自らに問う力(2/6)

2007.03.30

リーダーが意識すべき自問には、以下の2つの側面があると私は捉えている。

1. リーダーがあるべき基準を充たしているかをチェックする自問
2. リーダーの自己成長を促し、ミッション・レベルを一段高める為の自問

今回は、先ずリーダーの役割遂行上に重要な1.タイプの自問について考えていきたい。

五省

リーダー自身が、あるべき基準を満たしているかどうか自己チェックする上で大事な視点は、周囲の人がなかなか指摘しにくいポイントを、敢えて突く、ということだ。平たく言うと自分に厳しく。「やってるつもり」というレベルで安易に良しとせず、常に「本気でそう言えるか、本当にそうか」という立場から自問することが鍵だと思う。自らを虚心坦懐に省み、自らを厳しく律する、ということが出来なければ真のリーダーとは言えまい。上に立つ者が、忘れてはいけない気構えだと思う。いわば、自律自省、克己、修身。。。。さながら、士官学校の訓練を彷彿させる。

士官学校と言えば、読者の皆さんは「五省」というのをご存知だろうか。旧日本海軍の将校を養成した広島県江田島の海軍兵学校で、生徒が毎朝唱えた自らへの5つの問い掛けである。

一、 至誠に悖る(もとる)なかりしか
ニ、 言行に恥ずるなかりしか
三、 気力に缺くる(かくる)なかりしか
四、 努力に憾み(うらみ)なかりしか
五、 不精に亘る(わたる)なかりしか

(因みに、この「五省」、太平洋戦争後に日本を占領したアメリカ海軍の幹部が、その精神に感銘を受け、FIVE Reflection」として英訳しアナポリス海軍兵学校に持ち帰った由。)

個人的な話になるが、私の毎朝は自宅の神棚に手を合わせることから始まる。そしてそこで「五省」を自らに言い聞かせ黙想をするのが実は日課になっている。 80才になる私の父が往時海軍兵学校の学生(正確には、兵学校では「生徒」と呼ぶらしい)であったことが契機であるのは間違いないが、気がついた時には習慣になっていた。

江田島の兵学校と言えば、生徒同士の連帯を基盤とした精神教育が徹底していたそうだ。
きまりに違反した後輩がいれば、「修正してやるから足を開け、歯を喰いしばれ!」と先輩が声高に命令し、力一杯の鉄拳が振るわれるのだ。まさに鉄拳制度である。こうしたところから、兵学校というといかにも「軍人教育」「戦中の方法論」という印象が強く、「時代が違う」と考えがちだ。ただ、一方で「五省」には時代に朽ちない普遍性がある。

実は今日のリーダーの自問も、「五省」の考え方、スタンスが重要なのかも知れない。
そこで今日のリーダーの自問についてもう少し具体的に考えてみよう。

「良いリーダー」と「並みのリーダー」の差を生む自問

今回のシリーズで考えてきていることは、多様化、複雑化、分業化が進んだスピード社会の中で「社員ひとりひとりの可能性を引き出す組織」を創る上で、何が大切かということだ。

その観点からこれまで考えてきた「今リーダーがとるべき行動」とは以下である。

(1) 社員個々人の当事者意識を高め、能力と可能性を最大限引き出す行動
(2) 社員の視野狭窄を防ぎ、それぞれの目を外に向けさせる行動
(3) 社員に「深く、広く、正確に」考え方を伝え浸透させる行動

それぞれの行動を実践していく上での難所は何か。実際にやっているかどうかの表に見える具体行動をチェックすることも大事だが、行動が本当に効果をもたらすのは、リーダーの意識、姿勢など内面的な部分に依る所が大きい。にも拘わらず、内面的、意識的な部分は、外からは見えないので、周囲からの改善フィードバックも得にくい。実はこの意識の差こそが、「良いリーダー」と「並みのリーダー」の差を決めるのではないかと思う。だからこそ、自らその意識の有無をチェックする自問を携えておきたい。以下、各行動の実践にあたって自覚すべき意識を具体的に見ていこう。

 
(1) 社員個々人の当事者意識を高め、能力と可能性を最大限引き出すために

社員の当事者意識を高めるうえで重要な行動のひとつが「彼等の可能性を信じて任せる」ことである。ただし、私自身そうだし、研修受講者との対話でもよく聞くのが、「任せる」勇気がなかなかもてない、という点である。スピードが求められる時代だから、自分でやってしまった方が早いし確実だ、となりがちなのである。

これは、教える手間、説明する手間をコストと捉えてしまっている意識に問題が潜んでいる。
時間というリソースを投入し、人材を育成するという視点に立ち、その結果として組織力を高め、自らはより違った視点からビジネスに向き合っていくのだ、という育成の重要性、組織の持続成長を大きな目的として認識することが大事だ。

そして、もうひとつ。「任せる怖さ」の根っこにあるのが、「自己の存在意義希薄化への恐怖」という深層心理だと思う。多くの説明は要しないだろうが、仕事を任せると、あたかも自分の仕事がなくなってしまい、自らの存在感、存在意義も薄くなってしまうのではないか、という恐れだ。これは、特にミドル・マネジメント以下の層に多くみられる意識だ。どちらかと言えば、ミッション、テーマや仕事の課題は与えられ、それをしっかり打ち返し、そして成果をあげ認められてきた経験によって、「与えられた仕事を、自分が責任を持って処理する」という強い職業観が形成される。従って、職位が上になればなるほど「仕事や課題は与えられるものではなく、自ら見つけ設定するものだ」という意識に簡単には切り替わらないのである。

あらためてここで意識したいことを2つの自問としてあげておこう。

「自分は部下の成長を心から望み、それに相応しい成長機会を創る意思があるのか」
「自分の付加価値は何か。この仕事は、果たして自分でなければ本当にできないのか」


次回も引き続き「自らに問う力」を考えます)

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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