人々に伝える力、浸透させる力(2/3)

2006.11.24

「経営のスピードとクォリティは、経営の意思が如何に深く、広く、正確に伝わるかで決まる」
というキヤノン御手洗会長のコメントの枠組みに沿って、「深く」に加え、今回は「広く」伝えるにはどうしたらよいかを考えてみたい。

広く伝える

最初に、「広く」伝わらないと何が問題かを確認しておこう。
浸透の範囲が狭いというのは、必要な情報を知っている人と知らない人が組織の中に混在する“まだら状態”である。経営方針や目標、実践方法に対する理解度にムラがある中途半端な状態では、組織間の連携は上手くいかない。意思疎通の効率も悪い。メンバーが一致団結して発揮すべき組織の実行力や経営のクォリティが高まらないのである。前回のテーマであった「深さ」と同様、「広さ」も極めて重要な論点だ。
ところで、「深さ」をもたらす鍵のひとつに、直接的な情報の伝達があった。だが、直接性を重視すれば、伝える相手の数には自ずと限界が出て来てしまう。「深さ」を重視しつつ浸透の範囲を広げることは、N数をどこまで大きくできるかという挑戦とも言える。
では「広く伝える」ために、リーダーが考えるべきこと、実践すべきことは何か?情報が広く伝わっていくプロセスを3つの段階に整理し、それぞれで必要なことを考えていきたい。

【広く伝える3段階】
N数を増やし、組織内の浸透度合いを高めていくプロセスを以下の3段階で捉えてみる。
第一段階: コア・メンバーと握る(コンセンサスを作る)
第二段階: 組織の中にブームを起こす
談三段階: 組織の常識、習慣にする

第一段階 コア・メンバーと握る(コンセンサスを作る)

最初の段階で大事なことは、伝えたい内容やコンセプトを組織のコアとなるメンバーとしっかり議論し、共有しておくことである。組織の規模にもよるが、リーダーにとって大事なディスカッション・パートナーや組織運営を共に考え実践する主要メンバーは多かれ少なかれいる筈だ(もしも、いないとすればそれ自体が問題だが)。経験的に言って、組織全体の5-15%に相当する人数になる。この層とは、徹底議論の場などの共通体験を数多く積み重ね、相互の人間理解を深めるとともに、基本的な考え方を共有しておくことが大事である。それが、組織の基盤になってくるからだ。もしも、彼等との「握り」が緩ければ、「広く伝える」「組織への浸透」は、ほぼ無理だと言っても過言ではない。なぜなら、詳細は後述するが「広く伝えきる」為の多くの語り部が不可欠で、彼等こそが強力な語り部になるべき層だからだ。
先々の語り部となる彼等とのコンセンサス作りには、リーダー自らの所信を明確に持ちながらも、前回整理した「深く」伝えるプロセスの徹底実行を重視すべきであることは言うまでもないだろう。

 

第二段階: 組織の中にブームを起こす

さて、コア・メンバーと握れても、それでは範囲が狭いし、組織に浸透したことにはならない。ここからが事実上のスタートであり、工夫が要る。
先ずは、メッセージそのものをどの様に表現するかがポイントになる。伝えたいメッセージをシンプルに表現することが大事だ。思いと本質を明快に伝え、無駄を削ぎ落としたシンプルなメッセージは、意図がブレずに考え方を共有しやすい。単純明快な言葉は受け手の記憶に定着しやすい。どんな言葉を使うか、すなわち”言語選択”が重要なのだ。
これを非常に上手く実践している某メーカーの事例を紹介したい。組織内の方針徹底スピードが極めて速く、考え方を浸透する力に秀でたこの会社では、メッセージやスローガンにどんな言葉を使うかをかなり吟味し、強い拘りをもっている様だ。トップが発するメッセージにも「やり遂げる執念」「リーダーの持つべき気概」など、共有すべき考え方を率直かつ力強く表す言葉を使っている。
また、「ぶっちぎり」「ガチンコ」といった印象的でインパクトのある表現を社内資料(公式文書)などでも敢えて用いることで、受け手の間で合言葉や流行語、ブームを起こすことを密かに狙っているかにも見える。「言霊」という考え方があるが、こうした拘りこそが、実は浸透には欠かせないのだろう。スマートな横文字や、流行のカタカナ言葉を連呼したところで、込めた思いを浸透出来ずに苦労している企業が少なくないが、このメーカーの事例こそ、本当に伝えることを意識した取り組みではないかと注目している。
こうした「力強く、わかりやすいメッセージ」を組織に向けて発すると、これをしっかりと受け止め、自分なりに咀嚼し、リーダーが期待する行動をとり始める人材が一定比率で必ず出てくる。彼らは、いつしかこのメッセージを与えられた言葉としてではなく、自らの日常語として使い始める。ブームが起き始めるのである。どんな企業でも、組織の階層毎に3-4人に1人位の割合でこうした勘の良い「早期適合者(アーリーアダプター)」がいる筈だ。ブームを起こす為には、彼等に訴求し、彼等を動かしたい。
同時に、ブームを起こすには組織全体に何らかの動き(モーメンタム)が必要だ。メッセージを伝えるミーティング、ロードショーを大々的に開催したり、ポスターやチラシなどキャンペーン活動を展開するなど、雰囲気や佇まいを意図的に作っていく工夫もしていきたい。こうしたことを積み重ねることで、コアメンバーと早期適合者を合わせ、組織全体の半分近くまで浸透を高めることが第二段階の目標である。

第三段階: 組織の常識、習慣にする

第二段階から更に広げていくのが実は最も重たい。組織の7-8割にまで浸透させていくには相当のエネルギーが要る。言葉を選んで明快なメッセージを発しても、シンプルにした分だけ抽象度は高くなる。従い、ある一定を超えて考え方を広げて行くには、より具体的な内容や意図・ニュアンスを伝える必要が出てくる。こうした行間を埋めていかないと、組織の多くのメンバーのアクションには繋がらない、我が事として腹落ちしない、といったことになる。
では「行間を埋める」にはどうするのか。私は「人間による語り」が最も有効だと考えている。ここで「語り部」としてのコアメンバーの出番である。しかし、彼等が、頑張っても伝えられるN数にはやはり限度がある。そこで、すべきことは「早期適合者」を「語り部」に育成していくことである。基本的考え方を共有した信頼のおける「語り部」をどれだけ増やせるか。数多くの語り部の存在が、「広く伝える」という意味で鍵を握るだろう。
最近、多くの企業でWAY、DNA、イズムなど自社で重視する価値観の浸透の必要性が喧伝されている。ここでも決め手として「語り部の育成」を重要な施策と捉えている企業が多い。因みに、語り部の育成に際しては、彼等に「深く伝える」視点が欠かせないのは言うまでもないだろう。
伝える広さを追求する上でのポイントを、最後にもうひとつだけ挙げておきたい。それは、情報の受け手のリテラシーや知識量を高めるということである。人間の理解力は、その情報を正しく理解するために基礎となる知識を有しているか否かに左右される。情報を伝える側の語り部の育成とセットで、情報を受ける側の理解力も鍛えることが効果的だ。
実は、グロービスで実践している研修に「読書会」というのがある。これは共通の書籍を参加者で読み合わせ、感想や疑問などを自由に語り合うのものだ。この研修の本来の目的は、人間性を高め相互理解を深める点に重きを置いているが、副次的効用として、書籍に謳われている考え方が構成員の共通言語となることで、組織内の意思疎通の早さと正確さが圧倒的に高まるといったことも指摘できる。例えば、こんなやり方で、巷間指摘される「共通言語」のパワーを組織に上手くインストールすることにより、浸透を加速させることが可能となるのである。


次回も引き続き「3.人々に伝える力、浸透する力」を考えます)

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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