人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力(2/2)
- 次世代リーダー育成
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鎌田 英治
グロービス講師
前回は「人々の関心と視線を外部に向ける」と何が良いのか?そうしないと何がまずいのか?ということを述べてきた。外部に目を向けず、内向き思考に陥ると、変化を看過し、変化に適切に対処できなくなる。「受信障害」が「思考の機能不全」を招き、ビジネスのやり方、戦い方が固定化し、いずれは立ち行かなくなってしまう。ここに「外部に目を向ける」ことの必要性がある。
人は何故、内向き思考に陥るのか、視野狭窄は何故生じるのか?
では、外に関心が向かない理由はどんなことが考えられるのだろうか。ここでは三点あげておきたい。
一つ目は、外に関心を持とうという意識がそもそも無い、つまり必要を自覚していない状態である。簡単に言えば、現状に満足しきっているということだ。
今の状態に不都合を感じない、或いは周囲から小言すら言われない状態だとすれば、それは外に意識を向けずに、現状に閉じてしまうことを良しする。日本の社会全体が、経済的に豊かになり、「ハングリー精神」という言葉も聞かなくなった今、(意図せざる結果として)「平和ボケ」に浸りきって、感度が鈍くなっている職場(茹で蛙症候群)はかなりある筈だ。
自己満足が更に昂じると、慢心や奢りが出てくる。
成功体験、それに伴う自信、これらにはひたすら我が道を行くという頑迷さを強め、外部に学ぶという意識を弱める落とし穴がある。過去ヒット商品を生み出したという自尊心が、市場の声に耳を傾けようとする謙虚さの邪魔となるのだ。真のニーズとずれた、独りよがりの研究に耽るR&D部門。これもありがちな話しだろう。
二つ目は、外への関心を持ちたくない、変化を目の当たりにしたくない、という状態だ。
環境変化に合わせて、いずれは自らを変えなければならない、ということは頭で理解していても、変化にかかる「コスト」の大きさから、変化に目をつぶろうとしているのだ。面倒なものは見たくない、関わりたくない、という抵抗とも言える。
この抵抗は、変化によって失う”既得権”を大きく捉え、現状維持のリスクを小さく捉えている(或いは知らない)ことから生じる。
好景気を良いことに、営業や生産の現場では、深く考えずに「従来同様路線で行ける所まで突き進め!」との思考停止に陥っていることも多いのではないだろうか。よくよく考えれば、本当に今のままで良いはずがないのに。。。 皮肉なことだが、「良好」とは「変化の阻害要因」にもなり得るのである。
そして最後は、外に関心を持つ必要を理解していても、それが出来ない状態である。
「やるべきことが多すぎて、なかなか外に意識を向ける時間が作れない」という話を聞く。この例は「外部に意識を向ける」ことは「やるべき仕事」には入らないということを図らずも言っていて、「じゃ、あなたの仕事は一体何なのか」と聞きたくなる様な笑えない話だ。だが現実は、往々にして社内の仕事を社外(お客様を含む)との仕事に優先しているケースがある。「顧客優先」という模範回答を知らない社員はいない。でも、実際の時間配分は社内>社外。このことも多くの方の実感に近いのではなかろうか。
原因は何か?
原因のひとつは、「社員の意識を、内向きにさせてしまう上司」にその原因を見出すことができる。(ただ、上司は社員に悪影響を与えていることに無自覚なことが多いので性質が悪い。)
例えばこんな話しだ。
”関係者への配慮とコンセンサス重視”が意思決定構造の多層化を生み、無意味な社内調整に社員を巻き添えにしている。”
”ピリッとした緊張感のある職場作り”が行き過ぎて、社員を萎縮させ、常に上司の顔色を窺うような組織になってしまう。”
”柔軟性重視”を志向する余り、ころころと方針が変わり、社内のコミュニケーション・コストが高くついてしまう。”
”スピード優先”のつもりが、拙速につながり、手戻り修正やムダな作業がやたらと多い。”
”現場の声を聞く”という美名の下に、仮説検証の発想なしに繰り返し要求される本部報告に多くの時間消費を強いられている。”
残念ながら、多くの企業で横行している現実であろう。こんな状態で、外部に意識を向ける時間は捻出しようもない。
如何にして、人々の関心を外部に向けさせるのか?
自己満足や慢心、更に変化への抵抗から社員の目を覚ますには「健全な危機感」をひたすら高めることである。
現状の延長上に成功が約束されていると信じる人がいるとすれば、それは単に「現実を知らなすぎる」のだ。顧客は、実は現状に不満を持ち新たな欲求を持っていること、競合が虎視眈々と新たな挑戦を仕掛けようとしていること、社会構造の変化や技術革新など大きな潮目の変化がじわじわと起きつつある事など、知っておくべき事実を教え、変化の意味合いを自らに引き寄せて考えさせることが大事になる。
「情報収集を怠ることの怖さ、アンテナの感度が鈍いことがもたらす危機、外部に目を向ける必要性」を社員にしみじみと実感させるのがリーダーの務めである。
職場内で、顧客や競合、社会動向に関する情報がいつも交わされる雰囲気も作りたい。
良い風土は、リーダーの率先垂範があって始めて組織に根付くものであろう。職場の問題を自然と焙り出す有力な手法として「見える化」が注目されているが、その前提として不可欠なことは「見ようとする化」である。見えるかどうかは、情報の受け手次第だからだ。社員に知らないことを知ろうとする意識を持たせることが先決なのである。
外に関心を向けさせるもうひとつの軸は、意味の無い社内業務(無駄な調整、無意味な過剰品質)をさせないことだ。そして、その為の特効薬は、リーダー自らが外向きの仕事に意識を集中していく事に他ならないと私は思う。
リーダーが内向きになると、常務が部長の視点でものを言い、部長が課長の仕事しはじめる。これでは社員の仕事は、どんどん小さくなっていく。社員を狭い範囲に閉じ込めることにある。そうしない為には、リーダーが”外を向いたマネジメント”を意識すべきであろう。言い換えると、リーダーは自らの役割を、社外との接点に焦点をあてて再定義して行くのである。
同時に大事なことがある。社員の仕事に対する志を高く持たせることだ。仕事を作業レベルのミクロな視点で捉えていては、世界は広がりようがない。担当業務が、その企業のミッションやビジョンと最終的にどう結びつくかを考えさせ、自らの役割を高い視点(本来の目的レベル)で考えさせるのである。
この営みは、リーダー自身が高い志をスタッフに示し、彼等の共感を得ることから始まる。共感に必要なのは、その志自体が人を惹き付ける力を持っていることである。例えば、広く世の中に価値を提供する意義を含んだもの、顧客や株主だけにとどまらず、地域や国、世界といったコミュニティとの良き関係を連想させるものであることが望ましい。
そして志を実現しようとするリーダーの具体行動が、周囲にポジティブなエネルギーを与えることで、社員の働き方と意識も、自然と広く社会に向いたものになって行く筈だ。
以上見てきた様に、リーダーには、「知らないことは危機。社員に知ろうという意識を持たせる力」や「仕事の意義と目的を志として語り、社員の視座を高められる力」が求められる。
加えて、リーダー自らが外部の事実から将来を予想する力を持つ必要がある。つまり、変化に即応するだけではなく、変化の兆しを見つけ、そこから将来の状況を予想していくべき時代なのだ。自らの経験則に基づく予想では不十分で、「自らに馴染みのない立場や、反対の立場からどうすれば良いかを考える力が必要になってきた」とカルロス・ゴーン氏は語っている。
各現場に、深い洞察眼を持って社会を見渡せるリーダーが数多く存在することで、組織の視野狭窄は防げ、組織全体が変化を感知する大きな高感度アンテナになり得るのである。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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