「志セッション」がもたらすリーダーの変化
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すごいリーダーには志がある
「あの人はすごいリーダーだ」「あの人にならついていける」――人はそんな言い方をよくする。
無理だと誰しもが思うような状況を打開し事を成し遂げる実現力、人を圧倒するような実績、決断の鋭さ、明晰かつ深い思考、人を巻き込む力など、「すごい」に込められるポイントはさまざまだ。しかし、1つはっきりと言えるのは、「すごい」人の根底には志、リーダーとしての自分が大切にしたいものの軸があるからこそ、その域にまで到達するということだ。
- ・自分は何者か、
- ・何を成し遂げたいのか、
という人生の目的や志についてその人がどれほど考え抜いたかが、言葉の重さを生み、語る内容を骨太にする。最終的にはその人の存在自体が言葉以上のメッセージとなって、周囲に伝わり、人を魅了するのだ。
しかし、残念ながらますます複雑化・高度化・分業化が進む日常業務では、目の前のことに追われ、なかなか人生の目的や志についてじっくりと考える時間がとれない現実がある。
「志セッション」で自分との対話を重ねる
グロービスでは、もともとMBAで学ぶ経営リテラシー、戦略立案や構想力、意思決定力を出発点にリーダー育成を始めた。しかし、私たちが目指すのは、単に経営リテラシーを知っている、戦略を立案できるだけのリーダーではない。これは必要条件レベルと言えるだろう。
もっと高みをめざし、アジア、世界で立てる真の経営者になっていただくために、もっと私たちにできることがあるのではないか? そんな想いで創り出した営みの一つが「志セッション」だ。志というと、とても大層なものに思えるかもしれないが、リーダーとしての軸を探索していくセッションと捉えていただいてよい。今回はそのセッションを通じたリーダーの成長についてご紹介したい。
ある企業では、近い将来の経営者候補として期待される選抜部課長に、約4か月かけて、「自分は何者か」「何を成し遂げたいのか」を、ずっと見つめ続けるワークショップを行った。
セッションでは、ケース、書籍や講演などさまざまな手段で、実際に事を成し遂げたリーダーの行動の原動力や価値観、使命感を掘り下げながら、「自分が大切にしたいことは何だろうか?」と自分に問い、自己と対話する。
変えるべき行動を決め、たとえ小さなことでも決意を日々実践しながら、さらに自分との対話を深める。
こうして思考を磨き続け、最終セッションでは自分の志を経営陣に対し語っていただくという内容だった。
セッション受講者の「変化」と「喜び」
目に見える知識を学ぶものではなく、全く正解がないテーマだからこそ、セッションの成否は「問いかけの質」「場の作り方」の勝負になる。講師や設計者として関わる私たちグロービスの姿勢や思考が問われる場でもあり、非常な緊張感をもって取り組んだ。
この取り組みは、筆者が想定した以上に、受講者に行動の変化を促進するものとなった。セッション終了数か月後に、受講者にインタビューした内容をご紹介したい。
- ・自分の価値観を初めて考える機会だった。言語化が志につながるというのが驚きだった。
- ・高い志で難題をやり遂げたいろいろなケースを見て、自分もできるのではという感覚を得た。
- ・ 自分の志を最終発表日まで何度も何度も書き直した。朝起きて2-3時間、会社に着いてから確認することが毎日の行動習慣になった。そうこうしていると、自分の言いっぷりが変わったことに気付いた。
- ・自分の失敗を自己開示したり、不安や恰好悪さを気にしたりしなくなった。今の担当事業はこうすべきという自分の考えがある。だから社長にも、担当役員にも「自分が責任取るのだからやらせてほしい」と言えるようになった。腹が据わった。
- ・部下と一緒に成長したい、という気持ちが起こってきた。部下もトスを上げるようになった。自分がこのワークショップを受けて、引きあげられた感覚があるからこそ、成長は一人ではできない、誰かが引きあげることも大事だと気付くことができた。
- ・志を常に自分の基軸として考えるようになった。常に立ち戻る先となっている。相当、頭と心の奥底に植え付けられたのだと思う。
上の例にとどまらず、多くのリーダーの心の中に化学反応が起こり、その変化を喜びとして受け止めていることが伝わってくる。
もちろんこのようなセッションはあくまでも「志を考えるスタート地点」にすぎない。
しかし重要なのは、セッションを通じて「自分は何者か、何を成し遂げたいのか」への答えの導き方を学び、その思考を受講者が行動習慣として持ち始めたことである。
これが骨太なリーダーへの第一歩ではないだろうか?
真のリーダーの育成に向けて、私たちの旅はまだまだ続いている。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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