すなど |
企業の課題 | 企業戦略を達成するうえでの企業課題を明確にする 例:人材のスキル不足・地域とのコミュニケーション不足など |
DEI推進方針 | 企業戦略や課題、理念を踏まえたうえでどのようにDEIに取り組むのか明確にする 例:地域の人材を活用し地域活性化を目指す 例:女性管理職率を5年後に4割に引き上げる 例:人材の偏りをなくして多様な人材が活躍できる企業を目指す |
このときにポイントなのは、企業戦略やビジョンとDEI推進を切り離して考えないことです。
DEIと企業戦略やビジョンが分離していると、取り組みをしても企業価値の向上につながらない可能性があります。
上記の例を見ると、地域に根ざした企業を目指しているので、地域住民から多様な人材を採用できればと考えています。
この取り組みが地域活性化につながり、企業価値の向上や持続可能な企業の実現を目指せるでしょう。
このように、自社の将来像やビジョンに応じてDEI推進方針を設定すると、長期的に取り組みやすくなります。
6-2.DEI推進方針を評価・達成できる制度を整える
続いて、DEI推進方針を評価・達成できる制度を整えます。
DEIは目標やゴールだけを決めただけで、具体的に取り組むことが難しいです。
例えば「女性管理職比率4割を目指しましょう」と目標を立てても、具体的に何をすればいいのかイメージしにくいでしょう。
「管理職に挑戦してみたいけれど不安」「管理職はどのように目指せるのだろう」と思っている女性従業員がいたとしても、制度や仕組みが整っていなければ思いを汲み取りサポートできません。
そこで「5.DEIの具体的な取り組み内容例」で触れた内容を参考にしながら、DEI推進方針を実現するための制度を整えましょう。
実際に様々な企業で下記のような制度の導入や風土の変革に取り組んでいます。
項目 | 具体的な事例 |
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社内制度の整備 | ・役職立候補制を導入して誰にでも役職者になる権限を用意する ・在宅勤務や短時間勤務制度が機能するように社内コミュニケーションの方法やスケジュール管理方法を整備する ・業界未経験者でも採用対象となるように入社後に資格取得支援を導入している ・ライフステージ合わせて働き方を変更できる「選択型人事制度」してワークライフバランスを保てるようにしている |
評価制度の整備 | ・個人単位での目標管理制度を導入して、個人の成果や目標達成率などを基準に評価をする ・個人の目標を上司や社長と共有して目標達成までのアクションを評価対象にしている |
社内風土の変革 | ・給与明細とともに就業環境に関する要望記入用紙を渡して、誰もが意見を言える環境を整えている ・様々な委員会を設置して社内のコミュニケーションを活発化し活躍しやすい風土を整えている |
制度の設定や風土を検討するときに重要なのは、DEI推進方針を達成するための具体的な行動になっていることです。
「女性管理職比率4割を目指しましょう」と目標を立てた場合には、達成するためにどのような調整や支援が必要なのか検討しましょう。
例えば、現状の女性社員へのサポートが不十分なら、福利厚生の見直しや労働環境の改善が検討できます。
また、女性従業員の思いや考えを共有する場を設けたり研修を実施したりすることもいいでしょう。
▶【関連コラム】女性リーダー研修に必要な3つのエッセンスやプロセス・比較基準を解説
【制度を見直すときにはバランスを考える】
DEI推進方針を達成するために制度を見直すときは、全体のバランスを考慮する視点も忘れないようにしましょう。
確かに様々な制度はDEI推進方針を達成するために設けるべきなのですが「女性従業員ばかりが優遇されている」「若手社員のみ制度が充実している」など不公平感が出てしまうと、DEIの考え方から逸脱してしまいます。
根源には「多様な人材が活躍できること」があるので、どの従業員も公平性を感じられるような制度に整えましょう。 |
6-3.管理職やリーダーが中心となり社内に浸透させる
DEIを推進する体制が整ったら、管理職やリーダーが中心となり風土や考え方を浸透させていきます。
いくら制度が整っても従業員の関心が薄くDEIを推進できる行動、取り組みができなければ、社内から変革を起こせません。
管理職やリーダーがDEIを浸透させるときのポイントは「ストーリーを語り共感を生む」ことです。
管理職やリーダーからの一方的な指示、伝達では従業員の心理的安全性を確保できず、取り組みの必要性や意義を正確に伝えられません。
なぜ自社がDEIを推進する必要があり、達成することでどのような未来を実現できるのか、ストーリーを語り従業員のから共感を得ることが大切なのです。
ストーリーを語らない例 | 5年後までに地域での雇用を促進します |
ストーリーを語る例 | 〇〇株式会社は地域に根ざした企業として「△△」というビジョンを掲げています。 昨今この地域は少子高齢化が進み、地域の力が落ちているのが現状です。 そこで、〇〇株式会社は地域の年配の方やお子様を持つ女性の方、障がい者のある方など多様な人材を受け入れる体制を整えようと思います。 これにより〇〇株式会社と地域が一体となり成長でき、長く共に歩んでいける企業として活躍していきます。 |
管理職やリーダーがストーリーを語ることができると「DEIは企業にとって価値のある取り組みだな」「これから先の変化が楽しみだな」など、従業員に前向きな気持ちを抱いてもらえます。
その結果、無理やり取り組むのでなく、納得感を持ち主体的に推進できる体制を構築できます。
ポジションパワーではなくストーリーを語りDEIを推進していく重要性は下記の記事でも触れているので、参考にしてみてください。
▶【関連コラム】ダイバーシティがない企業は勝ち残れない
6-4.効果測定を実施して改善を重ねる
DEIは長期的な取り組みになるので、定期的に効果測定をして成果を可視化しましょう。
取り組み内容により可視化する方法は異なりますが、下記のように可視化をすると成果が出ているかどうか把握しやすいです。
【効果測定の例】
・女性管理職比率向上の場合:毎年女性管理職数を確認する ・多様な働き方を推進する場合:正社員数だけでなくパートタイムや時短勤務などそれぞれの人数を確認する ・制度や人事評価の成果を可視化する場合:従業員にアンケートを取りどのような変化があったのか可視化する |
例えば、多様な働き方を推進する場合に、それぞれの働き方の従業員数を確認し続けると変化が把握できます。
併せて従業員アンケートや従業員満足度調査などを実施すると、DEI推進によりどのような変化があったのか確認できるでしょう。
思ったような成果が出ていない場合には制度や取り組み方針を見直し、軌道修正を行いながら取り組みを継続することが大切です。
【取り組み成果はホームページや報告書で公表することも可能】
DEIの取り組み成果を自社のホームページや報告書で公表している企業が増えています。
「3.企業がDEIに取り組む3つのメリット」で触れたように、DEIの取り組みは投資家や消費者からも注目を集めているからです。
自社のブランディングや価値向上などを視野に入れて取り組む場合は、効果測定の成果を定期的に公表し社外にもPRしていくといいでしょう。 |
7.DEI(D&I)に取り組んでいる企業の事例
DEIではどのような取り組みができるのかもう少し深く理解するために、既にDEIに取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
企業のビジョンやゴールにより取り組み内容が異なるので、具体的にどのような取り組みができそうか参考にしてみてください。
7-1.エーザイ株式会社
エーザイ株式会社 |
取り組み例 | 「エーザイ ダイバーシティ&インクルージョン2021」を設定し2030年度までに達成したい目標を明確にしている 例 ・社員および管理職層の女性比率を30%以上にする ・30代以下の若手マネジメント比率を20%以上にする ・男性社員配偶者出産休暇および育児休職5日以上の取得率を50%にする ・ベテランならではの挑戦機会を増大する |
受賞歴 | 「プラチナくるみん」認定 「新・ダイバーシティ経営企業100選」選出(2021年) |
大手製薬会社「エーザイ株式会社」は、2012年に「エーザイ・ダイバーシティ宣言」をして以来、国籍・性別・年齢などに囚われず多種多様な価値観を持つ人財が活躍できる風土づくりを推進しています。
2021年には「エーザイ ダイバーシティ&インクルージョン2021」を設定して、2030年度までに実現する目標を決めて取り組んでいます。
エーザイ株式会社のDEIの取り組みの特徴は、自社の課題を把握したうえで具体的なアクションプランを設定して「何をするべきか」明確にしているところです。
例えば「社員および管理職層の女性比率を30%以上にする」という目標に対しては、下記のような具体的な取り組みをしています。
【社員および管理職層の女性比率を30%以上にするためのアクションプラン】
・女性社員キャリア開発プログラム ・社外研修への派遣、各種研修、eラーニングなどを活用したキャリア啓発・教育の充実 ・アンコンシャス・バイアス研修 |
また、エーザイ株式会社はダイバーシティKPIを設けて、成果を可視化している点もポイントです。
ダイバーシティへの取り組みをいち早く実施していた企業ならではの、成果につながる取り組み事例だと言えるでしょう。
参考:エーザイ株式会社「DE&Iの推進」
7-2.株式会社メルカリ
株式会社メルカリ |
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取り組み例 | バックグラウンドで個人の可能性が決めつけられることなく、自由に価値を生みだす機会を手にできる社会の実現を目指す 例 ・働く場所・住む場所・働く時間を自由に選択できる「YOUR CHOICE」の導入 ・育児や介護などでキャリアを中断した方を対象としたキャリア再開支援プログラム 「Mercari Restart Program」の導入 ・卵子凍結・0歳児保育支援制度を試験導入 ・CEO直轄の社内委員会「D&I Council」を設立 |
受賞歴 | ・D&I AWARD 2023(ベストワークプレイス認定) ・EDGE Assess取得 ・PRIDE指標(2021年・ゴールド認定) |
フリマアプリを提供している「株式会社メルカリ」では、目に見える違いだけでなく目に見えない違いも考慮してDEIを推進しています。
従業員の人権尊重を重視して独自の「基本的人権ポリシー」を設けている他、社内外の勉強会やイベントを積極的に実施して理解を深めているところが特徴です。
また、働く場所・住む場所・働く時間を自由に選択できる「YOUR CHOICE」やキャリア再開支援プログラム「Mercari Restart Program」など、多様な人材が活躍しやすい制度にも力を入れています。
社外に向けた情報発信も積極的に実施し、複数のDEIに関する評価を獲得しています。
参考:株式会社メルカリ「ダイバーシティ&インクルージョンの体現」
参考:株式会社メルカリ「Inclusion & Diversity」
特に人材育成の観点でDEIを強く意識し取り組みをされている2社も合わせてご紹介します。
7-3. ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社「参加者の選定基準でダイバーシティを考慮」
リーダーシップ開発プロジェクトの参加者の選定基準は、全社のタレントプランニングとの整合やダイバーシティを考慮。参加者の部門の偏りが出ないよう、さまざまな部門から選出するようにしています。さらには次期経営層のジェンダーダイバーシティも担保するために、男女比も念頭に置いて人選しました。
▶【インタビュー記事を読む】企業変革につながるリーダーシップ開発プロジェクトへの挑戦
7-4. テルモ株式会社「多様なメンバー同士でも意見交換ができるようなサポート体制を整備」
事業変革を意欲的に推進する次世代リーダー育成を図るべく、イノベーションとリーダーシップに特化したプログラムを制定。プログラムでは、上司からのアドバイスや、異なる国・地域や事業部門から集まった同世代の社員と交流する機会等を通じて、自分自身の視野や考え方を広げるとともに、テルモにおける人財の多様性を実感することもできるようにしました。参加者がセッション中に積極的に発言したり、多様性ある各国メンバー同士であっても躊躇せず意見交換できるよう、上司との良好な関係性や対話の場、サポート体制の仕組みなどを整備しました。
▶【インタビュー記事を読む】若手人財の「グロース・マインドセット(Growth Mindset)」を喚起し、より良い医療の実現を目指す
8.グロービスではDEI(D&I)を推進する研修を実施しています
ここまで解説してきたように、DEIは企業の持続的な成長や価値向上に欠かせない長期的な取り組みです。
様々な企業が力を入れて取り組み、従業員満足度や外部評価向上などにつなげています。
様々な企業の事例を見たうえで「DEIに取り組んでみたい」と感じた方もいるでしょう。
DEIに取り組むときに課題となるのが、社内の知識やスキル不足です。
例えば「若手社員にダイバーシティの基礎を教えたい」「女性管理職のための研修がしたい」となると、どうしても専門的な知識が必要です。
社内では知識の共有や習得が難しい場合は、事例にもあったように外部の研修やセミナーを活用しながら知識を習得していくことがおすすめです。
私たち「グロービス」は社会の創造と変革を行う研修やセミナーを実施しています。
企業の課題に応じた研修やセミナーの提案も可能で、DEIの推進を力強くサポートします。
実際にグロービスが実施している「女性リーダー育成プログラム」の受講者さまからは、自分の役割を認識でき部下との接し方が変わったという声をいただいています。
女性リーダー育成プログラムの受講者
相鉄ホールディングス株式会社経営戦略室 課長 矢野 薫さんの場合
課題 |
・基本的な経営スキルがないと顧客との商談で踏み込んだ話ができないと感じていた ・部署内に女性の先輩がおらずこれからのキャリアに不安を感じていた |
受講内容 |
・リーダーは何でもできなければならないと思い込んでいたが、自分なりのリーダー像を目指せばよいことを学べた ・業界も年齢も異なる仲間と会話をし、キャリアの歩み方はいくつもあると知ることができた |
成果 |
・部下に思い切って仕事を任せるようになり主体性を持ち取り組んでくれるようになった ・完璧なリーダーにこだわらずみんなで乗り越えようというマインドを持つことで、肩の力を抜くことができた |
矢野さんはOJTで様々な経験を積んできたものの経営について体系的に学んだ経験がなく、顧客との商談で踏み込んだ話ができないと感じていました。
それだけでなく所属部門に女性の先輩がいなかったため、今後のキャリアイメージが持てずにモヤモヤしていたそうです。
そこで人材育成担当から声をかけてもらい、3ヶ月間の「女性リーダー育成プログラム」に参加しました。
リーダーは何でもできるオールマイティな人でなければならないと思い込んでいましたが、このプログラムでリーダーが苦手な部分はメンバーに補完してもらえばよいこと、そして自分なりのリーダー像を目指せばよいことを学んだそうです。
また、業界も年齢も異なる仲間と会話をする機会ができ、今後のキャリアに関する不安や悩みも払拭できました。
プログラム受講後はメンバーと目標やゴールをすり合わせた後に思い切って任せる判断ができるようになったそうです。
こちらの事例は下記で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
「リーダーとはこうあるべき」という思い込みから脱却し、自分らしいリーダー像を目指して変化の激しい時代を歩む
実績が豊富で様々な研修方法を用意しているグロービスなら、DEI推進時の課題に応じて適切な研修を提案できます。
企業内から変革を起こすDEIを推進するためにも、研修に関するお悩みはお気軽にお問い合わせください。
9.まとめ
今回は、DEIの該当が具体的な取り組み内容、実践のステップなどDEIに関する基礎知識をご紹介しました。DEIの取り組みの重要性が理解でき、自社の戦略や課題に応じて、推進してみようと思えたでしょう。
最後にこの記事の内容を簡単に振り返ってみましょう。
DEIとは人種や性別、年齢などに囚われずに全ての人が心理的な安全性を確保しながら公平に活躍できる社会を目指す取り組みのこと
多様性 Diversity | 性別・年齢・国籍・障がいなどを問わず様々な価値観・個性を持った人材が共存できる |
公平性 Equity | 多様な人材が直面する格差や不利な状況を調整・支援できる 例:個々の考え方に配慮しつつ人材育成を行う |
包括性 Inclusion | 一人ひとりの心理的安全性を確保でき職場の一員として認められている 例:異論や少数派の意見を排除せず納得できる話し合いができる |
DEIが注目されている背景は次の3つ
- グローバルな戦略が必要になった
- 少子高齢化などの理由で人材確保が難しい時代になった
- イノベーションの創出が必要になった
企業はDEIに取り組むメリットは次の3つ
- 企業価値の向上につながる
- 優秀な人材の確保につながる
- 投資家などの外部評価の向上につながる
DEIの具体的な取り組み内容例は下記のとおり
- 社内制度の整備:採用制度や雇用形態、福利厚生など多様な人材が活躍するために必要な制度を整備する
- 評価制度の整備:採用時の評価制度や昇進時の評価制度など公平性を保ち従業員が納得感を持てる評価制度を整備する
- 組織風土の変革:多様な人材が生き生きと活躍するために「互いを尊重し合える」「誰でも意見を言える」などの組織風土を構築する
DEIに取り組むステップは下記のとおり
ステップ1:戦略や課題に応じてDEI推進方針を設定する
ステップ2:DEI推進方針を評価・達成できる制度を整える
ステップ3:管理職やリーダーが中心となり社内に浸透させる
ステップ4:効果測定を実施して改善を重ねる
DEIを推進するには従業員が生き生きと活躍できる制度や風土の構築が欠かせません。
DEIを推進する中で従業員の育成やキャリアアップに関するお悩みがある場合は、グロービスにお気軽にご相談ください。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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