自らに問う力(6/6)

2007.08.28

昨年の4月以来13回に亘り連載してきたこのシリーズも、いよいよ最終回である。 リーダーは、他者への関与にあたって適切なリーダーシップを発揮することに加え、自らが成長し続けることによって、組織の成長を促すことが使命だと私は考えている。
これまでも書いてきたが、リーダーとは、他者から謙虚に学ぶ姿勢を持つことも大事だが、いつまでも誰かに頼るという他力本願の依存心とは決別しなければいけない。自ら考え抜き、自ら機会を作り出し、そして自ら決断することが重要だ。要するに”自得(じとく)”の気構えこそが、リーダーが持つべき主体性であり、自己成長の原動力なのだ。そして、日々の意思決定に伴う責任を深く自覚し、そこから逃げずに正面から向き合い、ひとつひとつの決断を積み重ねることが、自らの次元をあげる糧となるのである。だが、継続的に自らを成長させ、次元をあげていく上で、本当にそれだけで十分といえるのだろうか?
最終回は、こうした問題意識から自己成長を一層促す自問について考えたい。

自らをPUSHする自問

果たすべき意思決定に対して逃げずに向き合うことで自己成長を牽引するだけではなく、より能動的に自らを刺激する自問も考えておきたい。どの様な自問によって、自己成長を促せば良いのだろうか?

私は自己成長の肝は、正確な自己認識を確立することと、強烈な成長願望と克己心を持つことにあると捉えている。簡単に言えば「自分はまだまだ修練が足りない」ことを謙虚に自覚し、一方で「こんなもんじゃない」と不屈の向上心に火をつける、ということだ。

上記視点を踏まえた私なりの自問を紹介させて頂こう。

▼この一年間の自分自身の変化、進化を具体的に言えるか?胸を張れる成長はあったか?
▼自らが組織に提供している価値が何であるかを明確に言い切れるか?リーダーとして期待はずれだと周囲に思われていないだろうか?
▼現在の使命は何か?使命を果たしたと言える成功の基準を言語化できるか?そして自分はその基準を満たしているか?

これらの自問は、いずれも「これまで」ないし「現在」に焦点をあてて、事実認識をクリアにしようとする問いだ。詰問の様に感じる方もいるだろう。ただ、ここで大事なことは、厳しく自らを問い詰め、或いは責めることではなく、曖昧さや甘さを極力排除して、今の自分自身をどれだけ正しく認識できるかにある。

問いに対してしっかりと言語化する営みを通じて、自己認識はかなり明確になるだろう。これが成長の為の第一ステップだ。私にとっては、現状に安住するな、という自戒でもある。

勿論、自省の結果落ち込む時もあるだろう。不甲斐ない自分に正面から対峙しなければならない場面もある。でも、その厳しい現実から目をそむけていても何も事態は変わらない。

読者の皆さんは、この辛く厳しい局面にうまく対処できるだろうか?現実問題として、自省、内省というのは、人によって得手不得手があるものだ。どちらかと言えば、自らを責め過ぎて落ち込んでしまう傾向が強い人もいる。ただ、落ち込むことが本来の目的ではないので、そうした自分の思考パターンや癖にも留意し、自分にあった(例えば、詰問調でない)自問を考えておくのは大事なことだ。

因みに私の場合、気持ちが落ち込むことは余り無いのだが、厳しい現実に不安を感じた場合のひとつの”脱出方法”を参考までにご紹介したい。それは、自分自身の感情を上手くコントロールする、自分なりのセルフ・マネジメントの術を持つことである。

簡単に言えば、自分自身の頭の中が「不安が高まる思考」によって支配されてきた場合は、その思考パターンに積極的に立ち向かうということである。具体的には、「明確な答えの無い悩みについて、何度も何度も心配することが何の役に立つのだろうか?建設的な考え方はないのだろうか?」という自問を投げかけるようにする。これは「EQこころの知能指数(ダニエル・ゴールマン)」という書籍の中にあった考え方だが、実に平易で単純ながらも、私にとっては有益な自問となっている。(勿論、これが万人に有効とは考えていない・・・)

さて、より正しい自己認識を確立することが出来れば、次は如何にして強烈な成長願望や克己心に火をつけるかがポイントになる。これが、自らをPUSHして次元を高めるエンジンだからである。簡単に言えば「自分は本来こんなものじゃない」という意識を刺激する自問と言える。ただ、褒められて発奮する人もいれば、悔しい思いがバネになる人もいる。刺激になる自問というのは、人によって違うが、私なりの自問を紹介したい。

▼そもそも自分はどうなりたいのか?どんな価値を発揮する人間でいたいのか?
▼初志を忘れていないか?生涯を通じて成し遂げたい大志は何かを語れるか? 今、言えないとしたら、いつまでその状態に放置しておくのか?それで、自分は本当に納得しているのか?

これらはどちらかといえば「そもそも」や「これから」のあるべき姿に焦点をあてたもの。狙いは、自分自身の主体的かつ積極的な思考によって、新たな使命や目標を高い次元で設定し直すことにある。

因みに、自己認識を促すのも成長願望や克己心を刺激するのも、ひとつのコツがある。それは、自己を相対化することだ。ポイントは、外に基準を置くこと。世の中の凄い人物に触れ、一流に範を求めることが重要だ。小さな自己満足に浸っていてはいつまでたっても次元を高めることなど出来ない。上には上がいることを忘れてはいけない。

同時にこの相対化の営みは、自らの現状を嘆く為のものでなく、次なる目標を力強く掲げる原動力とすべきだ。勿論、他者と比較して一喜一憂するのは目的ではない。或いは、既に述べたように、自分自身をしっかり持つ自得の精神も重要だ。ただ、狭いところに小さく閉じてしまうことだけは、避けるようにしなければならない。

成長を楽しむ

こうしてみてくると、自らの使命のレベルを高め続け、自己成長のチャレンジに持続的に取り組むのは、決して簡単ではない。自問自答というだけでは、恐らく息が詰まってしまうだろう。それだけでは、長続きしないのではないだろうか。

従って、何より大切なことはリーダー自身が自己の成長と様々な挑戦そのものを楽しむことである。毎日が刺激に満ちて、達成感が感じられ、仲間達とも良い関係で結ばれている、そうした環境が何よりだ。成長を使命と自覚しつつも、自己成長と新たなチャレンジ(新たな使命の設定)を楽しむ、メンタリティを是非持っていたいと思う。

皆さんは、このポジティブ思考は出来そうだろうか?単純にポジティブ思考といっても、それがなかなか難しいという声をよく聞く。これも先ほどと同様にセルフ・マネジメントの問題だと思う。思考技術として物事のプラスとマイナスの両面を見る習慣を持つなども有効な手といえるだろう。ただ、実は私はもっと単純に捉えている。

心が変われば行動が変わる
行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば運命が変わる

これは、ニューヨーク・ヤンキース/松井秀喜選手の恩師である、山下智茂氏の有名な言葉だ。心の持ち方(考え方)次第で、人格も運命も変わりうるのだ。確かに、人が幸せに思うか否かは、多くの場合その人の主観に委ねられている。

▼全ては自分の心持ち次第。自分の幸せを感じられているか?

こう自問すると、私はとても大らかな気持ちになれる。なぜなら、他人を変えることよりは、自らを変える方が難易度は低く、かつコストはかからない。自分の問題であれば自分で何とかコントロールできる筈だからだ。

セルフ・マネジメントとは、まさに明るく自律自省できることだと思う。そうした気構えや能力を持ったリーダーこそが、真に成長を謳歌でき、組織やメンバーひとり一人にポジティブな影響を与えられるのだと思う。そして、そういうリーダー達が、組織のあらゆる階層で数多く光輝いている、そんな組織が私が作りたい理想の組織である。

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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