心理的安全性の高い職場に必要な4つの要素と高める4ステップ
- リーダーシップ
- 働き方改革
- 組織風土改革
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澤田 菜月
「最近よく耳にする心理的安全性とは? 職場には必要なの?」
「心理的安全性が高い職場は何がいいの? 高める方法はある?」
昨今耳にする機会が増えた職場の心理的安全性。
言葉は聞いたことがあるものの「心理的安全性が高い職場の何がいいのか?」「なぜ心理的安全性を高めなければならないのか」疑問に感じている方もいるでしょう。
心理的安全性のある職場とは、メンバー同士で健全に意見を交わすことができ、生産的でより高い成果を出せる職場を指します。
VUCA(先行きが不透明な状況)の時代では、想定外のことが起こるため正解がない、もしくは成果が保証されていないとも言えます。そうした時代には、正解を見つけるためにクイックに行動しながら実験や挑戦をする数が重要です。チャレンジするのは上位層やリーダーだけではなく、メンバー一人ひとりにも求められます。
個人もチームもリスクを恐れずに発信し、意見を共有し、ミスを認めあえる、心理的安全性の高い職場が、チャレンジできる数を積み重ね、高い成果を出せるのだと言えます。
言い換えると「自分の意見を言うと怒られるかもしれない」「分からないことを聞くと無知だと思われるかもしれない」などのリスクを感じることなく率直な意見を交わすことができ、誰もが自分の能力を最大限に発揮できる職場となるでしょう。
心理的安全性の高い職場では一人ひとりが不安やストレスを抱えることなく仕事ができるため、生産性が向上します。
挑戦を受け入れる環境があるので新しいアイデアや考えが生まれやすく、継続的な成長が見込めるでしょう。
一方で、心理的安全性が低いと一人ひとりの不安やストレスが大きく、自分らしく働くことができません。
その結果、下記のように企業にとって悪影響を及ぼす可能性があるのです。
だからこそ、職場での心理的安全性の重要性を理解して、心理的安全性を高められるようにしましょう。
そこでこの記事では、職場の心理的安全性を左右する4つの要素や心理的安全性を高めるメリット、具体的な高め方などをまとめて解説しています。
とくに心理的安全性を高めるステップはリーダーが実践できるように具体的な例を踏まえてまとめているので必見です。
1.心理的安全性のある職場とは
心理的安全性のある職場とはメンバー同士で健全に意見を交わすことができ、生産的でより高い成果を出せる職場を指します。
心理的安全性がある職場の例 |
・役職や立場を問わず発言ができ、回りのメンバーが聞いてくれる環境がある ・失敗をしたときに「怒られる!」と焦る必要なくチーム全員で解決策を考え行動できる ・新しいアイデアが浮かんだときにすぐに上司に相談できサポートしてもらえる |
そもそも心理的安全性とは、チームの中で誰に対しても恐怖や不安を感じることなく安心して発言・行動できることを指します。
心理学用語の1つで「psychological safety(サイコロジカル・セーフティ)」を日本語訳した言葉です。
この概念を職場に当てはめると、対人関係でのリスクがなく同じ目標に向かい最大限の能力を発揮できる職場が「心理的安全性のある職場」に該当します。
もう少し詳しく理解するために、あなたの職場を思い浮かべてみてください。
【例1】ミーティング時になかなか意見がまとまらず、時間だけが過ぎています。あなたならどうしますか?「そろそろ論点を整理して、結論を出しませんか?」と率直な意見を言えますか?
【例2】業務の中で新しいアイデアが生まれたとしましょう。このアイデアを実践すると、業務効率化につながるかもしれません。あなたは上司に新しいアイデアを相談できますか?
この問いで「自分の意見を言うことに躊躇してしまう」「アイデアを伝えるリスクを考えてしまう」と感じたら、心理的安全性の低い職場かもしれません。
心理的安全性がある職場なら、自分の意見を言う「リスク」や自ら行動して「罰を受ける不安」を感じることがありません。
健全に意見を交わしてときには衝突することができ、チャレンジや新たな提案を受け入れてくれる環境があります。
他にも心理的安全性の高い職場と低い職場には下記のような違いがあり、心理的安全性の高い職場のほうが活き活きと仕事ができるイメージが持てるでしょう。
職場の状態 | 具体的な例 |
【心理的安全性が高い職場の特徴】 健全に意見を交換でき 生産性の高い仕事に注力できる職場 | ・会議中に自分だけ異なる意見を抱えていても不安を感じず発言できる ・分からないことや悩んでいることがあるときにすぐに周囲に質問できる ・問題が起きたときに犯人探しをするのではなくチームで解決策を考え実行できる ・「とりあえずチャレンジしてみよう」とチャレンジを歓迎する環境がある ・チーム内で目立ち活躍することに不安を感じない ・誰にでも発言の機会・活躍できる機会がある |
【心理的安全性が低い職場の特徴】 チームのために発言・行動しても 罰を受けると考えてしまう不安やリスクのある職場 | ・チームの人と反対の意見を言うと怒られる、もしくは怒られることが分かっているから発言できない ・上司に相談しようとすると「今は忙しい」などと言われ話を聞いてもらえない ・失敗したときに責められて一人で責任を負う ・チームの方針に従って新しいチャレンジをするときに「本当にうまくいくの?」」と言われる ・チーム内で目立つと「何か言われる」「周囲からの視線が怖い」などリスクを感じる ・特定の社員にしか発言権や活躍できる環境がない |
心理的安全性のある職場では離職率が低い・成果を最大化できる・多様なアイデアを活用できるなどのメリットがあります(詳しくは「4.心理的安全性が高い職場の4つのメリット」で解説しています)。
「私の職場は心理的安全性が低いから仕方ないな」と諦める必要はありません。
なぜなら心理的安全性は先天的なものではなく、リーダーを筆頭とした社員の行動がつくるものだからです。
視点を変えると心理的安全性を1つの指標として、チームの雰囲気やパフォーマンスを高めていくことができます。
次の章では、心理的安全性はどのような要素で構築されるのか詳しく解説していきます。
心理的安全性への誤解
【心理的安全性の高い職場=ぬるい職場ではない】
心理的安全性の高い職場を定義するときに「ぬるい職場」をイメージするケースがありますが、ぬるい職場は心理的安全性の高い職場ではありません。
- ぬるい職場:人間関係は和気あいあいとしているものの、業績の基準が低く難しい仕事に立ち向かわない。結果挑戦もせずにコンフォートゾーンから抜け出せない
- 心理的安全性の高い職場:業績の基準が高く、協力して困難な仕事に立ち向かう。結果健全な議論が起き、どのような発言・行動も安心してできてチーム自体が成長していく
ぬるい職場は安全の定義を「何をしなくても安全」「頑張らなくても安全」と履き違えている傾向があります。
心理的安全性の高い職場はチームのために成果を出そうと積極的にチャレンジできる職場なので、「安全」の捉え方が違います。
2.【心理的安全性が低い職場と高い職場の違い】職場の心理的安全性を作る4つの要素
心理的安全性を検証する指標には様々なものがありますが、日本組織の心理的安全性には4つの要素が深く関連していると考えられています。
ここでは職場の心理的安全性を左右する4つの要素をご紹介します。
「心理的安全性が高い職場」と「心理的安全性が低い職場」の事例も踏まえてまとめているので、参考にしてみてください。
2-1.話しやすさ:リスクを感じないで率直な意見が言える
話しやすさ | |
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概要 | ・職場で話す・聞く・理解するコミュニケーションが取れる ・リスクや不安を感じずに素直な意見や率直な疑問が言える |
心理的安全性の 高い職場 | ・現場から離れていた上司の意見が今の現場の状況と乖離している場合に、「今の現場とは違います」と率直に意見を伝え聞いてもらえる ・会議中に自分だけ異なる意見を抱えていても不安を感じず発言でき意義のある衝突ができる ・知らないことや分からないことがあってもフラットに質問が出来、答えてもらえる |
心理的安全性の 低い職場 | ・上司に相談しようとすると「今は忙しい」「メールで送っておいて」などと言われ話を聞いてもらえない ・チームの人と反対の意見を言うと怒られる、もしくは怒られることが分かっているから発言できない ・知らないことを尋ねると「そんなこともしらないのか」と失笑される |
1つ目の要素は、最も重要であり他の要素の土台になる「話しやすさ」です。
話しやすさとはリスクを感じずに率直な意見が言えて、聞いてもらえる環境があることです。
一方的に率直な意見が言えるだけでなく、意見を聞いてもらえる環境や意見が飛び交う環境があることも含まれます。
話す | 「話したら罰を受けるかもしれない」「話したら無知・無能だと思われるかもしれない」などの不安やリスクがなく、自分の考えや率直な意見が言える |
聞く | 相手の状況を理解しながら話を聞いてもらえる環境がある |
理解する | パソコンを打ちながら話を聞くのではなく、しっかりと目を見て頷きながら話を聞く |
例えば、業務で分からないことがあったときに「無知だと思われるかな」「怒られないかな」という不安から質問できないのは心理的安全性が低い職場です。
心理的安全性が高い職場では不安やリスクを感じることなく「ここが分からないです」「ここはどうすればいいですか?」と質問できます。
また、心理的安全性が高い職場では、健全な意見の衝突が起こるものです。
心理的安全性が高い職場では、問題だと思うことや自分の考えを率直に言えるため意見の衝突が起こります。人に対しての衝突ではなく、仕事上の意見だけが合っていないという前提がそろっていれば、様々な立場の人が臆することなく意見を言えるようになります。率直な意見が多い方がより質の高い結論を導けるので、成果の出せるチームに成長します。
▼「話しやすくない」職場で起こる悪い例
心理的安全性が低い職場では「発言することが怖い」「異なる意見は言えない」との不安から、良くない情報を隠したり、懸念点を伝えなかったりすることが起きてしまいます。すると、忖度された良い情報からしか意思決定するしかなく、判断を誤り、チーム全員が失敗する方向に向かってしまう恐れがあります。
チェックポイント |
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✓チームの誰もが臆することなく、率直な意見を言える ✓否定的な意見を言うだけではなく、相手の立場を踏まえながら意見を聞ける環境がある ✓チーム内での健全な意見の衝突を歓迎できる |
2-2.助け合い:困ったときに助け合い解決策できる
助け合い | |
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概要 | ・困ったときやトラブルがあったときに助けを求められる ・周囲が助けを求めてきたときに助ける行動ができる |
心理的安全性の 高い職場 | ・分からないことや悩んでいることがあるときにすぐに周囲に質問できる ・問題が起きたときに犯人探しをするのではなくチームで解決策を考え実行できる ・困っているときや失敗したときに素直に弱さを見せることができ「助けてほしい」と言える |
心理的安全性の 低い職場 | ・失敗したときに責められて一人で責任を負う ・プロジェクトの担当範囲以外の状況が分からず各自が自己責任で仕事をしている ・成果が出ない・問題が発生したときに「誰のせいなの?」と犯人探しをする |
2つ目の要素は「助け合い」です。
助け合いは「困ったときはお互い様」の精神で、共に助け合えることです。
心理的安全性の低い職場でよく見られるのは社員がそれぞれ個別のタスクを担当し、タスク内の部分のみに責任を負う方法です。
他の社員がどのような仕事をしているのか分からないのはもちろん、トラブルがあったときに自己責任となるので「失敗したくない」「無駄なことはしたくない」との気持ちが強くなります。
その結果、個人の能力を最大限に発揮できず、周囲には無関心のまま無理なくできる範囲の業務を行う状況に陥ります。つまり、チームで出せる成果の総和が小さいままになってしまうのです。
一方で、心理的安全性の高い職場では、助け合うことが当たり前になっています。
「困っている」「助けて欲しい」など弱さを見せることを恥ずかしいと感じず、周囲の力を借りながら高いレベルで業務を遂行できます。
問題やトラブルが起きたときには犯人探しはしないで、チーム全員で解決しようと前向きに取り組めます。結果、チームで出せる成果の総和がどんどん大きくなります。
このように、互いに助け合いながら困難を乗り越えることは、心理的安全性を高めるうえで重要な要素です。
チェックポイント |
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✓リスクを感じないで「助けて欲しい」「困っている」と素直に言える ✓互いに助け合う風土があり誰かが困っていたら手を差し伸べることができる ✓トラブルや問題が起きても犯人探しをしないでチーム全員で解決する |
2-3.挑戦:チャレンジが「得」だと思える
挑戦 | |
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概要 | ・チャレンジすることが「得」だと感じて前向きに挑戦できる ・チャレンジする機会を与える環境がある |
心理的安全性の 高い職場 | ・「とりあえずチャレンジしてみよう」とチャレンジを歓迎する環境がある ・挑戦したいことや新しいアイデアをしっかりと聞いてくれる ・多少非現実的なことであっても、おもしろいアイデアや考えが生まれたら共有したくなる |
心理的安全性の 低い職場 | ・チームの方針に従って新しいチャレンジをするときに「本当にうまくいくの?」」と言われる ・挑戦したいことを相談すると「失敗したときはどうするの?」とネガティブな質問ばかりされる ・新しいアイデアや考えを共有する習慣がなく「アイデアを言うと笑われるかも」という不安がある |
3つ目の要素は「挑戦」です。挑戦はチャレンジすることが「損」ではなく「得」だと思えることです。
例えば、前例のない新しいサービス・新しい商品を開発したいと思ったとしましょう。あなたのチームでは素直に「新しいサービス・商品に挑戦してみたい」と言えますか?
- チャレンジを拒まれることが分かっているから言えない
- 失敗したらどうする?とネガティブな質問をされるから躊躇する
という場合はチャレンジにリスクを感じており、心理的安全性の低い職場だと言えます。
心理的安全性の高い職場は「失敗してもいいからやってみよう」とチャレンジすること自体に価値を感じさせてくれます。チャレンジに対する不安やリスクを払拭してくれるので、周囲に支えられながら前例のないことや新しい取り組みにも果敢に挑めます。
その結果、新しいアイデアを生み出しながら成長できるチームになるでしょう。
また、心理的安全性の高い職場では新しい挑戦が当たり前なので、試行錯誤に慣れています。市場や環境の変化にも対応しやすいチームになり、VUCA(不確実性が多く将来の予測が難しい)時代に適応できるでしょう。
チェックポイント |
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✓チャレンジをすることが「得」と感じるチームの雰囲気がある ✓挑戦したいことを相談すると「やってみよう」と前向きに応援してくれる ✓チャレンジには試行錯誤がつきものだと捉えチームでサポートしてくれる ✓非現実的でもアイデアが思いついたらチームで共有しようと思える |
2-4.新奇歓迎:一人ひとりが個性を発揮して活躍できる
新奇歓迎 | |
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概要 | ・一人ひとりの個性を受け入れる ・一人ひとりの能力を最大限に発揮できる適切な配置をする |
心理的安全性の 高い職場 | ・個人の能力に応じた人材配置をしている ・ハンディのある社員や多国籍な社員が互いを認め合いながら能力を発揮できる ・チーム内で目立ち活躍することに不安を感じない ・誰にでも発言の機会・活躍できる機会がある |
心理的安全性の 低い職場 | ・チーム内で目立つと「何か言われる」「周囲からの視線が怖い」などリスクを感じる ・特定の社員にしか発言権や活躍できる環境がない ・従来の慣れた環境から脱却できず多様性を受け入れられない |
4つ目の要素は「新奇歓迎(しんきかんげい)」です。
新奇歓迎はチームではなく個人に焦点を当てた要素で、一人ひとりが最大限に活躍できる状態を指します。
チーム内で「何となく孤立感がある」「チーム内で目立つことが怖い」とチーム内で自分らしく活躍することにリスクを感じている場合は、心理的安全性の低い職場だと言えます。
一方で、下記のように、個人の性格や能力を最大限に活かせる状態が心理的安全性の高い職場に該当します。
・個人の能力や個性に応じた人材配置をしている
・チーム内で目立つことに不安やリスクを感じない
・チーム内での役割を認識してチームに歓迎されていると感じる
・ハンディのある方や多国籍の社員が能力を活かして活躍できる
チーム全員を一律に扱い、企業の歯車のように淡々と仕事をする時代は終わりました。
一人ひとりの才能や個性を活かし能力をかけ算していくことで、企業成長を推進する時代になったのです。
その中で個性や多様性を受け入れ、一人ひとりが安心して活躍できる環境を整えることは心理的安全性を高めるうえで重要です。
チェックポイント |
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✓多様な人材が活き活きと活躍できる ✓一人ひとりの能力を踏まえた人材配置ができ企業から必要とされていると実感できている ✓立場や役職に関係なく、平等な発言機会・活躍できる機会がある |
心理的安全性を高めるために【チェックポイント例付き】
職場の心理的安全性を高める重要性やチェックポイントをまとめた資料をご用意しています。下記より資料をダウンロードできますので、ぜひお役立てください。
3.職場の心理的安全性が重要視される背景
ここまで読み、職場の心理的安全性がどのようなものかイメージできたかと思います。
そこで気になるのが「なぜ今職場の心理的安全性が重要視されているのか」「なぜ職場の心理的安全性を高めなければならないのか」といった背景です。
ここでは職場での心理的安全性が重要視される背景を時系列に沿ってご紹介します。
職場での心理的安全性の必要性を理解できるので、ぜひ参考にしてみてください。
3-1.心理的安全性は米Google社の研究結果で広まった
心理的安全性の概念は、1999年にハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授により提唱されました。
その後、心理的安全性が注目されるようになったのは2016年に米Google社が「心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素である」と研究結果を発表したことがきっかけです。
米Google社は複数の統計モデルを駆使して成功し続けるチームの条件を模索したところ「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが重要だと突き止めました。
効果的なチームの要素 | チームの効果を左右しない要素 |
---|---|
・心理的安全性:チームの中で誰に対しても恐怖や不安を感じることなく安心して発言・行動できる ・相互信頼:チーム内で互いを信頼し合える ・構造と明確さ:チームの構造や役割が明確化されている ・仕事の意味:チームの誰もが自分にとって仕事は意味があると感じている ・インパクト:自分の仕事は意味がありいい変化を生むと感じている | ・チームメンバーの働く場所 ・合意に基づく意思決定 ・仕事量 ・チームの規模 ・在職期間 ・個人のパフォーマンスなど |
心理的安全性は成功し続けるチームの根底にある重要な要素として、注目を集めることになったのです。
3-2.VUCA時代に成長し続けるには、チャレンジの数が重要になった
米Google社の研究で注目を集めた心理的安全性はVUCA時代になり、より注目されるようになりました。
現在はVUCA時代と言われるように不確実性が多く、正解がないもしくはすぐに変わってしまう時代に突入しました。決まった正解がない中で、成果を出し続けるには、チャレンジする数が重要です。
成長し続ける企業であるためには、「実行組織」から「学習組織」への進化が欠かせません。
項目 | 正解があるこれまでの時代 | 正解がないこれからの時代 |
---|---|---|
組織 | 実行組織:計画に従って正確に行動する | 学習組織:チャレンジや試行錯誤を繰り返して成長し続ける |
優秀なチーム | 早い・安い・ミスがないチーム | 模索や挑戦をして 失敗・実践から学べる |
必要な人材 | 言われたことを的確に実行できる | 変化を感じ工夫や創造ができる |
コミュニケーション | トップダウン | 様々な視点からの率直な対話 |
正解があるこれまでの時代は、計画に従って行動できる人材が求められていました。
しかし、正解がないこれからの時代はチームでコミュニケーションを取りながら果敢にチャレンジをして試行錯誤しながら成長し続ける「学習組織」への進化が必要です。
では、学習組織に進化するには何が必要なのでしょうか?
ここで必要となるのが「心理的安全性」なのです。
心理的安全性が低い職場は挑戦や変化を拒むため、実行組織からの脱却が難しいです。
一方で、心理的安全性が高い職場はチーム内で率直な意見を言い合える、チャレンジを歓迎する環境があるので、変化を恐れずに自ら学ぶ学習組織へと進化できます。
心理的安全性が 高い職場 | ・チームや組織に必要な意見を言い合える ・チャレンジを歓迎して「まずは挑戦してみよう」とサポートできる ・失敗したときも誰かを責めることなく試行錯誤を繰り返して成長の糧にできる →学習組織へ進化できる |
心理的安全性が 低い職場 | ・「失敗したらどうしよう」「何か言われたらどうしよう」という不安から率直な意見を言えない ・チャレンジを歓迎する雰囲気がない ・言われたこと以外の業務をすると周囲から「求めていないよ」と言われそうな恐れがある →学習組織へ進化できない |
このように、VUCA時代に突入し常に変動する環境で価値を生み出すためにも、日本企業には心理的安全性が必要になってきています。
▶【あわせて読みたいコラム】変化に即応する自律型組織の作り方 〜全員が主役となる「対話」の促進〜
3-3.心理的安全性がない/低い職場では継続的な成長ができない
VUCA時代に心理的安全性がない、もしくは低い職場では、どのような状況に陥るのでしょうか?
結論から言うと継続的な成長が見込めず、将来に不安を抱える状況に陥ります。
心理的安全性がない/低い職場には、下記の4つの因子があります。
心理的非安全な職場の4つの因子 | |
---|---|
無知 | 無知だと思われたくないので、相談や質問ができない |
無能 | 無能だと思われたくないので、ミスを隠す・自分の考えを言わない |
邪魔 | 邪魔だと思われたくないので、チャレンジせず妥協した仕事をする |
否定的 | 否定的だと思われたくないので、議論せず意見を言わない |
心理的非安全な職場を一言で言うと罰や不安、ルールで縛り必要最低限の行動しかできない職場です。
無知や無能、邪魔だと思われるリスクの背景には、強い不安やルールがあります。
「過去に質問をしたら「なぜ分からないの?」と失笑された」「業務効率化の新しいアイデアを伝えたら、「余計なことはしなくていい」と言われた」などネガティブな記憶が潜んでいます。
このような職場が継続的に成長できるイメージは持てないでしょう。先ほども触れたように、VUCA時代ではチャレンジできる環境やチーム内で言い合える環境が求められます。
このように、今職場での心理的安全性が重要視される理由は、心理的安全性が高い職場でなければ継続的な成長ができず、新しい価値を生み出せないからなのです。
4.心理的安全性が高い職場の4つのメリット
ここからは、心理的安全性が高い職場の4つのメリットをご紹介します。職場の心理的安全性が高くなると成果が出やすく、かつ働きやすい環境を構築できます。
どのようなメリットがあるのか、ぜひ参考にしてみてください。
4-1.仕事の生産性が向上して成果が出せる
心理的安全性の高い職場の最大のメリットは、生産性が高くなり成果を生み出せるチームになることです。
職場の心理的安全性が高くなると、下記の3ステップで生産性が向上します。
ステップ | 概要 |
---|---|
ステップ1 主体性を持ち 行動できる | ・チームにとって必要な存在だと理解できているので、役割認識を持ち仕事に取り組める ・「無能や無知と思われる不安」から開放されるので、自分の能力を最大限に発揮できる |
ステップ2 チームや組織の活動の質が向上する | ・メンバーに対して必要なサポートや助言ができる ・議論を活性化でき必要な改善や新しいアイデアが生まれる ・一人ひとりの仕事の質が向上する ・互いに指摘や助け合いができる ・積極的に新しいチャレンジができ試行錯誤を繰り返せる |
ステップ3 生産性が向上する | ・仕事の基準が上がって成果を生み出しやすくなる ・スキルや人材不足を解消しやすくなる |
心理的安全性が確保されるとメンバー一人ひとりが「自分はチームに必要な存在なんだ」と役割認識ができ、自信を持って仕事に取り組めます。
「周囲からどのように思われるのか」「周囲から嫌な顔をされないか」など周囲の顔色を伺う必要がないので、主体性を持ち発言や行動ができるようになります。
その結果、チーム員全員の仕事の質が向上するので、チームとして成果を出しやすくなります。
それだけでなく互いに助け合う、互いに助言し合うなど良好な関係を築けるため、能力を最大限に発揮しやすくなるでしょう。
「3.職場の心理的安全性が重要視される背景」でも触れたように、成果を出し続けるには個人の能力よりもチームの雰囲気が重要です。
心理的安全性を高めることで、一人ひとりが「このチームで成果を出したい」「このチームの一人として成果に貢献したい」と思えることが、結果として生産性を高めることにつながるのです。
4-2.離職率の低下につながる
心理的安全性が高い職場は、離職率の低下につながります。
先ほど触れた米Google社の調査では、心理的安全性の高いチームは離職率が低いことが分かっています。
あなたが心理的安全性の高いチームに所属しているところをイメージしてみてください。
【心理的安全性の高いチームの例]】 ・自分の行動や発言を受け入れてくれるので安心感や信頼感がある ・挑戦してみたいことをサポートしてくれるため目標やビジョンが実現しやすくやりがいを持てる ・チームのメンバーと互いに助け合える関係を築ける ・個性や能力を受け入れてくれるので働きやすさを感じる |
心理的安全性の高いチームでは、信頼感や帰属意識を持ちやすくなります。
そのため、離職したいと感じる社員が減り、優秀な人材の流出や人材不足を回避できます。
【就職・転職時に心理的安全性を重視する傾向が出てきている】 昨今は就職や転職時に、心理的安全性の高い職場を選ぶ傾向があります。これは、企業で働く社員側も「心理的安全性が高い職場のほうが働きやすい」と気付き始めているからです。 心理的安全性の高い職場は離職率を減らすだけでなく、人材確保をするときのアピールポイントとしても活用できます。 |
4-3.新しいアイデアや考え方を生み出せる
心理的安全性の高い職場では、新しいアイデアや考え方を生み出しやすくなります。
「3-2.VUCA時代に成長し続けるには、チャレンジの数が重要になった」でも触れたように、これからの時代はチャレンジや試行錯誤を繰り返して成長し続ける「学習組織」が求められます。
時代の流れやニーズの変化、予期せぬアクシデントなどに柔軟に対応できないと、企業が生き残れないためです。
新しいアイデアを生み出したいときや新規事業を立ち上げたいときに、心理的安全性が低いとなかなか前に進めません。
企業の将来を左右するアイデアを持っている社員がいても発言ができず、アイデアが表に出てこないことも考えられるでしょう。
新しいアイデアを生み出したいときの例 | |
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心理的安全性が 低い職場 | ・「こんなアイデア意味があるの?」と言われそうで自分のアイデアや考えを発言できない ・一定の社員のアイデアだけが受け入れられる ・「無知と言われそう」「怒られるかもしれない」という不安から会議やミーティングで新しいアイデアを言えない ・基本的に新しいチャレンジをしても損をすると思っている |
心理的安全性が 高い職場 | ・会議やミーティングで健全な意見の衝突ができるのでアイデアが生まれやすい ・アイデアや考えが思いついたらすぐにメンバーに共有できる ・アイデアや考えを聞いてもらえる時間がありその中でチャレンジするべきか議論できる ・新しいアイデアや考えに対して周囲が嫌味な捉え方をしない |
一方で、心理的安全性の高い職場では率直な意見を言えるので、メンバーが持っているアイデアや考えを表に出しやすいです。
一人だけ異なる意見を持っていたとしてもチームにとって意味があるなら臆することなく発言でき、最適な判断を促せるでしょう。
また、チームの関係性が良好なのでアイデアや考えが浮かんだときには自然に「共有したい」と思えます。
このように、心理的安全性の高い職場では新しいアイデアや考えを表面化できる環境があり、これからの時代に適応できる組織へと進化できるでしょう。
4-4.DEI推進の鍵となる
心理的安全性は昨今耳にする機会が増えた「DEI(DE&I)」を推進するために欠かせない要素です。
DEIは人種や性別、年齢などに囚われずに全ての人が互いに尊重し合い公平に活躍できる社会を目指す取り組みを指します。
DEIでは企業でのダイバーシティを実現するために「公平性」や「包括性」にも併せて取り組む必要があると考えています。
多様性 Diversity | 性別・年齢・国籍・障がいなどを問わず様々な価値観・個性を持った人材が共存できる |
公平性 Equity | 多様な人材に機会の公平性を追求すること 例:一人ひとりの個性に応じて誰もが情報を得られ、挑戦出来るよう支援し公正に処遇する |
包括性 Inclusion | 一人ひとりが職場の一員として貢献出来ている 例:異論や少数派の意見を排除せず納得できる話し合いができる |
中でも心理的安全性は、包括性の根幹にある要素だと言われています。
心理的安全性が確保されていないと、社員一人ひとりが職場に必要な存在だと認識しながら活き活きと活躍することが難しいためです。
DEIへの取り組みは企業価値や外部評価の向上につながるため、企業のホームページや報告書で公開している企業も増えています。
心理的安全性の高い職場を目指すことは、DEIの推進にもつながります。
5.職場の心理的安全性を高めるにはリーダーシップが欠かせない
ここまで読み、職場の心理的安全性の大切さを実感できたでしょう。
繰り返しになりますが、職場の心理的安全性は個人の能力でも、先天的に備わっているものでもありません。
職場やチーム内に存在し、低いと感じる場合は意識的に高めることができるものです。
では、心理的安全性はどのように高めることができるのでしょうか?
職場の心理的安全性を高めるには、下記の3段階があると考えられています。
段階 | 具体例 |
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1)構造・環境 →変更しにくい条件 | 企業の組織構造や事業・ビジネスの仕組み ・業務での規則 ・パワーバランス ・組織構造など |
2)関係性・カルチャー →リーダーシップで変える | 組織やチームの今までの風土や考え方 ・組織やチームの習慣 ・組織やチームの考え方 |
3)行動・スキル →リーダーシップで変える | 社員一人ひとりの行動やスキル ・どのように考えて行動するか ・どのような発言ができるか |
1段階目の「構造・環境」は、企業の組織構造や規則に起因する心理的安全性の問題点です。
業種や業態によっては仕事のルールや規則がどうしても厳しくなってしまうものですが、「構造・環境」は簡単に変えられるものではありません。
例えば、私語厳禁のクリーンルームなどで業務をしていれば、他の業種と同様のコミュニケーションを図ることは難しいです。
心理的安全性を高めたいと考えるときには「構造・環境」の影響を前提条件として認識しておく必要があります。
2段階目以降はチームのリーダーにリーダーシップがあれば、心理的安全性を高める方向へと導けます。
【心理的安全性を高める一因となるリーダーの例】 ・部長や課長などの管理職 ・営業リーダーやチームリーダーなど特定の集団をまとめる役割を担う社員 |
つまり心理的安全性を高めるには、チームや職場のメンバーを巻き込みながら現状を変えていくリーダーが必要なのです。
2段階目の「関係性・カルチャー」は、組織やチームに根付いた考え方や風土の問題点です。3段階目の「行動・スキル」は組織やチームの考え方を反映した個人の行動・スキルの問題点です。
リーダーが行動を起こし組織やチームの風土を変えれば、一人ひとりの考え方や行動が変わります。その結果、心理的安全性が高まり、前向きに仕事をしながら成果を出せる組織やチームへと生まれ変われるでしょう。
例えば、チームのリーダーが新しい取り組みを促したり、発言の良し悪しにかかわらず発言自体を受け止める雰囲気があることで、メンバーも少しずつ自分の考えを言えるようになります。その結果、率直な意見を言うことがチームの習慣になり、率直な意見を言える前提でメンバーが行動、発言できるようになるでしょう。
リーダーシップを発揮する場合 | |
---|---|
2)関係性・カルチャー | ・リーダー自信が完ぺきではないことを認め、失敗を恥ずかしいものではないと示す ・率直な意見を言えるチームの習慣を作る |
3)行動・スキル | ・率直な意見を言える前提で行動や発言ができる |
一方で、リーダーが心理的安全性を意識しておらず高圧的な態度や意見を求めない行動ばかりしていると、「アイデアはあるけど、発言ができない」「リーダーの顔色を見て行動してしまう」など、不安や躊躇いを感じる行動につながるのです。
リーダーシップを発揮しない場合 | |
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2)関係性・カルチャー | ・チームの考え方や方向性がよく分からない ・チームの習慣が現状維持のままになる |
3)行動・スキル | ・「この行動をすると怒られそう」などの不安があり行動に制限がある ・リーダーの思惑が分からないので顔色を伺いながら発言する |
次の章では、心理的安全性を高めるために、リーダーがどのような取り組みをするべきか詳しく解説していきます。
6.【事例付き】リーダーが率先して心理的安全性を高めるための4つのステップ
ここでは、リーダーが率先して心理的安全性を高めるためのステップをご紹介します。
心理的安全性は職場のあらゆるシーンで高めることができますが、今回は話し合いを通じて理的安全性を高める一例をご紹介します。
ハイブリッドワーク下でも活かせることが多く、リーダーの行動だけでなくメンバーがどのようなサポートをすればいいのかもまとめているので、参考にしてみてください。
6-1.話し合いができる場を設ける
心理的安全性を高めるには、積極的に話し合いができる場を設けましょう。
これまで率直な意見を奨励していなかった場合や心理的安全性が十分に確保されていない状態では、意図的に話し合いができる場を作らないと率直な意見を言いにくいからです。
率直な意見を言えたり、新しいアイデアを上司に提案してみたいと思える関係性をつくるには、まずは気兼ねなく話し合える場をもってみましょう。
業務の方法や業種により実施方法は異なりますが、下記のような方法を検討すると良いでしょう。
【話し合いの場の一例】 ・3か月に1回チーム全員でランチミーティングをする ・週に1回チームリーダーとの1on1を実施する ・週に1回チームミーティングをする |
【ワンポイントアドバイス】 「話し合いの場を持つ」と言っても、単に形式だけ取り入れることは有効ではありません。重要なのは、信頼関係をベースとすることです。 有名なモデルとして、マサチューセッツ工科大学組織学習センターのダニエル・キム教授が提唱した、成功循環の法則があります。成果の出やすい組織となるためには「関係性の質」「思考の質」「行動の質」が重要で、特にファーストステップとなる「関係性の質」が良いことがその次のプロセスを回すことに特に重要であると言われています。 具体的には、「この組織のメンバーは信頼できる」と思うがゆえに「組織のためを思い意見をたくさん出そう」と思い、意見が多く出るからこそ良いアイディアが生まれ、「良いアイディアをもとにした良い行動を取ろう」となり、結果につながりやすくなります。つまり、信頼関係が成果を出せるチームのスタートラインになるのです。 ▶信頼関係を構築するヒントは下記コラムも参照してください。 組織の信頼関係をどう高めるか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第3回 |
6-2.リーダーが率先して相談・質問をする
話し合いを進めるときには、リーダーが率先して相談や質問をしましょう。
心理的安全性が十分に確保できていない状況下では「ここで自分の話をしてもいいのかな」など不安を感じやすいです。
ここでは自分の率直な意見を話せることを示すためにも、まずはリーダーから積極的に相談や質問をしてみてください。また、リーダーが先に弱さを見せ率直に話し、自身の課題にどう向き合うのかをメンバーに共有するのも一つです。
【リーダーからの相談や質問の例】 ・私は〇〇がいいかなと思うのですが、みなさんの意見も聞かせてください。 ・私にも〇〇な失敗があるのですが、同じ失敗をしないための対策を考えましょう。 |
リーダーが相談や質問をするときは、自分の告白や自分の経験を踏まえるといいでしょう。
リーダーが積極的に自己開示をすることで、メンバーも自分の思いや考えを話しやすくなります。
また、リーダーの相談や質問から話し合いを広げるときには、下記の点を意識してみてください。
使いたい言い方・姿勢 | 避けたい言い方・姿勢 |
---|---|
・意見を聞かせていただきありがとうございます。〇〇の部分がいいですね。 ・反対意見もあるかと思うのですが、ぜひご意見を聞かせてください。 ・いったん一人ずついま考えていることを発言してみましょう。 ・〇〇さんの意見をぜひ教えてください。 ・頷きながらしっかりと傾聴する | ・最近どうですか?(メンバーが回答しにくい) ・その意見は今の状況にそぐわないですね(発言を否定する) ・他の意見はないですか?(一部の意見を無視したように聞こえてしまう) ・同じメンバーばかりが発言する状況を見過ごす ・パソコンを打ちながら目を見ないで話を聞く |
この中でまず取り組んでみて欲しいのは、メンバーの意見や質問に感謝をして、良い部分を受け入れる行動です。
発言をする行動そのものに感謝をすると「発言することは悪でない」と認識できます。
その上で発言の中でよかった部分を指摘できると、発言してよかったとポジティブな感情を残せます。
【メンバーの意見や質問に感謝をしていい部分を受け入れる例】 メンバー「私はこのプロジェクトは〇〇だと思います」 リーダー「率直な意見をありがとうございます。〇〇さんの思いが理解できました。とくに〇〇の発想はいいですね。」 |
感謝を伝えることはリーダーが言語化しやすいワードの1つでもあるので、まずは話し合いでの発言を受け入れるところからスタートするといいでしょう。
【冒頭2分の雑談でメンバーの気持ちをほぐす】 「話し合いで議論を活性化したいけれどまだまだメンバーが率直な意見を言えない」という場合は、話し合いの冒頭に雑談する時間を設けましょう。成果を出し続けているチームのミーティングには、冒頭2分に雑談をする時間があることが分かっています。 まずは雑談をして緊張や不安をほぐし、率直な意見を言いやすい場づくりから始めましょう。 雑談の例)最近の嬉しい出来事、買ってよかったもの、週末によく行く場所 |
6-3.成果やよかった点を共有する
話し合いの場では、メンバーの成果やよかった点を積極的に共有します。
人は自分の起こした行動にいい「みかえり」があるとまた同じ行動をしようと思えます。
話し合いの中でリーダーから「前回のAさんの発言からチームの行動を見直しましたが〇〇という成果が出ています。Aさんありがとうございます」と伝えられたとしましょう。
Aさんは自分の率直な意見により「成果が出た!褒められた」というみかえりを手に入れたので、もっと率直な意見を出していこうと思えるようになりました。
このように、話し合い時にメンバーの成果やよかった点を積極的に褒めることで、褒められた行動を安心して実施できるようになります。
Web会議やメッセージアプリのやり取りの場合は、リアクションスタンプも「良い反応=いいみかえり」だと認識してもらえる傾向があります。
リーダーが多忙な時でも、メンバーが発言した後には拍手などのポジティブなリアクションスタンプを送ると、好循環を生むことも期待できるでしょう。
【メンバーとよかったことを共有する習慣を作るのもおすすめ】 心理的安全性を高めるためには話し合いのときだけでなく、普段からチーム内のよかったことを共有する習慣を身につけることもおすすめです。 「いつ・誰が・どのようなことをしてくれて・どのような気持ちになったのか」チャットやメールなどで気兼ねなく共有できると「このチームにいてよかった」「自分を必要だと思ってくれている」など心理的安全性を高める気持ちを抱けるでしょう。 |
6-4.チームのフォローを継続する
話し合いが終わった後でもリーダーは下記の5つの視点を持ち、心理的安全性が確保できているかフォローすることが大切です。
心理的安全性を高める5つの要素 | |
---|---|
理解・学習 | チーム全員に心理的安全性の大切さを理解してもらう 例:心理的安全性宣言を作り「率直な意見を言っても大丈夫」「チャレンジを歓迎する」など心理的安全性の要素を可視化して伝える |
関係性構築 | チーム内で助け合えているか、率直な意見を言えているか確認する 例:意見を言えないメンバーはいないか目を配る トラブルを一人で抱えているメンバーはいないか確認する |
受容 | ありのままのメンバーを受け入れる 例:メンバーがミスをしたときに怒らず素直に報告したことに感謝して解決策を探す |
包摂・感謝 | メンバーに対して否定的な発言はしないで感謝の気持ちを持ち接する 例:メンバーが相談をしてくれたらその行動に感謝をする |
自主性 | チームメンバーの意思決定にできる限り自主性を持たせる 例:リーダーの指示で仕事をするのではなくメンバーの意思を確認したうえで納期やスケジュールを決めて取り組む |
とくに、リーダーが心理的安全性を高めるうえで重要なのは、メンバーを気に掛けていることをポジティブに伝えることです。
例えば、新しい挑戦をするメンバーがいたとしましょう。
話し合いのときに「頑張ってね」と声はかけたものの、その後放置しているとメンバーのモチベーションが低下します。
「結局しっかりと考えていないんだな」「結局成果しか求めていないんだな」と不信感を抱く可能性もあるでしょう。
メンバーにはポジティブに気にかけてくれていると感じさせるように、日頃から感謝を伝える・コミュニケーションを取るなどを意識してみてください。
【ポジティブに気にかけてくれていると感じさせる例】 ・グループチャットやメールでこまめにメンバーの頑張りを発信する ・「プロジェクトが進んでいると聞いたよ、●●の取り組みが奏功していますね。ありがとうございます」などプロセスに着目しポジティブな声かけを積極的に行う |
心理的安全性の高め方に正解はありません。
今回ご紹介したのはあくまでも一例なので、リーダーやチームの考え方、仕事への姿勢などを踏まえてアレンジしてみてください。
【メンバーはリーダーにしてもらって嬉しかったアクションをチーム内に広げていく】 心理的安全性を形作るのはリーダーだけの責任ではありません。メンバーにも、職場の心理的安全性を高める一員として出来ることがあります。 例えば、リーダーにしてもらい嬉しかったアクションを、他のメンバーにも行うと、チームの風土として心理的安全性が根付いていきます。 例えば、ミスをしたときにリーダーから声をかけてもらったことが嬉しかった場合は、他のメンバーがミスをしたときに「大丈夫だよ、一緒に解決しよう」と声掛けできるといいでしょう。 メンバー一人ひとりが心理的安全性につながるアクションをすることで、リーダー対メンバーの心理的安全性からチーム全体の心理的安全性へと変化していきます。 |
心理的安全性を高めるために【チェックポイント例付き】
職場の心理的安全性を高める重要性やチェックポイントをまとめた資料をご用意しています。下記より資料をダウンロードできますので、ぜひお役立てください。
7.リーダーが職場の心理的安全性を高める3つのポイント
ここまで読み、リーダーが率先して職場の心理的安全性を高めるイメージが持てたかと思います。
最後に、リーダーが知っておきたい職場の心理的安全性を高める3つのポイントをご紹介します。
どのような点に注意してメンバーと接すると心理的安全性が向上するのか分かるので、参考にしてみてください。
7-1.まずリーダーの心理的柔軟性を高める
1つ目は、リーダーの心理的柔軟性を高めることです。
心理的柔軟性とは「今、この瞬間」への気づきを持ちつつ、自分が本当に大切にしたい価値に集中し、効果的な行動をとる能力のことを言います。
(「心理的柔軟性」、日本の人事部、2024年6月9日に内容確認)
心理的安全性は組織・集団に帰属する概念ですが、心理的柔軟性は個人に帰属する概念という違いがあります。特にリーダーの心理的柔軟性は組織の心理的安全性に大きく影響します。
心理的柔軟性の高い人には以下の3つの特徴があると言われています。
①変えられないものを受け入れる(前向きな思考)
②大切なことに向かい、変えられるものに取り組む(仕事の意味づけ、自分にとって大切なことを見失わない)
③マインドフルに見分ける(「今この瞬間」に集中する)
(「チームの心理的安全性」と「リーダーシップとしての心理的柔軟性」の関係、ZENtech(YouTube)、2024年6月9日視聴)
例えば、外部環境の変動により自チームの営業成績の達成が難しい状況になったとしましょう。
ともすればリーダーは「チームの達成が出来なくなったらどうしよう。会社の上層部に叱責され、自分は降格になってしまうかもしれない」と心穏やかではいられなくなるかもしれません。そこで心理的柔軟性が高いリーダーであれば、下記のように思考を切り替えることが出来るでしょう。
- 変えられない外部環境の変化を受け止め、自社への短期・中長期的影響を見極める
- 現在の状況を「チャレンジ」と捉え、自身が大切にしている「メンバーの成長」に意識をフォーカスする
- メンバーに対して出来る支援策は何か(変えられる行動)に思考を集中させる
こうすれば、慌ててメンバーへ叱責することもせずに済みますし、現在向かうべき改善に対してチームで建設的な議論がしやすくなるでしょう。
このように、リーダーの心理的柔軟性を高めることで、チーム全体の心理的安全性が高まっていくのです。
7-2.仕事の基準が高いチームを目指す
2つ目は、仕事の基準が高いチームを目指すことです。なぜなら、心理的安全性の高さと仕事の基準の高さは2つでワンセットだからです。
下記は、仕事の基準と心理的安全性の関係性を示したマトリクスです。
ゾーン | ゾーンごとの特徴 |
---|---|
快適ゾーン | 心理的安全性は高く互いに助け合う・コミュニケーションを取るなどはできるが仕事に対しての基準が低く成果を出せない 例:納期や目標を破っても問題のない職場 仕事に充実感がなく「まぁこの程度でもいいか」という姿勢で成り立つ職場 |
無気力ゾーン | リスクを冒してまで他社と関わりたくないと思い、その結果仕事に対する姿勢やモチベーションも低くなってしまう 例:成果を出すより仕事をしているフリに注力する職場 失敗する不安から何にも挑戦できず一定の仕事を淡々とこなす職場 |
不安ゾーン | 仕事に求める基準は高いものの心理的安全性が確保されていないので必要な意見が言えずに不安や不満を抱えている 例:成果を求めるが失敗するとすぐに怒鳴る職場 職場の成果ではなく上司の顔色を伺いながら仕事をする職場 |
学習ゾーン | 心理的安全性と仕事のクオリティの双方が高く誰もが活き活きと仕事に取り組める 例:目標を達成するために必要な意見を誰もが率直に言える職場 新しいチャレンジを歓迎してチャレンジをサポートできる職場 |
心理的安全性が高くても仕事の基準が低いと、仕事の充実感がない「快適ゾーン」に留まることになります。確かに心理的安全性は確保されていますが「進捗が遅い」「目標が未達でも危機感がない」など「まぁこの程度の仕事でもいいか」と手を抜いている状態です。
今はこの状況でもいいかもしれませんが企業成長が見込めず、将来的に利益縮小や価値の低下が起こるかもしれません。
心理的安全性の高い職場では、本来生産性が高く成果を出せるはずです。心理的安全性を高めるときには仕事の質にもこだわり「チーム全員が最大限に能力を発揮できているか」「目標設定のレベルが最適か」確認するようにしましょう。
7-3.無意識の思い込みや偏見に気付き改善する
3つ目は、無意識の思い込みや偏見に気付き改善することです。
無意識の偏見は誰もが持つもので「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれています。
下記のように、経験や思考から知らず知らずのうちに「そうに違いない」と決めつけていることを指します。
【アンコンシャス・バイアスの一例】 ・Z世代の新入社員はきっとキャリアに保守的な思考だと思い込み、キャリア面談の際に踏み込んだ質問をしない ・女性社員にはこの仕事はできないだろうと勝手に仕事を選別する ・過去の失敗から新しい挑戦はできる限り避けようとする |
リーダーにアンコンシャス・バイアスがあると、メンバーにとって最適な判断ができない可能性があります。その結果「なぜ受け入れてもらえなかったんだろう」「自分だけ扱いが違うかもしれない」などの不安を与える原因になるのです。
自分でアンコンシャス・バイアスに気付くことはなかなか難しいですが、メンバーと意見が対立したときには「アンコンシャス・バイアスがかかっているかもしれない」と考えるといいでしょう。
もちろん意見の対立には様々な要因がありますが、一度相手の意見を受け入れて下記のポイントを整理してみましょう。
【アンコンシャス・バイアスに気付くポイント】 ・自分がその意見を主張する理由や背景を考える ・歪んだ考え方をしていないか整理する・メンバーの提案の裏にある感情や価値観に目を向ける |
例えば、メンバーの挑戦に難色を示す背景には「自分が同じような失敗をしたから」というアンコンシャス・バイアスがあるかもしれません。
この場合は、失敗の経験を語りながら失敗しない方法を模索することで、挑戦を受け入れられるようになるでしょう。
8.リーダーが心理的安全性を高めるには正しい知識が必要!グロービスのプログラムで身につける
ここまで読み、職場での心理的安全性の重要性が理解できたかと思います。
VUCA時代には心理的安全性の高い職場と低い職場では、成果や提供価値に大きな差が生まれるでしょう。
企業が心理的安全性を高めるときに要となるのが「5.職場の心理的安全性を高めるにはリーダーシップが欠かせない」で触れたように、リーダーシップを発揮できるリーダーの存在です。
しかし、心理的安全性の高い職場を目指せるリーダーがいないことが企業の悩みではないでしょうか。
企業の心理的安全性を高めるリーダー・管理職の育成なら私たち「グロービス」にお任せください。
グロービスではメンバーの意欲・能力を引き出す職場マネジメントの研修やリーダーシップ開発の研修など、職場の心理的安全性を高めるリーダーを輩出するためのプログラムを豊富に用意しています。
下記の好事例のように、企業の課題や戦略に応じた研修の設計や運営を行うことも可能です。
住友ゴム工業さまではグループ企業を含めた組織全体で社員がわくわくイキイキと働き、自律的に行動し活躍できる組織のエンゲージメント向上を目指しています。
一方で、自動車業界は100年に1度の変革期の最中であり、製品に求められる中、会社を持続的に成長させていくために社員一人ひとりの主体性を育む必要に迫られていました。
そこで、現場の要となるチームリーダーのリーダーシップ向上を目指す「わくわくイキイキプロジェクト」の構想段階からご相談いただきました。
このプロジェクトでは組織のエンゲージメント定期的に測定しつつ、チームリーダーが自らのリーダーシップの在り方を考えるセッションを実施。
インターバル期間にはセッションで学んだ1on1やチーム内対話を現場で実践し、自発的に働ける組織づくりを目指しました。
初回のセッションではエンゲージメントなどの理論が難しく感じましたが「定期的に体重計に乗っているような気持ちで受け止め、対話のきっかけにすることを一番に考えましょう」と学びを促進。
率直にサーベイの回答をするようお願いし、自分自身もありのままを受け止めるように工夫しています。
とりあえずでもいいから学んだことを実践してみると、小さな手応えが得られたそうです。
そこから少しずつ、1on1やチームでの対話が楽しくなったと語ります。
また、メンバーとお互いを知ることの重要性も痛感したそうです。
セッションで印象的だった言葉のひとつが「心理的安全性」で、対話をして理解し合うことを経て心理的安全性が育まれエンゲージメントが高まるのだと理解していただけました。
今後は1on1やチームミーティング、サーベイを継続して、メンバーがチームの成長を自分事に感じてもらえるようにしていきたいと考えているとのことです。
▶住友ゴム工業さまの取り組み事例は下記で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
社員が活き活きと働き、持続的に成長する組織づくり ~エンゲージメント向上へのチャレンジ~
職場の心理的安全性を高めるには、心理的安全性の重要性を理解し率直して行動できるリーダーが欠かせません。心理的安全性に関する研修でお悩みの場合は、お気軽にお問い合わせください。
9.まとめ
今回は、職場の心理的安全性の重要性やメリット、高め方など心理的安全性に関する基礎知識をまとめてご紹介しました。
最後に、この記事の内容を振り返ってみましょう。
心理的安全性のある職場とはメンバー同士で健全に意見を交わすことができ、生産的でよりよい成果を出せるよう注力できる職場のこと
職場の心理的安全性を作る4つの要素は下記のとおり
話しやすさ | ・職場で話す・聞く・理解するコミュニケーションが取れる ・リスクや不安を感じずに素直な意見や率直な意見が言える |
助け合い | ・困ったときやトラブルがあったときに助けを求められる ・周囲が助けを求めてきたときに助ける行動ができる |
挑戦 | ・チャレンジすることが「得」だと感じて前向きに挑戦できる ・チャレンジする機会を与える環境がある |
新奇歓迎 | ・一人ひとりの個性を受け入れる ・一人ひとりの能力を最大限に発揮できる適切な配置をする |
職場の心理的安全性が重要視される背景は下記のとおり
- 2016年に米Google社が「心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素である」と研究結果を発表したことで広まった
- VUCA時代になり環境変化に耐えられる組織力が必要になった
- 心理的非安全な職場では継続的な成長ができない
職場の心理的安全性を高めるメリットは次の4つ
- 仕事の生産性が向上して成果が出せる
- 離職率の低下につながる
- 新しいアイデアや考え方を生み出せる
- DEI推進の鍵となる
職場の心理的安全性を高めるにはリーダーシップが欠かせない! リーダーが率先して心理的安全性を高めるためのステップは下記のとおり
- 話し合いができる場を設ける
- リーダーが率先して相談・質問をする
- 成果やよかった点を共有する
- チームのフォローを継続する
リーダーが職場の心理的安全性を高めるポイントは次の3つ
- まずリーダーの心理的柔軟性を高める
- 仕事の基準が高いチームを目指す
- 無意識の思い込みや偏見に気付き改善する
職場の心理的安全性は継続的に成果を出せるチーム・企業を目指すために欠かせない指標です。
チームを率先するリーダーの心理的安全性の高めるスキルや知識にお悩みの場合は、お気軽にグロービスにご相談ください。
参考:「心理的安全性のつくりかた」
(石井遼介著、”心理的安全性のつくりかた”、日本能率協会マネジメントセンター、2020年)
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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