自らに問う力(4/6)
- 次世代リーダー育成
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鎌田 英治
グロービス講師
「自問力」について考えるのは、今回で4回目になる。過去3回は、自分自身の行動がリーダーに求められる期待水準をクリアしているか否か己に問いかけ、セルフチェックする視点を考えてきた。つまり、リーダーと他者との関係性に重きを置いていたのである。ドラッカーは「そもそもリーダーについての唯一の定義が、つき従う者(フォロアー)がいるということである」とリーダーの本質をわかりやすく述べている。ここに、他者=フォロアーとの関係性に焦点をあてた自問が必要な理由がある。
一方で、第9回のコラムで書いたように、リーダー自身の自己成長を促し、ミッション・レベルを一段高める為の自問も必要だ。こちらは他者との関係行動に焦点をあてた議論というよりは、自分自身の内なる意識に矢を向けた問いかけと言えよう。今回は、この点についてじっくりと考えて行きたい。
「組織の成長は、リーダーの器の大きさで決まる」
よく耳にする言葉である。リーダーが持つべき自覚を端的に表していて、今回のテーマにぴったりの言葉だ。私は、この言葉が持つ意味合いを「自分が率いる組織を成長させたいのであれば、リーダーこそが最も学んでいるべきだ。そして、リーダーは自らを成長させ続け、組織に刺激を与え続けなければならない」というニュアンスで受け止めている。第9回のコラムでも少し触れたことであるが、今一度この辺りの”そもそも”から考えて行こうと思う。
元来怠け者の私が、自己成長の必要性を痛感したのは、前勤務先(長銀)の破綻という経験が大きく影響した。長銀が倒れてはじめて、「自らの力で、自らの足で立つ」ということの本当の意味、本当の厳しさがわかった気がする。生涯、貪欲に学び続け、自らを高めていかなければいけない時代なのだ、という危機感、切迫感にも似た感覚を強烈に持った。
いつの間にか無意識のうちに、組織にもたれかかっていた自分の甘さや油断に気づいた。もっと早く気づくべきことかも知れないが、会社が倒産してやっとわかったのだ。会社が潰れるまでわからない、というのも情けない話だが、これは偽らざるところである。
そして、グロービスで様々な経験をし、事業部門の責任者としてビジネス全般に対する職責を担うようになり、今度は自己成長を組織の成長と重ね合わせて意識する気持ちが強くなった。「自己成長」に対する認識が、これまでとは異なって来たのだ。それまでは、自己を高め成長させていくのは、誰の為でもなく自分自身の為という、あくまで個人の中で閉じた認識であった。
組織の看板がなくても「個」として喰っていけるのか、という問いに応える感覚である。勿論、今も「自己成長は自分自身の為」であるという意識は間違いなく残っているが、同時にそれは組織の成長の為に必要不可欠なことあり、自らを成長させることはリーダーとしての責務、使命だ、という認識が高まってきたのである。
自らが率いる組織(部であれ、課であれ、チームであれ、規模の大小を問わない)を成長させたいと思えば、リーダーたる自分自身が誰よりも成長しなければならないというのは、よくよく考えてみれば自明である。「自己の成長によって、組織の成長を促すのだ」という気構えは、リーダーにとって極めて重要な自覚だろう。ただ反面で、上記の様な体験や環境がもしもなかったら、私自身果たしてこの自覚を持つに至ったかは甚だ怪しい。未だに気がついていなかったかも知れない。
企業研修で、多くの優秀なビジネス・パーソン(ミドル・マネジャーからシニア・マネジャーを含め)と議論していると、「自己成長」の必要性に皆さん共感しつつも、「リーダーの使命としての自己成長」「自己成長に対する責任」を自分自身の問題として、深く自覚してきたかというと、必ずしもそうとは言えない。これは、多くの受講者の皆さんと接している私の肌感覚である。
「組織の成長を牽引する為に、自らが成長しなければならない」という意識を持ちにくいのは何故か?
「あなたは、ビジネス・パーソンとしてどの様に成長してきましたか?」という問いに、読者の皆さんはどの様に答えるだろうか。
・「自分は、組織の中で様々な体験をさせてもらい、周囲の刺激を受けることで成長できた」
・「組織全体の成長に伴って挑戦の機会が増え、そうしたチャンス・場を通じて自分は鍛えられた」
組織で働く人の実感に近い回答はこんなところではなかろうか。そして、成長の結果、職位があがり、責任範囲が大きくなる。ポジションに就けば就いたで成長はするのだが、この時出てくるのは「自らをもう一段高めていく」という意識以上に、「今まで育ててもらった分をしっかり恩返しする」という意識の方が勝っているケースが多いのではないだろうか。
つまり、我々は、「自分自身の成長」を「組織の成長に伴って得られたアウトプット」として理解しがちであり、「組織の成長を促す為のインプット」という側面で捉えることが少ないのではないかと思うのだ。
組織とは個の集合体なのだから、組織の成長と個の成長は、本来密接不可分でそれぞれの長は両者の相互作用の結果だ。構成員(個)の成長なくして組織の成長はないし、組織が成長するからこそ構成員も成長できる。まさに”鶏と卵”の関係と言える。ただ、ひと度自分個人の成長の話になるとどうだろう。
誰しも若い頃を思い起こせば、「組織に鍛えられ、育てられた」という紛れも無い事実があり、そうした事実の積み重ねは、人間の意識に深く刷り込まれる。だから、ある日突然、「リーダーに昇格したから、今日からは”自分自身を成長させること”が責務だ!リーダーが成長することで、組織の成長を促すのが使命だ!」と掻き立てられ、これまでとは逆の視点を持てといわれても、現実の意識ギャップ(断層)は大きい。
最近こんな話をよく聞く。「課題解決」は得意だが、「課題設定」が苦手だと。「与えられた課題を解決ることに手馴れた社員は多いのだが、自らが新たな課題を見出し、挑戦目標を設定できる人が少ない」という話だ。「自己成長」と似たような構図である。
つまり、「自己成長」も組織から与えられた機会を活かすことで実現するものであり、自らに課題を設定し、自分をPUSHしていくことで組織の成長を牽引する、と言うようにはなかなか意識できないのである。こうした意識の本質はどこにあるのだろうか。口で言うほど簡単でないのは百も承知だが、あえて厳しい言い方をすると、その人が見えている風景、持っている視点や問題意識、リーダーとしての役割自覚と主体性の問題に帰着するように思う。
「役割自覚と主体性の問題」と言ったものの、何か腑に落ちない印象を持った読者もいるだろう。組織を束ねる立場にある者として、高い責任を持って職務にあたり、自分の経験や持ち味を活かして組織に貢献し、恩返ししたいと思い必死で頑張っている企業人からすると、「これほど真面目にやっていて、人から”自覚が足りない、主体性が低い”などと言われる筋合いはない!それに逃げずに仕事に向き合うことで、様々なことを数多く学んでいる。周囲から謙虚に学ぶことの何が悪いのだ」という声だってあるだろう。事実、私自身ずっとそう考えてきた。
リーダーとして持つべき主体性を高める
ところが、ある本によって、私はこれまでの自分の考え方と異なる視点、自分の発想を広げる視点に出会うことが出来た。まさに「ハッとさせられた」のである。去年、グロービスの読書会で取り上げた「真説『陽明学』入門(林田明大氏著)」がその本である。この中に「人は賢人から学ばなければならないが、最終的には他人から学ぶという態度を克服しなければならない」という”自得(じとく)”の重要性が記されていた。
私は、「自得」という考えには、「自分で考え抜くことの重要性」「機会を自ら創り出すことの重要性」「人に依存せず自分で決断することの重要性」といった要素が込められていると考えている。これこそリーダーが持つべき「主体性」の本当の意味が表現されているように感じたのである。
※因みに、この本で陽明学をどのように表現しているかを参考までに紹介しておきたい。曰く、「心を陶冶する、鍛えることの大切さを主張した考え」であり「主体性を確立する為の人間学」である、と。
自得というと難しい概念に聞こえるが、自分で考え抜き、自ら決断するという「意思決定」は、思えば多くのビジネス・パーソンが日々実践していることでもある。そして、この意思決定は、人の成長を大いに促す原動力と言える。誰しも「自分のことは自分で決めろ」と教えられて育つが、組織の中では「他人のこと(他人にも影響すること)を決める」意思決定が大方なのである。責任は重大だ。「自分の意思決定で多くの人が動く」「この決断がチームの命運を左右する」という緊張感のある意思決定はビジネス・キャリアを積むのに比例して増えていく。
ひとつひとつの決断とその影響を深く考えれば考えるほど、責任を自覚しない訳にはいかない。『責任ある存在になるということは、真剣に仕事に取り組むということであり、仕事に相応しく成長する必要を認識するということである。』これは、ドラッカーの名言である。自分で考え抜き、責任ある意思決定を行うことの積み重ねが、その人の役割自覚と主体性を高め、一段の成長を促すのである。
以上、意思決定に真剣に向き合うことの重要性を考えてきたが、果たしてそれだけで、自らの次元をあげ、自らを成長させ続けることは可能なのか?
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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