実践的な人材育成の進め方
7つのステップと成功のポイントを解説

「人材育成の進め方がわからない。いい方法が知りたい」
「人材育成で成果を出すための進め方は? 何に取り組めばいいの?」

人材育成に取り組むときに、どのように進めたらいいのか悩む方は多いのではないでしょうか?

実は人材育成の要となるのが、適切な進め方です。人材育成の進め方が誤っているとせっかく施策を実施しても、思ったような成果を出せません。

人材育成は次の7つのステップに沿って実践すると、適切なゴールを見据えて取り組めるようになります。

ただし、人材育成の進め方を知っているだけでは意味がありません。それぞれのステップでどのようなことを行うのか理解し、納得感を持ち進めることが大切です。

そこでこの記事では、人材育成の詳しい進め方や人材育成を進めるうえで知っておきたいフレームワーク、成功のポイントなどをまとめて解説していきます。とくに、人材育成の進め方では一つひとつのステップを詳しく解説し、実践できるようにしています。

この記事を読むとわかること
  • 【7つのステップに沿って解説】人材育成の進め方
  • 人材育成に関する定番フレームワーク5選
  • 人材育成を進めるときにつまずきやすい難所は?
  • 人材育成の進め方の好事例

この記事を最後まで読めば人材育成の進め方が具体的に理解でき、失敗を回避しながら実践できるようになります。人材育成で理想的な成果を出すためにも、ぜひ参考にしてください。

CHAPTER
01
【7つのステップに沿って解説】人材育成の進め方

冒頭でも触れたように、人材育成は次の7つのステップに沿って進めます。通常の人材育成の進め方は左側の5つのステップを指すことが多いですが、ここでは自社の戦略や人材を理解するステップを取り入れて7つのステップにしています

人材育成をするときに理想となるロールモデルだけを掲げても、自社の現状や戦略、方針とそぐわない可能性があります。人材育成は自社の経営戦略を実現するために行うものなので、自社の戦略や考え方とミスマッチを起こさないことが重要です。

そのため、まずは自社の経営環境・経営戦略や自社の人材を理解するところから始める必要があるのです。ステップごとに押さえたいポイントが異なるため、人材育成に失敗しないためにも参考にしてください。

1-1【ステップ①】自社の戦略を深く理解する

まずは人材育成を実施する前提条件として、自社の戦略を理解し自社に必要な人材像を明確にします。先ほども述べたように、人材育成は自社の経営戦略を実現できるよう、自社に貢献する人材を育てることです。

「自社に貢献する人材」を知るには、自社の戦略を理解することが欠かせません。例えば、自社の強みや将来像がわからない状態で、自社に貢献する人材をイメージすることは難しいです。自社の戦略を理解するときは、内部環境と外部環境を分析するところから始めましょう。

※左右にスクロールします
自社の戦略を理解するための2つの視点
外部環境 自社では制御できない自社を取り巻く環境のこと
例:政治・流行・法律の改正・技術の進歩・競合他社
内部環境 自社内である程度コントロールできる環境のこと
例:資産・自社独自の技術や知識・自社の強み

外部環境は、政治や流行、競合他社など自社では制御できない環境のことです。外部環境の変化によって提供する商品やサービスが変わっていくため、外部環境を分析することが欠かせません。

例えば、自社はビジネスで活用するITツールを提供している会社だとします。技術の進歩によりAIやメタバースなど新しい価値が登場したら、当然顧客に提供するサービスにも影響が出ます。技術の進歩を踏まえて、自社はこれから先どのような戦略を立てて行くべきなのか分析をします。

内部環境は、自社である程度コントロールができる環境を指します。例えば、自社のみが提供しているサービスがあれば、競合他社が真似できない自社の強みとなります。これを活かして、これから先どのような戦略を立てるべきか検討できるでしょう。

このように、外部環境と内部環境を軸に多方面から自社を分析することで、ビジョンや経営戦略、経営の方向性が明確になります。

経営の方向性が理解できたところで、戦略を実現するにはどのような人材が必要なのか考えてみましょう。

  • 戦略を実現するために組織全体としてどんな<行動>が求められているのか?
  • 人材に求められる変革のレベルは? 変革の内容は?
  • 組織の戦略に必要な人材は?
  • 戦略を進めるうえで課題が見つかったときに乗り越えられる人材は?

など、経営の方向性をベースに多方面から分析をしてみます。

例えば、部下の育成に注力したいと思ったときに自社の戦略が理解できていないと、自社にとって価値のある育成方針や必要な人材が定まりません。

「木を見て森を見ず」という言葉があるように、人材育成に取り組むに人材のみに焦点を当てると的確な判断はできない可能性があります。企業全体の方向性をあらためて明確にしてから、人材育成に取り組むことが重要です。

1-2 【ステップ②】人材の現状を理解する

続いて、人材育成の現状を正しく理解します。「人材育成がうまく進んでいない」「人材育成で成果が出ていない」という体感をお持ちの方はいらっしゃいますが、現状を適切に理解している方は多くいません。

なぜなら、社員のスキルや人柄、意欲は目に見えないからです。目に見えない状態で人材育成を進めようとしても、どこに課題があるのか、何を改善するべきか手探りで行わなければなりません。

そこで、人材の現状を正しく理解するために、下記のような取り組みを実施します。

※左右にスクロールします
スキルマップの作成 業務内容に応じた現状のスキルを社員ごとに可視化する
アセスメントテストの実施 人材を客観的に評価するテストの実施する

1-2-1 スキルマップの作成

スキルマップとは、社員の業務内容に応じたスキルを可視化する方法です。計画的な人材育成をするために人材を理解する手法として活用されています。

スキルマップでは業務内容を細かく書き出し、業務内容ごとにレベル付けを行います。下記の例では、指導ができる習熟度を4とし、補助が必要な習熟度を1として4段階で評価をしています。

※左右にスクロールします
レベル レベルの基準 例:アイデア創出
レベル1 当該スキルの必要性を認識している(不充分だが行動に移せてはいる) 経験則を超える視点や考え方の重要性・必要性を認識している
レベル2 自分で行動を起こした上で持論を持ち、自分の言葉で表現できる 目的を踏まえて、現状踏襲を超えた見地から自分の意見を出せている
レベル3 リスク等を踏まえたうえで実行できる 目的を常に踏まえたうえで、革新的なアイデアを出し実行方法まで出している
レベル4 本質を押さえたうえで思考し、周囲を巻き込み、実行出来ている 本質を押さえたうえで革新的アイデア・実行方法を考えたうえでメンバーを巻き込み実践している

レベル付けした結果を一覧表にすると、強みとなる部分や課題となる部分が可視化できます。
例えば、部長層に新規事業などのアイデア創出スキルが低い傾向があった場合には、前例踏襲を超えて考えるゼロベース思考が課題であることがわかります。このように、一人ひとりのスキルをベースに人材の現状を理解していきます。

スキルマップは下記の2つの運用方法があります。取り組みやすい方法で、検討してみるといいでしょう。

※左右にスクロールします
方法 概要 メリット・デメリット 向いているケース
セルフチェック 社員本人が自分のスキルを自己評価する
  • ・導入ハードルが低い
  • ・自己評価なので精度が低い可能性がある
  • ・手軽に実施したい
  • ・社員数が多い
第三者による評価 個人へのヒアリングをもとに上司などの評価者が評価する
  • ・均一な評価がしやすい
  • ・時間や労力がかかる
  • スキルマップの精度を重視したい

1-2-2 アセスメントテストの実施

アセスメントテストとは、人材を客観的に評価する方法です。スキルマップは業務内容に応じた「スキル」の可視化をベースとしていますが、アセスメントテストでは下記のような思考力や業務への適正なども評価の対象となります。

【アセスメントテストの実施項目の一例】

  • スキルや知識
  • 対人関係
  • モチベーション
  • 性格
  • 業務への適性

多角的な視点から客観的な評価ができるため人材育成だけでなく、採用や昇格試験などにも活用されています。アセスメントテストは質問の作成にノウハウが必要かつ公平性の担保も必要なので、外部機関が提供しているサービスやツールを活用して実施することが一般的です。

業務内容や目的に応じて設定された質問に社員が回答しスキルや知識、対人関係などそれぞれの項目を数値化します。例えば、スキルや知識の点数が高くてもモチベーションが低い場合は、業務への意欲に課題があると考えられます。

このように、スキルマップやアセスメントテストを活用しスキルや考え方を可視化して、社員の現状を理解しておきましょう。

1-3 【ステップ③】人材育成のターゲットを決める

社員の現状が可視化できたところで、人材育成のターゲットを決めます。社内にはさまざまな立場、職種の社員がいます。それぞれ背景やスキルが大きく異なるため、全員に同じ人材育成を行っても思ったような成果が得られません。

そこで、スキルマップやアセスメントテストの結果を参考にしながら、下記の3つの視点でターゲットを選定しておきます。

※左右にスクロールします
人材育成のターゲットを決めるときの視点
誰に 誰をターゲットに人材育成をするか決める
例:営業職2年目・中堅社員・新任管理職など
いつまでに 人材育成の期限を決める
例:2か月間
どのようなことをできるようになって欲しい 人材育成を通してどのように成長して欲しいのか決める
例:リーダー候補を創出したい

このときに大切なのは、ターゲットを選定した理由が明確にあることです。「他社でも若手社員向け営業研修を行っているから自社でもそろそろ行おうと思った」「中堅社員向けの人材育成を行っていないので、必要かなと思った」など曖昧な理由はやめましょう。

  • スキルマップを見て営業職2年目のスキルが低かった
  • アセスメントテストの結果、〇〇課の5年~10年目を対象にモチベーション向上が必要となった

など、なぜそのターゲットに人材育成が必要なのか言えるようにターゲットを選定してみてください。

1-4 【ステップ④】理想となるロールモデルを設定する

ターゲット選定ができたところで、ターゲットの理想となるロールモデルを設定します。ロールモデルを設定するとターゲットの現状と理想の差が明確になり、課題が可視化しやすくなります。

ロールモデルを設定するときには、氷山モデルと呼ばれるフレームワークを使うといいでしょう。(氷山モデルについては「2.人材育成に関する定番フレームワーク5選」で詳しく解説しています。)氷山モデルとは簡単に言うと、目に見えている氷山の一角に囚われず、目に見えていない要素も含めて全体像を捉える考え方です。

ターゲットに期待する役割を決めたうえで氷山モデルに当てはめると、ロールモデルが可視化しやすくなります。

※左右にスクロールします
項目 概要
期待役割 ターゲットに期待する役割を決める
例:マネジャー層の右腕としてチームでの成果創出を推進する
行動 期待役割を果たすための行動を明確にする
例:担当プロジェクトの中心となり、チームとしての問題解決を行いながら成果創出をけん引する
知識・スキル 理想的な行動を起こすための知識やスキルを明確にする間の納得感を形成する力
例:他部署の人材など、前提が異なるメンバー間の納得感を形成する力
マインド 理想的な知識やスキルを持ち合わせるためのマインドを明確にする
例:自己の成果のみならず、チームのメンバーの成長にも関心を持ち、サポートする必要性の認識

氷山モデルの中で、客観的に認識できる要素は「行動」のみです。しかし、行動を起こすには目に見えない知識やマインドが必要です。この部分まで深掘りをしてロールモデルを設定することで、目指すべき理想的な姿が明確化できます。

一例として、入社5年目の社員をターゲットにロールモデルを設定してみましょう。まずは、期待する役割としてチームに貢献できることと、将来的にはリーダーとして活躍できることを設定します。

次に、この役割を達成するために求められる行動を細かく記載していきます。仕事に取り組む姿勢やスキルだけでなく、職場での立ち振る舞いも視野に入れて考えてみてください。そして、理想的な行動をするために必要な知識やスキル、マインドも細かく記載していきます。

このときに「1-1【ステップ①】自社の戦略を深く理解する」で分析をした企業の戦略や、企業が求める人物像、組織像も念頭に置いて考えることも忘れないようにしましょう。

その際には、下記のようなワークシートを用いて見える化しながら進めることもおすすめです。
無料でダウンロードできますので、ぜひご参照ください。

無料の資料ダウンロードをする:研修体系の考え方(ワークシート付)

このようにできる限り細分化すると、ロールモデルの全体像が浮かび上がります。人材育成のターゲットがどのような人物像を理想としているのか理解できたところで、次のステップに進みます。

1-5 【ステップ⑤】人材育成のゴールを設定する

人材育成のターゲットとロールモデルが設定できたら、人材育成のゴールを設定します。ここで重要なのは、人材育成の施策の実施=ロールモデルの実現ではないことです。

例えば、人材育成の施策として研修を実施すると、一部の課題は解消できます。しかし、一度の研修でロールモデルになれるわけではありません。「1-4.【ステップ④】理想となるロールモデルを設定する」で触れたようにロールモデルはさまざまなスキルや知識を有しているため、一度の施策で全てを補うことは非常に難しいです。

そこで、ターゲットの現状とロールモデルの差から課題を抽出し、課題に応じた人材育成のゴールを設定することが必要です。一例として、人材育成のターゲットとロールモデルには下記のような差があったとしましょう。

・業務を遂行できるスキルや知識の不足

・リーダーとしてのスキル不足

・コミュニケーションスキル不足

これらは人材育成で取り扱うべき課題ですが、それぞれテーマが異なります。優先順位を決めて、どの部分から人材育成を行うか決める必要があるでしょう。まずはコミュニケーションスキルの向上を目指す場合は、「コミュニケーションスキルの向上」が人材育成のゴールとなります。

このようにロールモデルをそのまま人材育成のゴールに設定するのではなく、人材育成で取り組むべき課題に応じて適切なゴールを設定しましょう。

1-6 【ステップ⑥】人材育成に取り組む

人材育成のゴールを実現できるように、具体的な施策を立てて人材育成に取り組みます。人材育成の主な手法としてはOJT(職場内の訓練)とOFF-JT(職場外の訓練)があります。

※左右にスクロールします
OJT(職場内の訓練) 職場での実践を通して人材育成を行う手法
OFF-JT(職場外の訓練) 通常の業務や職場から離れて人材育成を行う手法

人材育成のゴールが達成できるように、両者を組み合わせて施策を検討することが大切です。

例えば、リーダー力の向上をゴールとしたときに職場でのリーダーシップの発揮方法や実践方法はOJTで学び、一般論はOFF-JTの研修でインプットするなど両者の強みを組み合わせ、方法を検討できると効率よく進められます。

一例として、下記のようにスケジュールを決めて施策内容を振り分けてみるといいでしょう。

※左右にスクロールします
項目 1日目 2日目 3日目
目的・テーマ 人材育成の目的やゴールの説明
自社理念の理解
マインドの強化
業務内容の理解
基礎的な知識やスキルの習得
業務内容の理解
基礎的な知識やスキルの習得
内容 OFF-JT OJT OJT

また、人材育成に取り組むときには下記の4つのポイントもチェックしておくようにしましょう。

※左右にスクロールします
人材育成に取り組むときにチェックしたいポイント
社員の負担感 人材育成に力を入れるあまり、社員の負担になっていないか確認する
期間 ターゲット選定時に決めた期間が妥当か再度確認する
コスト 人材育成にかかるコストは妥当か確認する
サポート 人材育成に取り組む社員のサポートができているか確認する

とくに人材育成に力を入れるあまり、社員の負担となっていないか確認することは大切です。

  • 研修に時間を割いて残業が増えている
  • コア業務に取り組める時間が減っている

という場合は、人材育成の手法やプログラムを見直す必要があるでしょう。また、人材育成を受けている社員のみが奮闘するのではなく、上司や他の部署がサポートしつつ、会社全体で取り組むことも欠かせません。

OJTとOff-JTの違いや使い分けについては下記のコラムをご参照ください。

関連コラムを読む:OJTとOFF-JTの違いと使い分け

1-7 【ステップ⑦】人材育成の効果測定を実施する

人材育成の施策を終えたら、効果測定を実施します。人材育成を通じてどのような成果を得られたのか、可視化しましょう。効果測定にはさまざまな方法がありますが、「1-2.【ステップ②】人材の現状を理解する」で解説したスキルマップやアセスメントテストを再度実施すると比較しやすいです。

例えば、人材育成前のスキルマップと人材育成後のスキルマップを比較し、課題となっていた部分の数値が上昇していたら人材育成の効果があったと考えられます。また、下記のような方法でも人材育成の効果を調べることができます。

  • 人材育成の対象となった社員からアンケートを取得する
  • 1on1を実施し人材育成前と人材育成後の変化を直接ヒアリングする

効果測定の結果はまとめて保管し、課題があった部分は次の人材育成へと生かします。
効果測定のコツについては下記のコラムをご活用ください。

関連コラムを読む:研修効果測定における理想と現実~現実と向き合いながらも、有効な打ち手を導く為には?~

CHAPTER
02
人材育成に関する定番フレームワーク5選

ここからは、人材育成の計画がスムーズになる定番のフレームワークをご紹介します。

※左右にスクロールします
5つのフレームワーク
HPI 企業の課題を人と組織の視点から分析し、解決策を見つけるためのフレームワーク
氷山モデル ものごとの全体像を捉えるときに役立つフレームワーク
70-20-10の法則 人材の成長に関するフレームワーク
SMARTの法則 目標設定と目標を達成するための取り組み方を整理できるフレームワーク
段階評価モデル 人材育成の成果を可視化できるフレームワーク

どのフレームワークも人材育成の戦略や方法を考える際のヒントになります。参考にしてください。

2-1 HPI(Human Performance improvement)

HPIは企業の課題を人と組織の視点から分析し、解決策を見つけるためのフレームワークです。ATD(Association for Talent Development)と呼ばれる団体が定義した考え方で、最初のステップでビジネスのゴールを設定するところが特徴です。

人材育成の施策を検討するときや自社のミッションや戦略を再認識するときに役立ちます。HPIは下記の6つのステップに分かれており、ステップに沿って分析を進めていきます。

※左右にスクロールします
HPIの6つのステップ
STEP 概要 詳細
STEP1 ビジネスのゴール・戦略期待される職務上のパフォーマンス 自社のビジネスのゴールや戦略、ビジョンを明確にする
自社の戦略を実現するために必要な人材像を明確にする
STEP2 現状のパフォーマンスや競争環境の分析 自社の現状(人材・競争環境)を明確にする
STEP3 ギャップの抽出・原因分析 理想的な状態と現状のギャップを抽出し、ギャップの原因となっている要因を分析する
STEP4 施策の立案と設計 特定したギャップの原因を解消する施策を検討して明確にする
STEP5 実施とマネジメント STEP4で決めた施策を実施する
STEP6 評価・改善 施策の効果測定を実施し改善点を明確にする

STEP1~STEP3を実施すると自社の現状や取り巻く環境、ゴールを可視化できます。理想と現状のギャップを可視化しギャップを埋めるための要因を分析できるため、人事育成の計画時に活用するといいでしょう。

2-2 氷山モデル

氷山モデルは、ものごとの全体像を捉えるときに役立つフレームワークです。目に見える行動と目に見えないスキルや知識、マインドなどに分けて分析をして課題や理想の全体像を捉えます。

例えば、接客技術の向上が人材育成の課題になっているとします。私たちが客観的に捉えられるのは、接客をしている社員の行動のみです。

しかし、接客には知識やスキル、マインドなど目に見えない要素が含まれています。この目に見えない要素も含め、全体像を認識することが氷山モデルの特徴です。

1-4.【ステップ④】理想となるロールモデルを設定する」では、精度の高いロールモデルを設定するために氷山モデルを活用しています。目に見える出来事や行動だけに縛られず行動の理由や行動が変化するパターンなどを分析できるため、人材育成の効果測定や目標設定にも活用できます。

2-3 70-20-10の法則

70-20-10の法則は、人材の成長に関するフレームワークです。アメリカのリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社が実施した「(経営者が)自身の成長に寄与したこと」に関する調査から生まれた法則で、別名「ロミンガーの法則」とも呼ばれています。

この調査では、人材の成長に下記の3つの要因が関係していることがわかっています。

70%:経験(実務によって身についた知識やスキル)

20%:薫陶(上司や先輩からの指導)

10%:研修(研修や読書、eラーニングなどから得たスキル)

この法則を見ると研修のみに頼った人材育成では、成果が出ないことが分かります。人材育成施策を検討するときには、

  • OJTや職場での機会創出で経験を積む
  • 研修(OFF-JT)で知識や技術を補てんする
  • 上司が適宜サポートを行う

など、3つの要素をバランスよく取り入れることを意識することが大切です。いざ育成施策を検討すると、研修の企画だけに意識が向きがちですが、「研修当日の設計」だけではなく、「研修前後」も意識してください。人材育成のゴールを実現するために具体的な施策を考えるときには、70-20-10の法則を念頭に置いて設計するといいでしょう。

2-4 SMARTの法則

SMARTの法則は、目標設定と目標を達成するための取り組み方を整理できるフレームワークです。下記の5つは目標達成のための因子だと言われており、この5つの頭文字を取り「SMARTの法則」と呼んでいます。

※左右にスクロールします
項目 概要 具体例
Specific(具体性) 具体的な目標を設定する 人材育成を通じて新規顧客の獲得を1.5倍にする
(顧客獲得では曖昧なのでどのような顧客なのか、どれくらい獲得するのか具体的を持たせる)
Measurable(計量性) PDCAサイクルを回すために効果測定ができる目標を設定する 育成期間中に新規顧客を2件獲得する
(目標に数値を入れる・もしくは効果測定で数値化できる)
Achievable(達成可能性) 達成が不可能でない目標を設定する 人材育成後に一通りの業務ができるようになる
(理想的な目標ではなく現実的な目標を設定する)
Related(関連性) 目標を達成した先(例:経営目標など)との関連性を明確にする 目標:人材育成後に一通りの業務ができるようになる
目標達成の先:新入社員が一人で業務ができるようになる
(目標と目標達成後の目指す姿に関連性がある)
Time-bound(期間) いつまで目標に向かい取り組むのか決める 2か月間で人材育成を実施する
(具体的な期限を設けて取り組む)

例えば、「Specific」は、目標の具体性を指しています。人材育成の目標として「優秀な部下を育成する」を目標に設定したとしましょう。優秀な部下の定義は人により異なるため、この目標では施策を検討しにくいです。優秀な部下とはどのような部下を指しているのか明確に決めておくことが欠かせません。

このようにSMARTの法則の5つの項目を確認して目標設定をすることで、目標の精度や達成率が向上します。人材育成の進め方では、人材育成のゴールを設定するときに活用できます。ゴールの精度が低い場合やどのようにゴールを設定するべきか迷う場合は、ぜひ活用してみてください。

2-5 カークパトリックの4段階評価モデル

カークパトリックが提唱する4段階評価モデルとは、人材育成の成果を可視化できるフレームワークです。可視化しにくい研修や教育の成果を4つの段階に分けて分析できるところが特徴です。

※左右にスクロールします
項目 概要 測定方法の例
レベル1:Reaction(反応) 研修を受けた社員の満足度や印象 本人へのアンケート
レベル2:Learning(学習) 学習の到達度
(どのような知識・スキルが身についたか)
レポート・テスト
レベル3:Behavior(行動) 職場での行動変化
(研修を受けたことで業務にどのような影響を及ぼしているか)
本人へのアンケート
上司や周囲へのアンケート(行動観察調査)
レベル4:Business Results(ビジネス上の成果) 研修が与えた結果
(業務への貢献度や費用対効果)
売上などの数値
社員のエンゲージメント

レベル1では、研修を受けた後の社員の満足度や印象を確認します。レベル2では研修を通じて得た知識やスキルを測定します。ここまでは研修当日にアンケートやテストなどを実施して、可視化することが可能です。

レベル3では、研修の実践度合いを確認します。例えばセキュリティ研修を行った場合、研修後に受講者本人や上司へアンケートを実施し、職場内のパソコンや資料の管理方法に変化が起きたかどうかについて確認を行います。

そしてレベル4は、研修が売上の拡大や社員エンゲージメントの向上など何らかの結果につながっているか確認します。レベル3以降はすぐに測定をするものではなく、一定期間が経過した後に可視化します。

人材育成の成果は「1-2.【ステップ②】人材の現状を理解する」で解説をしたスキルマップやアセスメントテストでも測定できますが、研修やセミナーなど特定の人材育成手法の成果を明確にしたい場合には4段階評価モデルも活用できるでしょう。

CHAPTER
03
人材育成を進めるときにつまずきやすい難所は?

人材育成を進めるときに、どのようなところでつまずきやすいのか気になる方もいるかと思います。ここでは、人材育成を進めるときにつまずきやすい3つの難所をご紹介します。

3-1 目の前の育成施策を実施して満足してしまう

1つ目は、目の前の人材育成施策を実施して満足してしまうケースです。「1.【7つのステップに沿って解説】人材育成の進め方」でも触れたように、人材育成は段階的なステップを踏み進める必要があります。しかし一足飛びに研修やセミナー、OJTを実施して満足してしまうことがあります。

例えば、自社に合う研修を紹介されたためとりあえず実施したといったケースです。人材育成の課題や目的を人材育成施策に紐づけができていないので、思ったような成果が得られない・もしくは振り返りができず成果を測れない可能性が高いです。

3-1-1 解決策:ステップに沿って人材育成施策を検討する

成果につながる人材育成施策を実施するには、人材育成の進め方に沿って検討することが欠かせません。「1.【7つのステップに沿って解説】人材育成の進め方」でも解説しましたが、企業や組織の課題を明確にしたうえで自社のあるべき人材像を特定します。あるべき人物像(=人材育成のゴール)と社員の現状の差を埋める手法が人材育成の施策となります。

闇雲に人材育成施策のみを実施するのではなく、その施策を選定するべき背景や社員の現実を明確にしましょう。

3-2 人材育成に取り組む時間が捻出できない

2つ目は、人材育成に取り組む時間を捻出できないケースです。

  • 上司が忙しく、部下が研修を受講しても事後フォローが実施できない
  • 手の空いた時間で人材育成をしているのでなかなか進まない
  • 人材育成の計画や管理を行う部署が決まっていない

など、人材育成がしにくい環境となっていることがあります。例えば、せっかく人事部で研修を企画し実施をしても、研修受講者の上司が多忙でその後のフォローまで手が回らないとします。そうすると、学びを振り返る機会や適切なフィードバックの機会が持てなくなり、「研修を受けっぱなし」で終わってしまう事でしょう。

人材育成を進めるには、社員の理解やサポートが欠かせません。一部の社員に負担がかかっている場合や人材育成をする基盤が整っていない場合は、まずは人材育成を進める環境を整えることが大切です。

3-2-1 解決策:ステップに沿って人材育成施策を検討する

人材育成に取り組む時間が捻出できない場合は、人材育成の取り組み方を見直す必要があります。例えば、上司が忙しくOJTが実施できない場合は、上司の理解を得るまたは上司の負担を軽減することを考えましょう。

具体的には

  • OJT中の上司の仕事量を減らす
  • OJTの対象となる社員のサポートや管理は他の社員が行う

などが検討できるでしょう。一部の社員に負担が偏らないように、周囲がサポートをすることが大切です。また、社内全体が忙しく人材育成が後回しになっている場合は、人材育成の担当者や担当部署を決めるのも一つの方法です。

  • 人事部が人材育成の企画や進行を行う
  • 管理職が定期的に集まり人材育成の方向性を決めて進めていく

など、継続して人材育成ができるように工夫してみてください。

3-3 人材育成の成果が可視化できてない

3つ目は、人材育成の成果が可視化できていないケースです。人材育成による変化が可視化できていないと、継続するべきか方向性を変えるべきか適切な判断ができず、本当に自社に必要な施策を実施できているかわからなくなってしまいます。

実際のお客様の声で伺うのは、「営業職の社員を対象に営業力向上をテーマに研修を実施しているものの、その研修がどれだけ効果があったかはよくわからない」といった内容です。振り返りができないために成果がわからず、評価ができないのです。振り返りができていれば、実はスキルは十分足りており、マインド研修の方が重要だったとわかるかもしれません。

人材育成の成果が可視化できていないと

  • 人材育成を進めるうえでの適切な判断ができない
  • 人材育成施策の成果が出ているのかわからない

という状況になり、本当に必要な人材育成に手がつけられなくなる可能性があります。

3-3-1 解決策:人材育成の効果測定をする

1-7.人材育成の効果測定を実施する」でも解説しましたが、人材育成を進めるときには効果測定をセットで行うことが大切です。人材育成の成果は意図的に可視化しないと、なかなか実感できません。

施策前と施策後のスキルマップ・アセスメントテストを比較する

施策前と施策後にアンケートを実施する

施策後の変化を部署や上司にヒアリングする

など、実施しやすい手法でどのような成果が得られたのか把握しましょう。

関連コラムを読む:研修効果測定における理想と現実~現実と向き合いながらも、有効な打ち手を導く為には?~

    

資料ダウンロードをする:研修効果の最大化に向けて

CHAPTER
04
人材育成の進め方の好事例

ここからは、実際に人材育成に取り組んだ事例をご紹介します。人材育成の進め方や施策の検討方法などが具体的に理解できるため、ぜひチェックしてみてください。

4-1【アサヒビール】独自の育成プログラムで確実な成果につなげた事例

アサヒビール株式会社様では、国内酒類事業の変革という企業課題を抱えていました。変革を推進するには事業を引っ張る人材が必要だと感じていたものの、組織のトップを走るメンバーの育成施策が多くありませんでした。

そこで2018年に次世代リーダー育成の検討を開始し、グロービスがサポートをさせていただきながら新しい研修プログラムを立ち上げました。このプログラムは「Asahi Change Agent Program(A-CAP)」と名付け、一般社員を対象とした「A-CAP Basic」と管理職が対象の「A-CAP Advanced」の2つのプログラムを用意しました。2つのプログラムには、下記のように明確なゴールを設けています。

※左右にスクロールします
プログラム名 内容の一例 対象社員 ゴール
A-CAP Basic クリティカル・シンキング
マーケティングの基礎
組織行動とリーダーシップ
一般社員
(入社6~10年目の管理職になる直前の社員)
学んだビジネススキルを実務に活用する
A-CAP
Advanced
クリティカル・シンキング
自社課題討議
パワーと影響力
経営シミュレーションゲーム
リーダーシップ
管理職
(管理職になったばかりの社員から所属長手前まで)
影響力を発揮して周囲を巻き込む共通言語をもつ
関係性の構築

参加者の選定では全社員に公募をかけて、応募者の中から選定する形式を採用しました。参加者の選定時にはバイアスがかからないようにチーム名や氏名を伏せた状態で、エントリーシートや提出課題を確認して数値化をしています。

研修プログラムを終えた社員には、自分の組織で行動に還元している姿が見受けられたそうです。

※左右にスクロールします
プログラム名 受講後の様子
A-CAP Basicの受講後 売上予算と利益予算の両指標を追う取り組みができるようになった
報告方法や報告内容に変化が見られた
A-CAP Advancedの受講後 高い意識や視座、メンバー同士の深い関係性が得られた
行動にも変化が見られるようになった

研修を受けた社員の行動を見て、周囲の社員も受講してみたいと思う好循環も生まれました。

今後は「Asahi Change Agent Program(A-CAP)」の参加者同士がつながれるネットワークの構築も検討しているとのことです。詳しくは下記の記事でも紹介しているので、参考にしてください。

導入事例:アサヒビール株式会社|経営課題に真正面から向き合う次世代リーダー育成を通して、事業変革の立役者を輩出する

4-2【武田薬品工業】自社の課題に応じた育成プログラムを施策した事例

武田薬品工業株式会社様では、グローバル企業としての成長を加速させるために実行力のあるグローバルリーダーの育成が課題でした。人材育成の施策としては、まずは下記の4つの基準がありました。

  • カリキュラム:目指す人材像を実現するために必要な能力を強化するにはどのようなカリキュラムが最適か
  • ファシリテーター:誰にサポートしてもらうのか
  • 多様な刺激:多様な価値観やスタイルを持った人たちとのインタラクションが実現できるか
  • コスト:現実的なコストで人材育成ができるか

参加者がコンフォートゾーンを飛び出してより高いゴールに向けて厳しいチャレンジをし、何かを成し遂げた喜びや自信を感じられるカリキュラムをグロービスに相談いただきました。

初めて企画する人材育成プログラムであったもののグロービスのコンサルタントやファシリテーターとディスカッションを重ねることで、不安要素は少なくなったと感じていただけました。

7か月に渡る人材育成プログラムだったので、毎回PDCAを回し改善をしながら進めました。グローバルな人材育成という観点から、グローバル経験のある講師のアサインや英語MBAプログラム生との混合授業なども取り入れています。

プログラム終了後には参加した社員から「他部門の優秀な人たちとディスカッションする喜びを強く感じた」という声が聞けたそうです。また、参加した社員同士でのコミュニケーションは継続されており、いいつながりを構築することもできました。

今後は研修自体をアップデートし、日々変化していくグローバルリーダーの要件に対応できるようにしたいとのことです。武田薬品工業株式会社様の事例は下記でも紹介していますので、参考にしてください。

導入事例:武田薬品工業株式会社|グローバルリーダーとしての当事者意識が、自発性と社内の変化を生み出した

ここまでご紹介した事例のように、グロービスでは人材育成のプログラムの提供やサポートを行っております。人材育成には自社の戦略分析やロールモデルの選定、人材育成プログラムの作成など多くの知識が必要です。全ての工程を社内で実施しようとすると負担が大きく、なかなか進まないケースもあります。

グロービスなら豊富や知識や経験をもとに、企業の人材育成の目的や課題に応じた提案をさせていただきます。人材育成に課題を感じている場合や人材育成をどのように進めるといいのか悩んでいる場合は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

いかがでしたか?人材育成の進め方が理解でき、自社の人材育成に活用できるようになったかと思います。最後にこの記事の内容を簡単に振り返ってみましょう。

〇人材育成を進めるステップは次の通り

①自社の戦略を深く理解する

②人材の現状を理解する

③人材育成のターゲットを決める

④理想となるロールモデルを設定する

⑤人材育成のゴールを設定する

⑥人材育成に取り組む

⑦効果測定を実施する

〇人材育成を進めるときにつまずきやすい難所は次の3つ

①目の前の人材育成施策を実施して満足してしまう

②人材育成をする時間を捻出できない

③人材育成の成果が可視化できていない

〇人材育成を進めるときに大切なポイントは次の3つ

①7つのステップに沿って人材育成施策を検討する

②人材育成がしやすい環境を構築する

③人材育成の効果測定をする

人材育成は闇雲に取り組むのではなく、適切な手順を追って戦略的に取り組むことが欠かせません。しかし、やることが多くてどこから手を付けていいかわからないと感じられた方もいらっしゃると思います。グロービスでは人材育成サービスの提供を行っていますので、人材育成にお困りの場合や人材育成に課題を感じている場合は、お気軽にお問い合わせください。