次世代リーダー育成・選抜研修お役立ちコラム
選抜研修を受けられない社員へのフォローに必要な3つの視点

2019.07.25

選抜研修を導入しようとすると「研修を受けられない社員のモチベーションが低下するのではないか?」という声が社内に上がるものです。本コラムでは、研修を受けられない社員へのフォローに必要な3つの仕組みを紹介します。(グロービス・コーポレート・エデュケーション 北澤一哉)

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選抜研修を阻む、選抜に漏れた社員への配慮

次世代リーダー育成等の「選抜研修」を初めて実施することになった日系企業で、人事担当者がまず直面するのは、「選抜に漏れた社員をどうフォローしようか……」という悩みです。私がお付き合いのあるメーカーでは、選抜に漏れた人への悪影響を懸念して選抜研修を諦めてしまうケースもあるほど、この悩みは選抜研修を実施する上でのハードルとなっています。

実際に、図1※に示されるように2012年に行われた実態調査においても選抜研修を実施していない主な理由の一つとして、選抜されなかった社員のモチベーションの低下が挙げられています。

 

出典 2012年 選抜型の経営幹部育成に関する実態調査(産労総合研究所「企業と人材」より)

図1:選抜研修の導入状況と導入していない理由(引用:2012年 選抜型の経営幹部育成に関する実態調査、産労総合研究所、2019年2月

 

一方で、平成29年3月に経済産業省が公表している「経営人材育成」に関する調査の結果報告書の中では、実際に選抜研修を行っている企業においても、選抜されなかった人材へのフォローについて51.5%の企業が実施できていないという調査結果が出されており、十分なフォローが出来ていない実態も垣間見られます。

選抜とは普通、選ばれない社員のほうが多数になるものなので、彼らのモチベーションが低下した場合の企業に与える悪影響は軽視できません。そのため、本コラムでは選抜研修に選ばれなかった層のモチベーションを維持する仕組みをどう作れば良いか?を考えていきたいと思います。

 

次世代リーダーの選抜研修に選ばれない社員が多数派の図

図2:選抜研修に選ばれない社員が多数派

 

選抜研修に選ばれなかった層のモチベーションを維持するための3つの仕組み

具体的にどういう仕組み作りをしていけば良いのでしょうか?私は選ばれなかった社員に納得感、安心感、期待感を得られることが重要だと考えます。 そのために、

  • 1:納得感を醸成する選抜基準の設定
  • 2:安心感を醸成する昇進ルートの多様性の確保
  • 3:期待感を醸成する学習機会の提供

の「3つの仕組みづくり」をしていくことが大事です。

 

選抜研修に選ばれなかった社員への3つの仕組み

図3:選抜研修に選ばれなかった社員への3つの仕組み

 

なぜなら、各社員が選抜に漏れたとしても諦めずに、自己成長に取り組む姿勢を保ち、学び続ける組織であるかどうかが、環境変化が激しい昨今において、長期的な企業成長を支える大きなカギとなるためです。以下、具体的な内容を見ていきましょう。

 

仕組みその1:納得感を醸成する選抜基準の設定

まず、選抜研修の機会が得られるための基準を明確にしておくことです。そうすれば、選抜に漏れた社員も、「自分が選ばれなかったのはここが不足していたからだ」、「今後自分のここを伸ばせば選抜研修に選ばれる可能性がある」と前向きに努力する方向性が得られます。逆に、この基準が不透明だと、今後自身が選抜されるための方法が見いだせないため、無力感を抱きかねません。

とは言え、現実には万人が納得する選抜基準を作るのは難しいものです。そのため、各部から“優秀”な社員を推薦してもらうなど選抜基準が曖昧に設定されるケースも多くの会社で見受けられます。

正解はないですが、状況打破の一例をご紹介しましょう。ある企業では、人事の評価基準も見直し、育成体系と評価基準の整合を図りました。並行して、昨今事業を取り巻く環境が大きく変化する中で、今後の経営戦略を実現していくにあたって必要な各階層のあるべき姿を改めて検討して育成体系を整備しました。そして新たな評価基準に照らして評価される社員を研修の選抜者として選んだのです。

このように、難しいながらも初めの段階で選抜基準を逃げずに作り込むことが、結果として選抜に選ばれなかった社員に対する納得感を醸成することに繋がります。

 

仕組みその2:安心感を醸成する昇進ルートの多様性の確保

選抜研修に選ばれることが昇進するための唯一の道ではないという、昇進に至るルートの多様性を担保することが重要です。なぜなら、選抜研修に選ばれなかった社員が、将来を閉ざされたように感じることなしに、自分に必要な成長を自分のペースで検討することができるからです。

昇進ルートの多様性を確保するためには、選抜研修に選ばれなかったとしても昇進の道があることを実績として公開することが重要です。私たちの顧客のある企業では、選抜部長研修、選抜課長研修を行っているのですが、選抜部長研修に選ばれた約8割の選抜者は課長層の時に選抜課長研修に選ばれていない層です。別の企業では、選抜研修を未経験或いは卒業できずにリタイアした社員も役員になっています。

これらの多様性の事例は、それぞれの会社で社員の知るところとなっており、選抜以外の昇進ルートの例として認知されています。選ばれなかった人にも今後昇進していくための複数ルートがあるという安心感を持って再起をめざすことができるのです。

企業にとっても、選抜者のみ昇進が保証されるという単一ルートの仕組みを作ることは危険です。なぜなら、個人の成長曲線は人によって大きく異なるためです。 人事としては、選抜研修のタイミングでは冴えない人材で選抜には選ばれなかったとしても、それ以降に大きな成長曲線を描く大器晩成型の人材に備えておく必要があります。複数の昇進ルートを確保し、安心感を醸成することは、本人だけでなく企業の有能な人材確保という観点から重要なポイントになります。

 

仕組みその3:期待感を示す学習機会の提供

最後に選ばれなかった社員に対してもその対象層に求められるスキル・知識を得られるような研修機会を提供し会社の彼らへの期待感を示すことも重要です。 たとえばある対象階層に対しては選抜研修のみしかなく、選ばれていない対象層に何の研修機会も用意されていなければ、会社にもう期待されていないのではと思ってしまいます。

ある企業では、選抜課長研修と併行して課長層向けの階層研修を実施することで、選抜に選ばれない課長に対しても課長層に期待される役割認識とベーシックなスキル・知識を習得する研修を行い、彼らの仕事に対する動機づけに繋げています。

さらに言うならば、自己啓発の制度を整備して、やる気がある人に対しては、会社が求める知識・スキルを自律的に学ぶ機会も提供できるとより望ましい状態が作れます。 このように選ばれなかった社員に対しても研修機会の提供することを通じて、彼らへの期待感を示し成長を促すことが重要です。もちろん、ハード面として仕組みをただ作るだけでなく、研修実施時に人事から直接彼らに期待感を伝えることや、彼らの上司から日々のコミュニケーションの中で彼らを動機づけしていく等のソフト面へのケアも重要です。

以上のように、選ばれなかった社員の感情に配慮して、彼らが納得感、安心感、期待感を得られるような仕組みづくりを考えていくことが肝要です。

 

補論:なぜ選抜研修に選ばれなかった社員のフォローをする必要があるのか?

そもそもなぜ日系企業では選抜に漏れた社員のフォローが必要なのでしょうか? 紐解いていくと3点あります。

1点目は、日系企業で一般的に行われてきた新卒一括採用では、総合職で採用された社員がいつどのような形で活躍するかを想定することは難しく、ある時点で選抜した社員だけに特別な機会を提供することに違和感を覚える社員が多いことが挙げられます。

2点目は前述しましたが、選ばれなかった社員のモチベーションの低下の会社に及ぼす影響です。たとえば、選抜対象層100人のうち、選抜人材が10人だとしたら、選ばれなかった人は90人にのぼります。そのため、選ばれなかった層がモチベーションを下げ、生産性を下げることになれば、企業に及ぼす影響は相対的に大きくなります。

最後の3点目は、社員リテンションの側面です。昨今は雇用の流動性も高まっており、日系企業でも選抜に選ばれなかった社員の中には、その処遇に不満を抱いて転職する人も出てきます。そうなると、それを補う人材の採用・教育コストが必要になってきますし、そもそも少子高齢化で労働人口が減っていく日本において適した人材を採用できるかという問題も出てきます。

もちろん、だからと言って選抜研修を止めようというのは本末転倒ですが、これまで見てきたように選抜研修を実施するにあたっては選ばれなかった社員へのフォローは必要なものと認識し、取り組むことが重要です。

 

※図1:「2012年 選抜型の経営幹部育成に関する実態調査」、産労総合研究所「企業と人材」、 https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/jijiromu/senbatsu/pr1203.html(2019.2)

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執筆者プロフィール
北澤 一哉 | Kitazawa Kazuya
北澤 一哉

一橋大学経済学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
電力会社にて営業推進、電力購買にあたっての入札制度企画や契約交渉などに携わった後、大学院を経て、グロービスに参画。
現在は、人材・組織開発コンサルタントとして、大手企業の経営人材育成を中心としたプロジェクトの企画・実行支援などに従事している。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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