人々に伝える力、浸透させる力(3/3)

2006.12.19

このシリーズでは、今日リーダーに求められる以下4つの”チカラ”について考えている。

    1.人々の当事者意識を引出す力
    2.人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力
    3.人々に伝える力、浸透させる力
    4.自らに問う力

直近の2回では、「伝える力、浸透させる力」にはどんな視点が大切なのかを細かく分解して考えてきた。分解にあたっては
「経営のスピードとクォリティは、経営の意思が如何に深く、広く、正確に伝わるかで決まる」
というキヤノン御手洗会長のコメントを参考に、「深く、広く」伝えることの勘所や難所を考えてきた。今回は、「正確に伝える」ことについて考えてみたい。

正確に伝える

まず「正確に伝える」とは、「深く伝える」と何が違うかを整理しておきたい。


「広く伝える」ことと、他の2つとの違いは敢えて説明する必要もないだろうが、「正確に伝える」というのと「深く伝える」は、捉え方によっては違いを明確に認識しづらい。


「深く伝える」(第6回のコラム)では、情報の受け手一人一人の納得とコミットを高める為に何をすべきかを考えた。具体的には、情報伝達の頻度と直接性、伝える情報の質と量、伝える際の工夫(相手に意見を言わせる、ディスカッションするなど)、更には伝える情報が受け手にとってどんな意味があり、どんな利益実感があるかといった観点も含め、重視すべきポイントを様々な角度から挙げてみた。つまり、「深さ」をどれだけ「自分の問題と受け止められるか」の当事者意識を左右する問題として捉えたのである。


では、「正確さ」では何を論点にするのか。


端的に言えば「知恵と知識・技能の理解共有度」である。言い換えると「ノウWHY=背景・理由・必要性についての理解=結局はどうしてそう考えたかの判断軸」と「ノウHOW=いかにして実践するかのやり方」の理解共有度に主たるポイントがあると私は捉えている。


「深く伝える」ことで当事者意識をもった人たちが生まれ、「広く伝え」た結果として当事者意識を持った人たちが組織の隅々に至るまで増えていき、そして、「正確に伝える」ことで彼らが裁量をもって、自律的に(その組織にとって)正しく判断し、必要なアクションを(その組織にとって)正しく実践できるようになるのだ。こうした組織は断然強い。


メンバーに任せ、裁量を与え、エンパワーしていく経営、つまり「個々人の意欲と能力を最大限引き出す経営」が、変化とスピードの時代の重要な考え方になって来ている。裁量を与える前提としてとりわけ大切になるのが、HOW以上にWHY=判断基準の徹底共有である。こうした認識から、以下では特にWHYに重きを置いて考えていく。


判断基準を浸透させる、といっても現実に徹底するのは相当難しい。実際、日頃の部下やメンバーの行動に対して、以下の様な感覚を持っている読者も多いのではないだろうか?

    ・何故、あの件から先にやらないのだろう?
    ・どうして、今そのことにこんなに時間を費やしているのか?
    ・状況が変わったのだから、さすがに同じやり方じゃマズイと思わないのはどうしてか?
    ・どんな理由で、そういうアクションをとったかが理解できない
    ・何故、あの場面で相談なく進めてしまったのだろう?

このように、必要性の理解の食い違い、優先順位の付け方の誤解、立ち返るべき原則などの判断基準のズレ、といったことは日常的に起きている。では、こうした誤解や認識のズレは何故生じるのか?リーダー、フォロアー、それぞれに原因はあるだろうが、ここでは敢えてリーダー側の問題に絞って考えてみたい。突き詰めれば以下の3点(名づけて「リーダーの3大病」)に原因を見出すことができる。


【「正確に伝える」ことができない リーダーの3大病】
1.”言語”障害 ~ リーダーが発信すべき所信を言葉に出来ていない
2.”感覚”麻痺 ~ リーダーが伝わったかどうかに無頓着で受け手を意識できていない
3.”気骨”粗鬆 ~ リーダーが本来明確にすべきことを曖昧にしている

1.”言語”障害 ~ リーダーが発信すべき所信を言葉に出来ていない

リーダーの所信がそもそも打ち出されていない、というのでは「話にならん!」と思わず一喝してしまいそうになるが、案外こういう事例は多い。組織運営における初期動作として何より大事であることは頭でわかっていても、スピードが求められるビジネス環境の中、つい疎かになってしまうのである。忙しさの余り、着手先行で目の前の案件をひたすら”捌いている”、次々に生じる問題をその都度打ち返している という日常は多忙の余り、それだけで仕事をしている気分になってしまう。ところが、目先の仕事をこなす対症療法では、いつまで経っても任せることが出来ない。気がつけば、リーダー自身が組織成長のボトルネックになっていた、という思いもよらぬ辛い結果が待っている。献身的に頑張っているにも拘わらず・・・、実に報われない状態だ。


事情に同情はする。だが、ここは敢えて「それではダメだ」と明確に言うべきだと思う。


言い方は冷たいかも知れないが、個別事象、短期的な時間軸にのみ思考と行動が閉じてしまい、本来考えるべき「長い時間軸と組織を方向付ける原則」を考えていない。これでは、リーダーとして余りに無策、と言わざるを得ない。勿論、私は「べき論」を振り回して一刀両断にするつもりはないが、先ずリーダーとして、所信(進むべき方向と原則となる考え方の機軸)を打ち出すことを最大の役割と心得る必要があるのではないだろうか。


一方、所信を自分の頭の中で「構想」として思い描いていても、自分以外の人間にしっかりと伝えるレベルに言語化されていない場合もある。思いや感覚を言語化し、形式知として紙に落とし込むプロセスは、結構なエネルギーと時間投資が必要になるので、ついつい後回しになってしまう。イメージのままで留まってしまうのだ。加えて、日本社会の特性も無視できない。「阿吽の呼吸」「以心伝心」「組織の常識」ということで、前提が共有されているという思い込みも、実は言語化の大きな阻害要因として指摘できるだろう。「そんなことまで言わなくてもわかるでしょう」というやり方は、外部環境のダイナミックな変化と社員の多様性の中で、既に通用しなくなってきている。


「正確に伝える」為の第一歩は、リーダーとしての所信を「考えて、言葉にして、きちんと説明する」ことである。ひどく基礎的な話だが、この”言語障害”に実は多くのリーダーが陥っているというのが現実的課題とも言える。

 

2.”感覚”麻痺 ~ リーダーが伝わったかどうかに無頓着で受け手を意識できていない

「コミュニケーションの成立は受け手が決める」とは良く聞く名言である。情報の出し手が、いくら丁寧に、時間をかけ、適切に情報の質と量を保証しても、それで意思疎通が成立するとは限らない。これこそ、リーダーが心に刻んでおくべき大前提だ。


だからこそ、正確に伝える上で大事になるのが「受信状態の確認」である。我々は、大事な話をする時に、相手の表情や態度を注意深く観察し、どこまで理解しているのか、どの程度共感を持って聞いているのかを、本当に意識しながら伝えているだろうか?質問などで相手の思考を促し、理解を深めさせるなど、適切な刺激を十分に与えているだろうか?本人の解釈を自らの言葉で発言させつつ記憶定着を促すことを意図し、そうした機会を積極的に作っているだろうか?「もしも・・・」という問いかけなどで、前提をずらした質問を投げ掛け、相手の応用力、原則への理解度を掴もうとしているだろうか?


手間のかかるプロセスだが、判断基準は考え方の基礎になる部分なので、こうした双方向の応酬を経て、はじめて相手に正しく伝わるものだと思う。


最後に、受信状態を確認しない(できない)阻害要因として「伝えることに一生懸命になり過ぎている」という点も指摘しておきたい。私自身も時折やってしまい、自己嫌悪に陥るが自分なりに考えた所信が出来上がると、「言いたい」気持が先行する。相手にも発言を促してはいるが、実際には聞く耳を半ば失っている。受け手への配慮の感覚が麻痺した自分に時折気付いて「ハっ」とするのである。受け手を常に意識した意思疎通とは、実に難しいものだと思う。

3.”気骨”粗鬆 ~ リーダーが本来明確にすべきことを曖昧にしている

最後は、リーダーの指針が曖昧だったり、わかりにくいことによって、現場判断が混乱したり、更には、メンバーが不信感を持ってしまうケースについて考えたい。


ビジネスは、そもそもクロス・ファンクショナルな協働作業であって、立場が異なる人々がそれぞれ利害を調整しながら事にあたっている。調整機能がしっかりしていないと、それぞれが立場に応じて都合の良い判断をし、結果として協働作業が成り立たずバラバラになってしまう。ここにリーダーが自覚しなければいけないポイントが見えてくる。


異なる立場の利害対立を安易に回避しようとすると「足して2で割る」考え方に流れてしまう。だが、それが組織全体のあるべき判断軸かと言えば必ずしもそうではない。場合によっては敵を作りかねない、特定の関係者に嫌われる様な厳しいことを伝えなければならない場面も沢山出てくるだろう。だが、リーダーは「正確に伝える」為に、その精神的負担から逃げてはいけないのだ。常に、率直に誠実に伝えるべき論点を明確に意思表示していくことが求められてくる。曖昧に誤魔化したり、対立回避の為に二枚舌は決して使うべきではない。役割から逃げない明確な自覚を持ち続ける精神的なタフネスがリーダーには求められる。


もうひとつ求められることがある。それは「ブレない」ことであり、と同時に「柔軟に変われる」ことだ。要は「バランスの問題」という話しだが、このバランスという言葉ほど漠然としたものはない。変化の時代にあって、果たして自らの判断が正しいかどうかの確信は持ちにくい。同時に、環境変化は、これまでの考え方を一気に無力なものにもしかねない。一体どうバランスをとれば良いのだろうか。
そもそも、外部環境の変化に対して、リーダーはいつも意思決定を迫られている。そして彼等には2つの選択肢がある。一つ目が「何かを変える」であり、もうひとつが「何も変えない」だ。


「何かを変える」リーダーの意思決定と行動について、自信をもって変幻自在に柔軟な環境適応をしているリーダーのもとに混乱は生じない。しかし、環境変化にリーダーが翻弄され、何かを変えようとはしているが、右往左往している状況では、組織はまとまらない。
「何も変えない」場合も同様だ。軸がぶれずに泰然自若とした安心感を感じさせるリーダーの下には、組織としての自信が漲っている。ところが、変化に対して、意固地になって頑なな印象を与えるリーダーでは、組織に不安が蔓延るであろう。
両者の違いは何に起因しているのか。


私は、「正確な事実認識」「確かな根拠と熟考の結果としての信念」、そして「変える/変えないの一貫した判断軸」、最後は「それらの説明責任を果しているかどうか」だと思っている。


決め手は、現実直視と深い思考から得られる”気骨”なのだ。

最後に

3回に亘り、「伝えること」を考えてきたが、スピード、多様性、複雑性が高まる時代環境の中、個々人の可能性を最大限に引き出し、経営の質を高めるポイントは、やはり「組織で共有すべき考え方を、如何に深く、広く、正確に伝えるか」に尽きる。そして、これを実践する上でリーダーが持つべき気構えや行動原則を最後に5つに絞ってまとめておきたい。

    1.リーダーの所信を明確に言語化する
    2.一貫性のある判断軸を自己内に立て、適時修正し、現実直視を忘れない
    3.伝えることはリーダーの大きな役割という強い自覚を持ち、率直さと誠実さを旨とする
    4.情報の受け手に意識の重心を置き、相手の立場、知性や自尊心に敬意を払い
    伝える手間隙を惜しまず、小事を決して軽んじない
    5.人間心理への理解に基づいた集団コミュニケーションのメカニズムへの認識を持つ

以上が、本稿で挙げてきたポイントである。同時に、私が講師としての活動を通じて、多くの受講生の皆さんから教えて頂いた「伝え手が持つべき意識」も、このリーダーシップ議論と通底することが多いので書き添えておきたい。


それは「熱心に、丁寧に、明るく」という基本行動の徹底と、どんなに場数を重ねても「伝えるという営みが、決して簡単ではない」ということを決して忘れないことである。「伝える」ことを、間違っても甘く見ず、舐めてかからず、横着せずに常に愚直に向き合う姿勢が最も大事なのだと思う。

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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