人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力

2006.07.20

仕事柄、企業の経営者、或いは経営層の方々とのディスカッションを通じて、彼らの社員に寄せる期待や想いに接する機会が多い。業種や事業環境の違いによって様々な考えがあるのは事実だが、一方でよくよく耳を澄ましてみると、究極的に経営者が社員に期待していることは、至ってシンプルかつ本質的な以下の2点に集約される様に思う。その第一は、「社員が主体的に自らの頭で考える」ことへの期待だ。別な言い方をすると、前回までのコラムで考えてきた「当事者意識を持て」ということになる。そして、もう一点これと比肩するのが「社内に閉じるな。外を見よ」ということだ。今回と次回では、このニ番目の観点、「人々の関心、視線を常に外部に向けさせる」ということの意味と、更にその為にリーダー達はどんな力を発揮する必要があるのかについて考えてみたい。

「関心と視線を外部に向ける」と何が良いのか?そうしないと何がまずいのか?

最初に、外に目を向ける必要性を整理しておこう。一見すると敢えて議論するまでもない様にも感じるのだが、その必要性を分解整理したうえで具体的に実感しておくと、人間は「当たり前を実現する」ために、自覚的に一層の努力を払うようになるものだ。


例えば、人間の脳の働きに置き換えて考えてみる。

我々は五感を通じて外部の様々な現象や事実を「受信」する。受信情報は刺激として脳へのインプットとなる。脳は、それらの刺激を認識し、解釈し、何をするか/しないかを考える=いわば「計算」するのだ。計算結果は、各筋肉(口、目、手足・・・)の「運動」としてアウトプットされる。更にこの「運動」(アクション)の結果によって生じる刺激が次のインプットとして受信され・・・、となる。

養老孟司氏によると、このサイクルが「計算」機能の強化(学習と進化、成長)に繋がっていくのだという。もしも、この「受信」自体なかったらどうなるのか。「受信がない」(=インプットとしての刺激がない)ということは、何も起きない(アウトプットがない)し、脳の「計算」機能の強化(学習と進化、成長)もない。単純な話だが、脳の機能は「停滞」もしくは「低迷」を余儀なくされるだろう。


さて、ビジネスの現実に話を戻そう。世はグローバル・ベースの大競争時代だ。競争相手は必死に凌ぎを削っている。お客さんの要求水準も高まるし、ニ-ズそのものがあっという間に変わってしまうことも頻繁だ。

そんな気が抜けない状況下、「本当に顧客起点で考えているのか」とか「世の中の動きにしっかりアンテナを張っておけ」といった現場に対する厳しい指摘を聞くことが多い。これこそまさに「受信障害」が起きていることを物語っている。

受信していない(知らない、外を見ていない)ことによって、然るべきアクション(アウトプット)が無いのである。環境変化の激しい現在、こうした何もしない事態を「停滞」という言葉で片付けることは出来ない。周囲が変わっている中で「何もしない」ことは、むしろ相対的「退化」や「劣化」が生じており、大きなリスクと捉えるべきである。


もうひとつ、よく耳にする声がある。「旧来の発想ややり方から脱却できない」「過去の経験に頼った直感や思い込みのみで動いている」「”AといえばB”のパターン化された直線思考に陥っている」といったものだ。これらも、例外なくどんな企業でも聞かれることである。(余談になるが、”クリティカル・シンキング”などの思考力強化プログラムへの学習ニーズが高まっている背景にはこうした事実がある。)


既にお分かりの通り、これも受信障害によるものだ。結局「計算」機能の進化と成長が促されず、「思考の固定化」を招いているのである。変化の激しい知識集約型社会の現代では、「思考の固定化」は、むしろ「脳疾患」あるいは「機能不全」といった方が事態を正しく描写しているのかも知れない。


以上、見てきたとおり、外部に目を向けず、内向き思考に陥ると、変化を看過し、変化に適切に対処できなくなる。視野狭窄によって、ビジネスのやり方、戦い方が固定化し、いずれは立ち行かなくなる。ここに「外部に目を向ける」ことの必要性がある。

次回も引き続き 「2. 人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力」 を考えます

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。