自らに問う力(3/6)

2007.04.24

今回は「自問力」の3回目。自分自身の行動がリーダーに求められる期待水準をクリアするには何を意識すべきか、或いは、「良いリーダー」と「並みのリーダー」の差はどんな所にあるのか、、、つまり、リーダーが己に問うべきことは、どんなことなのかを前回に引続き具体的に考えていきたい。このシリーズでは、多様化、複雑化、分業化が進んだスピード社会の中で「社員ひとりひとりの可能性を引き出す組織」を創る上で、「リーダーがとるべき行動」として、以下の3点をあげて来た。今回は、(2)(3)に焦点をあてて、実践的なセルフ・チェックのポイントを考えていく。

(1)社員個々人の当事者意識を高め 、能力と可能性を最大限引き出す行動

(2)社員の視野狭窄を防ぎ、それぞれの目を外に向けさせる行動

(3)社員に「深く、広く、正確に」考え方を伝え浸透させる行動

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


「良いリーダー」と「並みのリーダー」の差を生む自問

(2)社員の視野狭窄を回避し、それぞれの目を外に向けさせる関与

社員の意識が、外に向かわず内向き思考になって良いことは何ひとつない。内輪の都合で物事が決まっていく。外部の競争環境や顧客満足への意識が低いからサービスや製品のクォリティも向上しない。そして環境の変化を見過ごし、やがては時代に取り残され立ち行かなくなる。

社員の視野狭窄を回避する上で重要なことは、社員の意識を知らず知らずに内向きにしてしまう要因を取り除くことと、より積極的な働きかけによって外向きの意識を高めることである。

前者(阻害要因の除去)については、無駄な社内調整業務をさせないことであり、その特効薬が、リーダー自らが外向きの仕事に意識を集中させることである。 同時に、より積極的な働きかけとして、リーダーが常に「仕事の意義と目的を志として語り、社員の視座をひき上げる」ことが大切だ。これらは、第5回目のコラムで詳述した通りである。
では、この考え方を実践する上で、リーダーが意識すべき、或いは、乗り越えるべきポイントは何だろうか?

私は、リーダー自らが、自身の成長にコミットし、失敗や変化を恐れずドンドン外に打って出ることが大切だと思う。そして、このことが一番の難所ではないだろうか。

私自身そうだが、人は「変わらないことの居心地の良さ、楽な毎日」をややもすると選んでしまいがちだ。従って、出来るだけ自らをプッシュしていく気構えが、真のリーダーには求められる。リーダー自身が、外部に意識を向けて、チャレンジし続けていけば、組織は自ずとそのエネルギーに導かれるものだ。リーダーは決して安易な世界に逃げ込んではいけないのだ。

もうひとつの難所は、日常業務の中で、どれだけ仕事の意義や目的を語れるか、という点である。そもそも論をいちいち話している暇などない、という時間制約もあるだろうが、本質的なポイントは、リーダー自身が、仕事の意義・目的、リーダーの想い・志を語ることを、どれだけ重要視できているか、にある。「志」や「想い」を言葉にして表現することに対して、照れなどの心理抵抗を持つリーダーもいるだろう。”青臭い話”を、相手は聞いてくれるだろうか、といった不安の類が頭をかすめることがあるかも知れない。或いは、志などは言わなくても皆大体わかっている、と高を括っているリーダーもいそうだ。

照れくさくても、当たり前だと思っても、それを言葉にしてしっかり語りかけることこそがリーダーの責務だと思う。決して、横着してはいけない。

以上、社員の視野狭窄を回避し、それぞれの目を外に向けさせる上で意識していきたい自問をあげておこう。

「部下に求めるチャレンジを、自らは実践しているのか、範を垂れているか」
「自らを安易な所に置いていないか、楽をしようとしていないか」
「伝えるべきを、しっかりと言葉にすることを怠っていないか、億劫がっていないか」

(3)社員に「深く、広く、正確に」考え方を伝え浸透させる行動と関与

伝えることの重要性は、第6回のコラム以降、3回に分けて書いてきた。考える枠組としては、キヤノンの御手洗会長の以下の考え方を拝借した。

「経営のスピードとクォリティは、経営者の意思が如何に深く、広く、正確に伝わるかで決まる」

深く伝えること、広く伝えること、正確に伝えることの各要素に分解して色々と考えてきたが、実践にあたっての要諦を私なりに整理すると、5つに集約できると考えている。

1.リーダーの所信を明確に言語化する
2.一貫性のある判断軸を自己内に立て、適時修正し、現実直視を忘れない
3.伝えることはリーダーの大きな役割という強い自覚を持ち、率直さと誠実さを旨とする
4.情報の受け手に意識の重心を置き、相手の立場、知性や自尊心に敬意を払い、伝える手間隙を惜しまず、小事を決して軽んじない
5.人間心理への理解に基づいた集団コミュニケーションのメカニズムへの認識を持つ

(詳細は、「人と組織を考える」 Vol.6以降をご覧ください)

では、ここに掲げた5つのポイントをしっかり実践する上での肝は何だろうか?
私は、「コミュニケーションを通じて、”本当に相手に伝える””相手の納得を得る”のはとても難しいことである」という認識をしっかりと持ち続けることだと思っている。このことを意識し続けることこそが、グッド・コミュニケーションの大前提なのだ。

私の経験上、この認識を明確に自覚している時は、伝えるべきメッセージをクリアに絞り込む、相手の関心を想定する、どんな問い掛けをするかのプロセスを練りこむ、など事前に入念な準備を行っている。結果、意図の伝達は比較的スムーズになされ、受け手の理解・共感を得ることにつながる確率をあげることが出来たと思う。
反面で、「伝える難しさ」の認識を強く自覚できていない時は、コミュニケーションは上手く行かないものだ。中途半端な気持ちでは、なかなか理解してもらえないし、ましてや共感は得られない。それがコミュニケーションというものだ。伝えるというのは実は簡単ではないので、本気で伝えたいと心底思い、伝えることにどれだけ熱心かが問われるのである。

また、良いコミュニケーションとは双方向である。双方向のコミュニケーションが成立する前提は、相手の本音や意見を知りたい、聞きたいという気持ちを本当に持っているかどうかである。敢えてこの点をあげるのは、リーダーのコミュニケーションは、双方向の大切さを頭で理解しつつも、往々にしてリーダーの主張が中心で結論ありきの議論になりがちだ。相手の意見や言い分は聞いているようで、実は聞いていない、という過ちを犯していることがままあるのではないだろうか。隠れた難所と言えそうだ。

ここで意識しておきたい自問は2つである。

「伝えることの本当の難しさを心得ているか。伝えることに本気で熱心に取組んでいるか」
「部下の本音を、心底聞きたいと思っているか」

現代版「五省」??

リーダー自身が、あるべき基準を満たしているかどうかの自己チェックは、最終的には、個々人の特性に応じて、それこそ自分用の問いをオーダーメイドで作るべきものと思うが、今回と前回で考えてきた自問の例示は如何であったろうか?

これまで考えてきた自問、自省の中味を見てみると、前回紹介した「五省」の視点と通底するものを感じる。以下に私なりの自問を、現代版「五省」として整理してみたい。

(1)「至誠に悖る(もとる)なかりしか」

→「真心を持って誠実に人(部下)や事にあたっているか」

-自分は部下の成長を心から望み、それに相応しい成長機会を創る意思があるのか
-部下の本音を、心底聞きたいと思っているのか

(2)「言行に恥ずるなかりしか」

→「リーダーとして相応しい言動をとり、言行を一致させているか」

-部下に求めるチャレンジを、自らは実践しているか、範を垂れているか

(3)「気力に缺くる(かくる)なかりしか」

→「強い精神力をもって、立ち向かうべきものに向き合っているか、逃げていないか」

-自らを安易な所に置いていないか、楽をしようとしていないか
-自分の付加価値は何か。この仕事は果たして自分でなければ本当に出来ないのか

(4)「努力に憾み(うらみ)なかりしか」

→「課題を乗り越えるべく骨を折り、本気で汗をかいているか」

-伝えることの本当の難しさを心得ているか。伝えることに本気で熱心に取組んでいるか

(5)「不精に亘る(わたる)なかりしか」

→「怠けず、小事を疎かにしていないか」

-伝えるべきを、しっかりと言葉にすることをさぼっていないか、億劫がっていないか

次回も、引き続きリーダーの自問について考えていきます。)

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。