自らに問う力(5/6)

2007.07.26

意思決定とは、なんらかの行動の前提となる行為である。別な言い方をすると「何かを決めたのに、何もしない、何もできない」という状態では意思決定をした、とは言えないのだ。自分自身のみならず、周囲やメンバーの行動を方向付ける意思決定とは、先ず簡明であるべきだ。優先順位づけが重要だ。重み付けやメリハリがなく、総花的でふわっとした状態では、決断(決めて断つ)したとは言えない。簡明であることに加えて、なぜそう決めたのか意思決定の”背景・理由”や、そうするとどうなるかの”物語”があると、周囲も自分で考えて動けるようになる。こうした説明責任を果たす為に必須になるのが、意思決定の根拠である。従って、そもそもの大きなビジョンや目標、価値判断の基準、予断のない正しい現状(事実)認識と将来予測などが肝になってくる。
「意思決定」という所行をこうした意味合いで捉えた上で、日々の意思決定に真剣に向き合い、考え抜き、考え続けることは、自らを鍛えあげることに確実に繋がるだろう。ただ、継続的に自らを成長させ、次元をあげていく上で、本当にそれだけでいいのか?
それだけで十分なのだろうか?今回は、自らを成長に関して、他に意識すべきことはないのかについて深めてみたい。

成長とは変わること

リーダー自身が継続して成長することを、「願望」に留めるのでなく「使命」と考える必要を前回指摘したが、そもそも「成長すること」とはどうなることなのか、を整理しておこう。この問いに対して、読者の皆さんは、どう答えるだろうか?

知識が身につく。何か新しいことが出来るようになる。これまでとは違う能力を体得する。より良くなる、より大きくなる、より強くなる。。。。様々な言い方があるだろう。どれも確かに「成長」を表現しているが、東大名誉教授の養老孟司氏が、以前あるテレビ番組で、極めて明快に説明していたのを紹介したい。曰く「成長とは変わること」であると。シンプルに本質を言い当てている。ビフォーとアフターで変化があるのが成長。勿論、「良く」変化するのが前提だ。一方、変わると言っても、これまでと180度変わる、とは限らない。ケース・バイ・ケースで変化の度合いには差はある。ただ、変わることが成長の本質という整理はわかりやすい。

成長の難所

となると、「継続的に成長する」というのは、「変わり続ける」という側面を持つことになる。簡単に「変わり続ける」と言ってはみたものの、これを実践するのはなかなか骨が折れそうだ。

責任の自覚を持ち、逃げずに、真剣勝負の意思決定を積み重ねることで、自らに多くの変化をもたらすのは確かだろう。事実認識と論点把握の精度・速度を向上させていく、自身の判断軸を確かなものへと進化させていく、より高い視点での決断が出来るよう自覚と視座を高めていく、こうした変化である。努力次第で、考えることの幅と広がり、そして深みが増す。決断の瞬発力と思考の持久力、などを鍛えることも可能だ。

とは言え現実はどうか。往々にして安易な道に流されてしまうのではないだろうか。前例踏襲の惰性や、無理せず安全を選択する、という流れに引っ張られる危惧がある。これが「成長の難所」である。継続的に変化し続け、自身を高める上での難所を一言で言えば「安住の壁」ということだと私は思う。そして、この「安住の壁」は、以下の3点に分解できると考えている。
1.新たな役割(ミッション)設定の壁
2.自己否定の壁
3.継続の壁
以下、個別にみていくことにする。

1.新たな役割(ミッション)設定の壁

第一の壁は、前回のコラムでも触れた次の話と同根だと思う。「与えられた課題を解決することに手馴れた社員は多いのだが、自らが新たな課題を見出し、挑戦目標を設定できる人が少ない」と。問題は与えられるもの、という固定的な思考に陥っているのかも知れない。

多忙を理由に、何時しか狭い範囲でしか物事を捉えられなくなっているのが原因ということもあるだろう。様々な理由が考えられるが、いずれにしても誰かに言われることなく、自分自身で新たな役割や使命を課していくというのは、案外難しいのだ。

一方で、これを難しいから仕方がない、と看過する訳にもいかない。なぜなら、リーダーは組織の成長を牽引する役割を担っており、それは次なるリーダーを育成することでもあるからだ。つまり、先頭に立つリーダーは、自身のミッション・レベルを上げ、彼の仕事は後進に任せて行かなければいけないのだ。そうでないと、組織は停滞してしまう。事業部門長であれ、部長であれ、課長であれ、チームリーダーであれ、求められる事情は全く同じ。今の職位でぬくぬくと安住することは許されないのだ。

2.自己否定の壁

これも大きな難所である。「変わる」ということは、往々にして何がしか過去のやり方なり考え方の否定を伴う可能性が高い。自分自身の成功体験や、ある種の自信にどこまで拘泥せずいられるか。柔軟に状況に応じて、過去を捨てられるかが、一皮剥ける上での難所であろう。

一般に、ポジションが上位になればなるほど、過去の自信や信念は強まり、自己否定は難しくなる。しかし、徒に過去に拘り続けるのは、厳しく言えば過去の財産に寄りかかった安住でしかないのだ。

ところで、本当に自信のある人というのは、実は非常に謙虚なことが多い。この感覚は読者の皆さんの実感にも当てはまるのではないだろうか。思うに、”謙虚さ”を伴わない”自信”は単なる”傲慢”と言い、逆に、”自信”というものが些かも感じられない”謙虚さ”というのは、実は”卑屈”な印象を与えてしまうのである。自信と謙虚、この密接不可分、表裏をなす関係を内面化できれば、自己否定の壁も越えられるのかも知れない。

3.継続の壁

最後に、継続することの難しさだが、これは多くの説明は必要ないところであろう。何事もそうだが、継続こそもっとも難しいものだ。人間ついつい楽な道、安住を選んでしまう。人生休息も必要だが、一度でも気を許して「まぁいいか」となると、途端にプチっと糸が切れて回復軌道に戻すのが一苦労である。そんな経験を持っている読者も多いだろう。大リーガーの松井選手は、こんな風に語っている。

これで大丈夫と思った瞬間にダメになる。現状維持ということはあり得ない。進んでいるか、後退しているか、2つに1つしかない。これで大丈夫、というのは進むことではないので、そう考えた瞬間から、後退が始まることになる。

弛まずに進み続けることの重要性を端的に語っている言葉だ。では、こうした壁をどの様にして越えるのか、どうしたら陥穽は回避できるのか。

この続きは、次回に考えてみたい。

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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